Sun 220724 イルカの記憶/個人タクシー/S間師/ゑびす神社/グリル富久屋 4246回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 220724 イルカの記憶/個人タクシー/S間師/ゑびす神社/グリル富久屋 4246回

 前回予告した「イルカショーでの苦い思い出」に関しては、すでにむかしむかしの授業の中でも触れたことがある。まだワタクシがギリギリ30歳代のことで、千葉の館山だったか御宿だったか、とにかく房総半島の先端の町のイルカショーをぼんやり眺めていた。

 

 すると諸君、イルカ♡インストラクターのオネーサマがニコニコしながら「イルカたちが合唱するので、どなたかイルカたちの指揮者の役をやってくれませんか?」と、マイクのボリュームをあげて叫んだのである。

 

 あまりのボリュームにびっくりして目をあげると、その目がオネーサマの視線と見事にぶつかってしまった。「お、このオヤジにやらせちゃおう♡」という意欲満々の視線である。

(京都祇園の南端、清水五条「グリル富久屋」のハンバーグランチ。オイシューございました)

 

 慌てて目を伏せたが、時すでに遅し。オネーサマの意志はマコトに固く確固としたものになった。「では、そこのオヒゲのオトーサマにお願いしましょう♡」とニッコリ。もちろん当時の今井君は、シャイの極みのようなシャイ里芋だったから、イルカに指揮だなんて、絶対にイヤだった。

 

「オヒゲのオトーサン」であることを何とか隠すために、オヒゲに両手を当てて俯いてみせたが、オネーサマの決意は揺るがない。「そこの、オヒゲを隠しているオトーサン♡」と、どこまでもグイグイ押してくる。

 

 それでも尻込みしていると、「会場の皆さん、みんないっしょにオヒゲのオトーサンを応援しましょう。ハイ、拍手ぅ!!」と、会場の大拍手を誘って、意地でも今井君の登場を 強制しようとするのである。

(京都水族館の翌日は、雨の鴨川を歩いた。6月「梅雨」の間、京都で雨が降ったのこの日だけだった 1)

 

 しかし、その肝腎の「会場の皆さん」というのが、「皆さん」という言葉にふさわしいほどたくさんの皆さんではないのだ。広い会場に、あっちにチラホラ、こっちにチラホラ、全て足し算してもせいぜいで30人か40人しかいらっしゃらない。

 

 それもあんまり熱心じゃないというか、不承不承にパラパラ、拍手というより単に「両手をこすり合わせた」というレベルのモジャモジャ音が、ごく短く会場の空気を濁らせただけだった。

 

 おそらくワタクシはあの時「ガラガラ感の強い会場」「やる気の感じられない拍手」に対する恐怖症を発症したのである。授業でも講演会でも、とにかくいつでも超満員であってくれなければ苦手。拍手もホントに心からの熱い熱いものでなければイヤ。そういうワガママを言うようになった。

(京都水族館の翌日は、雨の鴨川を歩いた。6月「梅雨」の間、京都で雨が降ったのこの日だけだった 2)

 

 しかし、あの時「ギリギリ30歳代」の今井君は、思わずフラフラ立ち上がったのだった。意地でも拒絶して気づかぬフリをすることもできたし、場合によってはこのような強制に対する憤怒を露わにして、その場で怒鳴り散らすことだって可能だった。ところがあの時の今井君は、決然とイルカ指揮台に登ったのである。

 

 最初は、インストラクターの指示通りに優しく穏やかに指揮棒を振った。すると驚くなかれイルカ君たちは、声を揃えてピースカ&ピースカ、甲高い素直な声を揃えて歌を歌った。

 

 こうなると、今井君独特の不思議な高揚感が、腹の底から力強く湧き上がってくる。要するに一種のヤマイなのだと思うが、いったん腹からの高揚感が襲ってくると、一切の自制が利かなくなる。

 

 指揮棒の動きはぐんぐん激しくなり、ショルティもバレンボイムも凌駕する強烈な全身の動きで、我がイルカ合唱団を導こうとする。背後の約40人は呆気にとられている様子。インストラクターのオネーサマも茫然自失の様子。その場は今井君の独壇場と化した。

