Tue 211214 「武蔵野夫人」のこと/府中の美術館を訪問/府中酒場でホクホク 4144回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 211214 「武蔵野夫人」のこと/府中の美術館を訪問/府中酒場でホクホク 4144回

 東京の西部に昔から「武蔵野」と呼ばれる地域がある。正確にはどこからどこまでが武蔵野なのか、ハッキリした定義もないし、国土地理院の地図をいくら眺めても「ここが武蔵野」とスッキリ分かるようなことはない。

 

 しかしとりあえず「武蔵野」と言われれば、「ああ、あのあたりね」とだいたいの見当はつく。今井君が移籍して17年が経過する「東進」の所在地も武蔵野市。吉祥寺あたりから始まって、三鷹・国分寺・国立・立川、東西の広がりはそのぐらいだろう。

 

 中央線のオレンジ色の電車以外にも、京王線や西武線も走っている。京王線なら調布に府中、西武線なら小平とか東村山、まあそんな地名が頭に浮かぶ。

 

 JRには「武蔵野線」と言ふ準♡環状線もあるが、立ち並ぶ高い鉄塔で有名なこの線は、武蔵野の北の端をちょっとかすっただけで、あとは埼玉と千葉西部をブンブン猛スピードで走り回る。武蔵野とはあまり縁のない路線である。

 

 太平洋戦争直後の武蔵野の様子をマコトに分かりやすく描いた映画があって、原作:大岡昇平、脚色:福田恆存、映画化したのは溝口健二、主演は田中絹代というのだから、さすがに1951年作品、戦後の時代の武蔵野が見事に描かれていて当然だ。

 

 ストーリーについては、まあググってくれたまえ。「武蔵野夫人」というタイトルから誰でもすぐに想像できそうなメロドラマ。29歳の若妻が、冷酷な裏切り者の夫に疲れ果て、戦地から帰還したばかりで心の荒れている従弟ツトムと惹かれあう。

 

 江戸の昔から「イトコどうしは鴨の味」と言って、従兄妹どうしや従姉弟どうしのカップルは予想以上に多かった。何しろ舅も姑も、もともと伯父様に叔父様、伯母様に叔母様なんだから、家族間の対立も少なくて済む。29歳の従姉と、25歳の従弟の距離は、急速に縮まっていく。

 

 そこから先は、やっぱりググってくれたまえ。あらすじを書くのもチョイと恥ずかしい。「台風のせいで武蔵野貯水湖の旅館に閉じ込められた2人が一晩をともにする」「しかし2人は …」みたいなメロドラマぶりに、脚色の福田恆存自身が呆れ果て、原作者:大岡昇平に「失敗だった」と告白した件も有名だ。

(東京・府中市、府中駅から徒歩30分ほどのところに「府中の森公園」がある)

 

 長々と「武蔵野夫人」の紹介をして、いったい何が言いたかったのかといえば、このワタクシも危うく失念するところだった。11月の25日ごろ、ワタクシはその武蔵野のド真ん中、「府中」という町の散策に出かけた。その話のマクラとして書き出したら、いつの間にかこんなに長くなっていた。

 

 府中・国立・立川・調布・小平あたりには大学も多く、それなりにロマンチックな空気が満ちている。一橋大・電通大・津田塾大・国立音楽大、さすが武蔵野、学園都市の爽やかな秋風がそーよ&そよ。「恋ヶ窪」などという地名も残っていて「ロマンチックここに極まれり」の感がある。

 

 昭和の大学生たちは、地方から上京するとまずとりあえずこの辺に下宿を探した。武蔵境・武蔵小金井・花小金井・三鷹・吉祥寺、やっぱりオシャレさを狙うなら、この地域がいいじゃないか。

 

 しかし当時の今井君は今思ってもマコトに残念なことに、オシャレさより安価さを優先した。いきなり「千葉県松戸市・北松戸にアパートを借りる」という行動をとり、友人たちはそろって疑問の声をあげた。「なんで?」「なんで?」というわけである。

 

