Tue 230110 家康は好きか? 龍馬は好きか?/坂本龍馬像を眺めつつ/サブゼミ 4311回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 230110 家康は好きか? 龍馬は好きか?/坂本龍馬像を眺めつつ/サブゼミ 4311回

 予備校講師というのは、要するにタレントさんとおんなじで人気商売だから、例えば歴史の中の人物でも好きキライを正直に告白しにくい立場である。

 

 もし「伊達政宗はキライ」と言えば仙台の人たちみんなに嫌われる。「上杉謙信がキライ」と言えば越後の人々がそっぽを向く。「武田信玄がキライ」と発言すれば、山梨県の人たちの総スカンは免れない。

 

 だから気弱なワタクシなんかは、日本全国の人々の顔色を伺いながら、こわごわソーっと生きている。「誰が好き」「誰がキライ」、その程度のこともハッキリ言えずにニヤニヤ&ニタニタ、いやはや余りにいじましい人生だ。

(高知のトラム。行き先「ごめん」と示された可愛い電車がすれ違う 1)

 

 生まれつきの判官贔屓だから、ピンチの真っただ中の人物、「そろそろ終わりかな?」という状況の人、ライバルに押しまくられているオカタ、どうしてもそういうタイプを応援してしまう。

 

 若い読者も少なくないだろうからあえて説明しておくが、「判官贔屓」と書いて「ホーガンビイキ」ないし「ハンガンビイキ」と発音する。源九郎判官義経が、兄・頼朝の権威&権力に押しまくられ、奥州平泉で非業の死を遂げる。そのホーガンなりハンガンなりを贔屓するのが日本人の伝統だ。

(高知のトラム。行き先「ごめん」と示された可愛い電車がすれ違う 2)

 

「どう見ても、もうこりゃダメだろう」。今井君はホンのコドモの頃からそういう立場に追い込まれた人々に、強烈なシンパシーを感じるようになってしまった。

 

 保元平治の乱に敗れた源義朝。鳥羽伏見の戦いに敗北した徳川軍。一ノ谷・屋島と追いまくられて壇ノ浦に追い詰められた平家の面々。関ヶ原から懸命に撤退する西軍の兵士たち。悲しいじゃないか、はかないじゃないか、むなしいじゃないか。これを書いていてさえ、侘しさに涙を止められない。

 

 ところがNHK大河ドラマでは、そういうホーガンやらハンガンやらを踏みにじり、得意満面で進撃するタイプの人物をあえて主人公に据える。昨年の北条義時しかり、今年の徳川家康しかり。ワタクシは不思議でならない。

(高知の料亭「陽暉楼」。宮尾登美子、1976年の小説と、1983年の映画化で有名になった)

 

 いや、もちろん「徳川家康はキライだ」という発言が、岡崎というか三河というか、松平系の人々の反発を買うのは十分に分かっている。

 

 そこんところ、誤解しないでくれたまえ。ワタクシは中学生の頃に山岡荘八「徳川家康」を読破したほどの家康ツーではあるのだ。確か、文庫本で10000ページは下らないスーパー長編だ。アタシャ家康と10000ページ以上付き合った家康ツーなのだ。

 

 でも家康って、判官びいきなワタクシの心を常に逆なでする「勝ち逃げタイプ」。特に秀吉が年老いた後の彼って、要するに「大型トラックの強引な幅寄せ」を延々と継続する。逃げ道のない乗用車に大型トラックがグイグイ幅寄せしてくるのは、諸君、やっぱりいかんよ。ヒーローにあるまじきストラテジーだ。

    (高知、はりまやばし。40年ぶりの訪問だった)

 

 だからワタクシは、1600年から1750年あたりまでの徳川幕府は大キライ。ところが、うーん、やっぱり判官びいきの性格は直らないので、幕府が度重なるピンチに陥り始めると、幕府に強烈なシンパシーを感じ始めるのだ。

 

 今井君の徳川幕府愛は、田沼意次時代から始まる。いやはや田沼、アタシャ小学生の頃から好きで&好きでたまらない。水野忠邦も好き、井伊直弼も好き、薩摩長州と土佐肥前の皆様にはマコトに申し訳ないが、幕末の歴史を読んでいて、あんまり悲しくて泣き出してしまいそうになる。

   (高知、桂浜。ここも40年ぶりの訪問だった 1)

 

 まあそういう愚かな今井のことだ。「坂本龍馬」という素晴らしい人物について、どうもイマイチ熱い涙が流れない。いや、もちろん「龍馬が好きになれない」という発言は、戦前戦中の「義経がキライ」という告白と同じぐらい、総スカンの対象になるのは分かっている。

