Mon 200420 「ないものねだり」の愚/写真のみマルメ探訪(デンマーク紀行9)3927回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 200420 「ないものねだり」の愚/写真のみマルメ探訪(デンマーク紀行9)3927回

「なんにもしないでいてください」ということだから、日々その指示に従って、なんにもしないでいる。くまのプーさんが「なんにもしないをしているところ」と発言すれば、その意外性がたいへん新鮮に響いた日々は終わって、なんにもしないでいることに、人々はどんどん疲弊してくる。

 

 人の疲労度を推し量るのに最も優れたモノサシは、「どのぐらい意地悪な発言をするようになったか」である。疲れれば疲れるほど人は意地悪になるので、「性格がメッチャ悪い」と非難されるような人は、心も肉体もおそらく激しく疲労し、その疲労が絶望的に蓄積しているのである。

 

 ズラリと並んだYahooニュースの見出しを眺めながら痛感するのは、人々の疲労の深さと濃厚さである。先週までは「チクリ」「疑問」「バッサリ」程度で止まっていたのに、今週に入って「激怒」「怒り爆発」「吠える」の文言が目立つようになった。

(今井君は、料理する。4月18日は、カレースパゲッティ・目玉焼き2個・ベーコン・オニオンステーキ。オニオンステーキの醤油がちょっと焦げちゃったが、ベーコンのエキスが染み込んでマコトに美味であった)

 

 あとはもう、何でもかんでも政権批判であり、首相や閣僚についての個人攻撃と人格否定である。何をやっても批判、何をやっても否定、「困っている人に30万円」をやめて「一律10万円」にしても「ダメ」「遅すぎる」「ドタバタ」「ケチ」、そう言い放って大見得を切るだけに終わる。

 

 冷静に記事を読んで計算してみると「そんなオカネどこにあったの?」という驚くべき金額を、何とかヤリクリして振り分けても、「そんなんで足りるわけねーだろ!!」と、冷笑だか失笑だか憫笑だか、皮肉な表情で向こうを向き、「政権がバカだから」とウソぶいてオシマイになる。

 

 予備校の世界の古老ないしは超ベテランとして、若い諸君にはもう一度ケネディの名言を確認していただきたい。

Ask not what your country can do for you.

Ask what you can do for your country.

アベノマスクやらコラボ動画やらを、失笑&冷笑して悦にいるのは、それこそ「ダメな」メディアに任せておけばいいのだ。

(2019年8月1日、スウェーデンのルンドからマルメに移動する。スウェーデン第3の都市。移民が多く「治安が悪い」と悪口を言われているようだ)

 

 超一流のはずのMorning Sun紙(仮名)は、3日前には「ブーメランを食らった」事件でまあ大失策。首相に「御社も布マスクを送料込み4000円近くで売ってるじゃないですか」とクリーンヒットで返されて、Morning Sun(以下MS)の記者はしょんぼり、ヒトコトも返せなかった。

 

 何度もお断りしている通り、ワタクシはMSの愛読者、読み始めたのは小学3年だ。中2ぐらいまでのワタクシの精神の原形質は、天声人語と社説と「かたえくぼ」と「社会戯評」で形成され、将棋欄と囲碁欄と読書欄で鍛え上げられた。日本のメディアの代表格MSを愛すること、決して人後に落ちない自信がある。

(マルメ駅前、市庁舎の勇姿。治安なんか、全く悪くない。ただし駅構内のマックで「トナラー」に悩まされた)

 

 だから諸君、ワタクシは4月17日のMS紙を読んでマコトに誇り高かった。退職させられた官僚・落語を忘れた落語家・職を放擲した元首長・お笑いをやめてMC業に特化したタレント、みんなが国内問題しか論じない論壇の貧困の中、ひとりMSのみは堂々と途上国の困窮を取り上げた。

 

 ブラジル、トルコ、イラン、北アフリカ諸国の苦境。ついに感染が拡大し始めたサハラ以南のアフリカ諸国の危機。中国国内でアフリカ系住民に加えられる差別について触れていないのは残念としても、オランダでの医療崩壊と高齢患者への残酷な宣告にまで言及したのは、「さすがMS、愛読してきた価値はあった」と、胸が熱くなる思いだった。

(4月17日朝日新聞第3面。「さすが愛読紙」、途上国の危機を大きく伝えてくれていた)

 

 だからこそ、17日の首相会見におけるMS記者の質問を聞いて、ワタクシの落胆は深かった。1ヶ月半前の「質問打ち切り」に「記者席から怒号も」とまで書いたMSなんだから、確保された質問時間にはきっと国際情勢に関わるスケールの大きな質問をしてくれるだろうと期待していたのである。

 

 それなのに、全国に同時中継されたMS記者の質問は「布マスクの配布やコラボ動画の件について批判がありますが、ご自身はどうお考えですか?」という一種の個人攻撃系。「途上国」の「と」の字も、「支援」の「し」の字も、「世界」の「せ」の字もなし。視野の狭さを露呈することこの上ない。

 

