中国において「都市化」は避けがたい傾向。農業の生産力が限られていると考えられる中、労働力の第2・3次産業への移動と、都市化の推進は中国の経済政策の大勢です。ただし、その中では無理のある都市化も進んでいると警鐘を鳴らしているのが、この南方週末の記事です。(以下、10月14日付南方日報記事より)

 近年進んでいる中国での土地政策の一つが「双置換」。これは18億ムーの基本耕地は決して転用してはいけないという国策を背景にしつつ、農家各世帯の請負地と都市の社会保険制度を享受する権利を、農村の住宅地+住居を都市住居と交換するというものです。こうして、農村は次々と「都市化」していくという仕掛けだ。

 その後、農地の請負権は地方の「融資平台」(注:地方において公共投資のためのファイナンスを地方政府出資企業、時にガバナンスの欠けた貸し出し姿勢が懸念されいている)を経由して企業などに譲渡されていく。原則は元々の農地請負世帯に利益は還元されていくべきであるが、これがなされている地域は多くない。

 賀雪峰・華中科技大学中国郷村治理研究センター主任によれば、これはまさに上記の18億ムー政策に対応したものであり、農地を転用する際に最もそれを補いやすい土地は農村建設用地、農村地区住宅地であることから、こういったやり方が普及し始めた。これは農村建設用地と都市開発用地の交換(「增减挂钩指标」)という形で進んでいき、山東省などではパイロットとして「争って立ち退かせる」ような状況が広まった。

 この過程では地方政府は先に農民を立ち退かせ住居を準備し、その後に得た土地を利用して利益を上げることを狙うのであるが、もし企業誘致などがうまくいかなくなった場合には借金だけが残るリスクもある。また、都市生活に適応できない農民たちは、十分な収入を得られず都市貧困者になることもある。

 陳錫文・中共中央農村工作領導小組副組長、弁公室主任によれば、元々は2003年頃、都市建設のために与えられた割り当て土地面積を大きく超える土地が乱開発される中、やみくもな開発を止め、農地を利用する際にはきちんと新たな土地を開墾し農地の絶対量を確保するという目的で、「增减挂钩指标」は苦肉の策としてのスタートであった。それが今では「農村の宅地を乗っ取れば、都市建設ができる」といった認識になってしまっていると嘆く。「新しく建設利用可能枠に入る土地の利用は、計画の範囲であるべき、利益は元々の土地請負者である農民にも配分されるべき、土地開発は地元の小規模都市内(「小城鎮」)であり、中心都市への投資には回ってはいけない、などの原則を話すと、「そんなに大変ならやめよう」と地方政府のリーダーに言われる」と、陳・主任は地方の現状の理解不足を指摘する。(以上、新聞記事)

 記事にも登場する賀教授も指摘するように、これらの過程の中で個々の農家に「選択の自由」はほとんどないようです。都市のきれいなアパートに住めてラッキーという結果もあるでしょうが、有無を言わさず都市に住まわされる、例えば高齢者のような存在もあることは容易に想像されます。このような中で、農村の権力者・政府の圧力で黙って村を離れている人も多いのかもしれません。

 また、ある意図を持って始められた政策が、その意図に反して解釈され、地方で畸形的に普及するというのは、中国によくあるケースです。特に土地政策は、ただでさえ農村における土地の「集体使用」という曖昧な所有権により、利益の配分が不明確になりがち、かつ立ち退きの際の補償などの法律の定義もまだ未整備であるので、その民生に与えるインパクトは大きいです。都市部での立ち退き問題は、そのメディアとの距離の近さもあり、世論の注目を集めることが多いですが、農村部での「都市化」の御旗の下に進められるこれらの現象には、十分な監視がされていないのかもしれません。静かに進む農村の「強制的都市化」は、中国の進めるべき都市化プロセスではないはずですよね。