Sun 220515 新日本紀行/ロン&モッコ軍との激戦/名物・鶏めしのこと/矢立峠 4216回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 220515 新日本紀行/ロン&モッコ軍との激戦/名物・鶏めしのこと/矢立峠 4216回

 NHK「新日本紀行」は、20世紀に制作された世界のテレビ番組の中でもおそらく最高の傑作シリーズであるが、秋田県大館付近をテーマに作られた番組のうち、読者諸君にどうしても見ていただきたいものが2つある。

 

 そのうちの1回は、「大館・能代」とサブタイトルのついた昭和44年の冬のもの。もう1つは「三重連の峠」がサブタイトル。こちらは昭和45年8月に放送されたものであるらしい。ともにデジタルリマスターのバージョンで、この2年か3年のうちにNHK-BSで放送された。

 

 まず前者「大館・能代」であるが、諸君、驚くなかれ「秋田犬ラッシュ」ないし「秋田犬の大行列」映像がある。番組冒頭1分経過ぐらい、まずは秋田県人の巧みな雪下ろし映像があって、それが終了した頃、大館市の路上に秋田犬がうようよ、間違いなく秋田犬の通勤ラッシュだ。

 

 一方の「三重連の峠」は、蒸気機関車が3台縦列で長い貨物列車を引く勇姿。デゴイチこと「D51」の1号機が先頭になり、秋田—青森県境の矢立峠を爆走する最後の1日の映像だ。デゴイチ3重連の勇姿を追いかける少年少女の姿は、昭和の昔の今井君の姿そのものだ。

 

 まあ、どちらを見るにも正式には「NHKオンデマンド」にオカネを払わなければならない。「単品220円」であり、もし「見放題」を選べば、1000円弱で1ヶ月ナンボでも眺められるらしい。

 

 ネットの世界を熟知した諸君なら、まあその他ワタクシの知らない様々な方法で映像にアクセスできるはず。ぜひ秋田犬の大行列、デゴイチ3重連、ともに出来るだけ早く目撃していただきたい。ともに熱い熱い感激をお約束できる。

(大館駅前「秋田犬の里」で購入したクリアタイプのりんごジュース。おいしゅーございました)

 

 まず秋田犬ラッシュであるが、秋田出身の今井君には何となく見慣れた映像。しかし残念なことに、あんまり楽しい記憶には繋がらない。諸君、昭和の秋田の犬の飼い方は、まだ一般的に「放し飼い」。コドモにとって、放し飼い犬軍団との戦いの日々は、正直言って「命がけ」のオモムキがあった。

 

 それほど昭和の日本では、大型犬を放し飼いにして何とも思わない人が多かった。むしろ放し飼いが当たり前だったのであって、放し飼いから野犬化する犬も多く、野犬軍団やら野良犬グループやらが田舎町には珍しくなかった。

 

 ワタクシが最後に野犬グループを目撃したのは、シチリア島のカターニャ近くの駅前と、ユーロ危機のさなかだった真夏のアテネの旧市街であるが、小学生時代の今井君は、オウチのすぐそばで2匹の犬と強烈な対立関係にあった。

 

 1匹は、白い雑種のロン。近所の合原さん(仮名)が飼っていた中型の雑種犬。もう1匹はそのお隣の実川さんち(仮名)の茶色と褐色のモッコである。

 

「モッコ」って、どういう考えで名付けたのか分からないが、コイツも中型の雑種犬。2匹がセットになって他の犬も味方につけ、今井君に強烈な敵意をむき出しにした。

 

 当時は「秋田犬保存会」みたいな上品な活動は全く存在せず、秋田の田舎町には秋田犬のハーフとかクオーターとか、とにかく放し飼いの結果として、交雑の進んだ中型犬やら大型犬やらがナンボでもウロウロ、野犬として集団を作り、コドモにとっては物騒なことこの上なかった。

 (りんごタイプねぶた。新青森駅にて、4年ぶりに再会した)

 