 

 しかしワタクシ、1968年に北大路欣也が演じた大河ドラマ「龍馬がゆく」から福山雅治どんの「龍馬伝」まで、いったい何人の坂本龍馬像を眺めたか分からないほどだが、テレビで見た数十人の龍馬で、今まで好きになれた龍馬は1人もいないのだ

 

 だって、仕方がないじゃないか。根っから徹底したホーガンびいきの今井君だ。開府250年、すでに根元から腐って、触れなくても自ら崩壊しようとしている幕府を、密かに薩長同盟まで画策してやっつけなくてもいいじゃないか。

   (高知、桂浜。ここも40年ぶりの訪問だった 2)

 

 驚くなかれ諸君、1600年の段階ではキライでキライでたまらない徳川幕府を、1800年を過ぎたあたりから今井君は強烈に擁護し始めるのだ。

 

「進歩的」と称する討幕派の男が、若者たちに地球儀を見せて「日本はチッポケな国なんだよ」とニコニコ諭すシーンがキライ。「薩摩は?」「長州は?」「土佐は?」と尋ねられ、「それどころか日本という国だって、世界から見ればこんなにチッポケなんだ」とシタリ顔。ああいうシーンはドラマに入れてほしくない。

 

 もしそういうセリフを入れるなら、そろそろ「世界もこんなにチッポケなんだ」「地球だってこんなにチッポケなんだ」「だからそろそろチャンと1つまとまろうよ」という方向性にしなきゃいけないんじゃないか。及ばずながら今井君はそう思うのだ。

   (高知桂浜から、太平洋を睥睨する坂本龍馬どん)

 

 だが諸君、やっぱり坂本龍馬は間違いなく大スターなのであって、熱狂的ファンの熱狂ぶりは昔も今も強烈だ。彼の大スターぶりに一言でも疑いの言葉を差しはさもうものなら、「非国民!!」の罵声を浴びかけられかねない。

 

 ワタクシが大学学部3年生だった頃というのだから、はるかなはるかな大むかし、国際政治学のゼミに「坂本龍馬に憧れています」と豪語する学生がいた。

 

 もちろん今井だって坂本龍馬ファンではあるのだが、その男のファンぶりは強烈。今井君としては「でも、もし勝海舟だったら…」みたいなことを言いたいのだが、彼の剣幕はそんな中途半端な発言を容認するものではなかった。

 

 超有名私立進学校出身の彼と、もう1人、超有名国立大学付属校出身の男と、その2人でゼミの方向性を決めてしまう。

 

 教授が出席する正式のゼミの他に、2人の発案で「サブ・ゼミ」が組織され、サブ・ゼミにはもちろん教授ご自身は出席しないから、教授の指導を受けているドクターコース2年目の大学院生が指導役として招かれる。

   (高知、桂浜。ここも40年ぶりの訪問だった 3)

 

 コーヒーショップで2時間も3時間も延々と討論するのであるが、ワタクシはそんな非公式サブ・ゼミはイヤだから、完全に無視した。「どうしてサブ・ゼミに出てこないんだ?」と不思議そうに尋ねられても、まさか「オマエたちがイヤなんだよ」とも言えずにいるうちに、おやおや、ゼミの主流から完全に外された。

 

 そのうちに「サブ・サブ・ゼミ」なんてのも始まったらしい。ドクターコースの彼に暇がないので、マスターコース2年目の大学院生が来て、薄暗いコーヒーショップで「ポスト冷戦の国際相互依存関係」について討論が始まるのだが、さすがにここまでくると、要するにその辺の時事雑誌に書かれているのとそっくり、別に院生の話を傾聴する必要はないのである。

   (高知、桂浜。ここも40年ぶりの訪問だった 4)

 

 しかしやっぱり、サブゼミやらサブサブゼミやらに付き合っている人間と、「そんなのに付き合っているぐらいなら、渋谷の小劇場で芝居を見ていた方がいい」「サブゼミとかサブサブゼミより、国立劇場で文楽を見るなり、名画座で映画2本350円のほうがいい」とうそぶいているヤツと、どちらがゼミの主導権を握れるか、そりゃ火を見るより明らかだ。

 

 まあそうやって、今井君はせっかく教授から「論文を書いて一生過ごしてみないか?」とまで誘われていた人生を、こうして棒に振ってここまで生きてきた。いまだに何となく坂本龍馬を愛しきれないのは、こんな異様に下らない経緯なのである。

 

1E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 1/5

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4E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 4/5

5E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 5/5

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