Wed 190612 猫の留守番/エズの夏/ジュアン・レ・パン(南仏カーニバル紀行6)3846回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 190612 猫の留守番/エズの夏/ジュアン・レ・パン(南仏カーニバル紀行6)3846回

 ニャゴロワの妹、キジトラ猫のなでしこが、キャットシッター南里秀子さんの本の表紙を飾ったのは、200510月のことである。その後、幻冬舎文庫から文庫化され、文庫版ではなでしこの表紙は採用されなかったが、今も通販サイトでなでしこの表紙の単行本を眺めることはできる。

 

 ホントはニャゴロワが表紙になるはずだったのだ。さすがに14年昔、まだ3歳の純白ニャゴは近所でも評判の美ネコであって、外を歩く幼児が「キレイなネコのいるオウチだよね」と、おそらくはママに向かって同意を求める声が聞こえたことがある。

 

 しかし、予定通りニャゴの写真を撮りにきたカメラマンたちが、そっと階段を上ったり下りたりするなでしこに目をつけた。「このネコちゃんも素晴らしく可愛いですね」「なでしこちゃんの写真も何枚か撮影させてください」ということになった。

 (モナコから約1時間、アンティーブの駅に到着する)

 

 そして最終的に表紙に採用されたのが、なでしこの1枚だった。そうなってみるとニャゴが少々かわいそうな気もしたが、ニャゴの方はその前にもその後にも何度か晴れの舞台があったから、「ま、いいじゃないか」と適当にゴマかしてしまった。

 

 あれから15年、残念ながら文庫版の表紙には、写真ではなくイラストが掲載された。なでしこも3年前に天国に出かけたまま帰ってこないし、ニャゴはすっかりシニアネコに変貌、純白の毛も少なからず黄ばんでしまって昔日の面影はない。

 

 2月22日、モナコのホテルで目覚めたワタクシが何故そういうことを考えたかというに、2月22日は「にゃんにゃんにゃん」だからネコの日と言ふことになっていて、「留守番中のニャゴはどうしているかな?」と心配になったせいである。

 

 もともとニャゴはお留守番の得意なタイプではない。なでしこは「いかにもネコ」というネコらしさ抜群のネコ。人がいようがいまいが、知らんぷりを押し通し、好きな物陰で好きなだけ居眠りをして、今井君が近くにいなくても大騒ぎすることは全くなかった。

        (アンティーブ駅風景)

 

 一方のニャゴロワは、「これがホントに姉妹かいな?」とタメイキをつきそうになるほど正反対の性格。どちらかいえば、ネコというより犬に近いんじゃないか。実際に最近は人の顔を見て、「ワン!!」と甲高く一声吠えてからまつわりついてくる。

 

 そういう性格だから、人がいないと大好きなゴハンも全く食べなくなる。大声で人を呼んで回る。もしも世の中に化け猫と言ふものが実在するならば、それはきっとこういうネコのことだろうと思わせる。「1人でお留守番」などというオトナの仕事は、最初から妹のなでしこに任せていたようだ。

(ピカソ美術館。アンティーブ港の先、海の断崖の上に建つ)

 

 だから2月22日、モナコ・モンテカルロの駅から西に向かって電車に乗り、アンティーブの街を目指したワタクシは、「帰ったら、大好きなマグロやカツオの缶詰をたくさん食べさせてやらなきゃな」と考えていた。

 

 そんなことを考えているから、地中海の水平線の上にポカリと浮かんだ白い雲も、うらめしげにお留守番しているニャゴの後ろ姿に見えるのである。

 

 ニャゴの後ろ姿は、天気予報の「曇り」マークにそっくりで、カラ梅雨傾向の年に「週間天気予報」を眺めていると、ニャゴ大行進に見える。「おお、東京も大阪も福岡も、ニャゴノ大行進じゃないか」と絶叫しそうになる。幸い2019年、今のところは雨も順調で、まあカラ梅雨→ニャゴ大行進という事態は避けられそうだ。

  (ジュアン・レ・パンの海岸からカンヌ方面を望む)

 

 モナコに到着して3日目、街の激しいアップダウンにもすっかり慣れた。「慣れた」というより、「公共エレベーター」という便利なものの存在に気づいたのであって、街の要所要所にエレベーターがあり、人々は当たり前のようにこれに乗って街を上下する。

 

 普通なら「街を行きかう」という表現が正しいのだろうけれども、モナコの場合はどうしても「街を上下する」のイメージ。水平方向には大した移動がなくても、垂直方向の移動距離は想像以上のものがある。マコトにverticalな作りの街なのである。

        (ジュアン・レ・パン海岸風景)

 

 そういえばモナコの周辺には、「鷲の巣村」がそこいら中の断崖の上に連なっている。中世の1000年間、地中海沿岸の村はチュニスやアルジェから押し寄せる北アフリカの海賊に蹂躙され続けた。

 

 物はごっそり略奪、人もまた根こそぎ拉致して奴隷市場へ。そういう気の遠くなるような1000年を過ごせば、人は断崖の上に村を作って海賊の蹂躙から身を守る。

 

 守ってくれるヨーロッパ側の戦力は弱く、近くにはジェノヴァ海軍、遠くにはピサ海軍やアマルフィ海軍が存在するけれども、何しろシチリア島さえイスラム化していた時期が長い。都市国家がいくら頑張っても、よその村まで守ってあげるほどの力はない。