 

 その間、30秒だったか1分だったか、ワタクシの記憶はマコトに曖昧であるが、やがてイルカ合唱団もさすがに疲労したのか、合唱の声を止めた。オネーサマも気がついて今井君に駆け寄り、「オヒゲのオトーサマの大活躍でしたぁ♡」「はい皆さん、大きな拍手をお送りくださいぃ♡」と絶賛してくださった。

 

 以上が「イルカショーにまつわる苦い思い出」である。いやはや、我ながらホレボレするような素晴らしい指揮ぶりだった。しかし考えてみれば、普段は淡々と落ち着いて進むワタクシの授業に、ふとグイッと熱が入り一気に盛り上がっていく瞬間というのは、あのイルカ合唱団の時と相似形なのではあるまいか。

(京都洋食の有名店「はせがわ」は定休日。雨の中、鴨川べりを北山まで歩き、京都植物園の「In the Green」でマルゲリータを貪ることにした)

 

 京都水族館を出ると、6月猛暑のピークの日であって、湿度も上昇してまさに油照り。5分も歩けば汗まみれになりそうな炎天下、ワタクシはタクシーを求めて堀川通りに立ち尽くした。

 

 ちょうど修学旅行シーズンの真っ盛りで、通りかかるタクシーはみんな「貸切」になっている。21世紀の中高生は、修学旅行で訪れた京都でタクシーを借り切り、マコトに贅沢に乗り回すらしい。先生たちだって、タクシーの運転手さんに子供らを預けてしまえばラクラクの楽チンだ。

 

 問題は「それでは一般客が途方に暮れる」という点である。炎天下で立ち尽くして5分、やっとのことでやってきたタクシーは中高生満載の貸切。頼みのMKもヤサカもみんな貸切マークを出してサッサと走り過ぎてしまう。

 

 貸切になっていないのは、個人タクシーばかりである。しかし諸君、京都の個人タクシーには、ヒトクセもフタクセもあるオジーチャン運転手が少なくない。

 

 ボサボサの白髪頭をふりたてた妖怪並みの風貌で、どれほど京都が優れていて、どれほど東京がダメか、延々とお説教されたりする。そのお説教内容にはワタクシも深く同意するのであるが、何しろオジーチャンたちはこちらの発言なんか一切聞いていない。自らのお説教にデロデロ酔っていることが多い。

 

 この日も致し方なく、止まってくれた個人タクシーに乗り込んだ。地獄にホトケ、真昼の京都の灼熱地獄で、止まってくれただけでも十分にホトケさまと呼ばせていただきたい。

(そのまた翌日は薄曇り。下鴨神社から徒歩5分、これもまた名店「浅井食堂」のハンバーグ定食をいただいた 1)

 

 ところが諸君、運転席のオジーサマの後ろ姿を眺めてみるに、灼熱地獄で出会ったのがホトケではなくてヨーカイの一種だったのではないか、このクルマはそのままあの世に通じる道をトロトロ下っていくのではないか、ふとホンキでそんなことを考えた。

 

 まあ失礼にもほどがあるが、「ゑびす神社まで」とビクビクしながら告げたワタクシに返事もせず、クルマは本当にトロトロ堀川通りを北上。やがて右折して五条通りに入り、鴨川をわたってゑびす神社を目指した。

 

 その時ふと思い出したのが、駿台予備校物理の伝説の超人・S間師のことである。予備校講師は、今ではみんな何となく小粒になってしまったが、四半世紀前の予備校には、伝説の超人がナンボでもいらっしゃった。S間師は間違いなくその一人である。

 

 若き今井君が駿台の本部校舎に出入りしていたのも、思えばすでにずいぶん昔のことになったが、本部講師室で今井君の真向かいの席を占めていたのがS間師。時には数学の長岡亮介師だったり、物理の山本義隆師だったり、論文の最首悟師だったり、いやはや思い切り大物ばかり揃った時代だった。

(そのまた翌日は薄曇り。下鴨神社から徒歩5分、これもまた名店「浅井食堂」のハンバーグ定食をいただいた 2)

