Sun 221030 門のクセに御本尊を追い抜いてしまう悲劇/門に巣食う生き方のこと 4287回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 221030 門のクセに御本尊を追い抜いてしまう悲劇/門に巣食う生き方のこと 4287回

 ワタクシは時々、「門」というものの宿命を考えて、虚しくなることがある。

 

 門は、あくまでその奥に鎮座する御本尊を引き立てるためのもの。門のクセに御本尊より有名になったり、門のクセに御本尊を凌駕するほど人気を集めたりするのは、最終的には門それ自身の存在意義に、自ら疑問符をつけることになってしまう。

 

 東大寺なら、何しろ一番奥にずっしり大仏サマが座っていらっしゃるから、東大寺南大門の仁王様が「あ!!」「うん!!」どんなに頑張っていても、東大寺全体の秩序が揺らぐことはあり得ない。あの恐ろしい怒りの形相で、大仏サマの権威を永遠に守っていらっしゃる。

 

 ところが、京都東山の南禅寺はどうだろう。10月19日の今井君は、前日の京都16kmウォークで疲労していたにも関わらず、19日にも朝5時に起床して1時間入浴&読書、8時半には朝食ビュッフェに赴いて、大量のレタスとオニオンと豆、オムレツとベーコンとサーモンに満腹して、10時、早くも南禅寺からウォーキングをスタートさせていた。

(10月19日、南禅寺から哲学の道に向かう途中、こんなお蕎麦屋さんを発見したが、もちろんパス。目指すお蕎麦屋は、銀閣寺から徒歩20分「ゆきもと」である)

 

 すると、ふと「南禅寺の御本尊って、どなた様だっただろう?」と、いやはやマコトに不信心な自分の実態に呆然とするのである。

 

 南禅寺の山門は、例の石川五右衛門の「絶景かな♡絶景かな」で余りにも有名。南禅寺といえば、観光客のほとんどが山門を眺めて溜め息をつき、山門に上がって「絶景かな!!」と石川五右衛門のセリフを絶叫しながら、「こりゃ♡バエるね」と、延々と写真撮影に熱中する。

 

 しかし山門の奥には、この寺の名を高からしめた御本尊が、涼しい闇の中でちゃんと美しい微笑をたたえつつ、われわれ衆生の幸福と安寧と平和を祈り続けていらっしゃるのだ。

 

 では、それがどんなホトケサマなのか、よほどの京都通でない限り、南禅寺の御本尊の故事来歴を明らかにできるヒトは見つからないんじゃないか。

 

「そんなことはないよ」とニヤニヤする御仁は、ならば今すぐその場で言ってみたまえ。こんなに多くの観光客が詰めかける南禅寺の、御本尊っていったいどなたでしたっけ?

(南禅寺山門、10月19日。秋晴れのもと、ホンの少しだけ紅葉が始まっていた 1)

 

 門ばかりが有名になって、御本尊が置き去りになる。こういう現象が多発するのは、思えば日本に独特の事情なんじゃあるまいか。東京大学といえば、本郷の赤門ばかりが目について、その奥の象牙の塔でいったいどんな高尚な学問が繰り広げられているのか、興味をもつ人は多くない。

 

  門があんまり有名になってしまった場合、御本尊の嘆きはマコトに深い。例えば諸君、太宰治「走れメロス」を考えてみたまえ。

 

 太宰の本領は「斜陽」「津軽」「ヴィヨンの妻」であって、太宰全集を注意深く読みあげてみた後で「走れメロス」を再読すれば、これは例えばフレンチ料理店の「アミューズ」または「前菜」という位置を占めるにすぎない。

(南禅寺山門、10月19日。秋晴れのもと、ホンの少しだけ紅葉が始まっていた 2)

 

 夏目漱石も、「坊っちゃん」「吾輩は猫である」の2作品が「漱石入門」として余りに有名になってしまったせいで、それこそ「門」に「それから」に「三四郎」、「行人」に「道草」に「明暗」、漱石の御本尊にまで行き着く人は、あんまりいなくなっちゃった。

 

「三四郎」なんか、「姿三四郎」を描いた柔道♡スポ根ストーリーだと思っている若者も少なくない。入門編が著者の思惑を超えてブワーッと売れてしまうと、門ばかりが目立つせいで、著者御本尊の姿が霞んでしまうのである。

(南禅寺にて。御本尊より山門、御本尊より水道橋。諸君、もっと御本尊に関心を寄せようじゃないか)

 

 三島由紀夫だってそうだ。中高生向けの入門編として「潮騒」が爆売れしたのはマコトにおめでたいが、その門が余りに高くそびえ立ってしまって、「その火をとびこしてこい」「その火をとびこしてきたら…」と嵐の美少女が叫び、ヒーローが「笑って下帯を解いた」というところで、三島が完結してしまう。

 

 しかし「潮騒」とは、三島の御本尊にとってはそれこそフレンチのアミューズそのもの。懐石料理の豪華な「八寸」でお腹パンパン、メインの焼き物も油物も何にもお腹に入らなくなって、「入門編でお腹いっぱいです」とペコペコ、店の人に平身低頭しているような図なのである。

 

