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/ば、え\削(そ)が/せ\給(たま)ふ/まじけれ/ば、削(そ)ぎ\奉(たてまつ)らせ給(たま)ふ。御(み)-髪(ぐし)いとながく美(うつく)しうおはします。御こころいとなつかしうて、うちをもしたひ奉(たてまつ)らせ給(たま)へ/ば、いと哀(あは)れ/に思(おも)ひつき聞(き)こえ給(たま)へり。このことをなげき思(おぼ)し召(め)すこと限(かぎ)りなし。誠(まこと)/やちじう大納言(だいなごん)などうせ給(たま)ひ/てのころ。入道(にふだう)大納言(だいなごん)

@見るまゝに人(ひと)は煙(けぶり)となりはてゝこう火の家(いへ)はあはれなりけり W338。

/と\宣(のたま)ひ/ける入道(にふだう)大納言(だいなごん)とは。四条(しでう)大納言(だいなごん)にものし給(たま)ふ。よにこころにくゝ\覚(おぼ)え\給(たま)ひける人々(ひとびと)きんたうの左衛門(さゑもん)/のかうと聞(き)こえしなり。みんぶきやう。式部(しきぶ)-卿(きやう)/の-宮源宰相(さいしやう)故太政(だいじやう)-大臣(だいじん)-殿(どの)のさねなり中将(ちゆうじやう)などこそは聞(き)こえしを、さねなりの中将(ちゆうじやう)は。そのころ。右兵衛(うひやうゑ)のかうにて中納言(ちゆうなごん)にてものし給(たま)ふ。大弐になり給(たま)へり。御(み)-子(こ)はおのこころ一人(ひとり)。きんなりの宰相(さいしやう)とてしけのゐのひやうゑのかうとてかたちはいとよくよき上達部(かんだちめ)にてものし給(たま)ふ。女子(をんなご)は。中宮(ちゆうぐう)権大夫(ごんだいぶ)のうへにてものし給(たま)ふ。いま女一所(ところ)ものし給(たま)ひ/しは。あきもと中納言(ちゆうなごん)とて、故源民部卿(きやう)の子を関白(くわんばく)-殿(どの)/のこにせさせ給(たま)へる。むことり給(たま)へり/しか/ど、男子(をのこご)一人(ひとり)産(う)みをきてうせ給(たま)ひ/に/しか/ば、此(こ)/の-頃(ごろ)十五六はかりにてすけつなの少将(せうしやう)とておはす。ひやうゑのかうはしけのゐに女君(をんなぎみ)ひとゝころうませ給(たま)へりけるは。大夫-殿(どの)/のうへこにし奉(たてまつ)らせ給(たま)ひ/ていみじくかしづき聞(き)こえさせ給(たま)ふ。われは中宮(ちゆうぐう)の御乳母(めのと)子に。みやの内侍(ないし)とてかたちなどめ安(やす)かりける人(ひと)をいみじう\思(おぼ)し/て、わかもとにひかへなどしてものし給(たま)ひ/ける。

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后(きさき)の御せうとのごん大納言(だいなごん)も。うへ二(ふた)-所(ところ)うせ給(たま)ひてのち。世(よ)/にもあらじなど\思(おぼ)し-宣(のたま)はせ/けれ/ど\女院(にようゐん)の中将(ちゆうじやう)のきみと聞(き)こゆる人(ひと)をいみじく\思(おぼ)し/て、男君(をとこぎみ)数多(あまた)うまれ給(たま)ひにけり。いかなるよのやうにか。関白(くわんばく)-殿(どの)いとさもていてあらはれてにはあら/ね/ど\尼上(あまうへ)の御方(かた)にこふらふ人(ひと)を忍(しの)びつゝ、いみじう思(おぼ)し召(め)すといふこといできて、つねに唯(ただ)/ならでこなど産(う)み給(たま)ふ/といふと聞(き)こゆれど。うへの御方(かた)に思(おぼ)し召(め)さんことをつゝませ給(たま)ふなるべし。故中務(なかつかさ)宮の御むすめなどぞ聞(き)こえさすなりし。斉院(ゐん)おりゐさせ給(たま)ひ/て、御せうとの入道(にふだう)兵部(ひやうぶ)-卿(きやう)/の-宮(みや)にたいめんせさせ給(たま)ひ/て、聞(き)こえさせ給(たま)ひ/ける

@今日(けふ)そおもふきみにあはてやゝみなましやそちあまりのとしなかりせば W339。

\いみじうこよなき程(ほど)/の年月なりかしいと若(わか)くてゐんにならせ給(たま)ふ。兵部(ひやうぶ)-卿(きやう)みやかたちことにならせ給(たま)ひ/に/しか/ば、いかでかは見(み)奉(たてまつ)らせ給(たま)はん。御はらから/に/ぞ\おはしましける。誠(まこと)/や殿上の人々(ひとびと)もはなみ。関白(くわんばく)-殿(どの)も御覧(ご-らん)じけるに斉院(ゐん)より

@残(のこ)りなくたつぬなれどもしめの内(うち)のはなははなにもあらぬなりけり W340。

/と\聞(き)こえさせ給(たま)へりけれ/ば、春宮(とうぐう)大夫の御返し

@かぜをいたみまつそやまべをたづねつるしめゆふはなはちらじと思(おも)ひ/て W341。

このうたのかへしはかくこそ、集には

@残(のこ)りなくなりぬる春にちりぬべきはなばかりをばねたまざらなん W342

/と\聞(き)こえ/させ

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