自分が関心を持っている農村の問題でも、特に土地をめぐってはスキャンダラスな事件も目立ちます。都市部でもそうですが、最近は例の農村建設用地と都市開発用地の交換(「增减挂钩指标」)制度(こちらこちらを参照)の運用上の問題もあり、農村でも強制退去に関して政府を糾弾する声が上がっています。その中で有名になっているのがこの于建嵘です。

$北京で考えたこと-yujianrong

 彼は社会科学院農村発展研究所社会問題センター主任の研究者ですが、ネット上でも活発な議論で有名になっています。既に2004年に南方週末紙「特別致敬人物」、2008年南方人物週刊でも「中国魅力人物」に選ばれていますが、昨年12月に出た「博客天下」(博客=ブログ)という、中国のブログ・マイクロブログ上での各種の話題を取り上げた雑誌で、「2010年年度人物」に選ばれました(上の写真もこの雑誌HPから)。活発な言論で既に知名度を得ていた彼が、微博(微博=マイクロブログ)という新たなツールを得て更に声高になったということでしょう。その彼は新浪微博で活発につぶやいているのですが、多くの発言に反応があり、また常に数百、時には千を越える規模でリツイート(転送)されています。

 農村の各種の問題を現場を歩きながら究明しているこの学者は、最近は特に農村における土地権利関係での争い、特にその中での地方政府の荒っぽいやり方を糾弾しています。中国で起きる「群体性事件」、つまり集団での(時に暴力を伴う)デモ・抗議行動などの事件は1996年に8790件であったのが2006年には9万件以上、一部での地域での政府と住民の緊張関係は相当に厳しいものになっています。そういった中で、于建嵘は学者としての研究に止まらず、ブログや微博などのツールで社会に訴えていっています。

 現在彼は自らの研究を行うのみならず、その率直な発言に感銘を受けた地方政府などに赴いて、地方政府幹部向けの講演を数多く行っています。そこでも「お前ら官僚たちは」と政府官僚を罵倒するような口調も交えて講演するため、時には聴衆が怒って帰ることもあれば、その率直な物言いに更に関心を呼ぶこともあるそうです。有名になった彼の下には農村から多くの窮状を訴える便りが来て、4,5万通上る資料を保管するためにわざわざある「黒材料」部屋と呼ぶ場所を借りているほど。

 先日ありました「村長謀殺事件」(ニューズウィーク日本版のこちらを参照)でもそうですが、ネット、ブログ、更にはツイッターのようなものが、農村における各種の問題点の「アジェンダ・セッティング」、問題点・議論の焦点を定める役割をしている様子、それを象徴するような于建嵘のような人物。農村の問題への接し方もどんどん変わってきています。政府関係者のアカウントも多少ありますが、それよりも特に学者の微博アカウントには面白いものが多く、政府官僚よりももう少し自由にできる発言が、微博のような新しいメディアによって更に勢いを増しているのでしょう。

 彼の存在感の大きさを知った「博客天下」誌のキャッチフレーズは「人人都是記録者」、中国でも、様々な規制はありながらも情報伝達・メディアの新しい姿は大きくなるばかり、微博(の有名人)につく何百万人のフォロワーを見ていると、その勢いは日本の比でもないのではと感じるばかりです。農村の情報が都市に伝わっていく、ITを都市のものとばかり見るなかれ、農村の問題を見るにも微博を欠かせなくなりそうです。今後も于建嵘の「つぶやき」に注目です。