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@数多(あまた)さへわかれのみちをしらましやきみにをくれぬわかみなりせば W442。

\御帳のまへにいとこと<”しくてむかひ候(さぶら)ひし。しゝこまいぬの。人(ひと)ばなれたるかへのもとにすてをかれたるを、みるもいとど哀(あは)れ/にて

@みるまゝに夢(ゆめ)まぼろし世(よ)/のなかは。しゝのはてこそ悲(かな)しかりけれ W443。

\せしのきみ

@さもこそはきみかまもりのうせぬともかくやはしゝのはてもあるべき W444。

\五節(ごせつ)臨時(りんじ)/の-祭(まつり)のほど/など/も\かかることどもおほ〔か〕れと。留(とど)めつ世(よ)/のなかは御(ご)-禊(けい)大嘗会(だいじやうゑ)など言(い)ひ/て、こころのどかなる折(をり)なし。きたの/の-宮(みや)見にとて里(さと)へいでたちなどすれど。此(こ)/の\宮(みや)にのみぞ哀(あは)れ/にしめやかにて、つきせず昔(むかし)をこひて、みやたちの幼(をさな)くおはしますを見(み)奉(たてまつ)り。つかうまつりて、涙(なみだ)のひる世なくて明(あ)かし暮(くら)しける。女御代(にようごだい)にはこしきふきやう/の-宮(みや)の姫君(ひめぎみ)。殿(どの)/のうへのこにし奉(たてまつ)らせ給(たま)ふ。立(た)た/せ給御(ご)-禊(けい)の有様(ありさま)いとめでたし。せんていは廿一年位(くらゐ)におはしましゝかば。絶間(たえま)ひさしくて珍(めづら)しくおもふべし。糸毛にて、女御代(にようごだい)はとののうへ一(ひと)つ御車(くるま)にて渡(わた)ら/せ給(たま)ふ。また奉(たてまつ)りたるを放(はな)ちていとけこがねづくり。檳榔十女房(にようばう)四十人(にん)。わらは八人(にん)れいの作法(さほふ)なり。色々(いろいろ)ふたつづゝにえびぞめ/のうはざなどにやありけん。十二三ばかり重(かさ)なりたり下仕(しもづかへ)のかざしたりしなどなべてのことにはにず。おもしろくめでたし。御こしのうちのめでたさ。もの<しくあざやかにめでたくておはします/に/も\なを女院(にようゐん)の御有様(ありさま)はいみじくめでたき

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/に\さしならびおはしまいしは。またいみじかりしことぞかし大がしらなど言(い)ひ/て、れいの恐(おそ)ろしげ〔に〕筋(すぢ)ふときかみよりかけて、さすがにうるはしくて渡(わた)る。むまにのりても誰(たれ)は心々(こころごころ)にてやゝといふほともおかし。うちの女房(にようばう)十人(にん)むまにてつかうまつるこそ、いかにけせうにわりなからんと。いとおしけれ。とのはこの度(たび)は御車(くるま)にてひきをくれて候(さぶら)は/せ給(たま)ふ。一みやいと美(うつく)しき御直衣(なほし)すがたにて、まだわらはにて御乳母(めのと)-達(たち)御車(くるま)のしりにのせさせ給(たま)ひ/て、御覧(ご-らん)ずるいとめでたし。大嘗会(だいじやうゑ)れいの月日のやまひき。怪(あや)しのものまであをずり/にあかひもなまめかしうて急(いそ)ぎあゆみたふれぬべく、あしきみちをつゞきたちて、ゆくもおかし。さるべき人(ひと)はあゆまで人(ひと)よりのちまでかしつかれ。ふとりたる近江(あふみ)のかみ/など/は\人(ひと)におされなどしてあゆみゆくもおかしくなん。なをなべてのことにはあらず。今年(ことし)は五節(ごせつ)まふ人(ひと)はみなかうぶりなど給(たま)はる。女御代(にようごだい)うちにまいり給(たま)ふべしと聞(き)こゆれ/ば、いまだにとおぼすべきうち大(おほ)-殿(との)東宮(とうぐう)のだいぶ。ただいまは\思(おぼ)し-たえたり。としもくれぬ晦日(つごもり)の日。ごん大納言(だいなごん)一品(いつぽん)/の-宮(みや)にまいり給(たま)へるにせしのきみ

@うきもののさすがにおしきことしかなはるけさまさるきみかわかれに W445。

\かへし大納言(だいなごん)

@悲(かな)しさはいとどぞまさるわかれに〔し〕としにも今日(けふ)はわかるとおもへば W446。

\また大納言(だいなごん)手習(てならひ)/に、

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@はるたつときくにもものの悲(かな)しきはとしのこそになればなりけり W447。

\御かへしいでは

@あたらしきとし/に\添(そ)へ/てもかはらねばこふるこころぞかたみなりける W448。

\この宣旨(せんじ)はみやの御乳母(めのと)なりけり。とのの〔う〕への御めひにものし給(たま)ふ。

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〔栄花物語巻第三十四〕 晩待星