Sat 211225 お寿司あれこれ/志賀直哉の食べ方指導/小田キュウベエが旨い 4151回
昨日の記事の中で、寿司屋についてウソをついたわけではないが、やっぱりミエは張った。
「老舗バーで『バンブー』を2杯ほど飲み干した後は、寿司屋に回って8貫か10貫、日本酒ぬる燗とともにモグモグやってからお部屋に帰る」と昨日は書いた。その「寿司モグモグ」はウソではないとしても、「寿司屋に回って」の一言は完全なミエである。
だって諸君、そんなに頻繁に寿司屋に入れば、お財布がいくら分厚くても、あっという間にぺちゃんこだ。むかしと比較して、寿司屋のカウンターで食べる寿司は格段に高価なものになっちゃった気がする。
だから実際の「寿司もぐもぐ」は、今日掲載する写真の数枚が標準。「寿司屋のカウンターで」の頻度は、まあ1年で7回か8回、もちろん「回らないお寿司」の頻度である。
小学生のころは、お寿司は必ずセットメニューだった。秋田市大町にあった「銀寿司」か、秋田市土崎港の「金龍寿司」「寿司力」では、今井家はまあそれなりの常連。あのころの値段で1000円弱の握り寿司セットを、家族4人月イチで貪っていたんだから、地方の国鉄職員一家としては、かなりの贅沢をしていたわけである。
(今ワタクシが気に入っている「小田キュウベエ」のマグロ寿司もりあわせ 1)
大学生になってからは、そりゃ1皿100円の回転寿司しか行けなかった。当時は100円寿司のバラエティもまだ少なくて、「元禄寿司」の天下だった。
当時は日本全国「回る寿司」と言えば要するに「元禄寿司」のことであって、やがて出現した「玄海寿司」「平禄寿司」のチェーンも、「元禄寿司」から「げん」や「ろく」の発音なり文字なりを受け継いでいる。
大学生の今井君が塾講師のバイト代でむさぼっていたのは、高田馬場駅前にあった「玄海寿司」。100円皿と200円皿の区別が始まった頃で、我々としては「何が何でも200円皿だけは避けなけりゃ」と、友人どうしで店に入っても、お互いが200円皿に手を出さないように油断なく監視しあった。
何しろ、誰か1人が200円皿のウニとか中トロとか甘エビとかに手を出した瞬間、「バーカ、何やってんだよ」と右隣と左隣の友人が重い唸り声を上げる。とてもそんな旨いネタに手を出す雰囲気ではなかった。
だから今井君は、ひたすらミル貝とイワシに集中。イワシは今は高級食材の仲間入りをしているのかもしれないが、大学生の頃は安心して手に取れる100円皿の1/3をイワシが占めていた。
その他はひたすらミル貝をコリコリ咀嚼しては嚥下、バイト代はミル貝に費やした。むかしの今井君は100円寿司で20皿は当たり前、30皿平らげたことだって珍しくなかった。そのほとんどがミル貝だったとしても、憎っくき酢飯を2貫ずつ30皿、合計60個も平らげて、それでもまだラーメンが食べたかった。
そのむかし、コンベヤーの上のお寿司がどんどん乾いていくことについても、回転寿司屋はほとんど気に留めなかった。お寿司に透明なプラスチックカバーがかけられるようになったのは、もっと後のことである。
そうして諸君、やがて今井はズンズン楕円形に成長を遂げ、フランクフルトやミュンヘンの裏通りで「回転アジア」にも闖入。中国や韓国やタイやベトナムの食材とともに、不承不承に回転するお寿司を何度か目撃して今日に至る。
(今ワタクシが気に入っている「小田キュウベエ」のマグロ寿司もりあわせ 2)
駿台の講師になってからも、まだ回転寿司には出入りしていた。御茶ノ水の駅前にあった「神田寿司」(仮名)でのエピソードは、今もなお授業の息抜きに使わせてもらっている。
なんとある時、「神田寿司」の従業員がほとんど全てパキスタンの人たちだったことがあって、「いらっしゃいませ」と元気に声をかけてくれるのも、パキスタンのオネーサマ。丸いコンベヤーの上を回っている寿司が「すべてイカ」という驚異の体験をした。
