Sat 211127 ラクダはテックリコ/コブも痩せる/目ざせキャメリー♡金メダル 4131回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 211127 ラクダはテックリコ/コブも痩せる/目ざせキャメリー♡金メダル 4131回

 小学5年の春、4歳年上の姉上と話し合って、「父の誕生日にどうしても外国タバコをプレゼントしなきゃ」ということになった。昭和の男はほぼ例外なくヘビースモーカー。我が父もまた1日に「ハイライト」2箱、いつでも灰皿がいっぱいになっていた。

 

 そのせいかどうか、小5の頃の今井君は重い小児ゼンソクでうまく息ができず、季節の変わり目になると、息を吸うのも精一杯、息を吐くのも精一杯、呼吸するだけで精神力を使い果たし、とても勉強どころではなかった。

 

 しかしそれでも、自分の父親がタバコを吸うのをやめてほしいとはちっとも考えなかった。昭和の男たちにとっての喫煙は、呼吸や睡眠やマタタキと同じぐらい当たり前のこと。「タバコは吸えません」と発言すると、「おや病気ですか?」と真顔で尋ねられたものである。

(鳥取砂丘のラクダどん。栄養が十分に足りているようだ 1)

 

 そこで小5になったばかりの4月上旬のある日、姉上と話し合って「外国タバコを買ってあげよう」と決めた。何しろ姉上はすでに中3、それなりにお小遣いをもらっていた。今井君も今井君で、ゼンソクのせいでお小遣いの無駄遣いをする気になれず、月310円のお小遣いをほとんど貯金する超ヨイコだった。

 

 そこで選んだのが「キャメル」。どうやって調べたのは記憶にないが、デパートのタバコ売り場で最も可愛らしいパッケージが、月の砂漠に立ち尽くすラクダどんの「キャメル」。さすがにコドモだけではタバコは売ってくれないから、日曜日の午後に父をデパートに引っ張り出して「キャメル」1箱をプレゼントした。

(鳥取砂丘のラクダどん。栄養が十分に足りているようだ 2)

 

 今井君とラクダとの付き合いは、あれ以来もうすっかり長くなった。都築益世:作詞、平岡均之:作曲の童謡「ラクダはてっくりこ」も大好きだ。「ラクダはてっくりこ てっくりてっくり歩く コブも背中でてっくりてっくり揺れる」「お口もぐもぐ てっくりてっくり止まる」。おお、可愛いじゃないか。

 

 しかしそもそもラクダって「てっくりてっくり」みたいな音をたてて歩くのか? 作詞者の都築益世どん、慶応大学医学部卒の医学博士だが、声に出して名前を読んでみたまえ、「つづき ますよ」だ。「続きますよ」、相当ユーモアたっぷり、楽しいジーチャンだったに違いない。

 

 加藤まさを作詞の「月の砂漠」もスンバラシイ。「月の砂漠をはるばると、旅のラクダがゆきました」「金と銀との鞍おいて、2つ並んでゆきました」。ラクダどんは、ライバルの馬さんたちに決して負けないほど、人間との付き合いが長く、深く、濃ゆいのだ。

(鳥取砂丘のラクダどん。栄養が十分に足りているようだ 3)

 

 しかし諸君、歴史の授業の最初のほうに出てくる「武具&馬具」という用語を見れば分かる通り、「血なまぐさい戦争には不可欠」という観点からは、ラクダは延々とウマの後塵を拝してきた。

 

「武具馬具」「ブグバグ」「ぶぐばぐ」と調子よく唱えられると、気のいいラクダどんの「てっくりてっくり」「お口もぐもぐ」「つづきますよ」の暢気な雰囲気では、どうしてもウマ諸君の精悍さにかなわない。

 

 しかしラクダ連だって、砂漠の民への貢献度では決して馬に負けはしない。「タラス河畔の戦い」は、751年。中国とイスラム勢力が中央アジアのタラス河畔で対峙した。中国は、楊貴妃がワガママしてた頃の「唐」。イスラム勢力は、アッバース朝。唐軍はウマ、アッバース朝はラクダで戦った。

 

 普通に見たら、「お口もぐもぐ」「てっくりこ」なラクダ連が、パカパカ&ブグバグなウマ軍団に勝てそうな気はしない。しかし諸君、この戦いではお口もぐもぐラクダ軍が完勝&大勝。3万人の中国軍で生還者はわずか数千、ついでに中国の製紙法がアラビア世界に伝わった。

