Thu 211104 代打で山形に向かう/どれほど代講が好きか/御茶ノ水の思ひ出  4118回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 211104 代打で山形に向かう/どれほど代講が好きか/御茶ノ水の思ひ出  4118回

 いきなり出張の命令があって「オマエ、ちょっと明日から◯◯に行ってきてくれ」なんてのは、給料をもらって生きている人間としてはマコトに華々しい瞬間である。

 

 今井君の場合は何しろ「年俸制」であるから、「給料をもらって生きている」というカテゴリーに入れてもらえるかどうか判然としないが、実際にはその年俸を12で割って、要するに月給としてもらっているのだから、やっぱり給料で生きているサラリーマンの一種である。

 

 だから、「明日から〇〇に行ってきてくれ」「明後日から▲▲に行ってきてくれないか?」みたいな依頼を受けると、思わず快哉を叫ぶ。「おお、まだまだオレは使える人間として認めてもらっているんだ」、安堵というか自負というか、そういう自信がグイグイ蘇ってくるのである。

(山形に到着。すでに公開授業2時間前だが、名店「三津屋」の板蕎麦を満喫する)

 

 ただし、何しろ今井君はイチ予備校講師に過ぎないから、「〇〇に行ってきてくれないか?」という依頼も命令も、ごくごく地味な日本国内だけである。

 

 ホンネを言えば、ワタクシはもっと派手な世界が好み。

「明後日からマドリードに行ってきてくれ」

「イスタンブール行きのチケット、総務に取りに行ってくれ」

「出張先は、オスロだ。自分で手配できるよな。旅費と宿泊費は帰国後に精算してくれ」

そういうカッケー出張なら、毎年でも毎月でも、いや毎週でもOKだ。

 

 残念なことに職種が予備校の英語講師では、ストックホルム出張もバルセロナ出張も、カサブランカ行きもブエノスアイレス往復も、まあどう逆立ちしてもありえない。

     (東京から3時間、ようやく山形に到着)

 

 仕方がないから今井君は、仕事のスキマをついて単独行動、すべて自費で世界250都市を自由自在にノシ歩き、気がつけば東進に移籍してから17年の月日が経過した。

 

 17年とは、驚くべき年月なのである。17年前に受験生だった諸君は、17年経過すればすでに35歳、社会の中堅として大活躍の最中だろう。それこそ「明日サンフランシスコに飛んでくれ」みたいな世界の真っただ中にいらっしゃる。

 

 生まれたばかりのベイビーも、17年が経過すれば、もう立派に17歳になっている。つまり今ワタクシの目の前にいる生徒諸君は、ワタクシが代ゼミに愛想を尽かして東進に移籍した2005年にこの世に「コンニチハ」を言って生まれてきた諸君なのだ。

 

  というわけで、以上のような感慨に浸りながら、11月3日の今井君は東北・山形に出張してきた。「山形に行ってきてくれないか?」という依頼が飛び込んだのは、1031日のことだった。

 

 あんまり詳しい事情はこの場では言わないほうがよさそうだが、もともと山形の公開授業をする予定だったセンセの都合がつかなくなった。センセだって人間だ。病気にケガ、その他いろんな予期せぬ事態が発生する。

 

 10月31日といえば、今井君も右目の手術から5日後のことである。確かにハレは消えた。充血もある程度は収まった。しかし11月5日から7日にかけての沖縄出張を控え、いまホントに山形出張をOKしていいか、まあ悩む場面ではある。

 

 しかし諸君、今井君は生まれついてのオッチョコチョイだ。誰か他のセンセが「病気やケガで講演会に行けない」「公開授業が急遽中止になる大ピンチ」、そういう事態に立ち至れば、自分の手術の痕が少しばかりハレていようが充血していようが、今井はスックと立ち上がる。

 

「まかしといてくんなはれ」

「何を遠慮なんかしてケツカルんや?」

「遠慮なんかしてる場合でっか? 遠慮してケツカル場合やあれへんで」

そう喚いて立ち上がった今井の迫力はすさまじい。滅多なことで制止できる勢いではないのだ。

(福島を過ぎ、板谷峠を過ぎ、米沢を過ぎれば、赤湯温泉に到着する)

 

 もう一度言うが、もしもこれが「バルセロナ出張」「サンパウロでお仕事」「メルボルンに飛んでくれ」というなら、今井はもう完全に有頂天、誰がどう制止しようが聞く耳は一切もたない。

 

 ところが実際のお仕事は、「山形」。うーん、地味だ、地味すぎる。しかし諸君、自らの立場を冷静に確認しようじゃないか、ワタクシは確かに大ベテラン、ワタクシを凌ぐ実力の持ち主なんか、おそらく滅多なことじゃ見つからない♡

 

