Wed 230628 「気象通報」のこと/橋杭岩と奇岩怪石の思ひ出/おざきのひもの 4399回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 230628 「気象通報」のこと/橋杭岩と奇岩怪石の思ひ出/おざきのひもの 4399回

 NHKラジオ第2放送「気象通報」をご存知だろうか。むかしは日に3度も放送されていたが、今は1日1回のみ、午後4時から20分間、毎日放送されている。放送開始は1928年、まもなく100年目を迎えようとしている。

 

 まさにNHKアナウンサーの真骨頂が聴ける20分だ。諸君も明日か明後日、16時ちょうどにラジオ第2放送にダイヤルを合わせてみたまえ。「一字一句、決して読み間違えてはならない」という深く透き通った緊張感を味わえるはずだ。

(マコトに緊張感のない写真で申し訳ないが、6月18日、橋杭岩のあたりに戻ってきたワタクシは、近くの店でイカ丸焼き2皿を平らげた)

 

 放送を聴く側は、目の前のデスクに日本付近の大きな地図を広げて、地図の中に放送の内容を猛スピードで書き込んでいくのである。その地図を「ラジオ用 地上天気図用紙」といい、(NHK第2 気象通報受信用)と但し書きが印刷されている。

 

 放送はマコトに淡々と、各地点ごとのデータを読み上げる。

「潮岬では、東南東の風、風力5、晴れ、06hP、28℃」

「御前崎では、北北西の風、風力4、曇り、998hP、30℃」

 

 例えばこんなふうに、地点名・風向・風力・天候・気圧・気温の順に読み上げる。1000hP以上の場合、下2桁しか読み上げないのが普通だった。

      (JR紀勢本線、串本駅の勇姿 1)

 

 ワタクシが「気象通報」の大ファンだったのは、中1から中3の頃。「石垣島では…」「函館では…」「鬱陵島では…」「ウラジオストクでは…」「ハバロフスクでは…」と猛烈なスピードで読み上げられるデータを天気図用紙に書き込んでから、最終的に気圧配置やら前線の位置を書き込み、自分なりの天気予報を楽しんだ。

 

 そういうデータの読み上げのあとで、「各地の天気概況」やら「海上の船舶からの報告」なんかが続き、台風情報・高気圧&低気圧情報・濃霧の発生状況・等圧線の位置などの報告があり、最後にマコトに古臭い「ポーッ」というブザー音で終了した。

 

 若き今井君は、その強烈な緊張感に圧倒されたのである。今みたいに、読み間違いやら画面の乱れがあっても「申し訳ございません」とアナウンサーが一礼しておしまい、そういう軽さとは丸っきり異質なのだった。

 

「読み間違いや誤報があったら、即座に人の命に関わる」という緊張感は、おそらく今は「NHK気象通報」でこそ、最もよく経験できるはずだ。ただし残念なことに、今ではこれもAI音声になっちゃったらしい。

      (JR紀勢本線、串本駅の勇姿 2)

 

 気圧のデータは、もちろん21世紀になって完全に「ヘクトパスカル」に取って代わられたが、昭和の時代は懐かしの「ミリバール」だった。

 

 晩夏から初秋にかけて、日本近海に台風が次々に出現するようになると、中学生の今井君は「トランジスターラジオ」の気象通報に釘付けになって、ひたすら天気図用紙にデータを書き込んだ。

 

「那覇では、西の風、風力8、雨強く、990ミリバール、29℃」

「根室では、北北西の風、風力3、霧、03ミリバール、13℃」

 

 まだ中学生だ、ほとんどの地名は見知らぬ土地であって、地図の上で眺めただけだったが、いやはや大人でも手間取るデータの書き取りがスラスラできるのが誇らしかった。

 

 観測地点名は、まず国内が名瀬・南大東島・足摺岬・八丈島・銚子・小名浜・浦河・稚内など多数。続いて近隣諸国、ソウル・プサン・ウルルン島・モッポ・アモイ・マニラと、中国の黄海周辺各地。1928年に放送開始ということから見ても、要するにその後の悲しい戦争との関連性が強いのである。

      (JR紀勢本線、串本駅の勇姿 3)

 

 6月18日のワタクシは、かつて「気象通報」ですっかり馴染みになった本州最南端「潮岬」を、ついに人生で初めて訪問したのである。

 

 もっとも、「潮岬灯台」では降りずにそのまま「海金剛」まで、マイクロバスで素通りしただけだったが、長い長い昭和を生き抜いた古びた灯台の姿には、さすがに深い感慨があった。

(トルコ船「エルトゥールル号」の海難事故以来、串本はトルコ友好の町である。詳しくは映画「海難1890」をご覧あれ。「気象通報」が重視されるに至ったのは、海難事故の多発も1つの理由なのだ)

 

 やがてバスは串本駅に戻ってきた。バスを降りてタクシーに乗り換え、5分もかからずに「橋杭岩」の奇岩怪石が林立するあたりに到着した。

 

「奇岩怪石」、ワタクシが小学生の頃、遠足や修学旅行の作文を書かされるたびに、何度も何度も繰り返して使用した常套語である。

 

 春の遠足で男鹿半島に行っても「奇岩怪石」、秋の西津軽海岸の遠足でもやっぱり「奇岩怪石」、小6初夏の十和田湖&奥入瀬渓流の修学旅行でも「奇岩怪石」。とにかく「黒々とした奇岩怪石に感動」と書いておきさえすれば、担任の先生も、作文が専門の国語の先生も、黙って秋田市や秋田県の作文コンクールに出してくれた。

        (JR紀勢本線、新宮行き)

 

