Wed 210915 お久しぶりです/ダンナと古女房の苦闘/巨刹「習毛寺」と「遠山堂」4096回
ちょうど去年の今頃のことだった。ダンナがいきなり「オレはもう疲れた。やる気がなくなった。病気も再発した。オマエ、代わりにやってくれないか?」と言い出した。
すでに10年、ダンナを背後からしっかり支えてきた古女房は、「自分はそんなガラでも器でもない。誰か他の人を探して欲しい」と思ったが、「代わりの人」は滅多なことでは見つからなかった。
やりたいんだかやりたくないんだかよく分からない柔和な紳士と、コワい目つきばかりが目立つ石頭のオジサンの2人しか立候補者はいなかった。ガラでも器でもないけれども、いまダンナの代わりができるのは自分しかいない。古女房だからこそ分かる苦境に立っていた。
ダンナは、行動も言動も軽快な明るい男だが、その明るさが軽率や軽挙妄動に見えるのが玉にキズ。家系も人脈も閨閥も一流で、厳しい質問や追及をはぐらかすのが大の得意。欧米の要人たちの会合でもマコトにうまく立ち回り、それなりのリーダーシップさえ発揮していた。
(またまた夏の思ひ出:熱中症情報も、いつの間にか終わりになった。ワタクシは、オレンジの女子が大好きだ)
ただし、この3〜4年、このダンナにはスキャンダルとか半スキャンダルが多発した。日本のダンナとは、多くの場合ダラシない存在であって、上着のポケットからキャバクラだの高級クラブだの「接待を伴う飲食店」で働く女性の名刺がひょっこり顔を出したりする。
ママやらチーママやらの角を丸く切った名刺だの、「新人でーす♡また来てね」と走り書きのある色とりどりの名刺が出て来ても、そのスキャンダルが黒とは限らない。まあ限りなく黒に近い灰色、だから半スキャンダルとしておくが、この数年のダンナは半スキャンダルが多すぎた。
「八兵衛の寿司」という言葉が頻出した桜っ子クラブ事件。モリやカケやらで紛糾したお蕎麦屋事件。部下たちも相次ぐ失言だの「すじこ&たらこ事件」だの、言語道断に滑稽な事案でダンナの足を引っ張った。若い奥方をもらってトチ狂い、法律担当なのに金銭授受の問題で捕まっちゃった部下もいた。
これではいかに軽妙に追及から逃げ回るダンナでも、何もかもがイヤになる。そろそろ仕事はヤメにして、前出の柔和な紳士か、マスコミによればコワい目つきが人気であるらしい石頭に仕事をゆずって「院政をやるのもいいな」「後はアメリカのドナルドとゴルフ三昧でいいや」と、少し投げやりになっていた。
(またまた夏の思ひ出:広島県西条での大盛況。来年こそはコロナなしの公開授業を満喫したい)
ダンナを取り巻く状況は以上のようなものだったが、ちょうどその頃、隣の巨大なお寺で不気味なハチが大量発生した。丸い針山に待ち針を30本ぐらい突き刺したような形の嫌らしいハチである。真っ赤な屋根の下に驚くべき数の人間が生活している「毛習寺」、最近になって「毛」と「習」の力関係が逆転し「習毛寺」と看板を付け替えたらしい。
その看板付け替えの頃から、赤い屋根のお寺は周囲に対していきなり横柄かつ攻撃的になった。「オマエの家の庭先は、もともと我々のものだった」「オマエの家の池はもともと我々のものだった」と宣言しては、無遠慮に侵入を繰り返す。
何しろ巨大なお寺だから、真っ赤な屋根の下には物騒なものがナンボでも積み上げてあって、物騒な鉄や鉛や飛翔体を背景に、「もともとオレの池なんだから、何をしても文句を言われる筋合いはない」と宣言。池を埋め立てたり、漁船を大量出動させて脅かしたり、乱暴狼藉を続けるようになった。
乱暴狼藉の相手方はみんな困り果て、裁判所に出向いて「乱暴狼藉をやめさせてください」と頼み込んだ。判決が出て「乱暴狼藉はやめなさい」とハッキリ書いてあったが、お寺の住職代理代行代理みたいなオジサマが門前に現れて、「そんなの紙切れにすぎない」と鼻でせせら笑った。
紙切れを見せて「それは紙切れだ」と言われれば、トマトを見せて「それはトマトだ」とか、ピーマンを見せて「それはピーマンだ」とせせら笑われたのと同じことなので、言われた方はもうどうしようもない。
みんなですごすごオウチに帰って、苦虫を噛み潰しながら乱暴狼藉を眺めているしかなくなった。お寺の内部では人道上許しがたい悪質なイジメも続けられているらしいが、何しろ「紙切れ」と言われるのがオチだから、人々はこの問題についても苦虫を噛み潰し続けるしかなかった。
(またまた夏の思ひ出:広島県西条で名物「樽最中」をいただく)
その巨大な赤いお寺の脇に、それほど大きくないが独立したお堂があって、ここには困ったオニーサマが住み着いている。他人の家の方に石を投げつけるのが大好きで、石だけならいいが、たまに火のついた花火みたいなのも投げてくる。今日、ついさっきもまた投げてきた。
このお堂を「遠山堂」と呼ぶことにしよう。「なぜ遠山か」というに、要するに金さんだからであって、書いているこのワタクシの世代は金さんといえば遠山、遠山といえば金さん。「キンさん」と言われて「ギンさん」なんか思い出す人は、おそらく50歳代から上である。
