Thu 211125 リスニングテストの旧態依然/4技能はどこへ/文楽と「燗の美穂」 4129回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 211125 リスニングテストの旧態依然/4技能はどこへ/文楽と「燗の美穂」 4129回

 仕事の合間に、ふと「10年後の大学入試はどうなっているんだろうか?」と考え始めると、それがあんまり気がかりで、目の前のことに集中できなくなる。

 

 1111日に関西シリーズの前半が完了、12日はトロッコ列車に嵯峨野散策、徹底的に京都散策を満喫した訳だが、平野屋のイノシシ鍋をつつきながらも、やっぱりふと「4技能はどうなっちゃうんだろう」「あんなに一世を風靡したのに、このまま立ち消えになっちゃうんだろうか」と考え込んでしまうのだった。

(大阪梅田・インターコンチネンタルホテルのクリスマスデコレーション。ディズニー系キャラクターとのコラボであるらしい 1)

 

 1112日の夕暮れには、京都から大阪に移動。梅田のインターコンチネンタルホテルにチェックインして、翌日の文楽に備えた。予定では、朝11時に国立文楽劇場に入り、とりあえず1人で第1部を楽しんだ後、午後2時には恐竜時代からの友人と待ち合わせ、第2部を観る予定になっている。

 

 インターコンチネンタルホテルは、もうとっくにクリスマス一色。というか、どこのホテルもみんなハロウィーンが終了した瞬間から一気にクリスマスモードに移行するのであるが、インターコンチも、このあと4連泊したリッツカールトンも、今年は特にデコレーションがド派手。リベンジ・クリスマスの様相を呈している。

(大阪梅田・インターコンチネンタルホテルのクリスマスデコレーション。ディズニー系キャラクターとのコラボであるらしい 2)

 

 しかしやっぱりワタクシは、英語4技能の今後が気がかりで気もそぞろ。だってホンの2年前までは4技能の天下が続いていて、まさかこれほどみんながいきなり「4技能って、なんだっけ?」「民間テストって、なーに?」と知らんぷりを決め込む事態になるなんて、想像もできなかった。

 

 かく言う今井君も、2010年を過ぎるか過ぎないかぐらいから、時代の趨勢を肌で感じ取らざるを得ず、事あるごとに「4技能バランスよく」「読む・聴く・書く・話すを満遍なく」と、胸を張って繰り返してきた。

 

 いやはやこの2年、講師を含む予備校関係者がみんな4技能について口を噤んでいるのを眺めつつ、「明日の風は明日吹く」というか何というか、「威勢のいいほうについていくとロクなことにならないな」というか、要するに祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり」「盛者必衰の理をあらわす」としか言えないのである。

(これはまたグッとスタンダードなクリスマスツリー。大阪梅田・インターコンチのロビーにて)

 

 諸君、今のワタクシの考えはこうだ。「結局のところ4技能って、20世紀の忘れ物なんじゃないか」。特にワタクシが思うのは、「音声だけを切り離した形のリスニングって、発想が古過ぎないか?」ということである。

 

 20世紀には、画像も動画もみんな切り離して、音声だけで相手の話を理解しなければならない場面が多かった。「電話」というものがその代表格だったし、「ラジオ」がメディアの横綱格。大事なことはみんな電話で伝え合い、大事な情報は全てラジオのニュースが伝えていた。

 

 だから20世紀の終盤まで、画像も動画もなしに音声だけで情報を聴き取るコミュニケーション能力は必須。何しろ諸君、信じがたいだろうが、相撲中継もサッカー中継もラグビー中継も、1980年代に入る頃まではラジオが主流だったのだ。

  (11月13日は、朝から晩まで徹底して文楽を満喫 1)

 

 動画なしのサッカーにラグビー、動画なしのお相撲に野球。音声だけでサッカーの空間やラグビー空間を把握し、国技館や甲子園球場の今の激闘の有様を、音声のみでカンペキに理解しなければならなかった。

 

 海外を旅するのでも、情報交換はすべて電話。ホテルのフロントからの早口の電話を理解できなければ旅は困難だったし、航空会社の人とのやりとりも例外なく電話だけ。それがいったんビジネスの世界になれば、「音声だけで数十億ドルや数百億円をやりとり」という恐るべき世界が待っていた。

  (11月13日は、朝から晩まで徹底して文楽を満喫 2)

 

 しかし諸君、これからの21世紀中盤、果たして「動画も画像もない音声だけのコミュニケーション」などというものが生き残るだろうか。

 

 現在の「リスニングテスト」は、民間テストでも大学入試でも、ヴィジュアルと全く切り離された音声を聞き取る能力しか試さないことになっているが、そんな形式が21世紀に即応していると考えられるのだろうか。

 

 まあ、「ヴィジュアルと切り離された音声のみを楽しむ」という喜びも、昔から存在しないわけではない。「レコード」「CD」がまさにそれであるし、ラジオドラマや大相撲ラジオ中継も同様だ。

  (11月13日は、朝から晩まで徹底して文楽を満喫 3)

 

 同じことは、13日の午前11時から午後5時まで、今井君が飽きることもなく6時間もぶっ続けで満喫した人形浄瑠璃・文楽の世界にも言える。舞台の上では1つの人形に大の男3人が貼りついてド派手な舞台を繰り広げているが、舞台の向かって右隅では、義太夫の太夫と三味線弾きが音声の全てを担当している。

 

 文楽についても「ヴィジュアルなしの音声のみ」という楽しみ方はあって、それが「素浄瑠璃」である。人形も舞台も一切ナシにして、聴衆は義太夫と三味線のみに集中する。むしろクロートは、そういう素浄瑠璃のほうを好むらしい。

