Fri 220218 有形文化遺産での孤独な一夜/豊岡は絶好調/暗いラウンジの一夜 4169回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 220218 有形文化遺産での孤独な一夜/豊岡は絶好調/暗いラウンジの一夜 4169回

 毎回毎回「時の経過はマコトに速い」とビックリしているようで何だか申し訳ないが、兵庫県豊岡で仕事に精を出したのは2月2日だったというのだから、すでにあれから半月が経過している。こりゃまた大いにビックリせずにはいられない。

 

 あの日の豊岡は、日陰にうっすら雪が残っているぐらいで、風もそんなに冷たくなかった。あえて言えば、目星をつけていったハンバーグの店「セブン」がいきなりの定休日でガッカリ、ワタクシはすっかりしょんぼり落ち込んでしまった。

 

 ネットで調べた段階では、定休日は別の曜日のはずだったから、「風は冷たくないがハンバーグの店は冷たい」と理不尽なほどにプンスカ、致し方なく駅ビルのごく平凡な食堂で「カツ丼&うどん定食」という恐るべき炭水化物のテンコ盛りを胃袋に詰め込んだ。

 

 だって仕方がないじゃないか。お仕事が21時に終了すれば、もう豊岡駅前は真っ暗だ。開いている店には滅多に出会わないし、「まんぼう」の真っ最中で、夜はアルコールだって出てこない。

 

 豊岡はカニの街でもあって、世が世ならワタクシは仕事場の人々と一緒に、夜のカニをなんぼでもワシワシやりたいのだ。「紀ノ川」「なか井」など、過去4回の豊岡訪問では、次々と旨いものが出てくる名店で、いわゆる懇親会・祝勝会・お食事会の花が咲いた。

(豊岡の由緒正しい市庁舎。夜はブルーにライトアップされる)

 

 しかし諸君、憎っくきコロナどん、憎さも憎しオミクロンどんの猖獗のせいで、「紀ノ川」も「なか井」も夢のまた夢。21時過ぎなんかに入店しようとしても、門は砦のごとくギュッと閂がかかって開かず、たとえ開いても「アルコール」とオズオズ口に出せば、きっと「何ぬかす?」と冷たく拒絶されるに決まっている。

 

 なお、猖獗と書いて「しょうけつ」と読む。好ましくいないものがはびこる様子を言う。「猖」「獗」もどちらも「たけりくるう様子」を示す漢字だ。

 

 つまり「たけりくるう + たけりくるう」ないし「たけりくるう × たけりくるう」、または「たけりくるうの2乗」。腹ペコのトラとライオンとオオカミ軍団が、狭い木造家屋に殴り込みをかけたような地獄絵図を想像してくれたまえ。

 

 しかしそろそろ「猖/獗」と考えてもいい時期が、長いトンネルの先に見えてきているのかもしれない。つまり「猖 ÷ 獗 = 1」であって、「猖マイナス獗 = 0」→ ゼロコロナみたいな理想的なことにはならないが、「猖 ÷ 獗 = 1」でウィズコロナ、憎っくきコロナどんとの共存は、いくらか成長した今の我々なら、努力次第で何とかならないこともない。

(宿泊した「オーベルジュ豊岡1925」。元は「兵庫縣農工銀行」、近代化遺産の有形文化財だ)

 

 とか、その種のことをいろいろ考えても、やっぱり「ハンバーグのセブン」のトビラは開いてくれないし、豊岡の有名店で懇親会という夢も叶わない。

 

 唯一、「すぐお隣の城の崎温泉に宿をとる」という可能性は残っている。志賀直哉「城の崎にて」で余りにも有名。「温泉宿に1人で泊まる」という行動は、いかにも明治・大正・昭和のブンゴーみたいでカッケーじゃないか。

 

 しかし悲しいことに、今井君はブンゴーではない。文豪が文豪らしい行動を取ればもちろんカッケーだろうけれども、ブンゴーでないサトイモが温泉宿に1人で宿泊すれば、要するに胡散くさいだけである。

