Wed 220525 倶知安とコアップガラナ/地図帳と中学数学事典/鉄道を廃止するな 4225回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 220525 倶知安とコアップガラナ/地図帳と中学数学事典/鉄道を廃止するな 4225回

「おしゃまんべ」と「くっちゃん」。小学3年の春に我が姉上が中学生になり、「もういらない」と言って小学校高学年用の地図帳をくれた時に、ペラペラめくりながら最初に気になったのがこの2つの町、不思議な響きの町名だった。

 

「おしゃまんべ」はともかく、「くっちゃん」のほうは岩見沢とか網走とか旭川と同じように赤い印で印刷されていて、どうやらすごく大切な町らしい。地図帳の説明には「支庁所在地」とあり、「こんな不思議な響きの町が、北海道有数の大切な町なんだ」と、しばし物思いに耽ったものだった。

(くっちゃん。ここからかつて伊達紋別ゆき「胆振線」が走っていた 1)

 

 だから、小学生当時の野球仲間の武内君とか三浦君とか岩谷君なんかにも、「くっちゃん」「おしゃまんべ」という町の話を熱心にしたものだ。野球仲間は他に、渡辺君・宇佐美君・原君・桜田君・加藤君・三嶋君・松橋君・栗田君。ボクは6番でセカンドを守っていた(友人名はすべて仮名でございます)。

 

 武内君はやがて(その約10年後)、名門・秋田高校で4番ショートを務める名選手に成長した。諸君は知らないかもしれないが、秋田高校は夏の選手権大会第1回の準優勝校だ(大正4年でございます)。4番を張った卒業生の中には「石井浩郎」、球界の歴史を代表する名選手もいた。

 

 だから武内君、8歳9歳の頃からなかなかスゲー奴だったのだが、小学2年から6年にかけて、ずっと今井君の遊び仲間だった。放課後、どうしても2人しか集まらない時も、2人で日が暮れるまで夢中で野球に興じた。右利きだったが、左打席からでもぽんぽん軽く「ホームラン」を打った。

 

 ただしその「ホームラン」、練習場だった田舎の旅館の駐車場でのもの。ホームランは、打球が駐車場の向こうの民家の庭に入ればホームランだったわけだから、甚だ怪しいホームランだが、今井君の3倍か4倍のホームラン数は、さすが未来の名門高校4番バッターの貫禄があった。

(くっちゃん。ここからかつて伊達紋別ゆき「胆振線」が走っていた 2)

 

 しかしその野球仲間の中でも「おしゃまんべ」「くっちゃん」については、みんな半信半疑だった。「でも今井君が言うことなんだから、きっとホントだろう」と、水筒に詰めてきたコカコーラやファンタグレープを分け合いながら頷きあった。

 

 我々が小学生の頃は、何よりもファンタグレープが人気。今井君の家ではファンタオレンジしか買ってもらえなかったから、ファンタグレープは野球仲間が水筒に詰めてきた気の抜けたヤツを飲むだけの経験だったが、「この世の中にこんなに旨い飲み物があるんだ」と、一口飲むだけで天にも昇る思いだった。

(倶知安のお隣は、小沢と書いて「こざわ」。ここからかつて岩内ゆき「岩内線」が往復20本も走っていた)

 

「コアップ・ガラナ」と言ふものが大流行したこともあった。「北海道に行けば、コアップ・ガラナがいくらでも飲める」と、「室蘭に叔父さんがいるんだ」と自慢している男子が、ここでまた自慢した。

 

 駄菓子屋みたいな店にコアップ・ガラナは一応置いてあったが、何しろ数が少なかった。放課後、オウチに帰ってお小遣いをもらって、それから走って店に一番乗りしないと、数本しかないコアップ・ガラナは、他のクラスのヤツらに飲み干された後だった。

 

 すると野球仲間は悔しまぎれに「オロナミンC」というものを買って飲んだ。何でみんなそんなにオカネモチだったのか、今もなお不思議でならない。今井君はあくまで品行方正でお小遣いはみんな貯金、「貯金が趣味」とまで言い切って、ファンタグレープとオロナミンCは仲間の水筒の中のオコボレで我慢した。

