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/で、廿/に/だにたらせ給(たま)はで、かくしも整(ととの)はせ給(たま)ひ/けんこそ、又(また)みせまほしき人(ひと)あり/て、口(くち)-惜(を)しくなどおもふこともあるを、こなたかなた/を/ば\上(うへ)おほちとのなどまたいといたうもおい給(たま)はで、ものせさせ給右大(おほ)-殿(との)そとのも上(うへ)もねひさせ給(たま)へる。治部卿(きやう)上(うへ)/など/は\また若(わか)うものし給(たま)ふ。弘徽殿(こきでん)にぞおはします。御いかもゝかなといはんかたなくめでたくて過(す)ぎゆく。東宮(とうぐう)二宮御としの程(ほど)よりは。ものを美(うつく)しう宣(のたま)はせ。あさましく大人(おとな)しくぞおはしける。この若宮(わかみや)もいとめでたくおはしませ/ば、とのの上(うへ)つといだき奉(たてまつ)らせ給(たま)へり。上(うへ)も片時(かたとき)たちのかせ給(たま)はずもてあそばし奉(たてまつ)らせ給(たま)ふ。御乳母(めのと)三人(にん)俊輔ひやうゑのすけのめ。しなののかみきよざね女。すわうのかみよしつながむすめ少将(せうしやう)隆家がめなど参(まゐ)れり。宮また唯(ただ)\ならせ給(たま)ひ/ぬ。あまりなることはともかくも申(まう)さ/んにことはたらずぞありける。よき人々(ひとびと)参(まゐ)りあつまりて、はなやかなること。理(ことわり)なり。九月廿四日に左大(おほ)-殿(との)おほ井がはに紅葉(もみぢ)御覧(ご-らん)じにおはしますとて、殿上人(てんじやうびと)上達部(かんだちめ)参(まゐ)りあつまり。とのも例(れい)/ならずなへてならぬかりの御衣(ぞ)\奉(たてまつ)らむとせさせ給(たま)ふ\程(ほど)/に、関白(くわんばく)-殿(どの)御かぜのけしきおはしますとあれ/ば、とまらせ給(たま)ひ/ぬ。三四日ばかりありてうせさせ給(たま)ひ/ぬれ/ば、左大(おほ)-殿(との)関白(くわんばく)の宣旨(せんじ)かうぶら/せ給(たま)ひ/ぬ。すきたいはん/など\もてわたりめでたきこと限(かぎ)りなし。うち大(おほ)-殿(との)にゆづり奉(たてまつ)らまほしく\思(おぼ)し/けめと。宇治関白(くわんばく)-殿(どの)/の譲奉(たてまつ)らせ給(たま)ひし御心(こころ)を思(おぼ)し召(め)せ

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/ば、いかで/は。またさりとも、うちの御けしき/など/のさるべきにもあらず。故院(ゐん)/の\御ときにうち大(おほ)-殿(との)になんゆづらせ給(たま)ふ/べかんなるなど聞(き)こえしをりに。うちとののきかせ給(たま)はんか。かたはらいたきことゝぞ宣(のたま)はせける。御心(こころ)いとなだらかによくおはしましけり。一ゐんいとあざやかにすく<しく人(ひと)にしたがはせ給(たま)ふ/べき御心(こころ)にもおはしまさゞりしか/ば、関白(くわんばく)-殿(どの)もえ御心(こころ)にもまかせさせ給(たま)はずなどありしかど。すゑになるまゝ/に/は\御なからひよくおはしまし/て、御(おん)-心地(ここち)の程(ほど)もつと候(さぶら)は/せ給(たま)ひ、たちさらせ給折(をり)は。たづね申(まう)さ/せ給(たま)ひ/ける。されば故院(ゐん)/の\御ことをおもへばとて、東宮(とうぐう)をもものへ渡(わた)ら/せ給(たま)へ/ば、参(まゐ)らせ給(たま)ひなどせさせ給(たま)ひ/けり。見(み)奉(たてまつ)らせ給(たま)ひ/て\泣(な)か/せ\給(たま)ひ/けれ/ば、大臣(おとど)は何(なに)なくいたき所(ところ)やあるはらとりの女にとらせよかし。われもさこそはすれと\仰(おほ)せ/られけれ/ば、なき笑(わら)ひせさせ給(たま)ひ/てぞおはしましける。皇太后宮(くわうだいこうくう)うち大(おほ)-殿(との)などをも\思(おぼ)し-歎(なげ)か/せ給(たま)ふ。上(うへ)もいま\更(さら)/に\いかゞは思(おぼ)し召(め)しけん。左大とのの御有様(ありさま)いとめでたし。この御はらの若君(わかぎみ)は御元服せさせ給(たま)ひ/て、中将(ちゆうじやう)にておはします。春日(かすが)/のつかひに立(た)た/せ給昔(むかし)宇治とのの少将(せうしやう)にてつかひせさせ給(たま)ふ/に、入道(にふだう)-殿(どの)/の心(こころ)づかひをとよませ給(たま)ひ/つる。思(おも)ひいでられてあはれなり。とのは皇太后宮(くわうだいこうくう)によりくにがむすめ候(さぶら)ひけるを、\思(おぼ)し/ける/に\男(をとこ)二人(ふたり)ものし給(たま)ひ/けり。少将(せうしやう)と聞(き)こゆ。いま一人(ひとり)仁和寺(にわじ)/の-宮(みや)に奉(たてまつ)らせ給(たま)へり。

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