Sun 190825 形容語句が多すぎる/旅行記に集中したい(南仏カーニバル紀行9)3868回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 190825 形容語句が多すぎる/旅行記に集中したい(南仏カーニバル紀行9)3868回

 新聞記者の皆さまも、テレビの放送作家の皆さまも、ニュース原稿を書く時にはもう少しだけ「わかりやすい日本語」を心がけたらどうだろう。

 

 そりゃお忙しいことだろう。チョー忙しい状況はよく理解する。ナンボでも分かってさしあげる。しかしいくら忙しくても、若い世代が皆さまの日本語に強い影響を受けるのも間違いないこと。皆さまの日本語が劣化すると、若い世代の日本語だって、それに比例して劣化する。

 

 何しろ新しい「共通テスト」の国語では、「実用的な文章を読む力」だの「150字程度で論述する表現力」だの、愚にもつかないものが試されることになっている。文章を世の中にさらす皆さまの文章力が劣化するのは、受験の世界で働く今井君の苦労にもつながるのだ。

 

 記者の皆さまと放送作家の皆さまには、とりあえず「形容語句のてんこ盛り」を何とかしていただきたい。文脈から考えて本来全く無用の形容語句が、たった1つの名詞の前にてんこ盛り。いくら忙しいからといって、こんな読みにくい文章を若者たちに読ませ&聞かせるのはヤメにしたらどうなんだ?

(2019年2月、南仏マントン風景。すぐ隣りはイタリアだ 1)

 

 具体例をあげよう。この数日間で、ワタクシが耳にして思わず噴き出しかけた放送原稿のホンの一例である。テレビを見る頻度が極めて低いワタクシだ。そのワタクシがこれほどたくさんの具体例を挙げられるということは、こりゃかなり困った事態じゃあーりませんか?

 

① 女性を中心に人気の夏野菜・ナスを使った暑い夏にぴったりの番組で紹介された簡単レシピは、番組HPでご覧ください。

 

② このような最近のAI技術を利用した自動運転の急激な開発に対するヨーロッパでも特に自動車産業が盛んなドイツの反応はどうでしょう。

 

③ 外国からの観光客でごったがえす京都駅からもほど近い世界遺産の五重塔を有する東寺のそばで発生したタクシーと清掃車の衝突事故を目撃した男性は…

 

④ 若者のアルコール離れと日韓関係の冷え込みで韓国内での日本製品不買運動の影響で売り上げの落ち込んでいる日本の代表的ビール各社は…

 

 こりゃ全て、まるで乙会の通信添削の添削対象だ。8月20日から22日までのわずか3日間、それぞれ1日20分程度の視聴時間(NHKの高校野球中継を除く)で、実際にワタクシが聴き取ったセンテンスをそのまま書き取った。ディクテーションのテストみたいなものでござるよ。

 

 どれもこれも形容語句のテンコ盛り。アドバイスしてあげるとすれば、中心となるSVとをできる限り形容詞なしで冒頭におき、形容語句は後ろへ後ろへ、風にたなびくコイノボリよろしく後回しにするのが基本である。

 

 いわば「日本語の文章も、コンマありの関係詞節を後ろからくっつけるように書きたまえ」ということだ。中学英語や高校英語で関係詞節をしっかり学べば、日本語の文章能力もグイッと向上するはずなのである。

     (マントンのサルデーニャ料理屋で 1)

 

 まず、不要な修飾語句を省きたまえ。①では「ナス」を修飾する「女性を中心に人気の夏野菜」という形容語句が完全に不要。②では「ドイツ」を修飾する「自動車産業が盛んな」が馬鹿げている。それを知らない視聴者層を想定しているということかいな?

 

 その上でワタクシの模範添削例を示せば、次のようになる。形容語句を関係詞節的に後付けにした具体例である。

 

① ナス料理は暑い夏にもピッタリ。ナスは夏野菜として女性に人気です。紹介した簡単レシピは、番組HPでもご覧になれます。

 

② AI技術を利用して急激に進む自動運転の開発。ヨーロッパの反応はどうでしょう。自動車産業がEU域内でも特に盛んなドイツを見てみましょう。

 

③ 京都・東寺付近で清掃車とタクシーの衝突事故がありました。東寺の五重塔は世界遺産。外国人観光客でごったがえす京都駅からも至近です。事故を目撃した男性は...

 

④ 売り上げの落ち込みに悩む日本のビール各社。若者のアルコール離れに加え、日韓関係の冷え込みの影響も受けました。韓国内では日本製品の不買運動が深刻化しています。各社は

     (マントンのサルデーニャ料理屋で 2)

 

 外国語を学ぶのは、素晴らしいことだ。ただしそれは、「ガイジンとのコミュニケーションをバンバンとろう」みたいな単純な話ではない。曖昧な思考に陥ってしまう母語の欠点を、外国語の思考法で柔軟に補完する道を獲得できるのである。

 

 むかしむかし、「否定語を最後にくっつける日本語の論法は甚だ非論理的だ」と攻撃する人々がいた。例えば「◯◯が△△することを●●が▽▽するのは」と長々と述べておいて、最後に「私は賛成できない」と否定する。欧米人はこの最後の「賛成できない」に耐えられないというのだ。

 

 確かに欧米の言語では、まず最初に「私は賛成できない」ないし「私は否定しません」と主節をハッキリ言って、その後で英語ならthat節を用いて、何に「賛成できない」のか、何を「否定しない」のか、賛成や否定の範囲を明示する。「はい」なのか「いいえ」なのかが冒頭でハッキリ示されるというのだ。

