Sat 220212 予備校「副読本」の思ひ出/雪の金閣/雲林院で「大鏡」を思い出す 4166回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 220212 予備校「副読本」の思ひ出/雪の金閣/雲林院で「大鏡」を思い出す 4166回

「副読本を生徒全員に購入させて、定期テストの範囲にしちゃう」という指導法が昔からあって、昭和の昔から英語や国語の先生がよくやりがちだったその指導法を、高校生の頃の今井君は躊躇なく「暴挙」と呼んでいた。

 

 だって、ひどいじゃないか。高1の新入生全員に、例えば500ページもある「英語の基礎」を購入させる。梶木隆一教授によるその名著は、確かに素晴らしい文法入門書ではあったが、「中間テストで100ページまで」「期末テストで200ページまで」と、一方的に範囲を決められた。

 

 後は自学自習。範囲内から無条件で定期テストに出題され、先生は英文法の解説なんかちっともしない。「あの本の◯ページに書いてあったはずだ」「定期テストの範囲として全員ちゃんと読んだはずだ」ということにされちゃう。

 

 だから諸君、今井君は高校の授業の中で、仮定法や分詞構文や倒置や比較構文について、キチンと担当教諭から解説してもらった経験がないのである。「読んでおけ!!」であり「読んだはずだ!!」であり「結局は自分の日々の努力なんだ」であって、「先生の説明に頼ってるんじゃダメだ」と一蹴された。

 (雪の金閣。さすがに何組か修学旅行生も混じっていた 1)

 

 あとで塾バイトやら予備校講師としての日々を経験してみると、教える側としてこんな便利なイイワケはないので、「単語集をやっておけ!!」「イディオム集を記憶しろ!!」「文法なんか、参考書を1冊ボロボロになるまでやればいいんだ!!」で済ませてしまえば、こんな楽なことはない。

 

 すると授業本体の大半は、「トリビアの羅列」ないし「自慢話の連続」で済むのである。トリビアをズラリと並べておいて「オマエたち、こんなことも知らないのか?」とニヤリと意地悪く微笑すれば、コンプレックスで蒼ざめた生徒諸君は、みんなお目目をトロリとさせ、「初めて知った」「感動した」と熱く涙ぐんでくれる。

 

「自慢話」の裏返しで「自分が昔どんなにバカだったか」という一種の武勇伝でも人気は稼げる。今みたいに武勇伝の中身が「どれほど現実と乖離しているか」が暴かれ放題の時代とは違うから、少なくとも21世紀に入るか入らないかぐらいまで、トリビアと武勇伝だけで人気講師の授業は十分に成り立った。

 (雪の金閣。さすがに何組か修学旅行生も混じっていた 2)

 

「副読本を読んでおけ!!」という方針は、こうしてずいぶん長いあいだ受験の世界を跋扈した。「副読本」として指定される側から見ても、とにかくたくさんの塾や予備校に「副読本指定」を受ければ、印税収入もウナギのぼり間違いなしだ。

 

 つまり副読本の定番になることこそ、講師として長い生き残りの決め手になるわけである。「副読本の定番」としては、やっぱりオーソドックスに書くに限る。おかしな工夫なんかして著者の個性やニオイを出しまくると、あっという間にオーソドックス落第、当然のことながら副読本としても落第になる。

 

 20世紀終盤の予備校全盛期には、「駿台文庫」と代ゼミの「代々木ライブラリー」が学習参考書コーナーをほとんど占拠していたが、それもやっぱり「副読本」からの派生。「駿台文庫」の名称は1980年代後半からで、もともとは1970年代後半の「駿台予備学校 副読本」だった。

(今井が今も尊敬する桑原岩雄師「古文要説」1980年。「駿台予備学校副読本」の文字がある。左は「大鏡」冒頭部)

 

 英語の「基本英文700選」「英語構文詳解」や、数学の「コメンタール」は、駿台予備校のテキストと連動して、スタンダードな授業の中で、しばしばテキストと副読本の連関が語られた。「これは『700選』の◯◯番を参照」「この公式については『コメンタール』の△ページを見ておけ」というわけである。

 

 するともちろん受講生は「やっぱりコメンタールを買わなきゃいけないな」「700選は常に持参しなきゃ」と思うから、全国の受験生に定番化。印税収入ももちろんグイグイ上昇するが、副読本の筆者のステイタスやランクも、やがて押しも押されもしないものになる。

 

 問題は、そんなふうに「副読本を経由してトップ講師にのし上がる」というルートや生き方を、自ら「ヨシ」とするか否かである。若き日の今井君にも、代々木ライブラリー「英文法入門」でそのチャンスが巡ってきた。

 

 しかし諸君、ワタクシはやっぱり、もしも本を書くならどんな本でも、「いかにも今井」という個性たっぷりに書きたいのである。定番化を狙って個性を我慢して抑制するほど、オトナになりきれていない。

 

 もともと当時は、アンチ今井が強烈にたくさん存在した時代。今井君は英文法を個性たっぷりに書き、定番副読本への道を自ら放棄した。

(雪の金閣。さすがに何組か修学旅行生も混じっていた 3)

 

 どういうわけでこんなことを思い出したかといえば、1月の京都♡洛北を散策中、今宮神社から大徳寺を出た所で、思いがけず「雲林院」に遭遇したからである。

 

 9世紀には京の都を代表するほどの大寺院だった雲林院。「今昔物語」にも「大鏡」にも「古今和歌集」にも登場し、在原業平が主人公の能「雲林院」もある。

 