 しかしまあ想像してみたまえ、コドモの頃の今井君のほうも、負けず劣らず物騒な存在だ。空き缶に石炭の燃えガラを詰め込んで、乾いた地面に投げつける類いの困ったものを、物置に大量に備蓄して野犬軍団に対抗した。

 

 あまり裕福な家庭ではなかったから、家にあるのは普通の石炭ストーブではない。石炭のかけらを「粉炭」と呼び、かけらを寄せ集めて燃料にする「粉炭(ふんたん)ストーブ」が、今井くんちの冬の暖房。その燃えガラを空き缶に詰めて道路に投げつけると、いやはやたいへんな煙幕になった。

 

 そういうものを物置に貯蔵。キバをむいた野良犬軍団が襲ってくると、野良犬軍団の数メートル手前に空き缶をドカンと投げつける。朦朦とあがるケムリに、さすがの猛犬軍団も空き缶一発で散り散りバラバラになった。こちらもまだ8歳か9歳の小さなコドモだ。間違いなく命がけ、たった1人の戦いで、猛犬軍団を粉砕してみせた。

(新青森駅にて。弘前・五所川原・青森、各種ねぶたが勢ぞろいしている)

 

 この戦いについて、町内会で問題になったことがあった。「うちのロンにも言い分があります」「うちのモッコだって、一方的に悪いんじゃないんです」。合原さんと実川さんは、9歳の今井君 vs ロン&モッコ率いる猛犬軍団の戦いにおいて、むしろ軍団の味方になってくれるように、町内会で熱弁をふるったのである。

 

 だからワタクシは今になっても、グループで攻撃してくる集団には強烈な対抗心を燃やすのだ。戦うなら、1対1で来るべきだ。圧倒的に数の多いことをたのんで、しつこく卑怯な攻撃を継続するのは、見下げ果てた臆病者のすることだ。

 

 こういうふうでワタクシ、白状すると今もなお、ホンの少し犬が苦手なのだ。もちろん、孤独に昼寝しているワンコ、ご主人と楽しそうに散歩しているワンコ、そういう姿は見ただけで熱い涙が溢れ出てくるほど好きだが、徒党を組んでいる数匹の犬集団を目撃すると、やっぱりふと身構えつつ、石炭ガラを詰めた空き缶が欲しくなる。

 (大館駅前の売店で名物駅弁「鶏めし」900円を購入 1)

 

 さて諸君、4月18日午後のワタクシは、大館駅から青森行き特急「つがる」に乗り込んだ。大館駅前の「花善」で購入した名物駅弁「鶏めし」と、もちろん2本か3本の日本酒、あと「中山りんごジュース」1本を車内に持ち込んだ。

 

 まず「鶏めし」についてであるが、これは同じ秋田県出身者として、若干の苦言を呈しておきたい。まず、販売方法に愛想がなさすぎる。駅弁というのは、売り手と客がちょっとした会話を楽しんでこそのもの。天気のことでもいい、商売の景気のこともでいい。せめて一言かわせば、それで旨さも倍増する。

 

 しかし実際に買ってみなければ分からないが、ここの駅弁売り場には、会話どころか愛想笑いさえ交わす要素が1つもない。要素というか、瞬間さえ存在しない。自動販売機のほうが、まだ愛想があるぐらいだ。

 (大館駅前の売店で名物駅弁「鶏めし」900円を購入 2)

 

 お客は、売り場のボタンを押すのである。売り場と言っても、オウチの風呂場よりまだ狭いブースが1つである。ボタンを押すと、オバサマというかオネーサマというか、まあその中間ぐらいの人物が小さな窓にポップアップする。

 

 で、その「中間ぐらいの人物」に注文するのだが、「注文」と言ったって、販売しているのは「鶏めし」1種類だけなんだから、「うーん、どれが一番旨いですかね?」と質問する要素さえない。「1つください」「2つください」「3つください」、それ以外の全ての言葉が、ここではシャットアウトされている。

 

