Wed 210421 躍進した学校の営業努力/復活への経営努力(ウィーン滞在記9)4034回
これからもまだまだ続くんだろうが、3月4月は「東大ランキング」「京大ランキング」の花盛り。これに「医学部ランキング」「早慶ランキング」「旧帝大ランキング」が加われば、新聞社系の週刊誌をはじめとするメディアは、おそらく1年中ランキング作成で食べていけるのである。
大学合格ランキングに夢中なのは、主に朝日新聞系と毎日新聞系であって、日本人の先進的オピニオン形成に貢献すべき新聞社系のメディアが、延々とこんな記事ばかり書いているのは、傍観者としてマコトに情けない。
おそらく自分たちでも内心では忸怩たるものがあるのか、次に彼ら彼女らは「どうして系」ともいうべき記事を書き始める。「何故あの高校は復活したのか?」「どうしてあの高校は躍進したのか」「公立復権の理由」「私立躍進のワケ」など、ヤフーニュースを一覧すれば、「理由」「なぜ」の文字がズラリと並ぶ。
しかしさすが朝日&毎日系は、教育産業をホメたり讃えたりは意地でも出来ないわけだから、記事の中身は「高校としての取り組み」「教員の創意工夫」を前面に押し出した記事を書く。特に英語に関しては、「型破りの先生」「授業は全て英語で進みます」「文法よりコミュニケーション重視です」のタイプの記事が紙面を飾る。
(シュテファン寺院。夜遅くグラーツからウィーンに帰ってきた)
しかしそれではまるで、「復権」「躍進」以前の高校教師たちが、創意工夫も積極性もナシに、のんべんだらりと怠惰な授業を続けていたみたいじゃないか。「ついに教師たちが立ち上がりました」。いかにも「ドラゴン桜」「GTO」みたいなドラマがお好きなのは仕方がないが、学校革命でも起こったかのような書き方では、決して真実は伝わらない。
実際に、長い低迷が続く学校でも、教師たちは懸命に誠実な努力を重ねているのである。テレビドラマの「型にはまった中堅教師」みたいに、やる気もなければ夢もない先生方なんてのは、現実にはほとんど存在しないのだ。
真実を言えば、学校で何より大切なのは、型にはまった誠実な授業を営々と続けているマジメ一本槍の先生たちなのだ。彼ら彼女らを抜きにしては、型破りの革命的授業なんか教室崩壊を招くだけであって、1989年の名作映画「いまを生きる(Dead Poets Society)」は、むしろそっちサイドから観たほうがいい。
(ウィーンの名店「Zum Figlmüller」を訪ねる)
30年以上前、昭和の塾業界には「タマ」という身もフタもない困った言葉があって、「今年はタマがそろった」「来年は苦しいよ、タマが見当たらないんだ」という言い方をした。「タマ」=「弾」「実弾」であって、要するにもともと優秀で有望な生徒のことをタマと呼んだ。
例えば関西で灘中、首都圏で開成中やら桜蔭中での合格実績で注目されたければ、授業の質の向上とか、優れた特訓教材の開発とか、そんな回りくどいことより「タマ集め」を優先したのである。今はさすがに死語になっていてほしいが、残念ながら中学受験の現場には、おそらくまだまだ残っているだろう。
思えば昭和の塾業界はあまりに激烈な戦いを演じていて、何より優先されたのはタマ集め。「タマがないんじゃ、戦えないよ」と、努力を最初から放棄して「タマの揃った塾」に転職する講師が後を立たなかった。
同じことが21世紀の塾や予備校や高校で続いているとは考えたくないが、少なくとも新聞社系のメディアぐらいは、ちゃんと正直にその辺を書いてほしい。「復活」や「躍進」には、塾でも高校でも、「タマ集め」に奮闘努力した言わば「学校営業マン」の存在が大きいのである。
(ウィーンの名店「Zum Figlmüller」にて 1)
そりゃそうだ。首都圏や関西圏で「御三家」とか「新御三家」とか、そんな栄光の座に長く君臨する学校なら、昭和の言い方をすれば、ほとんどの生徒が「タマ」「弾」そのものである。
別に「秘密の授業」「伝説の名講義」なんか一切必要ナシ。中勘助「銀の匙」を1年かけて読みましたとか、「先生は授業をしません」「生徒が自分たちだけでアクティブラーニングに取り組みます」とか、その類いの余計なことを全く考えなくても、復権やら躍進やらは何の苦もなく出来てしまう。
何しろ諸君、ほぼ全員が小2とか小3とか、10歳になるかならないかの幼い時代からテスト&テストの生活に、栄光の勝利を収め続けてきたウルトラ優秀生なのだ。1クラスまるまる、数学オリンピックで金メダルをとってもおかしくない人々なのだ。
むしろおかしな授業なんかせずに、ずっと放置してあげたほうが論理的思考力は成長する。もっと言えば、東大とか京大とか医学部とか、旧帝大とか早慶とか、そんなおかしな国産のワクや足カセから自由にしてあげたほうがいい。
新聞社系の記者やジャーナリストの諸君は、「ランキングに夢中」という愚かな原稿をそろそろ卒業して、「国産の足カセから彼ら彼女らを解放すべきだ」と主張すべきなんじゃないか。少なくとも、「タマが豊富なんだから、この実績や復権や躍進は当たり前だ」と、堂々と真実を書くべきなんじゃないか。