 

 それでもこの10年、城の崎温泉に宿泊して豊岡のお仕事に出かけたことが2回ある。エクスペディアをポチ&ポチやっていて「西村屋 招月庭」というのを発見、温泉宿なのに「外で食事をとるのも自由」というホテルタイプの高級宿で、まあ重宝ではある。

 

 しかしそういう贅沢をしたとしても、例えば22時に仕事を終えて宿に戻れば、やっぱりお酒もメシもなし。結局コンビニでビールに酒にサンドイッチを買って、部屋でしょんぼりつまむぐらいが関の山だ。

(5部屋あるプチホテルの一番大きい一室。テレビその他、余計なものは一切ナシのシンプルな作りだ)

 

 そこでワタクシは、ブンゴーのマネも志賀直哉の模倣もヤメにして、豊岡駅からトボトボ徒歩10分、「オーベルジュ豊岡1925」という風変わりなプチホテルを選択した。昨年だったか一昨年だったか、すでに1回経験済みのプチホテルである。

 

 部屋数は5つほど。元は「兵庫縣農工銀行 豊岡支店」の建物だったものが、後に豊岡市役所 南庁舎として使われ、近代化遺産・有形文化財に登録された。1925というのは、この地域に「北但大震災」のあった年。兵庫縣農工銀行が先頭に立って、震災からの復興を果たした。

 

  だから「おしゃれなプチホテルに宿泊する」というより、古色蒼然とした石とコンクリートの文化遺産の中で一夜を過ごすことになるわけだ。いやはや、寒い。建物の中で一番大きな、天井の高い部屋に空調が2つ。その空調をいっぱいにしてもまだ寒くて、室温は13℃までしか上がらない。

 

「寒すぎる」という苦情でも相次いだのか、お部屋の片隅には古めかしい「石油ファンヒーター」もあって、危機を感じたぶるぶるサトイモは、コイツの助けを借りて危機を脱出することにした。

 

 しかし部屋には、ゆっくり仕事の準備が出来る椅子もない。いや、背板も座板もガチガチの木材で作られた椅子が4脚、あるにはある。座面と背板の角度はガッチリ90°、三角定規で計ったように意地でも直角90°、「四角四面」を絵に描いたような、決して譲歩しない鬼軍曹みたいな椅子なのだ。

 

 14時にチェックインして、公開授業の開始が19時だから、今井君は約4時間、ガツンガツンの直角椅子に震えながら座っていることになる。いやはや文化遺産や有形文化財と付き合うのは、並みの精神力では不可能だ。仕方がないから今井君は小さなベッドに這いずりこみ、優しいオフトンにせめてもの救いを求めた。

(豊岡の大盛況。キャパ1/2ルール、まだまだ厳守しなければならない 1)

 

 しかしオフトンなんかよりずっとワタクシの慰めになるものがあって、何を隠そうその慰めこそが「講演会」と「公開授業」なのである。前回の記事に「予備校文化のセールスマン」について長々と書いたけれども、今やワタクシは超ベテランとして、この仕事に常に一番の慰めを感じる。

 

 ブンゴーなんかになって城の崎温泉でシコシコ文筆業に励むのは、きっと信じがたいほど孤独な人生に違いない。たとえプチホテルの椅子がゴツンゴツンの直角な鬼軍曹でも、いったんお仕事さえ始まれば心も肉体も一気にほぐれ、懇親会ナシの長い夜も、コンビニ食で見事に乗り切ってみせる。

(豊岡の大盛況。キャパ1/2ルール、まだまだ厳守しなければならない 2)

 

 しかもワタクシ、豊岡が大好きなのだ。町の規模から言って、毎回毎回150名を超える出席者で会場がパンパンになるのは嬉しい限りだし、高校の先生方もたくさん、保護者の皆様もたくさん、今回は市会議員のカタも1人見学に訪れてくださった。

 

