Fri 200306 長文コンプレックス/ちゃらちゃら派/いわゆる速読の正体 ①  3915回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 200306 長文コンプレックス/ちゃらちゃら派/いわゆる速読の正体 ①  3915回

「速読について」であるが、熱心な読者の方には「一度読んだことがあるな」というデジャヴな感覚があると思う。この1〜2年、同じテーマで何度も書いてきたのである。

 

 現在のワタクシの公開授業にはバージョンが5つあって、超入門編(A)・基礎基本徹底編(B)・標準編(C)・難関大編(D)と、保護者対象の「P」である。どれもこれも大爆笑が連続することは変わらないが、「いわゆる速読」の話が冒頭15分ほど続くのは、長文読解を扱う「C」と「D」である。

 

 まず最初に、ホワイトボードなり黒板なりに「今日のストーリー」と大書し、その下に「なぜ長文が苦手になるのか?」の1行を付け加える。200人でも300人でも、参加したほとんどの受講生が冒頭から釘付けになる。

 

 苦手になる原因は、カンタンに3つに分けられる。

① コンプレックス

② ちゃらちゃら

③ 速読しなきゃ、という焦り

 

 この3つ、実は同じ話に帰結するのであるが、何しろ日本の大学受験生は常に強烈なコンプレックスを抱えている。同じコンプレックスを過去50年にわたって抱え続けてきたと言っていい。親の世代というより、祖父母の世代からほとんど進歩がないのだ。

(2月22日新潟県長岡、180名の懐かしい大盛況。今後しばらくは、こういう大盛況写真の掲載を自粛する)

 

 模擬試験を受けるたびに、ヘトヘトになって帰ってくる。深い疲労の中から込み上げてくるのは常に一緒であって「長文ができなかった」「長文ができなかった」という後悔であり、「時間が足りなかった」「制限時間内で解けなかった」という悔しい思いである。

 

 悔しさはみんな似たり寄ったりであるから、帰り道にも友人どうし「オレも時間が足りなかった」「オレも時間が足りなかった」と、同じ深い傷を舐め合うことになる。

 

 翌朝も教室に集まって「昨日の模試どうだった?」の話題になれば、「長文ができなかった」「時間が足りなかった」と頷きあう。やがて「オレの方がもっとヒドいぜ」「いや、自分の方がもっとダメだ」と、ほとんど「ダメさ加減の自慢」が始まるほどである。

 

 そのあたり、病院の待合室でオバーチャンたちが高血圧自慢を展開するのとそっくりだ。「わだしは血圧たがいのよ、上が180近いのよぉ」「あーら、わだしなんか、200こえてたわようぉ」。そういう世界に近い。

 

 そういう模試が、受験学年になるとほとんど毎週のように繰り返される。つまり毎週末が強豪チームとの練習試合で、毎週のように「10対0」とか「15対1」とか、完膚なきまでに打ちのめされ、ボロボロになって帰ってきて、「もう部活はイヤだ」と、しょんぼりし続けるようなものである。

(長岡でいただいたケーキ。この頃からもう、講演前のマスクと手洗いは必須事項となっていた)

 

 こうなるともう、コンプレックスは完全に定着して、夢にまで英語長文が登場し、夢の中でもやっぱり時間が足りなくて、呻き続けることになる。返却された成績表にも「AIのアドバイス」がなんかがあり、「君は長文読解が弱いようです」「速読を中心にもっと読解を鍛えよう」と繰り返される。

 

 その成績表をもとに、高校と塾と予備校で「面談」が繰り返される。塾の若い教務課職員から「オマエはさあ、結局ダメなのは長文じゃん」「AIも言ってる通り、もっと速読をやんなきゃダメじゃん」と、毎週ニタニタされ続けるのである。

 

 よせばいいのに、その成績表が保護者の元にも郵送されたりする。塾も「面倒見の良さ」「家庭との密な連絡」を誇示する時代だから、保護者も息子や娘の成績表を眺めて「ほれ長文だ」「やれ長文だ」と叱咤激励せざるを得ない。

 

 つまり、友人どうし「長文だ&長文だ」、塾の先生にも高校教師にも「長文だ&長文だ」、保護者にまで「長文だ&長文だ」と急かされ、とうとうAIまで、機械の分際で「長文を鍛えたまえ」「速読だ」「速読だ」と命じてくるのだ。

 

 こうして諸君のコンプレックスは、やがて長文アレルギーにかわり、まもなく長文ノイローゼになって、来る日も来る日も、寝ても起きても「時間が足りない」「制限時間内に解けない」とブツブツ、英語長文を眺めただけで背中を冷や汗が伝う。

 

 そんな状況だから、模擬試験会場はすでに悲劇を通り越して滑稽、ほとんど喜劇に近い。試験監督が入室した段階で、監督者を睨みつける受験生集団の視線は強烈というか猛烈というか、その迫力にはただならぬものがある。監督者諸君としても、さぞかし恐ろしい思いにひたるだろう。

 