 しかしやっぱり予備校講師だ。いきなり「マルセイユ」、いきなり「ブダペスト」、いきなり「アレクサンドリア」、そんなド派手な出張は望むべくもない。

 

 1031日に依頼された突然の出張は、「山形」。その事情は、とりあえずヒミツ。昨年や一昨年に頻発した情けない女性スキャンダル系とは完全に&完全に、超完全に異質であるが、とにかく今井君が代打で行けば大いに役立ち、行かないと困ったことになるらしい。

 

 それなら、よおし、行っちゃお、行っちゃお。手術した右目に消炎効果の高い高級目薬をポタポタ垂らしながら、11月3日の今井君は、東京駅から山形新幹線に乗り込んだ。

     (山形。三津屋にて。山形はキノコも旨い)

 

 そもそも諸君、むかしからワタクシは「代講をお願いします」という依頼が大好きなのである。思い起こせばまだ新人だった駿台予備校時代、「富吉センセ(仮名)がご病気なので、2学期の終わりまで代講をお願いします」と依頼があった。1990年代後半の横浜校でのことだった。

 

 何故かそのすぐ後に、同じ駿台横浜校で「宝恵センセがしばらくお休みになるので、代講をお願いできませんか?」という依頼が続いた。うーん、偶然と言えば偶然だったのだろうが、もちろん代講大好き人間の今井だ、富吉センセと宝恵センセ、2人の先輩の代講を意気揚々と引き受けた。

 

 その1年後、駿台の御茶ノ水本校でまたまた代講の依頼がきた。それがそのままワタクシ今井の晴れ舞台に繋がったのだったが、「入藤センセ(仮名)が国立♡川口大学(仮名)の准教授に就任されました」「金曜日の御茶ノ水本校ですが、午前の4コマ、今井センセに代わっていただきたいんです」ということだった。

 

 1990年代中盤の御茶ノ水で、入藤センセは大スターの1人。確かにまだ伊藤和夫師も奥井潔師も健在だったし、その後の駿台を担うことになった高橋・佐藤・斎藤師、マコトに地味だがしっかりした授業をされる先生方も揃っていた。

 

 しかし大島師と入藤師は完全に別格。有名大学で哲学や倫理学や論理学の授業を担当され、大学でも人気講師として名を馳せているとなれば、プライドの高かった当時の駿台の浪人生たちは、他の講師の授業はサボっても、大島師と入藤師(仮名)の授業だけは意地でも出席するのだった。

       (秋深い山形盆地、豊饒の風景 1)

 

 その入藤センセが国立大学への准教授就職が決まって、いきなり全ての授業が休講になった。代役は、当時完全に無名のイマイ。諸君、まだヒゲもナシ、執筆した参考書もナシ、授業アンケートだけは「満足率97%」だが、そんなこと生徒は誰も知らない。

 

 大スターの入藤センセがいなくなった教室に、チョー無名のイマイがいきなり乗り込んだのは、10月中旬の金曜日。当時の駿台浪人生クラス、1時間目は820分開始だ。いやはや、度肝を抜くほど早い時間帯である。

 

「今日から入藤じゃないらしいぜ」「無名・無ヒゲ・無参考書の、イマイとかいう平凡なオッサンらしいぜ」という評判が立って、1時間目はガーラガラ、出席率は20%に満たない。どれほどの屈辱だったか、まあ諸君、察してくれたまえ。

 

 しかし当時の今井には「めげる」という動詞は存在しない。いやはや、今考えても恐ろしくなるぐらい激しい授業をいきなり展開。その直後の2時間目から、出席率がグイグイ上昇した。2時間目が50%、3時間目は80%、4時間目には立ち見の生徒が廊下にまで溢れた。

 

 1時間目から4時間目まで、全て東京大学スーパー文系クラス。使用したテキストも同じ、授業範囲も同じ。成績別のクラス分けで4クラスあったというだけのことだが、諸君、今井の執念は以上のように、常にボーボー燃え盛って全てを焼き尽くす激しさなのだ。

       (秋深い山形盆地、豊饒の風景 2)

 

 そして今井はその翌年から、そのまま駿台の御茶ノ水本校・東大スーパークラスの常連講師に昇格した。文系も理系もどちらも今井が担当し、伊藤和夫師や奥井師に混じって、偉そうに踏んぞりかえって4年を過ごした。

 

 その後もっとチヤホヤされたくなって、よせばいいのに代ゼミに移籍したが、いやはや、やっぱりあの時はもう少し駿台に残って、地味に地道にギュッと頑張るべきだったと痛感する。

 

 11月3日、穏やかな秋の午後、豊かな実りの山形盆地を眺めながら、ワタクシの心は早くも真っ赤に燃え上がった。もう30年近く前、富吉センセに宝恵センセ、そして入藤センセ(繰り返しますが全て仮名です)の代講を引き受けた瞬間の輝きを取り戻したようだった。

 

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