 そして即座に、注文した数の「鶏めし」が差し出される。もちろんコチラはオカネを出す。現金でも電子マネーでもOKだから、今井君は得意の「交通系で!!」の一言。やり取りは、それで完了してしまった。

 

 驚いたことに、旅に出る前からあんなに楽しみにしていた「鶏めし」購入は、わずか20秒で完了。呆然と立ちすくむ今井君の手には、鶏めし。「袋は3円になります」というその白い袋をぶら下げて、他にはほとんど乗客の姿の見えない大館駅ホームに立ち尽くした。

  (弘前を過ぎてすぐ、左の車窓に岩木山の勇姿が現れた 1)

 

 あとは、「秋田犬の里」で購入した「中山りんごジュース」。一般的な濁り酒タイプとは違う、透き通ったクリアタイプである。青森県サイドに入ると、りんごジュースは何が何でも「シャイニー」でなければならず、シャイニーは昔のどぶろくみたいな白濁系が売りだ。

 

 しかしワタクシは、クリアタイプの方が好き。むかしむかし青森県の大鰐スキー場で我が父上とともに痛飲したのは、いつも今回の「中山りんごジュース」みたいなクリアタイプだった。

  (弘前を過ぎてすぐ、左の車窓に岩木山の勇姿が現れた 2)

 

 こうして特急「つがる」に乗り込んで、さてこれから秋田~青森県境の「矢立峠」を越える。大館から一気に急勾配を登り切って碇ヶ関まで「1000分の25」の勾配、つまり水平に1000メートル進む間に、垂直方向には25メートル上昇する。昭和までは難所中の難所と言われた峠道だ。

 

 今日冒頭に書いた「NHK新日本紀行・三重連の峠」で描かれていたのが、まさにこの矢立峠の光景。蒸気機関車が3台連なり、朦朦と真っ黒い煙をあげて力走しなければ、矢立峠を走り抜くことは出来なかった。

 

 あまりにも懐かしい峠である。駅名も、もちろん全て記憶している。ロンやモッコを先頭とした猛犬軍団と激烈な戦いを繰り広げていた時代、ワタクシは父に連れられて大鰐スキー場へ、または家族で弘前城のお花見へ、猛犬軍団との戦いを忘れて過ごす平和な午後、この険しい峠の絶景に酔いしれた。

  (弘前を過ぎてすぐ、左の車窓に岩木山の勇姿が現れた 3)

 

 しかし2022年のワタクシは、大館駅前で購入した「鶏めし」の中身も不満でならない。みっともないのは重々承知の上だが、「比内鶏、たったこれだけ?」の一言ぐらい、どうしても書かせてくれたまえ。

 

 確かに、1000円もしないお弁当だ。「比内鶏を山盛りにしてくれなきゃイヤだ」と駄々をこねるつもりはない。

 

 しかしこの今井君、学部生の頃も、会社員の時代も、予備校講師になってからも、周囲が噴き出すぐらい熱心に秋田自慢に明け暮れてきたサトイモだ。「名物」を名乗る鶏めしの比内地鶏がたったこれだけじゃ、やっぱり秋田人として恥ずかしい。

 

 まもなく大鰐を過ぎ、弘前を過ぎ、左の車窓に雄大な岩木山が出現し、津軽平野の広大なりんご林の向こうに岩木山が通り過ぎて行く頃、日本酒もりんごジュースもすっかり飲み終えたワタクシは、「秋田には、まだまだ頑張れるチャンスがある」「秋田にはもっともっと努力の余地がある」と、滑稽な呪文のように繰り返していたのだった。

 

1E(Cd) Eduardo EgüezTHE LUTE MUSIC OF J.S.BACH vol.2

2E(Cd) JandóMOZARTCOMPLETE PIANO CONCERTOS vol.9

3E(Cd) JandóMOZARTCOMPLETE PIANO CONCERTOS vol.10

4E(Cd) JandóMOZARTCOMPLETE PIANO CONCERTOS vol.11

5E(Cd) EschenbachMOZARTDIE KLAVIERSONATEN 1/5

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