 

 だって小学生の今井君は、表向きは超優等生ということになっていた。裏でどれほど悪いことをしていたか、今思えば忸怩たる思いがあるが、おそらくイケナイ行動の蓄積においては、控えめにみても日本全国の小学生トップ50に入っていたんじゃないか。うんにゃ、トップ20にも顔を出していたかもしれない。

      (銀山駅。背後の雪山が美しい)

 

 何しろ「超優等生の今井君もいっしょだよ」ということになれば、仲間たちの親はみんな安心してコドモを送り出す。そのタイプの優等生だ。何でも知っているし、どんな問題でも解ける。体育はイマイチでも、とにかく頭脳は明晰、行動は模範的ということになっていた。

 

 その今井君が言うんだから、きっと「くっちゃん」も「おしゃまんべ」もホントに日本のどこかにあるんだ。そう語り合ってフガフガ盛りあがっている野球仲間たちに、姉上のお下がりの地図帳を見せて、「ほら、くっちゃんなんか、赤く印刷されてるじゃないか」と得意げに説明したのだった。

 

 小学6年の春、姉上が高校に入学すると、またまた「もういらない」と言って、中学生用の地図帳をくれた。「もういらない」には、英語の教科書3年分と、3000ページもある「中学数学事典」もあった。中学校の推薦図書で、中学数学のありとあらゆる問題の解き方が記されていた。

(小樽から快速エアポート。銭函駅を通過すると、まもなく車窓はグッと都会に変貌する)


 まあ諸君、この辺で超優等生・今井の人生が狂い始めるのである。英語の教科書3年分もらったら、英語もすぐにやりたくなる。中学生用の地図帳をもらえば、一気にみんな暗記したくなる。中でもいけなかったのが「中学数学事典」。「小6のうちに、中学数学を全部やっちゃおう」と、異様な決意をする。

 

 コドモの頃から今井君にはその種の悪いクセがあって、絶対に誰もしないような膨大な努力が好きなのだ。例えば「世界文学全集」、中央公論社のものと筑摩書房のものを、思わず全巻読み切ってしまったりする。

 

 今の日本の「よいこ」な小6は、そんなオバカなことはしない。みんな毎日キチンと塾に通って、膨大な宿題も全部こなし、塾の最上位クラスに残れるかどうかシノギを削る。

 

 そのころ今井君は、オウチでひたすら中学数学事典と格闘している。ついでだから中学英語の教科書3冊、「ええい面倒だ、全ページ丸暗記だ!!」と叫び、ひたすら音読に励む。歴史の教科書も「もういらない」から弟のワタクシがもらった。

      (交通公社時刻表、1964年。復刻版)

 

 こういう悪い子には必ずバチが当たるので、中3の春に買ってきたのが高1生用の「解法のテクニック 数学Ⅰ」。矢野健太郎という伝説の人が書いた、20世紀を代表する大学受験の世界の伝説の名著である。

 

 ついでだから数学ⅡBも数学Ⅲも買ってきて、「中3の段階で高校数学を独学でやっちゃお♡」「ついでにブルバキも読むかな?」みたいなことになる。ブルバキについては、諸君のほうでググってくれたまえ。もちろんそれは思いとどまった。

 

 こうして高1の4月、ますます調子に乗った今井君が入学早々さっそく申し込んだのは、例の難問揃いの「乙会」(仮名)。しかも高1の分際で、平気で高3コースを申し込む。

 

 だって国語と英語なら、高3生に負ける気はしない。数学だってもう数学Ⅲまである程度はかじった。「高1コースなんか馬鹿馬鹿しい、やってられるか」、そういうアホなことを平気で言った。

(半世紀前の北海道南・路線図。道央・道東・道北とも、路線網の充実ぶりが感動的だ)

 