(鳥取砂丘。雄大なのはいいが、右目に砂粒が入らないように注意。手術からまだ2週間も経過していない 1) 

 

 ピーター・オトゥール主演の名作映画、「アラビアのロレンス」(1962年)を観てみたまえ。砂漠の民にラクダの乗り方を教わった実在のイギリス陸軍将校が、真っ白な紅海の海岸砂丘を悠然と走っていく。ラクダで砂漠を行く姿はマコトにカッケーのである。

 

 だからラクダ連、そんなにカンタンに見くびって「てっくりこ」「もぐもぐ」とか言っていると危険なのだ。コドモのころ大好きだったエッセイストの作品の中に、「ラクダって意地が悪くて、キライな人間には強いアルカリのツバを飛ばすんですよ」「目が潰れちゃうほどの強アルカリです」と書いてあったのを思い出す。

 

 そういうところも、今井君は大好き。あんなに暢気にてっくりこ、お口もぐもぐの可愛いお目目で笑っているのに、いざとなればギュッと意地悪になるあたりも、ウマ様たちみたいなガチガチの優等生っぽくなくて、ますます可愛さが増すじゃないか。

(鳥取砂丘。雄大なのはいいが、右目に砂粒が入らないように注意。手術からまだ2週間も経過していない 2) 

 

 江戸時代の日本でも、珍しいラクダは大人気。東京・府中市美術館で明日28日まで開催されている「動物の絵」展に、江戸時代に描かれたラクダの絵が展示されている。長崎から鎖国時代の日本に上陸したラクダ2頭は、長崎から大阪・京都を経て、中山道をはるばる江戸まで旅したのだそうだ。

 

 その同じ2頭のラクダを、大阪の絵師、京の絵師、江戸の絵師が描いた。可哀そうなのは、背中のコブ。2頭ともヒトコブのラクダだったが、大阪ではまだ丸々していたヒトコブが、京の都では小さく楕円に萎んでしまい、その数ヶ月後の江戸の絵師の絵では、コブはほぼ消滅してウマみたいな平らな背中になっている。

 

 むかしむかしの砂漠の民は、砂漠の真ん中で渇死しそうになった時、ラクダのコブを切断して、コブの中の水分を分けあって飲んで命を繋いだのだそうだ。いやはや、ラクダにはつくづく感謝を捧げなければならない。

    (「すなば珈琲」のキュートなラクダ君 1)

 

 このごろは動物愛護の精神がますます浸透して、「馬術」と言ふものがオリンピック競技に含まれていることを疑問視する人々が増えているという。「近代5種」に含まれる馬術を競技から外すべきではないか、そういう議論も有力という。

 

 人間との付き合いが長くて、しかもその付き合いが濃厚&濃密であればあるほど、ふと「動物虐待か?」と思ってしまうような難しいシツケが要求され、厳しく教え込まれる動物が増える。ウマやイヌみたいな賢い動物は特に期待値が高いから、当然ハードルも上がってしまう。

 

 ムチでビシビシ叩かれながら懸命に走るウマを眺め、ハードルやら障害物やらを飛び越え損ねて転倒し、懸命にもがくウマさんの表情を見ていると、やっぱり「動物虐待かも♨︎」と可哀そうになるのも致し方ない。

 

 最近はネコなんかでも、YouTubeバエやらインスタバエのために、無理やりポーズをとらされたり、遊びたくもないオモチャで延々と遊ばされたりするケースが少なくないんじゃないか。馬術や競馬やドッグレースを虐待と呼ぶ人は今後もますます増えそうだ。

 

 しかし諸君、ウマだってイヌだって、人間とのこの程度の付き合いを、むしろ楽しんでいる可能性も否定できない。あんなムチで叩かれれば、人間なら例外なく悲鳴をあげるだろうが、ウマどんたちにとってはむしろマゴノテのひと掻きぐらいの快感かもしれない。

    (「すなば珈琲」のキュートなラクダ君 2)

 

 ワタクシは、2021年夏の東京オリンピックを眺めながら、ラクダがライバルであるウマ軍団に負けないように、「馬術」ならぬ「ラクダ術」があってもいいなと、またまた馬鹿馬鹿しい夢想に取り憑かれていた。マンガ家志望の諸君、以下のストーリーで創作マンガを制作し、どこかの新人賞にでも応募してみないか?