 もちろんコロナ猖獗の真っただ中。「会場キャパ1/2ルール」を厳守して、申し込みベースで80人までしか許されない。それでも「初めて東進に来てみました」という外部生25人も100%出席。その多くが公開授業後に我々の仲間になってくれた。

 

 我々の豊岡は、大健闘を続けているのである。開校当初、生徒数はわずか16名だった。その開校当初から、ほぼ2年に1回の頻度で今井の公開授業を開催してくれている。3年前、この豊岡校から神戸大学の医学部医学科に3名が現役合格。今や在籍100名を突破する勢いだ。

(オーベルジュ豊岡の3階ラウンジ。人っ子1人いない静かなラウンジで真夜中まで過ごす。ここの椅子もガチンガチンだが、およそ100°の傾き。90°軍曹より少しは優しい)

 

 21時半、「オーベルジュ豊岡」に帰還した。直角90°軍曹は相変わらず厳しい表情でワタクシを迎えてくれた。しかしここから先は「夜のラウンジ」が、疲れ切った今井君を迎えてくれる。

 

 おお、「夜のラウンジ」ねえ。その言葉の響きには「夜の接待」を思わせるオゾましいものが含まれるだろうが、諸君、この今井は、部屋で待ち受ける90°軍曹以上にお堅い「超カタブツ」だ。その種のオゾましく薄暗い場所には、何が何でも近づかない。

 

 確かにラウンジは薄暗いけれども、プチホテルの3階部分に設置された甚だ清潔な一角だ。BGMもナシ、静まり返った薄暗闇に、人っ子1人見あたらない。他人がいなければ、コロナどん云々は関係ないから、おおっぴらにお酒もいただける。

 

 隅のテーブルに置かれたお酒は、バーボンにジンにウォッカにウィスキー各種。1時間に1回ぐらいのペースで係の人が来て、アイスペールの中身を新しくしてくれる。小さな冷蔵庫には、もちろんビールもあればコーラもある。このすべてが飲み放題、要するにワタクシの独り占めだ。

(3階ラウンジから1階のロビーを眺める。ホントに人っ子1人見当たらない。20世紀中期の建物の中、ほぼ完全に1人の夜を過ごした)

 

 だってこの夜は、おそらくワタクシ以外に宿泊者はナシ。フロントもすでに閉鎖、「係の人」もどこから来るのか分からない。もしかすると、近代化遺産の冷え切ったこの文化財の中に、いま存在するのはワタクシ1人である可能性もある。というか、おそらくその推測は当たっている。

 

 考えてみれば薄気味悪い話だが、20世紀中盤のこの町を支えたコンクリートの建物の中にポツンと1人、あちこちの暗闇から、今はもうこの世を去った人々の囁き声が聞こえてくるような雰囲気だ。こんな場所で23時まで1時間半、ワタクシは黙ってウィスキーとジンを飲み続けた。

 

 23時が近づいた頃、「係の人」が足音も立てずに階段を上がってきて、戸口の薄闇からヌッと顔を出した。「23時には照明がぐっと暗くなり、空調も切れますが、ラウンジは24時まで開いています。ごゆっくりどうぞ」と声をかけてくれた。

 

 そしてあの夜のワタクシは、「照明が暗くなり空調の切れたラウンジ」で、70年も80年も昔の人々のざわめきを思いながら、階下のロビーに佇むピアノと古めかしいテーブルを眺めつつ、1人でお酒を飲み続けた。せっかく「文化遺産に宿泊する貴重な体験」を謳ったプチホテルだ、ワタクシは十二分に「貴重な体験」を満喫したのである。

 

1E(Cd) David SanbornINSIDE

2E(Cd) David SanbornTIME AGAIN

3E(Cd) Anita BakerTHE SONGSTRESS

4E(Cd) Anita BakerRHYTHM OF LOVE

7D(DMv) WRATH OF MAN

10D(DMv) HOURS

total m70 y150  dd27178