Fri 181130 37年ぶりの音威子府/新雪の道の思ひ出/熱く黒いお蕎麦 3762回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 181130 37年ぶりの音威子府/新雪の道の思ひ出/熱く黒いお蕎麦 3762回

 音威子府を訪問するのは(スミマセン、前回の続きです)、何と37年ぶりのことである。おといねっぷ、37年前の訪問の時も深い雪に覆われていた。

 

 冷戦の真っただ中ではあったが、まだ北海道全域で国鉄の鉄道網が健在。若き今井君は、オホーツク海岸の浜頓別(はまとんべつ)から国鉄「天北線」で音威子府に移動、宗谷本線に乗り換え、最北端の稚内に向かった。

(天は我らを見放した。1977年の大作映画「八甲田山」を彷彿とさせる今井君の自分撮り。音威子府、2018年11月24日)

 

 本日2枚目の写真で「セーフ」のポーズをしているのが、他ならぬ若き今井君である。「時刻ギリギリだが乗り換えはセーフ、無事に宗谷本線で稚内に行ける」と仲間たちに知らせているシーンである。

 

 時は2月、北海道は冬まっさかり。下手をすれば音威子府の駅で一夜を過ごさなきゃいけない瀬戸際だった。今井君の横には、真っ赤に塗られた天北線のキハ2両編成が佇んでいる。

 

 この頃の国鉄は巨額の赤字に苦しんでいて、日本中を縦横無尽に駆け巡っていた気動車キハも、肌色とオレンジのツートーンカラー塗装が困難になっていた。「ええい、面倒だ。全身真っ赤で何が悪い?」。そういう自暴自棄の時代を迎えていた。

(37年前、冷戦まっただ中の音威子府駅。若き今井君の勇姿を見てくれたまえ)

 

 天北線・湧網線・興浜南線・興北南線・深名線・羽幌線・名寄本線。1980年代の前半まで元気に走り回っていた国鉄網について、21世紀の北海道の若者たちは全くご存じないのである。

 

 もしもあの鉄路を守り抜いていたなら、今こそ鉄道復権の大チャンスであって、北海道全域をめぐる超豪華列車を走らせ、栄光の国鉄北海道復活へ、勇ましいノロシをあげるところであった。

(37年後の音威子府、同じ駅ホームにて、一種の定点観測を行う。お客は地元のバーチャン1名だけの寂しい駅になっていた)

 

 コストカッターを名乗り、近視眼的に目先の赤字ばかりを切り捨てようとすれば、やがて寂しい夕暮れが訪れ、ゴーンとお寺の鐘が鳴る。九州の「ななつぼし」をはるかに上回る魅力が、北海道の鉄道網には眠っていたはずなのである。

 

 留萌本線の留萌 ⇄ 増毛間に続き、炭鉱の栄光の歴史を象徴する夕張線も廃止の方向が決定的らしいが、ワタクシは大反対なのだ。北海道の鉄道は、またとない観光資源であるばかりでなく、その存続こそが過疎化や高齢化に対する特効薬と信じる。単なる延命ではなく、グイグイ活性化すべしである。

(雪の音威子府。高校の通学路をまざまざと思い出した 1)

 

 有名な駅蕎麦「音威子府そば」も、ついに無期限休業となった。静かに雪の降り積もる駅前には、人っ子ひとりいない。歩道は深い雪に埋もれて、すでに歩行困難の状況。止むを得ず車道を行くが、その車道にもクルマはほとんど走っていない。

 

 降りしきる雪の中、目指すは「一路食堂」である。誰もいない駅前の突き当たりを左に折れて、ふわふわのパウダースノーを蹴散らしながら進む。道沿いには、郵便局と村役場、農協と小学校しかない。数軒だけ看板の残ったお店も、すでに営業の気配はない。

 

 雪の中の今井君は、自らの高校の通学路を思い出していた。秋田でもこの時期、その年で最初の大雪に見舞われる。11月の20日ごろ、いきなり激しい吹雪になって、それでも今井君は自転車通学を選択した。20cmの積雪の中、高校まで意地でも自転車を飛ばしたのである。

(雪の音威子府。高校の通学路をまざまざと思い出した 2)

 

 今井君が15歳の秋に、父が頑張って自宅を新築した。秋田駅東側の水田地帯を住宅地として売り出したのが「横森団地」。明治&大正時代には腰まで泥に埋まって稲作をしていた湿地帯で、呆れるほど地盤の軟弱な一帯であった。

 

 だって諸君、今になって付近の地名を眺めてみると、「よくそんな土地を買ったもんだ」と、父の判断に溜め息が出るほどである。「苔良谷地」と書いて「こけらやち」。「搦田」と書いて「からみでん」。しつこく泥がからみついてくるような土地であって、新築の家はあっという間に傾いた。

 

 その横森団地から秋田高校まで、徒歩なら約1時間。激しい北西の向かい風とともに湿った雪が吹きつけてくるから、自転車も行き悩み、30分近くの奮闘となる。雪の中を激しくスリップを繰り返ししつつ、両足でブレーキをかけながら高校まで毎日走り抜いた。

(たどり着いた「一路食堂」で「肉そば」を注文。黒い秘伝の音威子府そばを満喫する。)