 

 205X年、イスラム圏で初めてのオリンピックが、モロッコのカサブランカで開催されると決まったとする。もちろんこの設定、ダマスカスやテヘランやリヤドでもいいが、厳しい戒律の国々に失礼があっては絶対にいけないし、イスタンブールはもうヨーロッパの要素が強すぎるから、砂漠も近いカサブランカあたりがちょうどよさそうだ。

 

 何しろ砂漠の国のオリンピックだから、馬術だけでは物足りない。751年にウマの武具馬具軍を打ち破ったラクダのてっくりこ軍にもチャンスを与えたい。そこで「ラクダ術」がオリンピック競技に加えられ、アラブ圏の伝統、乗馬術に引けをとらない長い歴史を誇る「乗ラクダ術」を競い合うことになった。

 

 カサブランカ・オリンピック開催まで8年。生まれたばかりの女子らくだ・キャメリーちゃんは、「オリンピックで金メダルらくだになるね!!」と、パパらくだ&ママらくだに力強く宣言。パパもママも例の長いまつげでニッコリ、娘らくだの夢を大きく育て得ようと努力する。

(鳥取の海岸。日本海に沈む夕陽の美しさは、ふるさと秋田に勝るとも劣らない 1)

 

 オリンピックが近づくにつれて、キャメリーは力強く成長。周囲からも「目ざせキャメリー♡金メダル」の声がかかる。パパもママももちろんホンキ、馬術のウマが騎手以上に褒め称えられるように、ラクダ術のラクダだって、世界のヒロインになれるはずだ。

 

 いろんな地方大会で優秀な成績を収め続けるキャメリーは、とうとう地域代表ラクダ選手権へ、もちろんいろんな挫折も経験するが、その挫折の種類や描き方は、まあ描く人の工夫にお任せする。肉体の挫折、精神の挫折、周囲の羨望や嫉妬や妨害、その全てを克服して、地域選手権でももちろん優勝する。

 

 まあこの辺は、半世紀むかしの「巨人の星」をヒントにしてくれたまえ。あんまりチャブ台返しが続くと時代遅れだろうし、「大リーガー養成らくだギプス」みたいなものが登場すると、噴飯の恐れもあり、動物虐待批判の恐れもある。逆境とその克服は、あくまでソフトに描いてくれたまえ。

(ホンキで金メダルを目ざす元気で陽気なキャメリーのイメージ。Harmonia Mundi「TCHAD:MUSIQUE DU TIBESTI」のCDジャケットより。鳥取砂丘のラクダよりグッとスリムな姿がいい)

 

 こうしてついにオリンピック代表に選出されたキャメリーは、優秀な青年騎手との運命的な出会いに至る。馬の場合は「落馬」だが、ラクダの場合は「落ラクダ」。地方大会から馴染みだった優しいオジサマ騎手が、不注意から激しく落ラクダして大ケガ、オリンピック出場は諦めなければならない。

 

 そこで新しい騎手として、美しい青い目の精悍なプリンス青年が登場。ホンマもんの王子様なら申しぶんないが、一気に王子様が登場するようじゃ、いくらマンガでも飛躍が大きすぎる。王族との関連がうっすら感じられる高貴ささえあれば十分だ。

 

 例えば、「王子様の、イトコの、家庭教師の姉が、お嫁に行った先の、長男のかかりつけ医の、友人の、イトコの知り合い」みたいなのでどうだ? そうやって、めぐりめぐって「ありゃりゃ、実はこの人、王子さまじゃないの?」という程度の高貴さのカケラでいい。

 

  ラクダ術には、「団体」と「個人」がある。正確には「ラクダ術団体」「ラクダ術個人」。団体競技では、並んだラクダ5頭が見事なラクダダンスを披露することになるのだが、その団体競技の訓練もマンガの楽しい1コマになるだろう。

 

 団体チーム5頭と青年騎士たちの友情。仲間割れの危機。危機の克服。1頭の脱落、新しい仲間との軋轢とその克服、熱い友情の発露、そうやって名作ミュージカル「ドリームガールズ」ふうに続けば、昭和のスポコンが復活だ。しかもそれを、例のラクダの長い首と、パッチリしたお目目と長いまつげと、もちろん「お口もぐもぐ」とともに描くのだ。

(鳥取の海岸。日本海に沈む夕陽の美しさは、ふるさと秋田に勝るとも劣らない 2)

 

