はかなき事だに、かくこそ侍れ。まして、人の心の、時(とき)にあたりて氣色(けしき)ばめらん、見る目(め)のなさけをば、え頼(たの)むまじく思う給(たま)へて侍る。そのはじめの事、すき<”しくとも、申(まう)し侍らむ」とて、近(ちか)く居寄(ゐよ)れば、君も、目(め)さまし給ふ。中將、いみじく信(しん)じて、頬杖(つらづゑ)をつきて、むかひ居(ゐ)給(たま)へり。法(のり)の師の、世のことわり説(と)き聞(き)かせん所の心ちするも、かつは、をかしけれど、かかるついでは、おの<睦言(むつごと)も、え忍(しの)びとどめずなん、ありける。
「はやう、まだ下臈(げらふ)に侍りし時、「あはれ」と思(おも)ふ人侍りき。聞(きこ)えさせつるやうに、かたちなど、いと、まほにも侍らざりしかば、若(わか)き程(ほど)のすき心ちには、「この人を、とまりに」とも思(おも)ひとどめ侍らず、「よるべ」とは思(おも)ひながら、さう<”しくて、とかく紛(まぎ)れ侍りしを、物怨(ゑん)じを、いたくし侍りしかば、心づきなく、「いと、かからで、おいらかならましかば」と思(おも)ひつつ、あまり、いと許(ゆる)しなく疑(うたが)ひ侍りしもうるさくて、「かく、數(かず)ならぬ身を、
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