「そんなに肩に力が入ってちゃ、どんなスポーツだってうまく行きませんよ」「もっとリラックスしなきゃ」というところであるが、友人と教師と親とAIに連日「長文だ」「時間との勝負だ」と念仏のように言われ続けた受験生のノイローゼは、そんなアドバイスでリラックスできるような生易しいものではないのである。

 

 だから諸君、「はじめ!!」ないし「はじめてください♡」の一言とともに、全ての受験生が一斉に表紙をめくる轟音は「凄まじい」の一言だ。100人が集結した受験会場で、100人が100人、ほぼ例外なく表紙を敵に回し、鬼気迫る表情で「バッシャアーッ!!」と気合いをこめてめくり上げる。

 

 あまりの勢いに、表紙を破ってしまう者も数名、ペンを床に落とす者も数名、さすがに椅子から転げ落ちる者は0名としても、何かの拍子にペンが遠くまですっ飛んでいったりする。

 

 そして何だか一斉に激しく書き始めるのであるが、問題文も読まずに、いったい何を書いるてんだろう? あれはいったい何の音? 英文を切り刻んでズタズタにする「スラッシュ・リーディング」ってヤツ? 何をそんなに慌てふためいてるの?

(長岡での公開授業終了16時半。懇親会の開始が18時。「ホテルで休んでいてください」とのことだったが、やんちゃな今井は単独でお蕎麦屋に入り、まず名物「へぎ蕎麦」をすすった)

 

 受験生諸君がそうやって余りに惨めで滑稽な喜劇を演じているから、タチの悪い予備校講師たちの中から「ちゃらちゃら派」が次々と登場する。質実剛健な日々の学習を否定し、「いいかぁ、だからさあ、ね、よく聞け、な、単語とか文法とかにこだわってるから、だからダメなんだぁ、うぉー♡」とおっしゃるのである。

 

 ダメな講師の特徴の一つとして、この種の「語りかけ」がある。だいたいは教卓に両手をつくポーズ。口癖は、「いいかぁ」「ね」「ね」「だからぁ」「うぉー」。「うぉー」というのは、自分の話に満足して最後に付け足すウナヅキないし雄叫びである。

 

 基礎とか基本とか、単語とか文法とか構文とかをみんな否定して、「じゃあどうすればいいか?」であるが、ちゃらちゃら派の主流を占めるのが「アメリカの赤ちゃんみたいに」と「英語のシャワーを浴びるんだ」である。

 

 その辺の論調は、リベラル派新聞の教育欄の論調と一緒だから、強烈なコンプレックスに悩む受験生の中から、ちゃらちゃら派に流れる者が何%か現れる。「聞き流すだけでいいんだ」「だってアメリカの赤ちゃんたちはそうやって英語を身につけるんだ」というわけである。

 

 ちゃらちゃら派が明らかに間違っているのは、「アメリカの赤ちゃんたちはみんな英語が話せるよね♡」という部分である。「赤ちゃんが英語を話せる」だなんて、与太話もいいところであって、実際のアメリカの赤ちゃんは「おぎゃー♡おぎゃー」と泣け叫ぶばかりなのである。

 

 生後1年か1年半の赤ちゃんがいきなりスックと立ち上がって流暢な英語を語り始めたり、日本の大学入試に出題されるレベルの長文をスラスラ読み始めることはあり得ない。だって諸君、東大でも京大でも早慶でも、いまや主流は「The Economist」とか「New Scientist」あたりの雑誌記事だ。赤ちゃんに戻っちゃったら、どう逆立ちしても対処なんかできない。

 

 だから、ちゃらちゃら派の命はマコトに短い。予備校の授業が始まった当初、新年度の4月から5月ぐらいまでは何とか人気が持続するけれども、夏期講習の申し込みが終わる頃には、ほぼ風前のトモシビというありさま。なりをひそめて、翌春またダマされやすい新年度生が入塾してくるのを待つばかりになる。

(入った店は「小嶋屋」。長岡の名店で1人、さらに名物「タレカツ」で日本酒4合を飲み干した)

 

 要するにちゃらちゃら派は、赤ちゃんたちの単語学習の努力を見落としているのである。赤ちゃんたちがマトモな英語を話し&読みこなすまで、おそらく15年はかかっている。日本の赤ちゃんが大人の日本語を話し読みこなすのにかかる時間と同じなのである。

 

 彼ら彼女らは、母と父から日々懸命に単語を学び、祖父母や兄姉からも次々と単語を学ぶ、小学時代は、要するに単語学習の日々なのであって、理科の時間にも「石英」「雲母」「花崗岩」「木星」「土星」「塩酸」「硫酸」と単語を学び、社会の時間にも「選挙」「下院」「独立戦争」、体育の時間にも「鉄棒」「跳び箱」「マット運動」、どんどん単語を身につけていく。

 

「赤ちゃんは文法なんかやってない」というのも明らかに間違いであって、彼ら彼女らは父母・祖父母・兄姉・教師たちに、発言の文法的な間違いをやんわり訂正され続けて雌伏15年、ようやく文法的に誤りの少ない英語をつかえるようになる。言わば「自分で作った正誤判定問題」に取り組み続ける日々なのである。

 