あんまりホントのことを書くと叱られるだろうが、学校の営業マンが20年30年にわたって懸命に努力した足跡を、正直に日本の皆さんに伝えるべきだとワタクシは考える。中学受験の名門塾や、高校受験の定評ある塾に、「優秀な生徒をください」と、学校の営業マンが懸命に頭を下げて回りつづけたのだ。
言葉は身もふたもないが、これはまさに「ドブ板」の努力。平身低頭して「タマ集め」を数十年継続し、それがある年ついに実を結んで「躍進」につながる。その努力の蓄積を報道しないんじゃ、報道の名に値しないじゃないか。
(ウィーンの名店「Zum Figlmüller」にて 2)
諸君、1960年代まで東大合格者数でダントツのトップだったのは、東京都立日比谷高校。何しろ元は栄光の東京府立一中だ。東京の秀才はすべて日比谷に集まった。言わば「タマ」だらけ。往年の人気作家・庄司薫は「赤頭巾ちゃん気をつけて」の中で、「東大なんか合格して当たり前」という1960年代の日比谷高校の様子を見事に描き切った。
ところが間もなく悪名高い「学校群制度」が導入され、日比谷は突如として「タマがなくなった」のである。1970年代からの50年間は、まさに日比谷の暗黒時代。マジメな教員たちがどんなにマジメに努力を積み重ねても、英語で言う「Amo」がなければ、いかなる魔弾の射手でもマトは射抜けない。
大事なのは、結局のところAmo。Amo集めの営業マンか、または学校群制度をやめさせるべく、東京都庁やら文部科学省で暗躍するニンジャ部隊が必要になった。もちろん、他の熱意ある学校にもニンジャ部隊は存在し、まさに伊賀と甲賀のニンジャ連がそこいら中で暗躍を続け、半世紀にわたって日本中で激しいツバ競り合いを演じたのである。
(ウィーンの名店「Zum Figlmüller」にて 3)
もう1つ、「営業ではなくて、経営」という側面もあった。営業とは「昭和のタマ集め」であって、それは中学受験塾やら高校受験塾との泥臭い付き合いを意味するが、「経営」サイドは塾との付き合いの延長が必要。カンタンに言えば「入学後もお願いしますよ」「生徒の成績アップは、ウチの塾におまかせください」という熱い握手の世界である。
生徒まかせにすれば、生徒は親の意見につられて「定評ある予備校」に漫然と通い続ける。まあ駿台か河合塾。勉強が苦手なら代ゼミ。またはチャート式みたいな親の世代から続く分厚い参考書を、買っただけで満足する。買うけど、サッパリ開かない。低迷期の名門を要約すれば、要するにこういうことである。
あとは、巨大予備校のガラガラの教室で延々と居眠り。最悪の場合は、若いイケメンのセンセとSNSでやりとりして、やがて危険でイケナイ交際なんかが始まり、そりゃもうさすがに勉強どころではなくなってしまう。
そうならないように、高校の管理&経営陣が思い切って「塾に通うなら、〇〇塾に行きなさい」と言い切ってしまう。もちろんその〇〇塾とは綿密&緻密に連絡をとって、大学合格実績においても長く連携を保持する。「一蓮托生」みたいな話だが、そうでなければ名門の高校経営陣だって安閑としていられない。
ランキング作成に夢中のメディアは、そろそろランキング作成の閉塞性に気づいて、取材の幅を思い切って広げていただきたい。躍進ないし復権した高校の営業努力と経営努力を、どんどん深く掘り下げること。そういう徹底的にマジメな取材をしたくて、ジャーナリズムの世界に入ってきたんじゃあーりませんか?
というわけで諸君、思わず自分の専門分野の中身に夢中になるあまり、「旅行記」の路線を踏み外してしまった。許してくれたまえ。大学町グラーツでは、さすがに目ぼしい飲食店に出会うことはできなかった。グラーツでは安いお店でビールを3杯ほど飲みほして満足、暗くなる前に特急列車でウィーンに戻ってきた。
本日の写真は5枚とも、ウィーン。シュテファン寺院の裏町の名店で晩メシを楽しんだ。2019年12月23日。コロナ前のクリスマス♡イブイブである。どこの店も大混雑だったが、さすがにすばしこい今井君だ。あっという間に人気店の隅っこのテーブルに入りこみ、名物料理にドイツビア、好きなだけ太鼓腹に詰め込んでホテルに帰ってきた。
1E(Cd) Karajan&Berlin:HOLST/THE PLANETS
2E(Rc) Amadeus String Quartet:SCHUBERT/DEATH AND THE MAIDEN
3E(Rc) Solti & Chicago:BRUCKNER/SYMPHONY No.6
4E(Rc) Muti & Philadelphia:PROKOFIEV/ROMEO AND JULIET
7D(DMv) THE ASSIGNMENT
10F(Ms) あやしい絵展:国立近代美術館
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