P661

/に宮城野の次郎左衛門が首を取る。\小河-太郎、\京方より出で-来たる。能き敵、\目かけ組まんとする

に、\敵、\太刀を抜いて討つに、\目くれて組んで落つ。\起き上がりて見れば、\我/が身組んだる敵の首は人とり**

て無し。\〔「いかなる者なれば人の組たる敵の首取りたるぞ」と呼りければ、\「武蔵の守殿の手の者伊豆の国の住人平馬-太郎ぞかし。\わ殿はたぞ」。\「駿河の次郎の手の者小河-太郎経村」といひければ、\「さらば」とて返す。\小河これを請とらず。\後に\此/の\よし\申しければ、\平馬の僻事なり。\小河の\高名にぞ成にける。\山城の-太郎左衛門駈けめぐるを、\佐々木四郎左衛門が手に取りこめて生け-捕りけり。\去る程に

板東方の兵ども、\深草・\伏見・\丘の屋・\久我・\醍醐・\日野・\勧修寺・\吉田・\東山・\

北山・\東寺・\四塚に馳せ散らす。\或は一二万騎或は四五千騎、\旗の足をひるがへして乱れ-

入る。\三公・\卿相・\北政所・\女房局・\雲客・\青女・\官女・\遊女以下に至るまで、\声を立てゝ喚き叫び立ち迷ふ。\天地開闢より王城洛中のかゝる事、\いかでか\ありし。\かの寿永の昔、\平家の都を落ちしも、\これ程はなかりけり。\名をも惜しみ家をも思ふ重代の者どもは、\ここかしこに大将にさし遣はされて、\或は討たれ或は搦めとらる。\其/の-外は青侍・\町の冠者原向ひつぶて印地などと言ふ者なり。\いつ馬にも乗り軍したるすべも知らぬ者どもが、\或は勅命に駈り催されて、\或は見物の為に出で来たる輩ども、\板東の兵に追ひつめられたる有様、\ただ鷹の前の小鳥の如し。\討ち射殺し首を取ること若干なり。\板東の兵、\首一つ宛つ取らぬ者こそなかりけれ。\大将軍武蔵の守・\駿河の次郎・\足利殿は、\船にておし渡る。\信濃の国の住人内野の次郎、\宇治橋の北の在家に火を掛けゝり。\其/の¥煙天に映じて夥し。\淀・\芋洗・\広瀬、\其/の-外の渡々にこれを見て、\一軍(いくさ)もせず皆落ちにけり。\駿河の前司・\

P662