  こうして「英語のシャワー」タイプのダメなちゃらちゃら派が撤退した後に、ちゃらちゃら派の総帥として登場するのが「にわか速読専門家」の諸君である。登場のタイミングは、6月。春の背の低い雑草が来春を期して撤退した後、猛然と勢いを増すイネ科の雑草軍団と似ている。

 

 啓蟄から頑張った春の虫が来春を期して去った後、夏を待って一斉に鳴き始めるセミ軍団に例えてもいい。みんみん、じゅくじゅく、みーんみん。夏の終わりのツクツクボウシを最後に、8月末にはほぼ消えていくが、夏休み前のソクドクミンミン軍団の勢いには注目すべきものがある。

(長岡・小嶋屋の名物「栃尾の油揚げ」。結局1時間で日本酒4合は空っぽ。この後で正式な懇親会に出席した)

 

 だって諸君、ちょうど受験生諸君の長文コンプレックスが最大値に達した頃なのだ。模試のたびに打ちのめされ、ということはほぼ毎週打ちのめされ続け、塾の面談で、高校教師との面談で、朝食時の父親との会話で、「長文対策だ!!」「時間との勝負だ!!」と言われ続けた時期である。

 

 つまり長文アレルギーがノイローゼにまで高まり、「味がしみてきた」「よく煮えましたね」「竹串が通るぐらいです」、まさにその好機を見計らって、小結か関脇ぐらいのランクの英語講師が「ボクは速読を教えます♡」「真の速読を伝授します」と、メイプルシロップ並みの甘い甘言を弄して誘惑してくるのだ。

 

 お相撲に興味はない人も多いだろうが、一応は国技なんだから覚えておきたまえ。横綱クラスのセンセは、もともと余裕たっぷりだから「速読」などという馬鹿なことは言い出さない。お相撲なら「はたきこみ」みたいなもの、そういう引き技を連発すれば、横綱の品格を問われる。

 

 セミ軍団ないしイネ科の雑草として夏休み前に颯爽と登場するのは、「スキあらば大関候補に」と虎視眈眈の関脇&小結、または「危うく大関陥落か」というピンチを感じた万年9勝6敗の大関あたりだ。

 

 初夏には、予備校の教室は空席が目立つようになる。「あんな授業に出ててもダメだぜ」と、積極的欠席を促す悪質なチューターも少なくない。ガラガラの教室を、虚しくクーラーが冷やし続ける。

 

 すると諸君、内情を明かせば、多くの講師はピンチに陥る。ぎりぎりで三役にとどまっていたのに、「こんなに空席が目立つようでは、来場所は三役から陥落かも」。予備校に一生を捧げた人間としては、何とか立て直しを図らざるを得ない。

 

 その時、彼ら彼女らの脳裏をよぎるのが、禁断の一言「速読を教えます」「ボクが真の速読を伝授します」というセリフなのだ。目の前で居眠りしていたダラしない生徒まで、「速読!!」の一言でガバッと起き直る。眠たげな教室の雰囲気が一瞬キリッと引き締まる。関脇も、小結も、カド番の大関も、みんなこの瞬間がたまらんのだ。

(長岡の懇親会は20時半終了。21時台の新幹線で帰京した)

 

「単語とか文法とか構文とか、そんな悠長なことをやっててもダメなんだ」

「実際4月から半年、そんなのばっかりやってて、結局ぜんぜんダメだっただろ」

「やっぱり速読だ。時間との勝負なんだから」

あんなにネムネムしていた生徒たちが、一斉に起き上がる。これほど嬉しい瞬間はないのである。

 

 しかしその実、そう語っているセンセたちの背中を冷たい汗が流れ始めている。だって諸君、「それではその速読をどう教えるか」「速読って、どうやればいいのか」、それをキチンと教えられる専門家はマコトに少ない。

 

 自分でも出来ないことを「教えてやる」と言っちゃった。自分でもキチンと考えたことがないのに「真の速読を伝授する」と口走っちゃった。ないしはパンフレットの原稿にそう書いちゃった。あーらら、こらら、せーんせいに言ってやろ。いったいどうするんだ?

 

「しかしまだ、思わず口走った『速読の授業』『真の速読伝授』を始めるまで2ヶ月近くあるんだから、それまでに何とか方法論を考えればいい。よくあるスラッシュ・リーディングをちょっと自分なりにアレンジすれば、何とかなるんじゃないか」。彼ら彼女らは、そう自分に言いきかせて、夏までの2ヶ月を過ごすことにする。

 

 そこから先は、次回の記事で。塾や予備校での「速読」の悲劇について、次回もまた長々と、微に入り細を穿って述べることにしたい。

 

1E(Rc) Walter & ColumbiaHAYDNSYMPHONY No.88 & 100

2E(Rc) Solti & ChicagoR.STRAUSSDON JUAN  ALSO SPRACH ZARATHUSTRATILL EULENSPIEGEL’S MERRY PRANKS

3E(Cd) Akiko SuwanaiSIBERIUS & WALTONVIOLIN CONCERTOS

6D(DMv) WHAT HAPPENED TO MONDAY

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