 しかし4.5畳と4畳の2部屋に広いキッチン付、たとえ築30年のボロアパートでも、この広さで月15000円なら、別にオシャレな武蔵野なんかじゃなくていいと考えた。「武蔵野線」なら、松戸の北の新松戸や南流山も走っているじゃないか。

 

 こうして今井君の首都圏生活は、北松戸から始まって、松戸駅前・新松戸・南浦和・春日部・東鷲宮と首都圏の北の端っこを右往左往するばかり。1997年に一気に東京都に攻め込み、世田谷区下北沢に4年、さらに都心に攻め込んで渋谷区に闖入。おお、こうしてついに武蔵野侵入のチャンスを逃したのである。

  (11月下旬、「府中の森公園」の紅葉が美しかった)

 

 映画「武蔵野夫人」の冒頭、武蔵野丘陵の自宅から東の空を眺め、「おお、ずいぶんひどくやられているなあ」と、1人の男性が暢気そうにつぶやくシーンがある。アメリカ軍の空襲で東京都心に激しい火の手が上がっても、当時の武蔵野の人々からすれば「ひどくやられてるなあ」という感慨の対象でしかなかったらしい。

 

 要するに、当時の意識はそのぐらい遠く離れていたので、渋谷の自宅を空襲で焼かれた家族が武蔵野に避難してきても、福田恆存の脚色では「たいへんだったでしょう」と、まるで別世界の人を迎えるような穏やかな会話で終わっている。

 

 こういうふうで、ワタクシは武蔵野には全く土地勘がない。確かに東進のスタジオは武蔵野市吉祥寺にあるが、それ以外を散策した経験はほとんどない。もちろん公開授業で調布や国立や立川、武蔵小金井や武蔵境の校舎を訪問することはあったが、府中の散策はおそらく15年ぶりである。

(美術館を満喫した後は、こういうお店で焼き鳥とおでんもいい)

 

 ではいよいよ「Meは、何しに武蔵野へ?」であるが、別に美しい謎の武蔵野夫人と密会に行くようなガラでも趣味でもイケメンでもないから、ワタクシが武蔵野「府中の森」を訪ねたのは、「府中市美術館」というプチ美術館を訪ねるためなのであった。

 

 かつては1年に100回のたいへんな頻度で美術館を訪れていた今井君であるが、予備校講師になって四半世紀、余りの多忙のせいで、その頻度はナイアガラの滝よろしく真っ逆さま、1年に10回も行けば多い方、そんなていたらくに悩んでいた。

 

 その苦悩の真っ最中に、困ったコロナどんが世界を襲い、この2年間は「1年に2回」というアリサマ。いやはやホントにつまらない。海外の旅も、2年前のシルミオーネとコペンハーゲンとウィーンをラストに長いご無沙汰。サントリーホールも東京文化会館もブルーノートも、みんな超長いご無沙汰。余りにご無沙汰ばかりで、ちっとも刺激と言ふものがない。

 

 ホントは上野の美術館の常設展に行きたいのだが、国立西洋美術館は来年3月だか4月まで「大改修のため休館」。国立現代美術館は、そもそも「現代美術」というものが趣味に合わないからイヤ。竹橋の国立近代美術館は、その常設展をもう50回も訪問していて、わざわざ見なくてもほとんど全ての絵画を暗記している。

(東京・府中「府中酒場」のおでん。ダイコンを2度もオカワリした)

 

 だから府中市美術館の「動物の絵」展は、久しぶり&久しぶり、楽しみでならなかった。しかも諸君、猫に犬、馬にラクダにウサギ、分かりやすく/親しみやすく/和みやすい絵ばかりである。新宿から京王線に揺られて25分、21世紀の武蔵野は都心から驚くほど近い。

 

 府中駅から府中美術館まで、晩秋のお日さまに照らされつつ、ノンビリ散策も楽しんで30分ほど。駅前から「府中の森公園」まで、閑静な住宅地にはずいぶんクリニックが目立つ。思うに、武蔵野夫人との恋にやぶれたたくさんのツトム君たちが一念発起して猛勉強、みんな立派なお医者さまになって、こうして地域貢献を続けていらっしゃるのだ。