 光源氏はこの寺に日参して、天台宗の経典を読みふけったことになっている。付近の「紫野」には紫式部の墓所と言われる所もあり、西行どんの和歌も寺の門前に残されているが、鎌倉時代には大徳寺の塔頭の1つになり、やがて応仁の乱で消失&廃絶。今の雲林院は、18世紀初頭の再建であるらしい。

 

 中でも有名なのは、「大鏡」冒頭の1行。「先つころ、雲林院の菩提講に詣でて侍りしかば」で始まる冒頭部を、遥かな昔の我が高校時代、まだチョー真面目だった今井君は、何度も何度も味読&音読したのである。

(大徳寺を出たところで「雲林院」に遭遇。「大鏡」冒頭に登場、平安時代は大寺院だった 1)

 

 我が「秋田高校」の当時の古文のセンセたちも、「副読本で勉強させよう」という方針であったらしい。高1の定期テストは「徒然草」、高2の定期テストでは「枕草子」、それぞれほぼまるまる1冊を、定期テスト5回に分けて通読させた。当時の今井君が「暴挙」と呼んでいた方針である。

 

 しかし「暴挙」と吐き捨てるわりに、最もマジメに古文学習に取り組んだのも、また今井君。定期テスト前の一夜漬けとは言うものの、結果として「徒然草」「枕草子」ともに、音読で通読すること約10回、いまだに吉田兼好どんと清少納言の名文が、お風呂の中で口をついてズラズラ出てくるほどである。

(大徳寺を出たところで「雲林院」に遭遇。「大鏡」冒頭に登場、平安時代は大寺院だった 2)

 

 高3になると、文系の生徒にのみ「大鏡」の副読本を購入させて、相変わらず「中間テストと期末テストで出題するぞ」の「暴挙」が続いた。しかし高3の今井君は理系クラスを選択、「クラスのほとんどが国立大医学部志望」という小難しいクラスで、「大鏡」は何の関係もない1冊になってしまった。

 

 しかし諸君、理系を選択しようが医系を選択しようが、ワタクシの本質はどこまでも文系であって、定期テストで理系数学や物理や有機化学をたっぷりやらされても、文系クラスの友人たちが取り組んでいる「大鏡」が羨ましくてならなかった。

(雪の金閣。さすがに何組か修学旅行生も混じっていた 4)

 

 そこで今井君は、文系クラスの友人から「大鏡」を入手。文系のスケジュールに合わせて大鏡を音読することで、それを国語科目の入試対策とした。今もなお大鏡の名場面が口をついて出てくる所以である。

 

 まあ諸君、「だから何だ?」とか、気難しく口を尖らせないでくれたまえ。徒然草と枕草子と大鏡が日常的に口をついて出てくるというのも、日本人中高年として悪いことじゃないだろう。他に「平家物語」「方丈記」「奥の細道」あたりも、我が古臭い大脳に深く刻み込まれている。

 

 こうして雲林院を眺め、雪の金閣と天龍寺と常寂光寺を眺め、落柿舎や大徳寺の縁側に腰掛けて日向ぼっこを楽しみながら、ふと「久しぶりに古文の音読でも楽しんでみるかな」と、ふと本棚の日本古典文学大系に視線を向けたくなるのである。

(金閣のお屋根の上で、鳳凰どんが勇ましく羽を広げる。ワタクシはこの鳳凰どんを「キンパくん」と呼んでいる。「キラキラ金箔、キンパくん」、そういうことである)


 なお、せっかくだから「大鏡」冒頭と、今井による現代語訳を掲載しておく。「大鏡」音読へのきっかけにでもしてくれたまえ。

 

☆原文:先つころ、雲林院の菩提講に詣でて侍りしかば、例人よりはこよなう年老い、うたてげなる翁二人、嫗と行き会ひて、同じ所に居ぬめり。「あはれに、同じやうなるもののさまかな」と見侍りしに、これらうち笑ひ、見かはして言ふやう、「年ごろ、昔の人に対面して、いかで世の中の見聞くことをも聞こえ合はせむ、この只今の入道殿下の御有様をも申し合はせばやと思ふに、あはれに嬉しくも会ひ申したるかな。今ぞ心やすく黄泉路もまかるべき。思しきこと言はぬは、げにぞ腹ふくるる心地しける …

 

☆今井現代語訳:この間ワタクシが雲林院の菩提講にお参りいたしますと、普通の人と比べてひどく年をとり、異様な雰囲気のジーサマ2人とバーサマが来あわせ、同じ所に座っておりました。「いやはや、似たようなジーサマ&バーサマだな」と見ておりますと、このジーサマ①ジーサマ②とバーサマが笑って顔を見合わせ、そのうちジーサマ①が言うことには、「ワタクシは長年、昔なじみの人と会って、世の中で見聞きしたことを話しあいたい、また今の入道殿下♡藤原道長どんの様子も話しあいたいと思っておりました。ホンマにメッチャうれしくお会いできましたな。これで今こそ安堵して、あの世への道もたどることが出来ますわなぁ。思っていることを言わないなんつーのは、ホンマにポンポンがパンパン膨らむような気持ちですわなぁ …

 

1E(Cd) IncognitoNO TIME LIKE THE FUTURE

2E(Cd) IncognitoPOSITIVITY

3E(Cd) Larry CarltonFINGERPRINTS

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7D(DPl) 文楽:妹背山婦女庭訓⑤「鱶七上使の段」豊竹呂勢大夫 「姫戻りの段」竹本三輪大夫 「金殿の段」豊竹嶋大夫 「入鹿誅伐の段」豊竹咲甫大夫

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