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見(み)奉(たてまつ)らせ給(たま)ふ。いと哀(あは)れ/に口(くち)-惜(を)しげなり。御(おん)-心地(ここち)もやう<をこたらせ給(たま)へ/ば、嬉(うれ)しく思(おぼ)し召(め)さる。せめてながくともこと<”よりは思(おも)ひ申(まう)さ/せ給(たま)は/ざりけり。我なからんよにあるよりはおとろへ。心(こころ)-細(ぼそ)くやおぼされんと。うしろめたきあまり/に/は\われよりのちはおはしまさでもありなむと思(おぼ)し召(め)しながら、めのまへにゆゝしからんことはみしと思(おぼ)し召(め)さるゝは。いかゞはおはしますべからん。わりなき御(おん)-心地(ここち)にぞ源大納言(だいなごん)の御太郎きみは。新中納言(ちゆうなごん)としふさと聞(き)こゆる。かの朱雀(すざくの)院(ゐん)/の\二/の-宮(みや)は。前斎院(ゐん)とて皇太后宮(くわうだいこうくう)と一(ひと)つ所(ところ)におはしますに御乳母(めのと)ごをかたらひて、忍(しの)び<にまいり給(たま)ひ/けり。さて忍(しの)びてむかへ奉(たてまつ)らせ給(たま)ひ/てけれ/ば、内(うち)東宮(とうぐう)いとひんなきものに思(おぼ)し召(め)したる。中/に/も\東宮(とうぐう)は一(ひと)つ御はらにおはしまし/て、心(こころ)やましく、めざしう思(おぼ)し召(め)し/て、うちにも一人(ひとり)かくのみ思(おも)ひ侍(はべ)るべきことにもあらずと。いみじく申(まう)さ/せ給(たま)へ/ば、かしこまりてものし給(たま)ふ/を、猶(なほ)あかずこれよりまさりたらんつみにもありなんと。いたく申(まう)さ/せ給(たま)へ/ば、いかなることかと大納言(だいなごん)-殿(どの)は\思(おぼ)し-歎(なげ)か/せ給(たま)ふ。六条(ろくでう)にいとおかしき所(ところ)大納言(だいなごん)-殿(どの)/のりやうせさせ給(たま)ひ/けるにぞ。おはしまさせ給(たま)ひ/ける。大宮(おほみや)をもすべて御ふみなど通(かよ)はさせ給/など\東宮(とうぐう)のいみじく申(まう)さ/せ給(たま)へ/ば、いと悲(かな)しくし奉(たてまつ)らせ給(たま)ひ/しかど。かきたえてはおはします。大納言(だいなごん)-殿(どの)/の\上(うへ)、よろづに扱(あつか)ひ申(まう)さ/せ給(たま)ふ。

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みやの御有様(ありさま)いとめでたくおかしげにおはします。中納言(ちゆうなごん)物語(ものがたり)の男君(をとこぎみ)の心地(ここち)し給(たま)ひ/て、いとあてやかになまめかしき御さまなり。東宮(とうぐう)の斎院(ゐん)は男(をとこ)-宮(みや)。女(をんな)-宮(みや)産(う)み奉(たてまつ)らせ給(たま)ひ/しかど。みなうせさせ給(たま)ひにしか/ば、あさましきことと\思(おぼ)し-歎(なげ)か/せ給(たま)ふ。春宮(とうぐう)大夫殿の女御(にようご)。煩(わづら)はせ給(たま)ひ/て、やがてみやにてなくならせ給(たま)ひ/に/けり。あさましきことを\思(おぼ)し-歎(なげ)か/せ給(たま)ふ。大夫殿上(うへ)はゝ上(うへ)/など\いかなる御(おん)-心地(ここち)かはせさせ給(たま)ひ/けん。東宮(とうぐう)の歎(なげ)か/せ給さま限(かぎ)りなし。男(をとこ)-宮(みや)ひとゝころ。女(をんな)-宮(みや)四(よ)-所(ところ)ぞおはしましける。女(をんな)-二/の-宮(みや)はうせ給(たま)ひ/に/けり。哀(あは)れ/にいみじきこと多(おほ)かり。さくらのえ/も-いは/ぬ盛(さか)りに。馬場殿に月のあかきに。中宮(ちゆうぐう)の女房(にようばう)ゆきてみるに。いくきともなくさきとゝのぼりたるは。ゆきのふりかかれるにたがふことなし。そらに知(し)ら/れぬともみえたり。あかぬ心地(ここち)しながらさてあるべきならねばかへるとて

@さくらばな\あかぬにほひを春かすみたちなからのみみてやかへらん W560

@かきくらすゆきかとみればおほろなる月にちりかふさくらなりけり W561

@月かけにちりしくにはのさくらばなかきあつめてもたぐひなきかな W562。

\みるさまどもおかしくみゆ。またさらぬ人(ひと)もありけんかし。うち御(お)-前(まへ)にて殿上人(てんじやうびと)にまりけさせて御覧(ご-らん)ずる。日の有様(ありさま)。いみじくめでたし。そのころ皇后宮(くわうごうぐう)の上(うへ)の御つぼねのいつみに大なるさくらをさゝせ給(たま)ひ/て、人々(ひとびと)よみ/ける、

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