「こは朽(くち)をし。彼(かれ)を撃(うた)せてわれのみ活(いき)んやは」とひとりこち、馬(うま)の頭(かしら)を引かへせば、只今城(しろ)に火(ひ)を放(かけ)しと見えて、忽地(たちまち)西(にし)に当(あた)りて火光(くわくわう)天(てん)に衝(つ)き、煽〓(せん<)として燃揚(もえあが)るにぞ、白縫(しらぬひ)潸然(はら<)と涙(なみだ)を流(なが)し、「已(やみ)なん+4。父(ちゝ)も討(うた)れ給(たま)ひけん。
わが身も死(し)すべき時(とき)至(いた)れり。憖(なまじい)に落伸(おちのび)て、しばしも後(おく)れまゐらせしこそ胸(むね)くるしけれ。
さらば最期(さいご)を急(いそが)ん」とて、城(しろ)の火光(ひのて)を燭(あかし)としつ、旧(もと)の路(みち)へ馳(はせ)てゆく。この時(とき)八代(やつしろ)は、白縫(しらぬひ)/を落(おと)さん為(ため)、潜(ひそか)に引下(ひきさが)りて、ふたゝび逐(お)ひ来る敵(てき)を拒(ふせぎ)、三騎(き)に痍負(ておは)せ、二騎(き)を切倒(きりたふ)し、首(くび)を取(とり)て立(たち)あがる折(をり)しも、矢(や)一ツ来りて八代(やつしろ)が、吭(のんど)のあたりへ丁(ちやう)ど立(たて)ば、しばしもたまら/ず倒(たふ)るゝを、軍兵(ぐんびやう)四五騎(き)下(お)りたちて、首(くび)をとらんと競(きそ)ひかゝる。