遠山堂の石や花火が、ダンナと古女房の家の庭先に落ちて来るから、剣呑なことこの上ない。西の遠山堂から高く投げ上げられた石が、お家を超えて東側まで届くことがある。最近になって少し痩せたおかげで得意げなオニーサマは「高く投げるだけじゃなくて、低い軌道の石ころも投げつけられるようになった」と自慢するようになった。
(またまた夏の思ひ出:広島から高松へ移動中、岡山駅で高知ゆき特急「南風」に遭遇する)
東側は広い海で、海の向こうには一応「世界で一番強い」ということになっている老勇者の大邸宅があるから、ダンナはとりあえずそのオウチに頼ってここまで仕事に励んできた。
しかし海の向こうの老いた勇者は、どうやらそれほど頼りにならないのである。旗色が悪くなって「イザ」という時になると、みんなで軍用機やヘリに乗ってあっという間に引き上げて行く。その様子を眺めていたら、ダンナの病気が再発するのも致し方ない。
もちろん、21世紀から先はホンキで戦争なんか始める人は誰もいない。合理的&論理的に思考すれば、自分にとって戦争ほどソンな行動は他に1つもない。
戦争が利益に繋がったのは、古代・中世・近世までであって、その時代には「者ども、出陣じゃー♡」「おおおおー♡」などと勝鬨をあげていたらしい。ゲームや漫画や暢気な歴史番組では、みんなそういうことになっている。
ただしその勝鬨は、てっぺんの武将やせいぜいで現場の指揮をとる部将までであって、実際に白兵戦に参加する一般兵士や足軽やその家族にとっては間違いなく地獄絵図。武芸なんかちっとも役立たない。鉄と火薬と血液の匂いに苦しみ、泥水と灼熱の中でもがき、医者もなし、薬もなし、激痛に倒れて恐ろしい死を迎えるばかりである。
(またまた夏の思ひ出:岡山から高松へはマリンライナーを利用する。2階建て車両の2階がグリーン車。一昨年はこのグリーン車で総理候補のキシダさんに遭遇した)
だから、たとえ頻繁に石や花火を投げつけてきても、または物騒な武器を貯め込んで周囲を圧迫してきても、ホンキでそれを戦争に拡大する可能性はほぼゼロだ。しかしそれは「彼らもまた合理的思考を共有している」という前提の話である。
極度の緊張・絶望・恐怖・苦痛、または逆に極度の興奮と高揚の真っただ中にある場合は、「出陣じゃー♡」「おおおおー♨」という驚くべき選択肢を選択しかねない。だから、習毛寺にしても遠山堂にしても、何としても興奮と高揚と緊張の方向性に導かないカジ取りが必要。これがマコトに難しい。
そういう剣呑極まりない状況の中で、さっきも少し書いた「不気味なハチ」が、お隣の巨大な真っ赤な屋根のお寺で発生した。最初のうちはクルーズ船とか屋形船とか、お船の中の出来事で済むかと思ったが、案に相違してこちらの屋根裏にもハチがたくさんの巣を作り、我が物顔にムンムン&ムンムン、唸りをあげて大量に飛び回るようになった。
(またまた夏の思ひ出:岡山から高松へは、こんな切符2枚組だ)
困ったことになった。「ハチに刺されても痛くも痒くもない」と豪語する者もいたが、激痛に見舞われて呼吸困難に陥り、苦しんで命を落とす人も少なくなかった。クスリもないし、苦痛を予防する注射も開発まで時間がかかりそうだった。
ダンナは、「みんなで蚊帳をつってハチが去るまで待つしかない」と判断。緊急事態を宣言して一定の効果があったが、無料で配ったハチ除け布マスクが小さすぎて、「顔が大きく見える」と、極めて評判が悪かった。
仕方がないから「また蚊帳に隠れてましょう」と同じ宣言を継続し、白いセーターを着て雑誌を読みながら紅茶を飲む動画を流してみたら、「オマエは貴族か?」と世間から大目玉を食らった。
「オレはもうやりたくない」「病気だ」「半スキャンダルだ」「だからオマエやってくれないか?」と、古女房に泣きついたのが、去年のちょうど今頃だった。
ガラでもウツワでもないけれども、この情勢で引き受けないのは人でなしでしかないじゃないか。古女房は、苦笑しながら引き受けることにした(次回に続きます。次回は結構すぐだと思います)。
1E(Cd) Fischer & Budapest Festival:BRAHMS/HUNGARIAN DANCES
2E(Cd) Hungarian Quartet:BRAHMS/CLARINET QUARTET・PIANO QUINTET
3E(Cd) Alban Berg:BRAHMS/KLARINETTENQUINTETT & STREICHQUINTETT
4E(Cd) Backhaus(p) Böhm & Vienna:BRAHMS/PIANO CONCERTO No.2
7D(DMv) L'Empire de la passion
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