 そのずっと後に、大平正芳という政治家が外務大臣から総理大臣に出世して、「讃岐の奇岩怪石」というアダ名がついた。三木武夫・田中角栄・大平正芳・福田赳夫の4巨頭が日本の政治を牛耳った頃で、3人をまとめて「三角大福」と呼んだ。

 

 マスコミが人の容姿を云々しても別に批判されることもなかったノンキな時代だから、香川出身の大平首相の巨大な頭を「讃岐の奇岩怪石」と揶揄しても、今みたいに「炎上」などという心配もなかった。

 

 大平首相は「たいへんな読書家」として有名で、首相になってからも突如として書店に姿を現し、周囲をハラハラさせた。朝日新聞の記事で読んだ記憶があるのが、「首相は、森嶋通夫教授の岩波新書『イギリスと日本』『続 イギリスと日本』を購入して書店を出た」という記事だった。

 

 生意気盛りの今井君は、「何だ、すごい読書家とか言って、岩波新書2冊だけか」と口をひん曲げて見せたが、まあなかなかいい本を読んでいらっしゃった。

 

「全部を覚えているわけじゃないんだよ」と恥ずかしそうにコメントしたあたりが、やっぱり昭和のオカタであって、読書して、中身を記憶して、記憶を何かの役に立てる、彼はそういう明治大正昭和の頃の読書家だったのだ。

(串本15時57分、和歌山・大阪方面行きの特急「くろしお」。大阪まで3時間ちょいの道のりだ)

 

 さて今ワタクシの目の前にあるのは、「讃岐の」ではなくて「南紀の」奇岩怪石である。串本の海岸から対岸の大島に向かって、規則正しく一列に、ほぼ同じ間隔をあけて、マコトに行儀よく並んでいる。

 

「奇岩怪石が行儀よく」というのは何となく概念矛盾に思えるが、そこで1つの伝説ができた。弘法大師と天邪鬼が、「一晩のうちに串本と大島の間に橋を作れるか」という賭けをした。さすが弘法大師、橋の建設はどんどん進行して、どうやら天邪鬼の負けになりそうだった。

 

 そこで天邪鬼は一計を案じ、朝のニワトリの鳴き声を真似して「もう朝が来た」と弘法大師に勘違いさせる。朝が来ちゃったとダマされた弘法さまは、途中で橋づくりを放棄してしまい、今ここに残っている整然とした橋の杭のような奇岩怪石だけが残ったというのである。

 

 弘法大師こと空海さま、中国から真言宗を日本に伝え、日本中で奇跡のような土木工事の数々を見事に成功させたスーパースターであるが、彼の素晴らしいところは「タマには失敗する」「タマにはスキを見せる」という点。「弘法も筆の誤り」だし、こうして「天邪鬼と賭け」なんかして、しかもまんまとダマされたりする。

(橋杭岩の近く「おざきのひもの」で買い込んだ日本酒軍団。長い「くろしお」車内での、ワタクシの何より大事な友である)

 

 弘法大師のこんな伝説も残っているから、天然記念物・橋杭岩の前には人気レストラン「空海」なんてのもある。仲良くなったマイクロバスの運転手のオジサマにも「空海、旨いですよ」と勧められた。

 

 しかし接近してみると「空海」、これはステーキ屋だ。ステーキ定食にハンバーグ定食、マコトに旨そうだが諸君、何もこんなに海の幸のおいしそうな場所に来て、どうしても牛をくうかい?

 

 そうやって「空海」に「くうかい?」を引っ掛けた情けないダジャレに自分で寂しく笑い、6月18日の天邪鬼♡イマイは、海の幸を求めて橋杭岩周辺を右往左往することになった。

(おざきのひもの、「アジの干物定食」。今井君は海辺で育ったので、骨だらけのお魚をキレイに食べ尽くすのが得意である)

 

 まずは「道の駅」と思われるフードコートのような店で、サザエの壺焼きを一皿。しかしやっぱり「道の駅」だ、クルマの運転をする人のことを慮ってか、お酒の姿が見えない。「ビールはありますが、缶ビールのみのご提供です」と言われてしまえば、瓶ビールの好きな天邪鬼はどうしても別の店を探す。

 

 こうしてたどり着いたのが、橋杭岩から100メートルほど離れた「おざきのひもの」。有名なひもの屋さんであって、やっぱりあんまりお酒も料理も種類は多くないが、フードコートふうに外に並べたプラスチックのテーブルと椅子で、イカ丸焼き2皿やら、アジの干物やら、ワンカップの日本酒やらを楽しめた。

(大阪に帰って、まずは冷たい黒ビール。「うめきたエリア」の新しい店だが、料理は揚げ物ばかり。徹底した揚げ物攻撃に、若干の胸焼けを予感)

 

 こうしてじっくり落ち着いてしまえば、こっちのものだ。午後4時の「くろしお」、午後6時半の「くろしお」、2つの選択肢があったが、何しろこの「おざきのひもの」も午後3時にはお店を閉めたい様子だ。

 

 迷わず午後3時57分の「くろしお」のチケットを購入して、あとはまるまる1時間半、海風に吹かれながら日本酒をナンボでも満喫したのである。マコトに気持ちのいい午後になった。

 

1E(Cd) Böhm & Berliner:MOZART 46 SYMPHONIEN 4/10

2E(Cd) Böhm & Berliner:MOZART 46 SYMPHONIEN 5/10

3E(Cd) Böhm & Berliner:MOZART 46 SYMPHONIEN 6/10

4E(Cd) Böhm & Berliner:MOZART 46 SYMPHONIEN 7/10

5E(Cd) Bobby Caldwell:CARRY ON

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