 

 なお、「恋にやぶれる」については、「恋に敗れる」なのか「恋に破れる」なのか、難しい議論がありそうだ。英語講師の今井なんかがその説明をしてしまえば、国語の先生方の領海侵犯ないし内政干渉になり、「強烈な不満と断固たる反対」の引き金を引きかねない。心配な人は「敗」か「破」か、身近な国語のセンセに質問をぶつけたまえ。

(同じく「府中酒場」の唐揚げ。ま、見た通りの出来栄えでござった)

 

 医院と病院とクリニックの看板をかきわけ&かきわけ、やっとのことでたどり着いた府中市美術館であるが、「動物の絵」展、期待以上の充実ぶりで大満足。特に絵の1枚1枚につけられた説明文が、マコトに平易に気取ることなく書かれていて好感が持てた。

 

 こういう上品な展覧会を眺めていると、心の底からホクホクする。新聞社がチケットを配りまくる大規模な展覧会だと、入場制限やら長蛇の列やらでイライラが募るばかりだ。

 

 ようやく会場に闖入できても、オバサマ&オジサマ団体が殺到していて、押すな押すなのおしくらまんじゅう。黒山のオバサマ集団のズラッと並んだ頭の隙間からやっと一瞥しては、周囲の人とぶつかって「すみません」「すみません」と謝ってばかり。絵になんかちっとも集中できない。

(夜8時の京王線府中駅。新宿経由、9時にはオウチに帰還した)

 

 静かにホッとできる絵をたくさん眺め、目いっぱいホクホクした後は、もちろん「酒は飲め飲め」の世界に直行だ。

 

 福岡の黒田節にも「酒は飲め飲め 飲むならば 日の本一のこの槍を 飲みとるほどに飲むならば これぞマコトの黒田武士」とある。今井君は別に黒田武士ではないが、酒の飲み方だけはマコトの黒田武士3人分の勢いはある。

 

 しかも酒の世界には「直行する」のが大事であって、店の選択に四苦八苦するとか、わざわざ新宿に出て(早稲田系)とか、銀座・赤坂・六本木に出て(慶応系)とか、そんなメンドーなことをやっていれば、ホンモノの黒田武士に槍で「ホイ!!」と突かれて笑われる。

 

「何よりもすばやく直行が大事」と信じるワタクシは、府中駅前「府中酒場」にスカッと直行。まだ午後4時半、スカッと入れるお店は、ここしかない。躊躇、ためらい、右往左往、そういうのは全て人生の浪費である。

 

 もちろんこんな店だ。美しい武蔵野夫人との出会いは期待できない。しかしそんな謎の武蔵野夫人をいちいち求めているようじゃ、残念ながら講師としても3流だ。

 

 広い店内にいたのは、たったいま近くの競馬場でオカネをシコタマ失ったらしいオジサマ3人。しかし諸君、人生の深さと濃さと味わいを知っているのは、こういうオジサマたちなのだ。酒場の楽しみは、人生の深さ&味わいを語り合うことにある。

 

 こういうわけで、おでんに焼き鳥に唐揚げで、お腹はパンパン。何だかよく分からない日本酒の熱燗で、肉体は全身ポカポカ。もちろん素晴らしい美術館のおかげで心はホクホク。オシャレな武蔵野の地でも、大切なのはパンパン/ポカポカ/ホクホク、おかしなメロドラマではないのだ。

 

1E(Cd) Kazune ShimizuLISZTPIANO SONATA IN B MINOR & BRAHMSHÄNDEL VARIATIONS

2E(Cd) Barenboim & BerlinerLISZTDANTE SYMPHONYDANTE SONATA

3E(Cd) LET’S GROOVE 

4E(Cd) Perlea & BambergRIMSKY-KORSAKOVSCHEHERAZADE

7D(DMv) THE BIRDS

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