 

 白髪&痩身のS間師は、愛車スープラを駆って颯爽と姿を現す。駿台御茶ノ水校の授業は、当時は朝8時20分スタート。思えば浪人生にも講師にも驚くべき早起きを要求していたのであるが、S間師が姿を表すのは8時18分。「あと2分でチャイムが鳴る」という緊張感の中、白髪をなびかせながら悠然と席に着く。

 

 そして諸君、タバコに火をつけるのである。4半世紀前までの予備校講師室は喫煙も自由。大物講師たちはほぼ例外なく喫煙に熱心で、それはどこの予備校でも同じことだった。

 

 S間師のタバコは「ジョーカー」。「駿台のアインシュタイン」と渾名される白髪&痩身の師には「ジョーカー」がマコトによく似合った。師がチャイム2分前にスープラで現れ、ジョーカーに火をつけ、1分50秒で吸い終わり、吸い殻を灰皿で揉みけすと、まさにそのタイミングで重くチャイムが鳴り響いた。

 

 今井君は、自分が浪人生の時代にS間師や奥井潔師や長岡亮介師の授業に夢中になった人間だから、いま目の前にS間師がいらっしゃるというだけで十分に感激したものであるが、「ノートを取ることが困難」と言われた師の授業を思い出しつつ、ジョーカーの煙を見つめながら始業のチャイムを聞いた。

(浅井食堂のハンバーグランチがあんまり旨かったので、ついでに祇園四条「松葉北店」でお蕎麦もすすって帰ることにした)

 

 さて、間もなく京都ゑびす神社に無事に着いた。S間師をふと思い出させてくれるような白髪&痩身のオジーチャンであったが、運転はマコトに確かで、おそらく最も適切なルートを辿ってゑびす神社まで連れてきてくれた。

 

 昨年の暮れには「お火焚き」「湯立て神楽」「焼きみかん」を眺めにここを訪れ、今年1月の十日戎にも「商売繁盛、笹もってこい」をここで満喫した。しかし炎暑の6月、まだセミも鳴かないゑびす神社は深い静寂の中にあった。

 

 しかし要するにワタクシは、この神社を抜けて祇園の街を横切り、ハンバーグランチを貪りに来ただけなのである。それが今日の1枚目の写真、清水五条「グリル富久屋」のハンバーグランチ。玉子が少しナマすぎたけれども、店の雰囲気といい味といい、「さすが」の一言であった。

(油照りの京都ゑびす神社。さすがにこの暑さでは、閑散としていて当然だ)

 

 隣のテーブルで、70歳代なかばと思われる常連らしい高級オジサマが、何やらいかにも自慢げに、重箱に入った洋食を召し上がっていらっしゃる。お店のオバサマとも、すこぶる仲がいい様子。傍らにはすでにカラッポになったビールの大瓶があって、ビール1本で少し酔ったのか、お顔が赤らんでいた。

 

 あんまりいい雰囲気なので、高級オジサマが帰った後で、店のオバサマに「あのオジサマが召し上がっていたのは何ですか?」と尋ねてみた。「この店のいちばん定番の洋食お弁当です」とのこと。おお、何とも旨そうだった。

 

「またいらっしゃってください」「次回はあの洋食弁当になさいますか?」と優しく送り出されて、再び炎暑の鴨川べりに出たが、「ビール1本で少しは酔える」というのもまた、本物の高級オジサマへの階段なのかもしれない。

 

1E(Cd) Collard:FAURÉ/NOCTURNES, THEME ET VARIATIONS, etc. 1/2

2E(Cd) Collard:FAURÉ/NOCTURNES, THEME ET VARIATIONS, etc. 2/2

3E(Cd) Cluytens & Société des Concerts du Conservatoire:BERLIOZ/SYMPHONIE FANTASTIQUE

4E(Cd) Lenius:DIE WALCKER - ORGEL IN DER WIENER VOTIVKIRCHE

5E(Cd) Bernstein & New York:BIZET/SYMPHONY No.1 & OFFENBACH/GAÎTÉPARISIENNE

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