何だかんだ言いましてここのところとーんと三農関係のことをブログで書いていなかったことに気づきつつ、久々にそんな話題。これまでも何度か取り上げましたが、食の安全、それを揺るがす数かすの食品事故のニュースは中国の消費者にも大反響。皆が漠然とした不安を感じる中、今日はここ最近耳にした「有機農業」に関する話題をつれづれなるままに記していきたいと思います。
 ちなみに、中国においては食品の品質認定に、無公害農産品、緑色食品(これにはA級とAA級があり、AA級はほぼ有機であるが3年間継続栽培という縛り無し)、有機食品の大きく3つがあり、最も要求の高い、つまり化学農薬、化学肥料の投入ゼロ、かつそれを3年間続けて認定を得るというカテゴリーが有機食品認定です。つまり、

無公害農産品<緑色食品A級<緑色食品AA級<有機食品

の順で要求が高くなる(難しくなる)わけですね。それに無公害農産品以外の認定は認定料も必要となってきます。(少し角度は違いますが、食品の安全基準に関しては以前のブログ記事「中国の食品安全基準:どこまで来ているのか?整備への課題は?」でも触れました。)
北京で考えたこと-watermelon
つい最近は爆発するスイカに「膨張剤」を加える
やり方が大きく取りざたされました。

 しかし、本当に有機農業を実践するのは簡単ではないのも事実。6月23日付南方週末では貴州省のある山村での「有機農業実験」が如何に困難であるかが報じられています。6年前から、香港のNGOの支援もあり、同地の侗族に伝わる伝統農法を復活させ有機農業を始めたこの村では、上述したような有機農産品買付けツアーのようなものもひきつけて、一時期は成果も見せ始めていました。しかし、その動きは困難にぶち当たり、また周辺農村に広がっていく様子もありません。

 「若者は出稼ぎに行き、老人と女子どもだけで人や家畜の糞を集めるのは大変だ。それに機械が多く入って来て牛の数は少ないから有機肥料が集まらないよ。収量も低いしね」「良いことは分かるんだけど、若いのがいないからね、化学肥料使うしかないでしょ。」と地元の人たち。そして、一時期は盛り上がる買付けツアーも長続きはしません。ツアーの車代をNGOが支援しているうちは良いですが、それがなくなるとやはり割に合わないとツアーの熱は冷めて行きました。貴州省農業科学院現代農業発展研究所・所長は「国は更に農家へ補助をしないと農業の経済収益と生態環境のバランスは保てない。まだ生計を立てるのにあくせくしている農民に生態環境保護まで求めるのは不公平だ。」と主張しています。この所長さんの「補助金出せば」というところには必ずしも同意しませんが、後半の一言はごもっとも。

 それだけ手間のかかる有機農業という言葉が、都市では氾濫しているのも事実。少し前には中国で最大のネット販売大手「京東商城」が売っていた有機米が、実は有機では無かったというニュースが話題となりました。京東の有機米には有機認定の番号がなかったことから、ネットで話題になっていたところ京東のCEOが新浪微博で「厳格に言えば、このコメは「有机转换大米」(有機に転換中の米)。国の基準は3年間連続で有機栽培で育てて初めて有機米と呼んで良いとのことだった。申し訳ございません。」と謝罪することとなった。ただ、業界ではこの3年間中の「転換」米が有機米として売られることは公然の事実と言います。(参照:南方週末ウェブサイト

 もちろん有機認定受けてなくても、(結構認定料を払うも高くそれがネックと言う話も現場では聞きました)その手続きを経ていないだけで実際には良いものもあるでしょうが、安易に有機を名乗るのは良くないことです。自分も地方農村を歩いていると、「いやー、うちの農産品は有機でねぇ、ワハハ」と自信たっぷりの老板(社長さん)に倉庫を見せてもらうとメチャ農薬山積みということもしばしば・・・。使っている現場を見るわけではないですが、有機という言葉の理解が違うのではないかと感じることはよくあります。

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6月11日に北京で行われた有機農業実践者が集まったマーケット、かなりの人だかりでした。

 本当に安全な食品はどこにあるんだ?そんな市民の不安は、上述南方週末記事もありましたように、各地で有機農産品を買付に行く、妈妈团、菜团などというグループを結成させているそうです。また、北京で先日行われた「有机农夫市集」にも朝から相当数が訪れ、安全安心の食品を買い求めていました。(上海で行われた同マーケットに関してはこちら南方都市報の報道が詳しいです。)こういった新しいマーケットの試みも今後続いて行くでしょう。

 山東省で有機農業を実践されているある日本の方は「有機農業は単なる農業のあり方ではない。人の生き方の一つの姿勢・あり方そのものだ」と言っていたのが印象に残っています。単に有機という言葉が躍るばかりの感もある中国。農業生産者の立場に立っても、13億人を食べさせるという中国の現状からも、有機でやるというのも難しいはずだし、自分もそこまで極端な立場は取りません。ただ「有機って何だ?何で農薬使うんだ?」といった理解が自然と農業、ひいては中国で言えば三農問題への都市部住民の理解にもつながると思います。中国でも拡がる食の安全ブームから、分断された感のある都市と農村がつながるきっかけができれば不幸中の幸いと言えるでしょう。都市にいながら、ただ農民に「化学肥料使うな!農薬使うな!」と言うだけでは問題の解決には程遠いはずです。