 

 能の世界でも、舞台は一切ナシにして謡曲だけを満喫する楽しみ方があり、NHK-FMなんかでも、20世紀までは日曜日の朝に「謡曲の時間」という番組があった。能舞台ナシ、ラジオの電波で聞こえる音声だけに集中するのだった。

  (11月13日は、朝から晩まで徹底して文楽を満喫 5)

 

 しかし諸君、それはやっぱりクロート連だ。ラジオでの歌舞伎中継、ラジオのラグビー中継、クロートはラジオの大相撲で「ガーンとぶつかった、つっぱった、つっぱった、ウワワワアーッ」と絶叫するだけの相撲中継のほうがいいのかもしれないが、国民の99%を占めるシロート連としては、能も歌舞伎も文楽もサッカーも日本シリーズも、みんなヴィジュアル付きがいい。

 

 すると大学入試のリスニングでも、もし21世紀の18歳のリスニング能力を試験をするとしたら、ヴィジュアル付きであって当然じゃないか。

 

 だって大学受験生の99%は英語のシロートだ。小学4年生からすでに9年も勉強したはずであっても、それは学校という小さな枠の中でのこと。別に世界中を勇敢に渉猟してきた語学のクロートではない。

  (11月13日は、朝から晩まで徹底して文楽を満喫 6)

 

 だから今から10年後、遅くとも20年後には、今みたいに頼りないプレーヤーとイヤフォンをわたして、「ヴィジュアルなしの音声のみ」、要するに宅電にラジオに家電、20世紀独特の時代遅れなアイテムを使いこなす能力を試すのは、「時代錯誤」というしかなくなるんじゃないか。

 

 間違いなく語学の試験には、タブレットが必須になる。リスニング試験は、必ずヴィジュアルを伴うものに変わる。というか、変えなきゃいけない。

 

 この10年余り、雨後のタケノコみたいにニョキニョキ発生してきた「民間テスト業者」の諸君は、共通テストにうまく乗っかって受験者数を増やす努力よりも、タブレット使用前提・ヴィジュアルつきリスニングテストを早く開発すべきなのだ。

  (11月13日は、朝から晩まで徹底して文楽を満喫 7)

 

 例えば、「単なる4技能テストではなく、4技能を縦横無尽に使いこなす英語総合力テスト」と言ってもいい。ヴィジュアルつきリスニングの画面にネイティブが登場していきなりQuestionを浴びせかけ、リスニングテストは突如としてスピーキングテストに切り替わる。

 

 同様に、リーディングテストの設問が、「以上のエッセイについて500 words程度の英語で解答せよ」という形式に変われば、リーディングとライティングを統合することだって可能だ。

 

 ただしそうなっては、50万人とか100万人とかの単位で1日か2日で実施する試験は、もちろん不可能。遥かな昔、「共通一次」という名称で始まった全国民平等な「全国一斉♡学力考査」という古臭い夢は、そろそろおしまいにしていいんじゃないか。

 

「全国一斉」の見果てぬ夢は、もともとある一定の思想というか主義主張の持ち主のもの。古くは班田収授による公地公民制の理想から始まって延々、「ゆとり教育」の発想にまで繋がってきた。

 

 その反動で、とうとう中学英語に仮定法やら分詞構文やら倒置やら、年齢にそぐわない内容まで盛り込まれる始末。中3生を相手に「英語でディベート」なんてことにまでなって、英語ギライがますます増えていく。

 (京都の老舗「ふたば」の豆餅。おいしゅーございました)

 

 1113日のワタクシは、いま目の前で展開されている人形浄瑠璃の世界が、舞台と義太夫と三味線の3つに分割され、せっかくの華やかな総合芸術・文楽がバラバラ崩壊してしまうことを想像して寂しくなっていた。舞台と切り離された素浄瑠璃も、間違いなくクロートには嬉しいのだ。しかしそれでは、大半のシロートはこの世界を楽しめなくなってしまう。

 

 ま、そういうことを思いながら過ごした1日だった。文楽の終演が17時。太古の時代の友人が予約してくれた日本酒の店で、ちょうどいい温度の燗酒を楽しんだ。ワタクシが8合、太古の友人も8合、店の人たちが「飲んでもぜんぜん変わりませんね」と驚くほどの日本酒のクロートぶりを遺憾なく発揮したのである。

(馴染みの大阪「燗の美穂」。南船場から谷町六丁目に移転した。移転後初の訪問で、日本酒8合を痛飲した)

 

 そりゃ間違いなくクロートだ。だってほとんどツマミもナシに8合、2時間かからずに痛飲したのである。注文したツマミは3皿のみ。うち1皿が「炒りギンナン」、もう2皿は「渋皮つき炒りグリ」。何と今井君は、山の中のクマさんよろしく、クリ10個とギンナン20個でお酒8合、そういう世界に住んでいる。

 

 それだけに諸君、「ツマミなしのお酒」が、逆にシロートさんたちにどれほど苦しいか、「舞台なしの素浄瑠璃」がシロートさんたちにどんなに退屈か、熟知しているのである。ヴィジュアルなしのリスニングテストも同じこと。民間テスト業者の皆さま方が、可及的速やかな事態の改善に努力されることを期待している。

 

1E(Cd) Solti & ChicagoMAHLERSYMPHONY No.8 1/2

2E(Cd) Solti & ChicagoMAHLERSYMPHONY No.8 2/2

3E(Cd) Barbirolli & BerlinerMAHLERSYMPHONY No.9

4E(Cd) Rattle & BournmouthMAHLERSYMPHONY No.10

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