Sat 210403 樽のタガが外れる/気球は舞い上がる(アドリア海岸探検記25)4020回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 210403 樽のタガが外れる/気球は舞い上がる(アドリア海岸探検記25)4020回

 思えばあの時パチンとはじけたのは(スミマセン、昨日の続きです)、人間としての大切なタガであった。同時に「ぬるっ」と溢れ出たのは(すみません、ホントに昨日の続きです)それまでの少年期と青年期に貯めこんだ過去の蓄積だった。

 

 スミマセン、「パチン」「ぬるっ」については、昨日の記事の第4パラグラフ4行目を参照してください。マトモな人間のタガが外れて、学校で蓄積したジェル状の内容物がヌルッ&ドロッと流れ出せば、まあそれなりの悪臭とともに、古い倫理や道徳も流出してしまったはずだ。

 

 しかし諸君、タガが外れた本人はマコトに自由になり、伸縮自在の気球みたいな気分になって、世界をどこまでも浮かれ歩いた。気球とは、要するに穴ぼこのあいた不安定きわまりない不定形のシロモノであって、熱くなれば意気揚々と浮かび上がり、冷えて縮まっちゃえば情けなくションボリ地面にへたり込む。おお、まさに今井君だ。

 

 しかし、タガにギュッと締めつけられた樽やオケやタライもツラい。きついタガのせいで、自らの容積が完全に決まってしまう。「これ以上は入りません」とは「ここまでしか出来ません」と言ふことであって、伸縮自在の喜びや楽しみや驚異とは無縁である。

(ポリニャーノ・ア・マーレ、アドリア海岸の店で昼からまたまた安ワインを1本注文する)

 

「どっちがいいか」という話になれば、おそらく日本人のお好みは後者である。「これしか入らない」「これ以上はできない」というのは、欠点に見えるかもしれないが、他者からすればそれこそが「信用の原点」である。ビーカーでもフラスコでも、まさにそれしか入らないからこそ、限りない信用を得られるわけだ。

 

 一方の伸縮自在クン、こちらは諸君、マコトに便利で面白いが、いかんせん信頼性に欠ける。ギュッと固い信用は得られない。いくらでも詰め込める不定形で大容量の容器なんてのは、ハタから見て危険きわまりない。いつどこでパンとハジけて散るか誰にも分からない。大海原の真ん中でハジけてバラバラになるような船に、いったい誰が乗り込むんだ?

 

 しかしそれは、乗り込む側の人々の話。タライ自身、オケ自身、樽自身の立場に立って考えれば、「こんなタガ、パチンと切っちゃいたいよ」であり、「バラバラになって、とりあえず一度だけ『容量は不明』『正確には容量ゼロ』『何にも入れたくありません』と宣言してみたいじゃないか。

 

「フワフワ気球みたいに、どこまでも飛んでいきたいです」であり、そのためには気球は熱くなりさえすればいいんだし、冷めてしょんぼり縮みさえしなければいいんだから、こりゃ気が楽だ。つねに熱くカッカ&カッカ、炎を消さずにいるだけでいい。

  (ラ・テラッツァ。マコトに庶民的なピザ屋に入った)

 

 こうして諸君、2019年夏の今井君はまたまた熱く燃え上がり、アドリア東海岸にたどり着いたのが8月28日。8月28日:オストゥーニ、8月29日:アルベロベッロ、8月3031日:マテーラ、9月1日2日:バーリ9月3日:ターラント9月4日:ポリニャーノ・ア・マーレ9月5日:ブリンディシ9月6日7日:ナポリ&カプリ。そういう長い旅を続けて、9月8日に再びポリニャーノ・ア・マーレに姿を現した。

 

 しかしこうして長い旅を続けていれば、やぱり気球は冷えてくる。東京では、すっかり痩せて元気のなくなった17歳のニャゴロワが待っている。そろそろ東京に帰りたい。帰ってニャゴの白い背中ぐらい撫でてやりたいじゃないか。

 

 そこで諸君、翌日にはホテルをチェックアウトしてアドリア海の旅を終える決意を固め、ポリニャーノ・ア・マーレの地味なピザレストランで安いワインを1本グイッとあけて、しばし南イタリアに別れを告げることにした。

