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六月八日后(きさき)の宣旨(せんじ)くだる。廿日大饗とて人々(ひとびと)さる/べき事(こと)-共(ども)あたりなどいとめてたし。十六日に太皇太后宮(くわうだいこうくう)女御(にようご)にならせ給(たま)ひ/ぬ。年(とし)-頃(ごろ)も一所(ところ)ゐんにならせ給(たま)ふ/べし。次第(しだい)にては太皇太后宮(くわうだいこうくう)ならせ給(たま)ふ/べし。さらずは中宮(ちゆうぐう)こそは故院(ゐん)/の\后(きさき)にもおはしまし。うちの御まゝははにもおはしませ/ばなど申(まう)し/つるを、太皇太后宮(くわうだいこうくう)ならせ給(たま)ひ/ぬれ/ば、后(きさき)にてもおはしまさでと申す\人(ひと)もあり。またならせ給(たま)はでいかゞはなど申す\人(ひと)も有けり。御門(みかど)/の御おやならぬはまたならせ給(たま)は/ざりけれ/ば、珍(めづら)しきことに人(ひと)申。御門(みかど)御おやならでは。受領などはえさせ給(たま)はじとて給(たま)はらせ給(たま)はず。こと<”は后(きさき)におはしましゝ同(おな)じことなり。例(れい)/は御門(みかど)/の御女后(きさき)にたちて、のちに女帝にゐ給(たま)ふ/もなくやはありける。まして院分/など/になからむと申(まう)し給(たま)ふ/に、上達部(かんだちめ)もおはす大女院(ゐん)は我御院分をゆづり申(まう)さ/んとそうせさせ給(たま)ふ。四条(しでう)宮を太皇太后宮(くわうだいこうくう)と聞(き)こえさせ。次々(つぎつぎ)のぼらせ給例(れい)/のことなり。中宮(ちゆうぐう)大饗の有様(ありさま)いみじうめでたし。左大(おほ)-殿(との)の万(よろづ)をきてさせ給(たま)へ/ば、あかぬことなくめでたし。大饗の日の有様(ありさま)。師子こまいぬ\もて-参(まゐ)り。ひたき屋陣屋(ぢんや)/など/のゐる程(ほど)をいとめでたく拝礼など思(おも)ひ-遣(や)るべし。まこと此(こ)/の\宮(みや)の御おやの中納言(ちゆうなごん)は。一ゐんの御ときに故民部卿(きやう)の御(おん)-子(こ)右衛門(うゑもん)のかうと。ひと度(たび)に大納言(だいなごん)になり給(たま)ひ/にき。御あにの左衛門(さゑもん)/のかうをひきこさせ給(たま)ひ/て、斎院(さいゐん)/の\御ことに御心(こころ)をかせ給(たま)ひ/ければなるべし。

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先帝の中宮(ちゆうぐう)をば皇后殿の皇后宮(くわうごうぐう)は皇太后宮(くわうだいこうくう)皇太后宮(くわうだいこうくう)中宮(ちゆうぐう)の御有様(ありさま)を、大納言(だいなごん)-殿(どの\殿(との)/の上(うへ)/など\いかに見(み)奉(たてまつ)らせ給(たま)ひ/けん。東三条(とうさんでう)くもりなく磨(みが)きしつらひて、御(み)-髪(ぐし)あけて倚子のおましにおはします程(ほど)猶(なほ)いふべきかたなくめでたくいみじ。女房(にようばう)三日がほと様々(さまざま)しかへたり。例(れい)/のかみあけわたしおもの参(まゐ)る作法(さほふ)/など\猶(なほ)いとめでたきことなり。うちよりはとくいらせ給(たま)へ/と/のみ。きゝにくきまで申(まう)さ/せ給(たま)ふ。御つかひよるひるわかずひまもなく、昔(むかし)もいまも\覚(おぼ)え\おはすなどいはれ給(たま)ふ。人々(ひとびと)ものし給(たま)ひ/しかど。いとかくたぐひはまたなかりきとぞ。うちのふる人(ひと)も世(よ)-人(ひと)も申(まう)し/けり。東宮(とうぐう)大夫の女御(にようご)のものし給(たま)ふ。まつよりひびきていらせ給(たま)ふ/をも。いかゞはきかせ給(たま)ひ/けん。御こしに奉(たてまつ)りてどのより始(はじ)め奉(たてまつ)り/て、上達部(かんだちめ)殿上人(てんじやうびと)残(のこ)りなくひゞきていらせ給(たま)ひ/ぬれ/ば、またこなたにのみおはします。後冷泉(ごれいぜい)/の-院(ゐん)/の\式部(しきぶ)/のめうぶといひし人(ひと)のはらに。源大納言(だいなごん)-殿(どの)/の御(み)-子(こ)とていと美(うつく)しかりける人(ひと)東北院(ゐん)に候(さぶら)ひけり。かたちいとおかしげに心(こころ)ばへなといとよかりけり。うちに聞(き)こし召(め)して忍(しの)びて召(め)しけれ/ば、よる<参(まゐ)りけり。やまざとにすみければそれより。よひ暁(あかつき)に参(まゐ)りまかてするもおかし。唯(ただ)/ならずなりて男(をとこ)-御(み)-子(こ)産(う)み/たり/けれ/ど、慎(つつ)まじくや思(おぼ)し召(め)し/て、心(こころ)-異(こと)/にもてなさせ給(たま)ふ。大納言(だいなごん)-殿(どの)/は、

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