「ラクダと騎手の合同合宿」は、もちろん月の砂漠で行われる。ラクダどうしの友情も必須だが、騎手との深いキヅナも育てなければならない。冬には軽く氷点下まで冷え込む月の砂漠で、美しい高貴な騎手とキャメリーは深夜まで、蒼く美しい満月を見つめながら、今までの思い出と大きな夢を語りあう。

 

 そしてまもなく砂漠に真っ赤な太陽が昇り、白い砂漠は激しい砂嵐に包まれ、ようやく嵐が止んだ美しい砂丘を、騎手たち&ラクダたちが一気に駆け上がる。地平線の先に浮かぶのは、カサブランカの白い街。いよいよオリンピックの舞台が整った。

(鳥取駅前には、大丸とホテルニューオータニが並ぶ。昭和の繁栄が如実に伝わってくる)

 

 団体競技での人馬ならぬ人&駱駝が一体となった見事な演技。団体金メダルに熱く沸く騎手とラクダたち。その感動も冷めやらぬうちに、ついに個人競技の合図が聞こえる。「ラクダ術個人」の会場は、大西洋の波が打ち寄せるエッサウィラの海岸。大西洋に沈む夕陽が夢のように美しい。

 

「目ざせキャメリー♡金メダル」、観客席からの大歓声&大合唱の中、美しい高貴な騎手プリンス君が、キャメリーの丸いコブを優しく何度か撫で、「行くよ、いいね♡」「大丈夫だね♡」の一言。その次の瞬間、冷たく蒼い月の砂漠の思い出を胸に、若いキャメリーはついに夕陽に向かって走り出す。

 

 ま、ストーリーはそこでおしまい。永遠のライバルとなる男子ラクダが出現、キャメリーが金メダルを獲れたかどうかは、映画「ロッキー」の結末と同じ形式で少し濁したって構わない。これで連載10回、万が一大ウケしたら、パート2の出番だって待っている。

(鳥取大丸のキャンディー売り場。昭和の日本の百貨店には、こういうメリーゴーラウンド的な量り売りキャンディー売り場が必ず存在した)

 

 以上、馬鹿馬鹿しいというか、むしろ駱駝駱駝しい妄想を膨らませながら、夕暮れの鳥取の街に帰ってきた。ポンポンの中は昨日の写真で示したカニさんたちでいっぱいだから助かったが、諸君、鳥取の駅前で晩ゴハンにありつくことは困難だ。

 

 駅前には老舗デパート「大丸」もあり、ホテルニューオータニも存在する。かつての鳥取の繁栄ぶりをうかがわせるが、残念ながら大丸にもニューオータニにも、飲食店テナントはほぼ皆無。メシ屋とおぼしきものは、「笑笑」などチェーンの居酒屋が数軒、寂しく駅前通りに並んでいるだけである。

 

 こんなに駅前が寂しくては、とても「うっとり、とっとり」どころではない。「うっとり、とっとり」とは、ANAがやっているキャンペーン名であるが、鳥取県ならぬ「蟹取県」(昨日の記事参照)、「ウェルカム」をもじって「ウェルカニ!!」というポスターもあり、今やラクダに夢中の今井君としては、むしろ「ウェルキャメ!!」の気分である。

   (ウェルカニ!! うっとり鳥取は、カニ味噌も絶品だ)

 

 こういう薄暗闇の鳥取駅前で今井君が発見したのは、老夫婦2人で何とか経営しているらしい持ち帰り専門の唐揚げ屋。ダンナは腕組みしてテレビを眺めているだけ、商売はもっぱら奥方が精を出している。

 

 その唐揚げがなかなか旨そうなので、思い切って7個を購入、鳥取から大阪まで2時間半、ラクダの夢を見ながらゆっくり唐揚げを貪り、たっぷりお酒も飲んで帰ってきた。

 

 ラクダの夢がニワトリの夢に変わりそうなほど、胃袋はカニまみれ&鶏まみれ。いやはや、このだらしない西日本旅、まだまだ「つづき ますよ」の気配が濃厚なのであった。

 

1E(Cd) Wand & BerlinerSCHUBERTSYMPHONY No.8 & No.9 2/2

2E(Cd) Alban BergSCHUBERTSTRING QUARTETS 12 & 15

3E(Cd) LET’S GROOVE 

4E(Cd) Richter & Borodin QuartetSCHUBERT”TROUT”  “WANDERER”

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