Wed 200108 上級A組、収録進行中/春一番?/大事件だらけ/入試改革を思う 3902回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 200108 上級A組、収録進行中/春一番?/大事件だらけ/入試改革を思う 3902回

 こんなに大きな事件が立て続けに起こったんじゃ、テレビ局も新聞各社も、仕事始め早々忙しくてたまらないだろう。

 

 豪雨の裁判所の中では、被告の行動で混乱が発生。他国の真っただ中に侵入して「司令官を殺害」などという恐るべき所業が、国際社会の注視の中でまかり通り、しかし報復のミサイルが夜空を切り裂く。非合法な脱出をやり遂げたゴーン氏が、自らの脱法は棚上げにして記者会見に臨む。

 

 しかし諸君、もう一つの大事件は「1月8日の日本で春一番が吹いた」ということである。気象庁はさすがにこのコトバの使用を避けているが、「春先の日本海を爆弾低気圧が急速に発達しながら東進し、太平洋側を南寄りの暴風雨が襲って気温が急上昇」、これは誰が見たって春一番である。

 

 昨年のパリやロンドンで気温40℃を記録したのも、もちろん温暖化の急速な進行の証し。シドニー近郊の山火事でたくさんのコアラが焼死し、猛火と煙にと熱波に追われたラクダが集団で水を求めて人里を向かい、何万頭も殺される羽目になったのも、みんな急速な温暖化の結果である。

 

 しかし諸君、本来2月中旬ぐらいに吹くはずの春一番が1月8日の日本を襲えば、こりゃホントにたいへんな事態だ。石炭火力発電なんか、ノンキに継続している場合ではない。暖房も控えめに、テレビも照明もお風呂も遠慮、それどころか我々の呼吸だって、少なめにしなきゃいけないかもしれない。

(2020年新春にさっそく新収録の「A組・上級者養成教室」。絶好調で収録中。詳細は次回)

 

 ゾラの名作といえば、誰もが口を揃えて「居酒屋」「ナナ」の2作をあげる。みんなホントにゾラを読んだのかどうか分からないが、テレビのクイズ番組で「ゾラの名作といえば?」みたいな常識クイズを出せば、読んだことがあってもなくても、誰でも「ナナ♡」「居酒屋♠️」と絶叫して、「正解でーす!!」の絶賛を受ける。

 

 その類いのことで「インテリ♡」「知性派♠️」ということになるから、テレビとか芸能界とかはマコトに恐ろしいのであるが、大学入試の批判をするときには「知識偏重ではいけません」「論理的思考力や表現力が大切です」と言っていたその舌の根も乾かぬうちに、「正解でーす!!」「知性派ですね♡」とくると、いやはや、困った世界である。

(今はなき月刊誌「高校英語研究」、研究社。1995年7月、駿台講師の今井は初めて「速読」の特集記事を書いた。タイトルは「英文速読の方法序説」。おお、張り切りすぎだ)

 

 ところでゾラであるが、ワタクシがゾラの中で一番好きなのは、「居酒屋」でも「ナナ」でもなくて「ジェルミナール」である。21世紀の今になってゾラなんかに興味を持つ人は余り多くないだろうが、もしも機会があったら「ジェルミナール」、是非とも読んでみてくれたまえ。

 

 200年も前のフランスの貧しい炭鉱の町の話である。炭鉱労働者の悲劇が延々と語られる。文庫本なら700ページか800ページか、それほどの超長編の半分近くが、炭鉱の深い闇の中の労働の描写で占められる。

 

 落盤事故で閉じ込められた主人公とそのカノジョが、小さな真っ暗闇の空間の中で、残るわずかな空気を惜しんで呼吸をこらえ、カンテラの小さな炎をさらに小さくして、1秒でも2秒でも多く生きながらえようとする姿の描写は、ゾラの強烈な表現力でしか描けない迫力である。

 

 1月8日にもう、非公式ではあるが実質は完全な「春一番」が吹き荒れてしまった日本の諸君も、この極めて不都合な真実を真正面から見つめ、せめてノンキなワイドショーとクイズショーとグルメ番組の放送を控え、番宣とテレビショッピングの放送を遠慮し、オモチを1日遅れの七草がゆに代えて、温暖化ガスの排出を減らさなきゃいけないんじゃないか。

(1994年、駿台で速読講座「ENGLISH⭐︎FARM」を開設。当時の駿台で「速読」とは、思い切った決断だった 1)

 

 と、まあこういうふうで、こんなに大事件ばかりが目白押しだと、ますます教育問題&入試改革の話なんか吹き飛んでしまう。ついでに「IR汚職」「3つの民主党合流と先祖返り」「桜を見る会」、そのへんもあんまり相手にしてもらえず、成人式がどんなに荒れ狂っても、誰も相手になんかしてくれそうにない。

 

