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この御かしづきよりほかのことなくおぼしたれ/ば、御調度(てうど)どもより始(はじ)め。よろづの御具(ぐ)ども耀(かかや)くやうに漢書の御屏風(びやうぶ)。文集の御屏風(びやうぶ)どもなどしあつめ給/なれ/ば、けに内(うち)春宮(とうぐう)にまいり給(たま)はんとたへてみえたり。さてむことり奉(たてまつ)り給(たま)ふ。女房(にようばう)もとよりいと多(おほ)かる\とのなれど。心(こころ)-異(こと)/にえらば/せ給(たま)ひ/て、廿人(にん)童四人(にん)しもづかへ同(おな)じことなり。ものごのみをし。昔(むかし)よりものはなやかなるわたりにて、いみじうしつくし給(たま)へり。男君(をとこぎみ)十八にやなり給(たま)ふらん。女君(をんなぎみ)はいますこしまさり給(たま)へるなるべし。御かたち有様(ありさま)とゝのぼりはてゝ。いみじうめでたうあてやかに、美(うつく)しうなまめき給(たま)へり御ぐしたけに多(おほ)くあまり給(たま)へり。たゞ人(ひと)にみえ給(たま)はんことおしけになん。ていとよくかき給(たま)ふ。ゑなどもいとおかしうかき給(たま)ふ。男君(をとこぎみ)いとかひあるさまにおぼし/て、いでいりかよひ給(たま)ふ\程(ほど)/に、五節(ごせつ)になりぬれ/ば、そのころの御有様(ありさま)はなばなとしたて給(たま)へり。御(み)-堂(だう)にもめ安(やす)くおぼし見(み)奉(たてまつ)らせ給(たま)ふ。五節(ごせつ)のはべるよ。この大納言(だいなごん)-殿(どの)に、ひいできてやけぬ。あめのどかにふりてけしめりにたりけるに、三位-殿(どの)も大納言(だいなごん)-殿(どの)も。五節(ごせつ)/なれ/ば、みなうちにおはしけるしもあることにて、よろづあさましうのこりなくて、やみぬ。こころうくあさまし。いみじとも世(よ)/のつねなり。つとめてよろづの御とぶらひどもあり。御むこどりののち。この十余(よ)日にこそはなりぬれ。おりしも口(くち)-惜(を)しう。これも始(はじ)めたいにつけたりしを、かしこうけたれにしを、またそののち十余(よ)日あり

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/て人(ひと)のたゆみたる程(ほど)/に、かかるなりけり。いと怪(あや)しくさるべきかたきなどもなきにとおぼしながら、すゞろにいできたるひのさま/なれ/ば、なをいかなることにかと、とののうちの上下おもひ/たり。二条(にでう)のさじきとのにわたり給(たま)ひ/ぬ。斯(か)かる-程(ほど)/に月-頃(ごろ)御(み)-堂(だう)のいぬゐのかたにへだてゝ。うへの御(み)-堂(だう)たてさせ給(たま)へり。みなついぢをしこめて三げん四めんのひはだぶきの御(み)-堂(だう)。いとさゞやかに、おかしげにつくらせ給(たま)ひ/て、きたみなみにしのかたと、らうわだ-殿(どの)つくりつゞけさせ給(たま)ひ/て、十二月(じふにぐわつ)十余(よ)日の程(ほど)/に、御(み)-堂(だう)くやうあり。御たうの有様(ありさま)ほとけいとおかしげにて、三じやくばかりのあみだ。くはんをむせいしおはします。ぶつぐどもえ/も-いは/ず。美(うつく)しうせさせ給(たま)へり。御(み)-堂(だう)の有様(ありさま)。ひさしのかたにめぐりて、寺はうのなりと、このやうに、たゝみひとしきしくばかりの程(ほど)/の。なげしのたかさ。四すんばかりの程(ほど)。のけてつくりて、それににしきのはしさしたるながだゞみどもを、にしひがしきたみなみとまはりてしかせ給(たま)へり。ほとけの御(お)-前(まへ)に、かうざのひだり右に、礼盤たてよせ給(たま)へり。そのひさしのなげしのしものかたの。いたじきかげみゆばかりみがゝせ給(たま)へり。北(きた)の方(かた)には。もやのきはに御さうじを、いとおかしげに、ゑかきてたてさせ給(たま)へり。もかうかけさせ給(たま)へり。北(きた)の方(かた)に御つぼねは。しつらはせ給(たま)へり。せうそう七僧。百そうせさせ給(たま)ひ/て七そうには。はうぶくくばらせ給(たま)ふ。そのことはてゝ。なをやがて三日三よ。ふだんの御ねぶつせさせ給(たま)ふ。やまのねぶつのさまをうつし。行(おこな)はせ給(たま)ふ/なりけり。ねぶつのそう。年(とし)十五をきはにて、十二三四までをえり召(め)したり。やまのさいたうとうだう。よかは

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