 

 こうして村は、上へ上へと天を目指した。モナコとニースのちょうど中間あたりには、有名な鷲の巣村エズがあって、日本人団体ツアーで大人気である。

        (アンティーブ港風景)

 

 かく言う今井君も今までエズを2度訪れている。1度目は2005年のニース滞在の時、2度目は2015年のマルセイユ滞在の時である。絶壁上のエズから海岸まで「ニーチェの道」があって、たいへん厳しいVerticalな階段状の山道を、一応は上り下りできることになっている。

 

 2005年、まだ体力があり余っていた若き今井君は、そのニーチェの道を降りてみた。ニースからエズまではバスで来たが、「エズからの帰りは海岸を走る電車で」と考えたのである。

 

 どのぐらいの標高差があるのだろう。8月の南フランスの真昼の陽光の中、汗でずぶ濡れになりながら海岸のすぐ近くまで降りてきた。ところが諸君、「あとホンのわずか」というところまで来て、突如として道が途絶えた。高い草と灌木の茂みが道を塞いで、どうしても前進できないのである。

 

 絶望に打ちひしがれて、若き今井君はニーチェの道を引き返した。ニーチェは毎日この道を散策しながら「ツァラトゥストラ」やら何やらの構想を練ったのだというけれども、いくらなんでもそりゃ無理だ。讃岐の金比羅山に登るより、そのvertical度が遥かに厳しいのである。

(ジュアン・レ・パンの海岸カフェで冷たいビアを楽しむ)

 

 2005年夏のあの難行苦行を思い起こしつつ、14年後のサトイモ入道は早春の電車で地中海岸をアンティーブに向かった。東からマントン・モナコ・ニース・アンティーブ・カンヌとほぼ等距離で街が並んでいて、モナコからアンティーブまでは各駅停車で1時間ほどの旅である。

 

 モナコとニースのちょうど中間あたりに「Eze sul Mer」という駅があって、フランス語で「海浜エズ」みたいな駅名であるが、あの夏に不通になっていたニーチェの道は、果たして14年後の今日までに復旧したのだろうか。

 

 アンティーブは、「ピカソの町」。ガイドブックには「アンティーブを訪れる人はみんなピカソがお目当て」「ピカソ美術館を見て、それだけで立ち去ってしまう人が多い」と書かれている。

 

 いやはや、日本の人って、びっくりするほど素っ気ないのであって、せっかくアンティーブまで来て「美術館だけ」なんてのは、ワタクシには考えられない。

 

 アンティーブの駅で降りた今井君は、何とそのピカソ美術館に背を向けて、「もう1駅ぶん、ゆっくり散策を楽しんでこよう」と決めた。まだ午前11時だ」「美術館は逃げないだろう」というわけである。

(ジュアン・レ・パンのビストロでランチということに決めた)

 

 アンティーブから西へ1駅、30分ほど歩いていけば「ジュアン・レ・パン」の町に出る。フランス語のスペルは「Juan les Pins」、特に美術館や史跡があるわけではないが、遠くカンヌ方面の海がキレイであるらしい。

 

 この町に「徒歩で到着する日本人」というのはおそらくものすごく珍しいと思うが、早春の町は閑散として、シーズンオフの物悲しさが素晴らしい味わいだ。遥かな西の沖合には、14年前の夏にカンヌから小船で訪ねたレラン諸島が浮かんでいる。鉄仮面の幽閉で有名な町である。

(いかにも「哺乳類のお肉」。堂々とした姿が素晴らしい)

 

 昼近くなって、地元のオジサマ&オバサマたちが三々五々、海岸のカフェに集まって来た。「さんさんごご」と入力されて「燦々午後」と変換してみせるMac君の言語感覚もなかなか優れていて、確かにこの快晴なら燦々午後ないしサンサン午後になりそうだ。

 

 ワタクシも海とレラン諸島を眺めながら一休みすることにして、手頃なカフェに闖入。燦々と照りつける太陽はすでに夏の勢いがあって、油断しているとビールなんかすぐに温まってしまう。細かくくずして皿に持ったオリーブが旨い。どうやら何かスパイスを練りこんだもののようである。

(ジュアン・レ・パンからアンティーブへの帰りは、さすがに電車に乗った。5分もかからなかった)

 

 せっかくだからジュアン・レ・パンで昼食も楽しんでいくことにした。店の名前は記憶にないが、写真の看板を見ると「BISTROT」というそのものズバリの名前であるらしい。

 

 ランチの割には、ロゼワインもフルボトル1本を軽々と空っぽにしちゃった。ボルドーの濃厚な赤にも未練があったが、やっぱり南フランスに来たら、冷たく冷えたロゼを飲まなきゃいけない。

 

 ワインのお供は、写真の通りの大っきなお肉に決めた。エスカルゴにもよだれが出そうだったし、「カエルのお肉もありますよ」とコッソリ言われたけれども、カエルは大学生時代に池袋の店でたっぷり食べたから、やっぱりここは「哺乳類のお肉がいいです」「両生類はやめときます」という結論になった。

 

1E(Cd) Billy WootenTHE WOODEN GLASS  Recorded live

2E(Cd) Kenny WheelerGNU HIGH

3E(Cd) Jan GarbarekIN PRAISE OF DREAMS

4E(Cd) Bill Evans & Jim HallINTERMODULATION

5E(Cd) John DankworthMOVIES ’N’ ME

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