 この質問は、芸能誌の領域であり、スポーツ紙の領分だ。怒号をあげてまで長い質問時間の確保を要求したあげく、多忙な専門家まで同席した質問の場で、一流紙の記者が発するべき質問ではない。アベノマスクが世界の笑い者だと言うなら、この質問もまた同様に世界の笑い者だ。

(4月18日の朝日新聞第1面。「ないものねだり」はそろそろヤメにしないか)

 

「御社のサイトでも」のブーメランとクリーンヒットがよほど悔しかったのか、翌日のMS1面ではマコトに大きなスペースを割いて「首相の言葉が人々に届いているか」と問いかけている。1面のど真ん中、「視点」というタイトルでの署名入り記事となっている。

 

 その趣旨は、「首相はプロンプターを見る時だけは雄弁だ。質問されると手元のカンペばかり見ている。森友や桜や奥方の行動の問題で不信の高まった首相の下で国難を迎えた国民は不幸だ。プロンプターやメモよりも国民に視線を合わせて発言すべきだ」。小学校の帰りの反省会よろしく、「先生に言いつけてやる!!」の勢いだ。

 

 途上国の窮状や先進国での医療崩壊を訴えた紙面作りに感服したぶん、あの質問とこの「言いつけてやる!!」への失望は大きかった。その質問なら芸能誌に任せ、反論されても鷹揚に構えるというスタンスをどうして取れなかったんだ?

(スウェーデン国鉄の車両で、ルンドからマルメに移動する)

 

 ちょうどあの日は、トランプどんが「WHOへの拠出金を停止する」と言い放った日だ。MSにふさわしい質問として

「国内にばかり目が向きがちだが、オリンピックを控える国として、途上国支援についてはどうお考えか?」

WHOへの対応として、アメリカに追随するか、それともハッキリ日本独自の意志を貫くのか?」

など、ナンボでも考えられたはずだ。結局その件は、他社の記者に先を越されてしまったらしい。

 

 いやはや諸君、いつも言っている通り、古臭い塾関係者は気軽に「質問が大切だ」「わからないことはどんどん先生に質問しなさい」などと言うが、これほどに質問は難しい。大学受験の世界でも、無反省にやたらに「質問」ばかりしたって、話はこんな滑稽話に終わる可能性が高い。

 

 ジャーナリズムへの難関を見事に勝ち抜いてきたMSのエリート記者でさえ、「怒号」をあげてまでの質問に大失敗、挙げ句の果てに「読者という名の先生」に「アベ君にイジメられました!!」と言いつけてオシマイなのだ。

(さすが北欧、座席にはゴミ箱じゃなくて、ストレートにゴミ袋がぶら下がっている。アップルのデザインもいい)

 

 というか、古老としてもっと言っておかなきゃいけないのは、「ヒーロー待望論の愚かさ」である。未曾有の危機に際して、どうやら日本の世論は茫然とするあまり、安易なヒーロー待望論に傾きかかかっている気がする。

 

「首相はもっと強いリーダーシップを発揮して」「もっと強力な策を講じるべきだ」「遅っ」「少なっ!!」と、マコトに元気にマナコを見開いておっしゃる人が激増している。「激怒」でも「チクリ」でも「バッサリ」でも、その論調は要するに「政府がダメだから」という冷笑に終始する。

    (マルメ駅前、数世紀の歴史を誇る金獅子薬局)

 

 しかし諸君、それこそ「歴史からしっかり学び取る」でなければならない。危機を脱するのに必要なのは、カメラ目線で国民の心に熱く訴えかけるヒーローではないはずだ。

 

 その種のヒーロー待望論は、危機を急速に拡大させ、そのあげく大量の犠牲者を出し、危機を1000年の長きにわたって解決困難にしてきた例のほうが多いんじゃないか。

 

 むしろ大きな危機の際には、後の世に「凡庸」「のらりくらり」「よきにはからえ」「無為無策」「優柔不断」、そういう容赦ない悪評に晒されるリーダーのほうが好ましいのかもしれない。ヒーローを待望するのは、要するに「ないものねだり」、精神が幼すぎるように思える。

(マルメ、金獅子薬局。至る所で金の獅子が吠えている 1)

 

「もっと強いリーダーシップを」と訴えるメディアは、どんな政治家を求めているのか。涙まじりのカメラ目線で国民に切々と訴えかける晋三どん? 第一次安倍政権が小泉純一郎どんを引き継いだ当初、その要請に答えてカメラ目線で日々語りかけてきたシンゾー様が、どんなに「キモい」と酷評されたか、みんな忘れてしまったのか?

 

 凡庸で軽率で無為無策、のらりくらり何もしないように構えている優柔不断な為政者だったのに、「おやおや気づいたらいつの間にか乗り越えていましたね」というケースの方が圧倒的に多いのを、歴史の授業で学ばなかったのか。

 

「お犬様」の時代には元禄文化が花開き、徳川家斉の時代には文化文政の文化が完熟した。ヨーロッパなら、凡君の代表格15世紀のフリードリヒ3世は、オスマントルコが東から濃厚な3密系で迫ってくるスーパー危機の時代、ボロクソ&ボロカス言われ続けながら50年も在位、ハプスブルグ繁栄の基礎となった。

(マルメ、金獅子薬局。至る所で金の獅子が吠えている 2)

 

 そもそも「強いリーダーシップ」って、例えば誰をイメージしていらっしゃるの? お隣の国のムン先生? 一帯一路の習近平どん? 暴れん坊将軍に水戸黄門に桃太郎侍? それとも柔道黒帯プーチンさん? ブレジネフ? フルシチョフ? スターリン? そのあげく行くつく先は、例のチョビヒゲおじさんになるんじゃないの?

