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\おはしまさずと申(まう)し/たるに。かく様々(さまざま)とめでたく世(よ)/の固(かた)めとならせ給(たま)ふ/べき。一の人(ひと)たちいでおはしましける。ものをいろめかしくあだにおはしますも。若(わか)き折(をり)にさものせさせ給(たま)はぬ人(ひと)やはある。さればこそおかしくなまめかしきこともいでくれ。いとうるはしきはすさましく、すくよかなりかし。うちのうへもいとたをやかにおかしくおはします。東宮(とうぐう)はうるはしくきびしきやうにおはしませど。さえおはしましうたのじやうずにおはします。女房(にようばう)なども御覧(ご-らん)じ放(はな)たず。近江(あふみ)のかみさねつねのきみのむすめ候けるも。男(をとこ)-御(み)-子(こ)産(う)み奉(たてまつ)りたりける。四五にてうせ給(たま)ひ/にき。いせが心地(ここち)ぞしける。内(うち)大とのに大饗あり。女房(にようばう)色々(いろいろ)にもえぎのふたへもんの表着(うはぎ)。えびぞめ/のふたへもんのからぎぬなどうち出たり。さらぬ女房(にようばう)も。四十人(にん)ばかり心(こころ)ごゝろにさうぞきまいりあつまれり。うちには三日にさくらのえんなど言(い)ひ/て過(す)ぎぬ。五月にはむまは殿にてこまくらべせさせ給東宮(とうぐう)渡(わた)ら/せ給(たま)ひ/て御覧(ご-らん)じなどいとめでたし。まとゐなど騒(さわ)がしうて過(す)ぎぬ。九月十三日月の世(よ)/の-常(つね)ならぬに御あそびあり。二位(にゐ)中納言(ちゆうなごん)さうのこと。もろかたのべんわごん。まさながの少将(せうしやう)ふえなどいとおかし。夜ふくるまゝに。月すみのぼりやりみづのれいよりはひろく流(なが)れたる。いとおかし。うち大(おほ)-殿(との)御としの程(ほど)よりもいとのどやかに大人(おとな)しく、恥(は)づかしげにものせさせ給(たま)ふ。御-ざえなどもおはしまし。さるべき折(をり)<の公(おほやけ)ごとなど/に/も\とし大人(おとな)び\給(たま)へる人(ひと)/だに\自(おの)づからあやまり

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給(たま)ふ\こともあるに。ことの作法(さほふ)などめでたくめ安(やす)くせさせ給(たま)ふ/とて、大人(おとな)び\給(たま)へる。上達部(かんだちめ)などめで申(まう)し給(たま)ふ。御かたちいと清(きよ)げにけだかき御有様(ありさま)なり。とし家(いへ)の二位(にゐ)中納言(ちゆうなごん)いとはなやかに清(きよ)げに。かたち人(ひと)とみえ給(たま)へり。堀河(ほりかは)の右の大(おほ)-殿(との)こそは。かたちのなとり給(たま)へ/り/しか/ば、この殿(との)-原(ばら)もみないとよくものし給ふ/なるべし。うち大(おほ)-殿(との)

@冬(ふゆ)ならでさやけき月にたきつせは音はせね共こほりしにけり W532。

\二位(にゐ)中納言(ちゆうなごん)〈とし家(いへ)〉

@すむみづにさやけきかけのうつれはやこよひの月の何(なに)なかるらん W533。

\中納言(ちゆうなごん)〈よしなが〉

@ちよ/までにすむべき水のなかれには月ものどけくやどるなりけり W534

@いはまよりなかるゝみづの月かけのうつれるさへそさやけかりける W535。

\れいの残(のこ)りは留(とど)めつ流(なが)れてはやき月日にて過(す)ぎもてゆけば。五節(ごせつ)に中宮(ちゆうぐう)の女房(にようばう)。むめけいせちをふぐんでといふ詩をさうぞきたり。むめの織物(おりもの)かうぞめこうばいのくれなゐに。にほひたるなどなり。みどりのもんをゝひ/たりとて、したるみどりのきぬきたり。殿上人(てんじやうびと)すんしなどしていとおかし。からぎぬのひもなどに。やがてこのしをむすびたり。やへこうばいの唐きぬなど色々(いろいろ)におかし。臨時(りんじ)/の-祭(まつり)のぼらせ給(たま)ひ/て御覧(ご-らん)ず。皇后宮(くわうごうぐう)はしもの御つぼねなるにも御覧(ご-らん)ず。

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