Fri 191025 もう、いない/9年前に書くはずだった(にゃごろわラストデイズ2)3881回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 191025 もう、いない/9年前に書くはずだった(にゃごろわラストデイズ2)3881回

 もう、いない。ソファの上か、テーブルの上か、テレビの脇に、いつでも巨大な白い毛玉みたいに丸くなっていたニャゴロワが、もういないのである。

 

 17年もいっしょにいた生き物が急に姿を消してしまうと、悲しいとか寂しいとか可哀そうとか、そういう感覚とは全く違うのだ。要するに「もう、いない」のであって、「いるべきものがいない」「声をかけても返事がない」、ニャゴロワが死んでしまってからの10日は、そういう拍子抜けの日々あった。

 

 だから「にゃごろわラストデイズ」もちっとも進まない。読書も進まないし、新講座の収録準備もサッパリ進捗しない。本当はテキスト完成版を1110日までに提出しなければならないのだが、「ニャゴ、腹へったか?」と声をかけて、それで何の返事もないと、そこでもう何もする気がなくなってしまう。

   (点滴の時には、このカラーが必須だった 1)

 

 ニャゴは、とにかくいつもお腹を減らしていたのである。17年のうち、腎臓病になる前の8年は、信じがたいほどよく食べた。妹のなでしこの分まで、なでしこを押しのけてでも食べた。

 

 だから彼女の白い肉体はどこまででも太っていき、前回の記事を掲載しながらその姿のあまりに巨大なのに思わず噴き出しつつ、「ニャゴ、ずいぶん丸々していたな」と呟いてから、沸騰する熱い涙にくれた。

 

 人がメシを食べていると、すぐにその気配を察してテーブルに上がって来た。特に豚肉の匂いと山椒のカホリに敏感で、豚肉に関連したものをレンジで温めていると、食欲をむき出しにしてたいへんな勢いで走ってきた。鼻も耳も肉球も、いつもはキレイな淡い桜色なのに、豚肉の匂いを感知するとググッと獰猛な赤味が増すのだった。

 

 山椒にもマコトにうるさかった。近くの店からうな重が届いて、さっそく山椒を振りかけていると、丸い肉体を揺すりながら姿を現した。「おいおいニャゴ、ネコは山椒じゃなくてマタタビなんじゃないか?」と尋ねても、山椒のカホリにまみれて杉板の床を転げながらゴロゴロ激しく喉を鳴らした。

        (仲のいい姉妹だった 1)

 

 201012月、重症の腎不全と診断され、それ以降は腎臓の悪いネコに許されるドライフードしか食べられなくなった。「余命100日」の宣告であって、あんまり可哀そうだったワタクシは、「その100日がいくらか短くなっても、大好きな美味しいゴハンを食べさせていいですか?」「食べることが一番好きなんですから」と質問し、即座に獣医師に否定&却下された。

 

 ちょうどクリスマスの時期だった。駅ビルの中にあるペットショップには、「ネコちゃんにもクリスマスプレゼントを♡」のポスターが掲示され、小さなネコたちが夢中でオヤツを食べている写真が貼り出された。

 

 誘われるようにお店に入ってそういう写真を眺め、楽しげなクリスマスソングを聴くうちに、思わず「ニャゴが可哀そうだ!!」という言葉が口をついて出て、しゃがみこみそうになった。本当にあの時は、どうしても声を抑えられなかったのである。いやはや、困ったオジサンだった。

 

 店員さんの怪訝な視線もマコトにもっともだ。すぐにお店から走って出て、熱い涙をぬぐいながら夜道を急いだ。少なからず変態的ではあるが、ニャゴのまん丸な身体に免じて、まあ許してくれたまえ。あれ以来、どんなクリスマスソングを聞いても、今もニャゴが可哀そうでならない。

        (仲のいい姉妹だった 2)

 

 17年のうちの後半9年は、だからひたすら点滴の日々だった。2013年からは妹なでしこも腎不全になり、2匹のネコの点滴が心配で、外国の旅にも出にくくなった。

 

「2日に1回の点滴が必要」というネコが2匹いれば、要するに毎日どちらかに点滴をしなければならない。奇数日はニャゴロワ、偶数日はなでしこ、そういう順番を決めて、朝起きてまず考えることは「今日の点滴はどっちだったか」ということだった。

 

 なでしこは優しく賢い繊細なネコだったから、「今日は自分が点滴の日」ということを朝の段階ですでに察知している。だから物陰にじっと隠れて出てこない。呼べば呼ぶほど頑なになるから、点滴に成功するまでに2時間もかかったりした。

 

 一方の姉のほうは「天真爛漫もいいところ」であって、点滴の日だろうが何だろうが泰然自若、さすがに最初の頃は怖がってテーブルの下で長い尻尾をウネウネさせていたが、2年も経過するともうすっかり慣れてしまった。

   (点滴の時には、このカラーが必須だった 2)

 

