P382

ば,たちまち誅罰つかまつれと院宣を下さ

れた.去んぬる一日は義経の申さるるに

よって,鎮西将軍たらうずるとおん下し文を

なされ,同じ七日には頼朝申さるるに

よって,義経を追罰つかまつれと宣旨

を下さるる:朝に変り,夕に変ずる世の中

の不定なことは,まことに口惜しい

儀ぢゃ.諸国に守護をおき,庄園に地頭を

なし,段別兵粮米をあておこなはうずると奏聞

すれば:怯皇おぼしめしわづらはせられ,太政大臣

以下の公卿にこの由をおほせあはせ

らるれば,人々申されたは:帝王の怨敵を

滅ぼいた者には半国をくださるると無量義経

に見えた:されどもわが朝にはその

例ないに,頼朝の申し状過分なと君

も,臣もおほせられたれども,頼朝重ねて

申されたれば,頼朝を日本国の大将総づかさ

に補せられた:まだ先例ない恩貿ぢゃ.

さて行家は和泉の国に忍うで

ゐられたを北条とやかくやして討ち

とって首をば鎌倉

へ下されたと申す.

P383