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社労士IMALUのブログ

大阪市中央区の糸井社会保険労務士事務所です。
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わかりやすくお伝えするブログです。

今回も【就業規則】シリーズをお送りします。

今回は、『有給休暇』についてご説明してまいります。

有給休暇についても多くのトラブルが発生しています。

『退職時に有給休暇を請求されたが、とらせなくてはならないのか?』

『有給休暇をとらせている余裕はないので、当社では全て買い取っているが問題はないか?』

が代表的なケースです。これらについては、次回以降ご説明をしたいと思います。

今回は長期の有給休暇取得によりトラブルになったケースを例に就業規則の規定例も含めてご説明していきます。

事例の内容は、

社員が、1か月間の有給休暇を申請した。

会社側は『1カ月も連続して休まれたら、代替要員もいないので困る。有給休暇取得自体は認めるが、2週間ずつ2回に分けて取得して欲しい』と説明し、いわゆる【時季変更権】を行使しました。

しかし、社員はそれを無視し、1か月間の有給休暇(実質24日間)を取得し、その期間はまったく出社しませんでした。

そこで会社は、

【時期変更権】を無視した有給休暇取得のうちの後半2週間(実質12日間)の有給休暇取得日については、有給休暇とは認めず、欠勤扱いとしました。

業務命令に違反して就業しなかったことは、『職務上、上長の命令に違反したとき』という懲戒事由に該当するとして、社員をけん責処分に処しました。

また、その年の賞与支給額計算日数から、欠勤と判断された有給休暇の2週間分を控除して、賞与を計算し、支給しました。

社員はこれらの処分に納得せず、

【時季変更権】の行使は違法である。

けん責処分の無効確認と減額された賞与の支払いを求めて提訴しました。

最高裁までもつれた裁判の結果は

社員は、約1ヵ月の長期かつ連続した有給休暇を、会社との十分な調整を経ないで時季指定を行った。

会社は、1ヶ月間も社員が不在では業務に支障を来すおそれがあり、代替社員を配置する人員の余裕もないとの理由をあげて、社員に対し、2週間ずつ2回に分けて休暇を取って欲しいと回答した上で、本件時季指定にかかる後半部分についてのみ時季変更権を行使しており、当時の状況の下で、社員の本件時季指定に対する相当の配慮をしている。

 これらの諸点に鑑みると、会社内で専門的知識を有する社員の担当職務を支障なく代替しうる他社員の確保が困難であった状況のもとにおいて、会社が社員に対し、時季指定通りの長期にわたる年次有給休暇を与えることは「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとして、その休暇の一部について本件時季変更権を行使したことは、その裁量的判断が、労働基準法第39条の趣旨に反する不合理なものであるとは言えず、同条3項(現4項)但し書き所定の要件を充足するものというべきであるから、これを適法なものと解するのが相当である。」 (時事通信社長期休暇事件 最高裁第三小法廷 判決 平成4623日)

結果としては、会社の判断が適法である旨の判決を下しました。

この判決では、連続24日間の有給休暇請求に対し、後半の12日間について会社の【時季変更権】の行使を適法としています。

12日間以上の有給休暇申請に対する【時季変更権】を認めていないとまでは言えませんが、2週間という基準が長期有給休暇申請に対する【時季変更権】の一定の基準になるのではないかとも思われます。

もし、労働者が2週間以上の長期連続有給休暇を請求した場合に、いらぬトラブルを避けるためには以下のような規定を就業規則に盛り込んでおくと良いと考えます。

就業規則規定例

(年次有給休暇の取得)

第○○条 

  年次有給休暇の取得を請求しようとする者は、所定の手続きによって遅くとも前日までにその時季を所属長に申し出なければならない。なお、事業の正常な運営を妨げる事由のある場合は、所属長はその時季または期間を変更することができる。

(長期にわたる年次有給休暇の申請)

第○○条

従業員は、2週間以上の長期連続有給休暇を申請する場合には、取得を希望する休暇日の初日より3週間以上前に所属長に届出の上、会社と事前の調整を経なければならない。

(参考法令)

労働基準法第39条第5

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

以上