 しかし諸君、それでは困るのだ。今回の入試改革の頓挫ほど、いま我々が真剣に議論しなければならない問題は、他にそんなに多くない。言わば「せっかくパンドラの匣をあけちゃった」のであって、そんなたいへん危険な匣をあけちゃったからには、「ピンチはチャンスでもある」とうそぶいて、ピンチをチャンスに変えるまさに千載一遇の時なのである。

 

 だって諸君、ついに「試験の公平性」が問われたのである。太宰治に倣って「パンドラの箱」ではなく「パンドラの匣」という漢字を使用したが、その匣の中からは、「公平とはとても思えない試験」の数々がワラワラ軟体動物のように出現し、もう匣のフタを閉めようとしても間に合わない。

(駿台の在籍中の1996年、今井は中級者用の読解単科講座も開設。この合計2本の講座が、現在の「A組」の前身である)

 

 例えば、就職試験と大学院の入試とを考えてみたまえ。正義感と理想とに燃える若い諸君は、高校入試や大学入試の先にあるそういう試験も、きっと思い切り公平に、えこひいきや不公平なんか一切許されない状況で実施され続けていると信じてやまないだろう。

 

 しかし実際の採点基準はどうなんだ? 例えば論文を書かせるとする。正式な論文までいかなくてもいい。軽いエッセイでもレポートでも、それこそ頓挫したばかりの「記述式」とか、英語の「スピーキング」「ライティング」でも同じことだ。その採点基準の曖昧なこと、誠実な人間はみな目を覆うしかない。

 

 それが「面接」となると、目を覆うためのテノヒラが無限に必要なほどである。修士課程ぐらいならまだいいとして、長く一緒に仕事をしていくことになる「就職」やら「ドクターコース」の選抜となると、うーん、外部に明示できる公平で公正な採点基準なんか、ほとんど期待できない。

 

 こうなると、中国中世の「科挙」「殿試」の世界とそんなに違わない。「1週間ここにこもって漢詩を1つ作りなさい」の類いの出題をして、優秀な若者たちを苦しめ放題に苦しめ、実は最初から合格者はほとんど決まっていたりする。

 

 そこに「忖度」「権力からの圧力」「大人どうしの人間関係」「好きキライ」「金銭」「コネ」が絡むのも当たり前で、現代日本の中学高校入試、大学学部入試は、21世紀にもナンボでも痕跡&残滓の見える前近代的試験に比較すれば、まさに天国の麗しさを感じさせるほど明快である。

(1996年、代ゼミに移籍する直前にも、まだ今井は駿台で速読講座「ENGLISH⭐︎FARM」を続けていた。英字新聞の社説を毎回1本読解して要約をまとめた)

 

 それでも20世紀日本のメディアは、それを批判の対象とした。「紙切れ1枚に身を託すミジメさ」「紙切れの点数なんかでオレたちは燃えないぜ」と、フォークシンガーもアイドル歌手も歌い続けたのである。

 

 しかし間違いなくセンター試験も共通一次も、徹底して公平きわまりない試験であった。新しい共通テストだって、頓挫した「民間試験」「記述式」「表現力」の部分を除けば、なかなか公平性に優れた試験になりそうだった。

 

 その理由を述べておこう。最大の注意を払って作成した客観テストで、あくまで過去のことに限って出題し続けたからである。客観的でなければ、試験の公平性が担保できるはずはないのである。

 

 試しに「主観式テスト」と、口に出して発音してみたまえ。主観で人を試し、主観で人間を選べば、誰がどう見ても不公平&不公正、科挙か殿試みたいなその試験に異議を唱えない民主主義者は、それだけで概念矛盾である。

 

 過去について、客観的に立てた設問。なぜ全ての科目で「過去について」なのかは、前回の記事の中でごく詳細に述べたつもりであるから、前回の記事を参照のこと。入試の数学も物理も化学も、全て20世紀中盤までの「学史」の範疇だし、現代文も地理歴史も過去に属するものである。

 

 我々がすでに知っている過去についての設問なら、きわめて正確な客観的正解が得られるから、公平な採点基準も明示できる。もちろん受験英語の世界には「美しい日本語訳」「こなれた日本語訳」みたいな主観的基準の残滓があるが、それももう昭和のかなたに捨てられたはずである。

(1996年5月、研究社「時事英語研究」に、特集記事「英語『超』速読法」を執筆。この中で始めて「音速」に言及した。詳細は次回の記事で)

 

 一方で、「現在に関する設問」などという大それたものを作りたがる人もいる。というか、昔からメディアが煽るのである。そこに「アクティブラーニング」なんてのも関わってくるから、「未来に関する設問を作らなきゃ♡」という傲慢な一派も出現して、公平性は著しく損なわれる。

 

 現代に関することや、未来に関することに、正解はあり得ない。正解は、その時代を乗り越えて初めて提示され、しかも数々の正解の中から選りすぐる長い努力を経て、知性 vs 知性の激しい戦いの後に、初めて「おそらくこっちかな?」という結論が出るものである。

 

 その辺のマコトに厳しい事情を「見て見ぬフリ」「無視」「そんなこと知るかよ?」と暴論を振り回し、「やっぱり論理的思考力」「やっぱり思考力と表現力」と、新聞に大きな見出しをつけて見得を切る。