 そういうネコだから、「余命100日」も何もあったものではなくて、クレアチニンの数値も「奇跡的」といっていいほど急速に低下。「ホントに腎臓が悪いの?」と疑いたくなるほど、「おいしくありません」という医師の折り紙つきのドライフードを際限なくパリパリやりつづけた。

 

 それでも9年、確実に体重は減り続けて、最終的には2kgを切ってしまったが、何しろ最盛期には5.5kgもあったのだ。姉妹が並ぶと、「親子かい?」と声をかけたくなるほどだった。

 

 重い木材の引き戸でも、軽々と開けてしまう。短い後ろのアンヨを踏ん張って立ち上がり、左手のツメをを引き戸の隙間に潜り込ませ、右手で壁をぐいっとひと押しすると、重い引き戸も面白いように開いた。

 

 夜中でも、映画を見ている今井君のお部屋をいきなり探検しにくることがあった。ヘッドフォンをして映画に熱中している足元に、いきなり真っ白な毛玉が侵入してくる。それなりの恐怖を呼ぶ存在でもあったのだ。

        (仲のいい姉妹だった 3)

 

 そのニャゴが、もういない。呼んでもこないし、ウネウネしている尻尾を踏まれて、ソプラノの悲鳴をあげて抗議することもない。ソファで頭をかかえて懸命に居眠りしていることもないし、長い尻尾をユラユラさせて餌を食べに行く姿ももう見られない。「また食べるの?」「まだ食べるの?」と冷やかすこともできない。

 

 すでに葬儀も済んだ。天国へ旅立ったのは、1016日午後545分。冷たい雨の音を聞きながらお通夜をして、葬儀は翌日17日、なでしこの時と同じ東京都調布市の深大寺で午前9時から。夜の雨は止んでいたが、深大寺の境内はまだ冷たく濡れていた。

   (点滴の時には、このカラーが必須だった 3)

 

 火葬を終えて、小さな骨壷にニャゴの骨を1つずつ丁寧に収めた。「下顎の骨です」「肩甲骨のあたりです」と説明してもらいながら、まだ暖かい小さな骨のかけらを収めていった。

 

 最後に、長い長い尻尾の骨が残った。小さな入れ物には入りきらないほど、尻尾の骨は長かった。妹なでしこはチョココロネみたいに太くて短い尻尾だったから、湧き出してくる熱い涙を拭いながら、「キミは、ホントに長い尻尾だったな」とニャゴに話しかけた。

  (9年続けた点滴も、もうしてあげることができない)

 

 この「にゃごろわラストデイズ」は、ホントは9年前に書き始め、9年前に書き終わるはずだった。まだブログを始めて2年目か3年目だったが、「医師に宣告された余命100日の記録を徹底的に丹念に書いて、その『にゃごろわラストデイズ』シリーズを完成したら、ブログも終わりにしようかな」と周囲の人にも相談したのである。

 

 しかし実際のニャゴの余命はあれから実に3200日、医師の冷ややかな宣告の32倍も生きた気丈なネコなのである。おかげでブログも長々と11年半、3880回を超えることができた。文庫本25000ページ分である。そのことだけでもニャゴにはたっぷり感謝しなければならない。

(点滴の必須用品。この黒い袋に入ったネコたちが可愛かった)

 

 ではこうして「ニャゴがもういない」「どこにもいない」「返事もしない」という秋の日々を迎えたいま、ワタクシはブログをヤメちゃう選択をするのだろうか。葬儀の帰り、タクシーの中で静かにそのことを考えた。

 

 しかし諸君、ニャゴは「天国に旅立った」とは言っても、ネコたちの天国は遥かな遥かなかなたなのであって、きっとニャゴはまだ天国に到着してはいない。

 

 なでしこの命日が1020日、ニャゴロワの命日が1016日。こんなに命日が近いところを見ると、なでしこはきっとニャゴを迎えに来て、今ごろは優しい妹が勝気な姉を案内し、姉妹で仲良く天国への旅を続けているはずなのだ。

(妹なでしこが、姉のニャゴロワを天国に案内しているだろう)

 

 そうだとすれば、ワタクシだってそんなに気弱になって「もうみんなヤメにしました」と放り出すわけにはいかないじゃないか。ずいぶん更新の間があいて、読者の皆様に心配をおかけしたとは思うが、間もなく完全に復活をとげようと考えている。そのほうが、旅路のなでしこもニャゴも嬉しいと信じるのだ。

 

 オウチに帰って、ニャゴをなでしこの隣に置き、お花を飾ってから、「やっと帰って来たね」と声をかけた。返事はないけれども、大好きだった夕陽の当たる窓際の棚の上で、これからも姉妹そろってヌクヌク、夕陽の温かみを満喫し続けてくれることだろうと信じている。

 

1E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du PréBEETHOVENPIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 3/9

2E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du PréBEETHOVENPIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 4/9

3E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du PréBEETHOVENPIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 5/9

4E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du PréBEETHOVENPIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 6/9

5E(Cd) Barenboim, Zukerman & Du PréBEETHOVENPIANO TRIOS, VIOLIN AND CELLO SONATAS 7/9

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