 

「リンカーン!!」と絶叫し、ゲティスバーグ演説みたいなのを要求するのかもしれない。じゃ、我が晋三どんがアメリカ人並みの濃厚な強烈さで腕を振り回し、我が胸を抱きかかえ、声を嗄らして、人民の人民による人民のための戦いを訴えかけるの? その趣旨が「何にもしないで家にいてほしい!!」なのに?

(スウェーデン・マルメ、数百年の歴史を誇る金獅子薬局。キューバ・ハバナにも同じように美しい薬局があった)

 

 しかもリンカーン演説、マイクもない世界で、しかも「頭痛で」「熱があって」「疲れていて」、わずか272 words、演説は3分ちょいで終わっちゃった。大激戦で5万近い死者が出た大戦闘の現場で、前座として登壇した上院議員が2時間の熱い雄弁をふるった直後である。

 

 ついでにリンカーンさまは、負けた南部の主要都市を容赦なく焼き払う方針。諸君も「Gone with the Wind」、古臭い映画をガマンして見たことがあるだろうが、あんなふうにしてアトランタを含む大都市が灰燼に帰した。「負けた側は無条件降伏以外ありえません」「最後まで徹底的に打撃を加える」という路線が、1945年にも続いていた。

(マルメ、金獅子薬局。至る所で金の獅子が吠えている 3)

 

 もう1人、人々に言葉が届いてしまった人をあげておく。ローマ教皇ウルバヌス2世である。109511月、いやはや古い話だが、「クレルモン宗教会議」の最終日、教皇ウルバヌスの「十字軍派遣演説」は、王侯・諸侯・騎士・庶民貧民の心にあまりに強く訴えかけてしまった。

 

 もちろんカメラなし、プロンプターなし、おそらくカンペもなし、強烈な視線を聴衆に浴びせながらの大熱弁。修道士出身の教皇の、度肝を抜くド迫力の大演説だったに違いない。

 

「あなたたちが奮起すべき任務が生まれた。東に住む我々の同胞に直ちに援軍を送らなければならない。トルコ人が我らの同胞を攻撃し、地中海岸にまで進出した」

 

「すでにトルコ人は7回も我々を破り、多くの人を殺害し、奴隷とし、教会を破壊し、神の国を荒している。トルコ人の行為を放置すれば、神の国と民をさらに征服し続けるだろう」

 

「だから、騎士であれ歩兵であれ、貧富を問わず全ての階層の人々を立ち上がらせるよう、あの忌まわしい敵を根絶やしにするようにと、神はそう望んでおられる」

歴史物の映画でよく登場する「God wills it !!」の叫びである。

        (マルメ城趾の並木道)

 

 こうして文明の衝突が始まり、遠征は1270年まで続いてしまった。世界史の授業でこの演説を読まされたら、「人々の心に訴えかけること」も確かに重要だろうけれども、訴える力のある人物が全力で訴えかけすぎると、1000年かけても訴えの力が消滅しないことにも気がついて然るべきなのだ。

 

 ここは諸君、やっぱり「ないものねだり」を諦めて少し大人になり、軽率なコラボ動画に給食マスクの総理大臣に、これ以上文句をつけたり否定&批判を声高に述べたり、ブーメランの仕返しを大新聞の第1面に掲載するような痛々しいマネは、そろそろヤメにしようじゃないか。それは時間と力の無駄遣いだ。

(マルメ城址公園にて。18世紀初頭のスウェーデンは、カール12世率いる軍事大国。「北方大戦争」では、ロシア・ポーランド・バルト3国・フィンランド・ノルウェー・デンマークを巻き込んで、なんと20年間戦い続けた)

 

 人々の力を結集するには、やっぱりケネディあたりがちょうどいい。受験生諸君も大学生諸君も、いや予備校で担任とか担任助手とか若手講師を務める人々も、以下2つ、ケネディの名言をまず味読&音読し、しっかり心に刻み、ムクれて過ごす愚痴の日々をそろそろ終わりにして、明日あたりから、それぞれの熱い努力を始めたほうがいい。

 

 When written in Chinese, the word ‘crisis’ is composed of two characters. One represents danger and the other represents opportunity.

 

 All this will not be finished in the first one hundred days. Nor will it be finished in the first one thousand days, nor in the life of this Administration, nor even perhaps in our lifetime on this planet. But let us begin.

 

1E(Cd) Sheila E.SHEILA E.

2E(Cd) IncognitoLIFE, STRANGER THAN FICTION

5D(DMv) LONE SURVIVOR

8D(DMv) THE TWO FACES OF JANUARY

total m34 y166  dd25434