しかも「今井が神田寿司にいた」という怪情報が、あっという間に駿台予備校を駆け巡る。講師室に「質問」と称して訪れたマジメな顔の浪人生に、「先生はさっき『神田寿司』にいらっしゃいましたよね」と、マコトにキマジメな顔で尋ねられたりした。
何しろそんな状況だから、大好きだった「神田寿司」にもしばらく行けなくなった。だって諸君、白いイカばかりが延々と回り続けるコンベヤーの向こうで、駿台生とおぼしき若者がこちらを見つめているのだ。
「お、今井がイカを食った」「お、またイカを食った」「よっぽどイカが好きなんだな」と真顔で頷きあっている。そんな状況じゃ、まさかパキスタン人の店員さんに「イカばかりじゃなくて他のネタも回転させてください」とか、そんなワガママは言えないじゃないか。
(小田キュウベエは、普通の寿司もりあわせも旨い 1)
もちろん、駿台の講師室で「講師弁当」は注文できた。すっかり冷めたお弁当で、当時は1700円。今はどうなっているか分からないが、あの頃の今井君はまだ講師歴3年程度。予備校世界で勇名を轟かせる50歳代&60歳代の超有名講師がズラリと並んでいる部屋で、無名の若手として黙々と仕出し弁当を食べるのはツラかった。
だからあの日々が、ワタクシが「ランチ抜き」の生活を始めた原点だったと思う。講師室のお弁当じゃ肩がこるし、神田寿司(仮名)に行けば、生徒諸君の目と口がうるさい。
そして約半年後のある日、若き今井君は久しぶりに神田寿司を訪れた。諸君、驚くなかれ、かつて「イカばかり」だったコンベヤーの上には、想像もつかないものが一列に並んで回転していた。
それが、プリンである。寿司一切なし、回っているのはプリンばかり、その光景を目撃したのが、神田寿司の最期だった。今では影も形もナシ、「回転寿司」を名乗るお店もみんなグイッと高級化して、「回転寿司だけど回転していない」というスタイルが主流になった。
(今のワタクシは寿司よりカレー。12月19日、「銀座デリー」で極極辛口カシミールをソース大盛りで貪った)
そうこうするうちに今井もますます成長し、いつしか高級オジサマの仲間入り。「回転しない回転寿司」にさえ闖入することは稀になり、都心の高級寿司、準都心や郊外の準高級寿司、そういうのしか行かなくなった。
すると諸君、致し方ないことなのかもしれないが、目ん玉がとびでるほど高額の請求書を手渡される結果になりがちだ。ディナーで無理をしたら2時間で7万円とか、ランチでやっぱり無理をして1時間で3万円とか、いやはやそれじゃ財布がいくらあっても足りるはずがない。
しかもランチなんかだと、店の大将が握ってくれないことが多い。大将はあくまでディナーであって、ランチは現在まだ修業の続くナンバー2とかナンバー3が担当、しかしお値段はほぼ同じレートで要求される。
別にワタクシなんかは、ナンバー3の人でも全く構わないのだが、大将と完全に違うのが「客さばき」。寿司屋のカウンターでは、大将との軽妙な会話を何よりも楽しみたい。しかしナンバー3ぐらいになると、その軽妙なはずの会話がズシンを重たく滞り、ちっとも楽しく弾まない。
カウンターの向こうからギュッとこちらをニラみつけたきり、「次に何を注文するか」だけに集中して黙りこくったナンバー3どん。あんまりニラまれるから、致し方なく寿司もお酒もグングン進み、気がつくとたった1時間でもう寿司15貫、日本酒も熱燗で4合、あっという間にお腹パンパンだ。
こうして1時間で3万円。一昨年の今頃、安倍首相が「日本一高いキュウベエの寿司」と国会予算委員会で何十回も連呼していたのをご記憶か? 今井の体験した「1時間で3万円」、その「キュウベエ」本店に負けないほど値段が張ったわけである。