(2019年2月、南仏マントン風景。すぐ隣りはイタリアだ 2)

 

 しかし諸君、必ずしもそうとは言い切れないだろう。センテンス冒頭のnotがどこまで否定するのか、読者としてはカンタンに油断してしまうわけにはいかない。場合によっては、否定の範囲は次のセンテンスや、次の次のセンテンスまで続いているかもしれない。

 

 むしろ日本語のように、センテンスのラストに否定語が置かれることによって、否定の範囲がビシッと「ここからここまで」と明示されるシステムの方が好ましいとも考えられる。

 

 否定の範囲を「ここからです」とスタートラインを示すのが論理的か、「ここまでです」ゴール地点を示すのが論理的か、その判断を下す場合、結局その人がどういう言語を母語とするかによってナンボでもバイアスがかかるはずだ。

 

 かつて「論理的に最も優れた言語」として世界中の誰もが認めたドイツ語でも、日本語同様に否定語が文末について一種の「枠」の構造を作ることが多い。わかりやすく言えば、「」とカッコで囲んでおいて、最後に否定語nichtで「ここからここまでを否定します」と宣言するわけだ。

  (10年前、2005年9月のマントン風景。冷たい夏だった)

 

 要するに、どの言語が論理的に優秀で、どの言語を使っていると非論理的思考に陥るか、その類いの言語差別をやっていても大してプラスにはならない。むしろ自らの母語の欠点を知り、母語の欠点を補うために、外国語の思考法なり文法なりを拝借する、そういう謙虚な態度が大切なんじゃないか。

 

 ワタクシがこの30年いろんなところで文章を書きながら、最も気を遣ってきたのは、冒頭に示したような「形容語句テンコ盛り」の世界なのである。日本語にもしも欠点があるとすれば、主語や目的語への形容語句がテンコ盛りすぎて、「いったいどこからどこまでが主語?」と、主語の見極めに苦労する点なのだ。

 

 おそらく子供時代からのそういう苦労が影響しているのだろう。大学受験用のどの英語参考書も、話が読解になるといきなり「主語の見きわめ」がテーマになり、「どこからどこまでが主語なのかをどうやって見極めるか」という問題に、大きなチャプターが割かれることになる。

 

 しかし諸君、英語の読解において「どこまでが主語?」というのはあまり問題にならない。主語に直接くっつく形容語句はマコトに少なく、同様に目的語にべっとりまとわりつく形容語句も甚だ少なくて、多くはコンマの後の関係詞節で示され、むしろピリオドの後に別のセンテンスで説明がなされることが多いのである。

(マントンのカフェ。10年前、この店でマント・ア・ローを飲んだ)

 

 というわけで、ビアリッツで今年のG7が始まった。2016年のワタクシは、ボルドーでの2週間の滞在中、バイヨンヌへの小旅行の際にビアリッツに立ち寄った。

 

 冷たい雨の1日で、ワタクシも旅の初めから風邪の高熱に苦しんでいたが、ボルドーからバイヨンヌまで電車で2時間、路線バスでバイヨンヌから1時間、ランド地方の果てしない松林を縫ってビアリッツにたどり着いた。モーリアックの名作「テレーズ・デスケールー」の舞台にも近い。この作品がノーベル文学賞受賞のきっかけになった。

(2016年4月、フランス・ビアリッツにて。今日からこの町でG7が始まる)

 

 おなじみ「形容語句テンコ盛り表現」で書けば「モーリアックが『テレーズ・デスケールー』の舞台に選んでノーベル文学賞受賞のきっかけになった荒涼としたランドの松林を抜け、ボルドーから電車で2時間のバイヨンヌから路線バスを乗り継いでさらに1時間のビアリッツ」なのであるが、確かにその通り、今年のG7はまさにその種の荒涼とした雰囲気になりそうだ。

 

 こうしていよいよ、ワタクシは次回から本格的に旅行記を書き始める。2019年2月の「南仏カーニバル紀行」である。早春のモナコに延々と連泊して、カーニバル真っ最中のニースとマントンと、ヴァンスとアンティーブを闊歩した旅だった。

(2016年4月、ビアリッツにて。マリア様がビスケー湾の風に震え、悲しそうに立ち尽くしていらっしゃった)

 

 ただし諸君、話が予備校英語講師の日常茶飯から逸脱し、「誰と飲みました」「誰と仲がいいんです」の類いの話題から外れると、いきなりアクセス数が減るのも事実。そういう事情に心が萎えて、なかなか「更新しよう」という熱意が湧き上がってこないことも多い。

 

 しかしその辺は致し方ない。読者の大半は、予備校講師の身辺雑記が読みたくてポチポチするのだ。ヨーロッパや中南米やモロッコの旅行記を「意地でも読め」「読まないとムクれるぞ」と脅かしても意味はない。ワタクシはひたすら淡々と、欧米言語風に形容語句を後ろに回した文章を書き続けるばかりである。

 

1E(Cd) JandóMOZARTCOMPLETE PIANO CONCERTOS vol.11

2E(Cd) EschenbachMOZARTDIE KLAVIERSONATEN 1/5

3E(Cd) EschenbachMOZARTDIE KLAVIERSONATEN 2/5

4E(Cd) EschenbachMOZARTDIE KLAVIERSONATEN 3/5

5E(Cd) EschenbachMOZARTDIE KLAVIERSONATEN 4/5

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