 

 間違いは、そこからぬるぬる&ヌルヌル無限に発生する。「やっぱり」とは、論理をすべて否定して結論を押し付ける強引な副詞であって、論理を口にする人間の口からは出てはならない単語のはずである。

 

 中等教育までの公平性を担保するには、問いを「結論の出ている過去」に限定するしかない。前回書いた通り、「近過去」「半過去」「現在」は大学教育に、「未来」は大学院や実際の仕事の世界に任せるべきなのである。まだ正確な答えの出ていないことを設問にして、それを材料に人の能力を公平に測定することはできない。

(代ゼミの単科ゼミ「上級レベル養成講座A組」。初めてパラグラフリーディングに踏み込んだが、これは時期尚早だったかもしれない。詳細は次回の記事で 1)

 

 要するに諸君、我々は中等教育までで「正しい問いの立て方」を学ぶのである。すでに確定した過去の範囲でなら、教師たちが正しい問いを立てることができる。「問いを立てる模範」こそ教師の役割であり、試験のあるべき姿である。

 

 しかし社会に出たり大学院に進んだりすれば、もう「他者の作ってくれた問い」「テイラーメイドのピッカピカの問い」は存在しないのだ。オトナの問いは自ら作るものであり、問いを作る能力がなければ大学院での研究はできないし、社会人として生き抜くこともできない。

 

 解くための問いを自ら作成するのがオトナになった後の課題だからこそ、オトナになる前の青少年の教育に必要なのは、正しい問いを立てる力を育成すること。教師はその模範であり、定期テストも大学入試も、まさに正しい問いの宝庫であるべきなのだ。

 

 その「正しい問い」が過去を題材としたものであるべき理由はすでに述べた。謙虚さを忘れて「現在」「未来」を題材としようとし、そのために「駐車場使用契約書」なんかを持ち出して国語の問題を作成しようとすれば、「正解なんかないんじゃないか?」と集中砲火を浴び、採点基準と採点者の不在が露見して、頓挫するのは火を見るより明らかだ。

(代ゼミの単科ゼミ「上級レベル養成講座A組」。初めてパラグラフリーディングに踏み込んだが、これは時期尚早だったかもしれない。詳細は次回の記事で 2)

 

 こういう大失敗も実は、大昔から就職試験についてメディアが展開してきた「実力を正しく評価してもらえない」「人物評価がキチンとできていない」という主張にその根っこがある。

 

 マコトに公平な客観式テストに慣れた若者たちは、点数化できない「現在」や「未来」に関する問いに戸惑うのである。「何でもいい、センター試験みたいに頼りにできる客観テストはないか?」「自己採点して、その点数を材料に実社会にも公平性を要求したい」。そう考える。

 

 その辺の事情に乗って、「実社会に入る前のセンター試験」みたいに利用の広まったのが、英語民間試験である。「TOEICで◯◯点」と履歴書に書き込めば、「センター試験◯◯点」と同じように、実社会が「正当に」評価してくれるんじゃないか。自信のない青年たちがそう考えたのも当然の帰結である。

 

 だからセンター試験世代は、英語民間テストに夢中になった。雨後のタケノコみたいにムクムク&むくむく、20年前には影も形もなかった民間テストが、歴史も実績もないのに異様なほど繁盛して、青年たちをますます苦しめている。困った事態としか言いようがないんじゃないか。

(1993年と1994年、若き日の今井が駿台で担当したテキスト群。「50分でたった20行」の恐るべき世界が、今井の夢を「音速」に向かわせた。詳細は次回)

 

 諸君、以上が今の日本の大学入試をめぐるワタクシの観察である。こういう観察に夢中になりながら、1月6日から吉祥寺のスタジオにこもって、「A組・上級者養成教室」の収録を進めている。

 

 収録はたいへん好調に進行して、すでに本日「第6講」までの収録を完了。収録の4分の1があっという間に終わったのである。6回で、東大の長文3問、京大の長文2問、名古屋大の長文1問。おお、さすがに「上級者養成」だ。このぐらいの難問を並べなきゃ、名前負けするじゃないか。

 

 しかも全ての問題で、「予習の際には全訳してはならない」「長文問題がリスニング問題の形式で出題されてもほとんど正解できる能力をつける」というのがミッション。おおこれなら、すげー決定的な上級者養成講座になることは確実だが、本日の記事もまたウルトラ長文になった。「A組」の話は、次回の記事に譲ることにしたい。

 

1E(Cd) Ashkenazy & PhilharmoniaSIBERIUSSYMPHONIES 3/4

2E(Cd) Ashkenazy & PhilharmoniaSIBERIUSSYMPHONIES 4/4

3E(Cd) Krivine & LyonDEBUSSYIMAGES

4E(Cd) RogéDEBUSSYPIANO WORKS 1/2

5E(Cd) RogéDEBUSSYPIANO WORKS 2/2

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