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うちの御つかひみやの御つかひのひまもなくまいり。ちがひ/たり。験(しるし)ありときかせ給そうをば召(め)して遣(つか)はす。そのわたり四五丁はみちもさりあへず。一の人(ひと)の御むすめの后宮のうませ給(たま)はんもかくこそはあらめ。思(おも)ひしより過(す)ぎたる御有様(ありさま)なり。四五日つれなく明(あ)け暮(く)れつゝいとあさましく、いかに<とうちにもみやにも思(おぼ)し召(め)す。六日といふにいときらゝかなる男(をとこ)にておはしませばさる/べき人々(ひとびと)をき所(どころ)なくおぼさ/るうちの御使宮の御つかひわれまつ奏(そう)せん<とそ急(いそ)ぎ\まいるかはかり年(とし)比いつかたにもかたよりつる御事(こと)/のめづらか/に\あさましとも疎(おろ)か/なり源中納言(ちゆうなごん)の四位(しゐ)少将(せうしやう)家(いへ)かた御はかしもて参(まゐ)るを見つけたる心地(ここち)なりさる/べきならてたゝうち見る人(ひと)もめてたしとはこれをこそはいはめかかることをまたこそ見さりつれとあさましくめてたく見給(たま)ひ/けり御湯(ゆ)-殿(どの)の儀式(ぎしき)有様(ありさま)なと蔵人(くらうど)五位(ごゐ)よき限(かぎ)り廿人(にん)弦打(つるうち)に奉(たてまつ)らせ給いへは疎(おろ)か也御乳母(めのと)には小侍従(じじゆう)の内侍(ないし)とて候(さぶら)ふを奉(たてまつ)らせ給(たま)へり上野(かうづけ)守範国か女尾張守惟経か女蔵人(くらうど)よりかうぶりえたる式部(しきぶ)太輔惟輔か女なり三月九日いらせ給儀式(ぎしき)有様(ありさま)いとめてたし車(くるま)五六ひきつゝけていと心(こころ)-異(こと)/なり女御(にようご)になりていらせ給更衣(ころもがへ)なといひしをたに世(よ)/にめてたく珍(めづら)しきことに思申(まう)しをけざやかにめてたくいみじくよに例(ためし)なきことに世(よ)-人(ひと)此(こ)/の-頃(ごろ)/の/如(ごと)くさにした〔り〕。さらぬことたにきゝにくきものいひ

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/は、まして理(ことわり)かくもてなさせ給(たま)ふ/も\人(ひと)の御程(ほど)御く〔ら〕ゐこそあさくものし給(たま)ひ/しが。侍従(じじゆう)宰相(さいしやう)この斎院(ゐん)/の\御せうと小一条(こいちでう)院(ゐん)/の\御(おん)-子(こ)。堀河(ほりかは)の右大臣(うだいじん)の御姫君(ひめぎみ)の御はら/など/て/か\悪(わろ)からんと思(おぼ)し召(め)すなるべし東宮(とうぐう)よりほかに男(をとこ)-宮(みや)おはしまさねば。心(こころ)-異(こと)/に若宮(わかみや)を思(おも)ひ申(まう)さ/せ給(たま)ふ/べば。この女御(にようご)-殿(どの)をもおも<しくもてなし聞(き)こえ給(たま)ふ/も理(ことわり)なり。御せうとは兵衛(ひやうゑ)佐少将(せうしやう)などにてものせさせ給(たま)ふ。いらせ給(たま)ひ/ぬればいつしか上(うへ)ゝのぼせ奉(たてまつ)らせ給(たま)ひ/て、すけふさの宰相(さいしやう)のむすめ。大納言(だいなごん)のきみいたき奉(たてまつ)らせ給(たま)ひ/て、侍従(じじゆう)の内侍(ないし)御はかしとりて参(まゐ)れり。いだきとらせ給(たま)ひ/てまたいとものげなき御程(ほど)を、慈(うつく)しみ奉(たてまつ)らせ給(たま)ふ\程(ほど)哀(あは)れ/にめでたし。いつしかときたなき〔わ〕ざをしかけ奉(たてまつ)らせ給(たま)へれ/ば、御衣(ぞ)\奉(たてまつ)りかふる程(ほど)もめでたし。少(すこ)しうち-泣(な)か/せ\給(たま)へ/ば、かへしわたし奉(たてまつ)らせ給(たま)ふ/に、やがてつゞきて渡(わた)ら/せ給(たま)ひ/ぬ。聞(き)こえさせ給(たま)ふ\程(ほど)/のこと思(おも)ひ-遣(や)るべし。御さいはひのめでたかるべけれ/ば、せいし申す人(ひと)もなく、はゞからせ給煩(わづら)はしかるべきこともおはしまさぬ程(ほど)にしも。かくおはしますにぞ。東宮(とうぐう)よりほかに御(み)-子(こ)もおはしまさずなどある程(ほど)にて、誰(たれ)も誰(たれ)も疎(おろ)かに思(おも)ひ申(まう)さ/せ給(たま)ふ/べきなら/ね/ど\後冷泉(ごれいぜい)/の-院(ゐん)にかやうのことおはしまさましか/ば、また御(み)-子(こ)おはしまさずともうけはりて、かくはもてなさせ給(たま)はざらまし。人(ひと)-知(し)れ/ずさる人(ひと)おはしますなりなどばかりこそはきかせ給(たま)はましが。うちの関白(くわんばく)-殿(どの)にはゞかり申(まう)さ/せ給(たま)は

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