 三島がどうしても読んでほしかった御本尊は、おそらく「憂国」と「豊饒の海」の4巻。「金閣寺」も「仮面の告白」も、ましてや「永すぎた春」も、おそらくアミューズの一種なのだが、門の人気の前に御本尊の姿がどんどん霞んでしまう。

(哲学の道、10月19日。京都はどこもかしこもインバウンド復活だったが、哲学の道だけは「置いてきぼり」の様相だ 1)


 こういう話をしていれば、話は日本から世界に広がって、我がブログは相似形の構造でアップアップ、とどまるところを知らないが、例えばカフカでも、まさかカフカほどのオカタの御本尊ないし真骨頂が「変身」であるはずはない。

 

 どうしても読んでほしかったのは未完の長編「城」に違いないのだが、いやはや、やっぱり超人気のカフカの南大門「変身」、文庫100ページで読み終われる仁王様の「あ!!」「うん!!」の大人気に、御本尊の存在感はどんどん薄くなっていく。

(哲学の道、10月19日。京都はどこもかしこもインバウンド復活だったが、哲学の道だけは「置いてきぼり」の様相だ 2)

 

 門ばかりが有名になると、羅生門だか羅城門だか、門の周りにはマコトに多くの人間が集まって、芥川龍之介が描いた通りのおどろおどろしい世界が繰り広げられる。

 

 利権を貪る門番にうまく取り入って、この門を上手にすり抜けないと、出世への道も開けない。だからヒトビトは恥も外聞もなくなって「御本尊なんかどうでもいい」「とにかく門番に取り入ろう」と、おのおの戦略やら戦術やらゲームプランやらを練り上げる。

 

 そういうドロドロした混沌の中には、もちろん「門番への取り入り方、教えます」「門のすり抜け方、伝授いたします」という怪しい商売もまかり通るので、その商売で大繁盛するヒトもたくさん出現する。

 

 何を隠そう今井君だって「そういう連中の片棒を担いで生きてきたんだろ?」と責められれば、返す言葉は1つもない。東大赤門に限らず、御本尊の権威も権力も凌いでしまった著名な門は、医学部入試であれ、司法試験であれ、公認会計士試験であれ、枚挙にいとまがないのである。

(銀閣寺から徒歩20分、昼飲みOKのお蕎麦屋「ゆきもと」にたどり着いた 1)

 

 しかしこういう門の周囲にタムロする人々は、間違いなく向上心が高いので、デフレの沈滞ムードは一切ない。いつでも活気と活力にあふれてボーボー真っ赤な炎を上げている。

 

 他者を巧みに欺き、巧みに押しのけて、自分こそノシ上がり繁栄を掴みとろうとする野武士のようなマコトにたくましい人々が、凶暴なスズメバチの巨大な巣よろしくブンブン唸りを上げている。

(銀閣寺から徒歩20分、昼飲みOKのお蕎麦屋「ゆきもと」にたどり着いた 2)

 

 若き日のワタクシは、その活気に魅せられて門のほとりに住み着き、門を通り過ぎた奥深いところに鎮座する御本尊への興味を忘れてしまった。

 

 御本尊とは、例えば大学の白亜の塔であって、予備校の教室とは全く次元の違うホンモノの奥深い研究やら学問やらが、現世の利益を度外視して日々誠実に続けられているはずだった。

 

 御本尊はもちろんもう1つ存在して、それはいわゆる「おつとめ」である。毎朝同じ時間に起きて、同じ電車に乗り、同じ電車で出勤して、同じ時間にランチ、同じ時間に退社して、同じ日に同じ額の給与を受け取る、そういう正社員としての30年ないし40年である。

 

 しかしワタクシの性格から考えて、そういう奥の院での勤行は、ほぼ苦行にしか思えなかった。

 

 そんな苦行&勤行を40年も耐え忍ぶぐらいなら、1年に50日でも60日でも海外をほっつき歩いて珍道中を繰り返し、気ままに門前に舞い戻ってきては、「この門のすり抜け方」を伝授する生活の方が、遥かに充実したものに思われた。

(銀閣寺から徒歩20分、昼飲みOKのお蕎麦屋「ゆきもと」にたどり着いた 3)

 

 そういうわけで今井君は、まだまだこの羅生門の真ん中で、健気な若い諸君の道案内をする日々を続けていたいのである。御本尊は御本尊で、今井君なんかよりはるかに誠実な人々が、ナンボでも供養やお世話をしてくれる。ワタクシはあくまで門前にタムロする案内役。そういう生き方も悪くない。

 

 というか、南禅寺の山門をくぐって本堂まで、ホンの1分か2分の間に、ワタクシはそれこそ「走馬灯のように」、大学学部卒業以降の自らの歴史を、こんなふうに振り返ってみたのである。サトイモ、おそるべし。ノホホンとしているように見えて、サトイモというものは、なかなかネットリ奥が深いのだ。

 

1E(Cd) AFRICAN AMERICAN SPIRITUALS 1/2

2E(Cd) AFRICAN AMERICAN SPIRITUALS 2/2

3E(Cd) Maria del Mar Bonet:CAVALL DE FOC

4E(Cd) Nanae Mimura:UNIVERSE

5E(Cd) CHAD Music from Tibesti 

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