(クアトロ・フォルマッジョ。緑色は、パセリやブロッコリーではない。ブルーチーズの豪勢なカビである)

 

 入ったお店は「ラ・テラッツァ」。英語なら「ザ・テラス」、マコトに庶民的なお店であって、屋根付きのテラスにたくさんのテーブルを並べ、アコーディオンとギターの小さなバンドが演奏しながら、お客にどんどん絡んでくる。お客にもマイクを向けて歌わせて、お昼からどんどん盛り上がろうというスタイルだ。

 

 この場合、もしマイクが回ってくれば、今井君はアジア人代表として持ち前の美声を披露するのもヤブサカではない。マイクを向けられてモジモジするなんてのは、不定形の気球人間にふさわしくない。

 

 イタリアなら「フニクリ&フニクラ」ないし「帰れソレントへ」。マイクが来たら思い切り日本語で歌い込む覚悟でいた。日本人なら日本語で行くぜよ。イタリアの人々の度肝を抜くような美声だし、アカペラだって一切ひるまずに歌い切ってみせる自信がある。NYのリトルイタリアでだって、ワタクシは常に同様の覚悟で店に入る。

(ポリニャーノ・ア・マーレで夕暮れにもう1軒。さすがの今井もそろそろ限界だった)

 

 しかし諸君、そう考えてニヤニヤ、赤ワイン1本グビグビ、ピッツァ・クアトロフォルマッジョをワシワシやっていたら、隣のテーブルのデカい旦那が、いきなりウェイターにデカい声で怒鳴り出した。ウェイターだけではない、奥方にも「オレも、ああいう派手な飲み方をしたいんだ」と大声を張り上げた。

 

 見れば、旦那の前には小さな小さなワイングラス。旦那がデカい分、グラスは相対的にますます小さく見える。今井君のテーブルの上の大っきなボトルを顎で示しながら、「オレはあの日本人みたいに、ワインはボトルでガブガブやりたいんだ」と顔を紅潮させた。

 

 彼も、今ばかりはタガを外してもらいたいのだ。気球に乗って舞い上がりたいのだ。ワインはボトルでグビグビ、ピザは好きなだけワシワシ。定型&定量の樽やタライやオケでいるより、今日だけはワインを無際限に流し込める不定形の気球になりたいのだ。

 

 しかし諸君、マコトに残念なことに旦那は、奥方とウェイターたちにうまく丸め込まれてしまった。いやはや、イタリア人もやっぱり、みんなで丸め込んで不定形&伸縮自在な気球への夢を「なかったこと」にしてしまうのが上手なのである。10分後、「樽の旦那」は奥方に連れられて大人しくスゴスゴ店を出て行った。

 

 さてそれでは、ワインも1時間ですっかり飲み干したし、ピザもすっかり食い尽くした。今井君もしばしションボリして気球をたたみ、ホテルはチェックアウト、バーリからヒコーキに乗り込んで、ニャゴの長い尻尾でも引っ張りに東京へ帰ろう。そういう寂しい午後になってしまった。

 

1E(Cd) MenuhinSCHUBERTSYMPHONY No.2 & No.6

2E(Cd) MenuhinSCHUBERTSYMPHONY No.3, No.5 & No.8 

3E(Cd) MenuhinSCHUBERTSYMPHONY No.9

4E(Cd) Gunner Klum & Stockholm Guitar TrioSCHUBERT LIEDER

5E(Cd) Wand & BerlinerBRUCKNERSYMPHONY No.4

6E(Cd) Blomstedt & Staatskapelle DresdenBRUCKNERSYMPHONY No.7

7E(Cd) Wand & BerlinerBRUCKNERSYMPHONY No.8 1/2

8E(Cd) Wand & BerlinerBRUCKNERSYMPHONY No.8 2/2

9E(Cd) Wand & BerlinerBRUCKNERSYMPHONY No.9

10E(Cd) RicciTCHAIKOVSKYVIONLIN CONCERTOPAGANINICAPRICES

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