 こうして今井君は、16歳にして完全に道を誤った。基礎とか基本とか、ぎゅっと&グイッと徹底的に固めなきゃいけない大事なところを全て回避。野球仲間に「おしゃまんべ」「くっちゃん」を教えて熱く燃えていた小3の頃の素直さは何処へやら、数学はマトモな解き方が全くできなくなっちゃった。

 

 今こうして「おしゃまんべ」から「くっちゃん」の駅に着き、「くっちゃん」から余市・小樽・札幌を経由して新千歳空港まで、北海道南をぐるりと2/3周してみると、つくづく「あの頃はホントにバカだったな」「どうして学年相応のマジメな勉強をチャンとしなかったのかな」と、我が人生に反省しきりである。

 (新千歳空港にて、生ビールとともにまずパスタを爆食する)

 

 それに似ているか似ていないか、おそらく全く似ていないのだが、1988年の国鉄民営化以来、廃止に次ぐ廃止で全国の路線網をすっかり台無しにした「JR」という会社についても、日本国民として「反省しきり」になった方がいいんじゃないか。

 

 いや、ワタクシはその「JR」「ジェイアール」という音の響きが大キライなので、出来るかぎり耳にしたくないし、出来るかぎり口にしたくもない。あれはどこまでも「国鉄」であるべきだったし、「日本国有鉄道」であるべきだった。フランスも国鉄、イタリアもスペインも国鉄、ドイツだってDB「ドイッチェ・バーン」だ。

 

 北海道の国鉄は、もはや見る影もない。幹線以外はほとんど廃止寸前。例えばここに1964年の交通公社版・国鉄時刻表があるが、北海道の鉄道は、かつて世界に類を見ないほど充実していた。

 

 確かにいま、各駅の「1日の乗降客数」を見ると、2名とか6名とか8名とか、惨憺たるありさま。「経営が成り立たない」という言い訳は分かる。しかし鉄道は文化遺産であり、かけがいのない歴史遺産だ。経営うんぬんでドシドシ廃止、「あとはバスでいいでしょう」と知らん顔をすれば、どこまでも地方が疲弊する。

 

 かつては少なくとも1時間に1本、力強く真っ黒な機関車に引かれた客車が6両も7両も驀進していた函館本線なのに、気動車がたった2両、場合によっては1両編成でトコトコ、それじゃ確かに「バスと変わらんよな」という論調になる。

(新千歳空港にて、生ビールとともに続いてピザ・マルゲリータを爆食する)

 

 しかしこの地方には、ホンの半世紀前まで、充実の支線網も存在した。この日ワタクシが乗車してきた函館本線でも、国縫(くんぬい)の駅からは「瀬棚線」、倶知安からは「胆振線」、小沢(こざわ)からは「岩内線」、みんな民営化直後にスパッと廃止されて、もう跡形もない。

 

 どうも最近の報道によると、JRは西日本なんかでも同じ方針で動き始めている。文化遺産と歴史遺産を守る大切な立場に自分たちが立っている意識も気概もナシ。「経営的に成り立たない」つまり「カネモーケにならない」と判断すれば → 廃止やむなしと考える、マコトに20世紀的な古臭い発想だ。

 

 その辺、国語や英語の教育に携わる人々もソックリだ。「役に立たない」「カネモーケにつながらない」と判断するやいなや、文学系や哲学系の重厚な教材はサッサと切り捨て、教材の中身はどこまでも薄っぺらくなっていく。

 

 今回の「4月大旅行」の話はこれでおしまいだ。すっかり寂しくなって、新千歳空港でピザとパスタを爆食しつつ、生ビール(もちろんサッポロクラシック)も痛飲。10日にわたる国内大旅行、マコトに感慨深い旅であった。

 

1E(Cd) Furtwängler & ViennaBEETHOVENSYMPHONY No.7

2E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du PréBEETHOVENPIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 1/9

3E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du PréBEETHOVENPIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 2/9

4E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du PréBEETHOVENPIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 3/9

5E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du PréBEETHOVENPIANO

TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 4/9

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