常(つね)は、すこし、そば<しく、心づきなき人の、折節(をりふし)につけて、出(い)でばえ

するやうも、ありかし」など、隈(くま)なきものいひも、定(さだ)めかねて、いたく、うち嘆(なげ)く。

「今(いま)は、たゞ、品(しな)にもよらじ、かたちをば、更(さら)にもいはじ。いと口惜(くちを)しく、ねぢけがましきおぼえだになくは、たゞ、ひとへに物まめやかに、靜(しづ)かなる心のおもむきならんよるべをぞ、終(つひ)の頼(たの)み所には、思(おも)ひおくべかりける。あまりの、ゆゑよし、心ばせ、うち添(そ)へたらんをば、よろこびに思(おも)ひ、すこし\後(おく)れたる方(かた)あらんをも、あながちに求(もと)め加(くは)へじ。後(うしろ)やすく、のどけき所だに\強(つよ)くは、うはべの情(なさけ)は、おのづから、もてつけつべきわざをや。

艶(えん)に物はぢして、恨(うら)みいふべきことをも、見知(みし)らぬさまに忍(しの)びて、上(うへ)はつれなくみさをづくり、心一(ひと)つに思(おも)ひ餘(あま)る時は、いはん方(かた)なくすごき言(こと)の葉、あはれなる歌(うた)をよみおき、忍(しの)ばるべきかたみを留(とど)めて、深(ふか)き山里(ざと)、世離(ばな)れたる海づらなどに、はひ隱(かく)れぬかし。童(わらは)に侍りし時、女房などの、物語(がたり)讀(よ)みしを聞(き)きて、「いと、あはれに悲(かな)しく、

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