(甘味もいいですな。銀座「若松」の抹茶&おしるこセット)
そうかと思えば、また別の寿司屋では、好きなようにお醤油をつけさせてくれない。ワタクシみたいな田舎者は、お寿司には小皿にたっぷり注いだお醤油を、好きなだけつけて食べたいのであるが、カウンターには醤油の姿はナシ、小皿も全く置かれていない。
カウンターの向こうのナンバー2かナンバー3が、「もう煮切りを塗ってありますよ」と無愛想に笑う。確かに刷毛で上品に薄くお醤油を塗った形跡はあるが、いやはや諸君、今井レベルのシロートには、それっぽっちのお醤油じゃ足りないのだ。
醤油味が足りないと、生魚の生魚くささがノドの奥からモワッと濃厚に立ちのぼってきて、我が胃袋と食道が反乱を起こす。そこで「出来れば小皿とお醤油を…」と言いかけると、ナンバー3の機嫌がグイッと悪くなる。
(今ワタクシが気に入っている「小田キュウベエ」のマグロ寿司もりあわせ 3)
まあ確かに、お寿司屋さんというものは、むかしむかしのそのむかしから、機嫌が悪いものと相場が決まっていて、小説の神様・志賀直哉センセも、寿司の粋な食べ方について詳しく書いていらっしゃる。
ワタクシの記憶違い&勘違いも含まれているかもしれないが、お寿司屋に叱られない粋な寿司の食べ方は、志賀直哉センセによれば以下の6段階だ。
① 中指で寿司の腹を軽くつついて横倒しにする
② 横倒しになった寿司のネタを親指で押さえる
③ 親指はネタ、人差し指がシャリの脇、中指がシャリの下
④ 寿司をつまみ、ネタを下向きにして醤油皿に近づける
⑤ 飯には醤油をつけず、ネタだけに醤油がつくようにする
⑥ ネタを下にして口に放り込み、出来るかぎり一口でいただく
ほーれ、「醤油皿」はやっぱり粋な寿司屋には必須のアイテムだ。たとえ「煮切りを塗りました」であっても、やっぱりもっと醤油を追加したいじゃないか。
この辺も、20世紀終盤から全盛の続くグルメ番組の悪影響であるらしい。何しろどんなお魚を口に入れても第一声は「甘い!!」「めっちゃ甘い!!」という感動の叫びでなきゃいけないから、シロート今井がお醤油たっぷりの甘くない寿司にしちゃうのは、お店の人にとっても迷惑であるに違いない。
(小田キュウベエは、普通の寿司もりあわせも旨い 2)
こういうことが何回か続いて、今井はもはや高級な寿司屋を回避するようになった。醤油が少なくて胃袋の反乱にあい、無口なナンバー2や3とニラみ合った挙句に、1時間で3万円の請求書を差し出されるのは、さすがに御免こうむりたい。
そこで今や今井君がモグモグするのは、正式な「キュウベエの寿司」や「キュウベエレベルの寿司」ではなく、「小田キュウベエの寿司」と決めている。小田キュウベエとは、小田急系列のスーパー「OXストア」で売っているお寿司のこと。「小田急兵衛」というわけである。
ま、今日の写真数枚をもう一度眺めてくんろ。これでもうニラみ合いもなし、胃袋の反乱も、「めっちゃ甘い!!」の無理な絶叫もナシ、3万円の請求書も領収書もナシ。マコトに気持ちよく安心して、1000円から2000円の贅沢ランチを堪能できるのである。
1E(Cd) Kubelik & Berliner:DVOŘÁK/THE 9 SYMPHONIES 3/6
2E(Cd) Kubelik & Berliner:DVOŘÁK/THE 9 SYMPHONIES 4/6
3E(Cd) Akiko Suwanai:BRUCH/CONCERTO No.1 SCOTTISH FANTASY
4E(Cd) Kiri Te Kanawa, Solti & London:MOZART/LE NOZZE DI FIGARO 1/3
total m104 y1172 dd27012