 

 思えば高校3年の11月下旬、高校生活でたった1度きりの模擬試験の結果が返ってきたのが、大雪の午後のことだった。「どうすんだい?」の模試で、偏差値43.9。それこそ「どうすんだい?」もいいところであったが、ま、医学部志望からいきなり文転した直後だ。言い訳もナンボでもできた。

 

 音威子府の雪の道を無言で進みながら、すっかりオトナになった今井君は、当時のことをまざまざと思い出していたのである。しんしんと降り積もる雪も、めったに人もクルマも通らない道の静けさも、あの時の秋田とちっとも変わらない。

(誰もいない音威子府駅。列車まで90分、雪の孤独を満喫する)

 

 歩き続けること約20分、凍りついた冬の川にかかる橋を渡ったワタクシは、ついに目指す「一路食堂」を発見(前回の写真を参照)。午前11時から営業のはずの店は、すでにその時刻を10分も過ぎているのに、まだ暖簾を外に出してさえいない。

 

「まさか」の事態である。駅の「音威子府そば」が無期限休業なのは事前に知っていた。しかしもう1軒の「一路食堂」は、10月中は丸ひと月休業していたとはいえ、11月は元気に営業中のはず。事前に電話で「営業中」を確認してから音威子府に向かったのである。

(名寄まで1時間半、名寄で乗り換えて旭川まで再び1時間半。野生のシカの群れと遭遇しながら、長い道のりが続く)

 

 愕然としかけた今井君の前に、マコトにノンキそうな青年が登場。引き戸を開けて暖簾を外に出し、「いらっしゃい」の挨拶をしてくれた。いやはやビックリしたけれども、店の中には北国に独特の巨大な石油ストーブがボンボン炎をあげていた。

 

「わざわざ東京から蕎麦を食べにきたんですか?」と呆れる青年であるが、今井君だって自分自身めいっぱい呆れているのである。注文したのは「肉そば」とギョーザ。蕎麦やうどんと一緒に、カレーもラーメンも丼物もすべて揃っている何でも屋さんである。

 

 だからお蕎麦の出汁も、おそらくラーメンの出汁とそんなに違わない。メガネを曇らせながら、黒さが特徴の音威子府そばをすすると、果たして自分がお蕎麦をすすっているのかラーメンをすすっているのか、若干の混乱さえ感じるのである。

(名寄も35年ぶりである。35年前、なぜか名寄のデパートを歩き回った記憶がある)

 

 しかし、そんなことは構わない。ワタクシは別に食通でもラーメン通でもないから、お蕎麦がラーメン味だろうと、ラーメンがお蕎麦味だろうと、それが旨ければ一向に文句はないし、雪道で冷えた肉体がヌクッと温まれば、不平不満は1つもない。お蕎麦&ギョーザ、ホントにおいしゅーございました。

 

 こうして諸君、札幌から3時間の道のりを踏破して、ついに訪れた37年ぶりの音威子府でのミッションはあっけなく終了。再びパウダースノーを蹴散らして駅まで戻った今井君の勇姿が、今日一枚目の雪まみれ写真なのである。

(和寒と書いて「わっさむ」と読む。間投詞がそのまま地名になった感がある)

 

 すでにあれから1週間近い時間が流れたが、今つくづく眺めてみるに「なんだ、こりゃ?」の思いが深い。それこそ大作映画「八甲田山」の世界であって、映画は1977年の制作、我が1回目の音威子府訪問と時代はそれほど違わない。

 

「天は我らを見放した」。ホワイトアウトの中の死の彷徨の果て、主人公を演じた北大路欣也はそう絶叫するのであるが、音威子府の雪だるまキウィ、ないし音威子府の笠地蔵サトイモは、雪まみれの自らをカメラに収めながら、「天はキウィを見放した」と苦笑せざるを得なかった。

(ぴっぷ駅。「きたぴっぷ」と「みなみぴっぷ」に挟まれている)

 

 駅に戻ったのが、お昼12時まえ。札幌に帰る電車は1330分すぎの発車。約90分を、誰もいない駅舎の中で潰さなきゃいけない。90分といえば、今井君の授業1本分の時間であって、いやはやマコトにもったいないが、ついでにマコトに手持ち無沙汰である。

 

 マトモな人なら、スマホをいじって90分、あっという間に過ぎちゃうんだろうけれども、ワタクシにはそういう趣味はない。しんしんと降り続く初冬の道北の雪を眺めながら、むかしむかしの国鉄の熱い繁盛ぶりを思うのである。

 

 宗谷本線に天北線、蒸気機関車が頻繁に行きかい、周囲は石炭の燃える匂いに満たされ、ディーゼルカーの吐き出す油煙やコールタールの香りに、お蕎麦の出汁の熱い湯気がもうもうと混じる。諸君、それほど魅力的な光景が、他に考えられるだろうか。

 

1E(Cd) KremerMOZARTVIOLINKONZERTE Nos. 

2E(Cd) JandóMOZARTCOMPLETE PIANO CONCERTOS vol.1

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4E(Cd) JandóMOZARTCOMPLETE PIANO CONCERTOS vol.3

5E(Cd) JandóMOZARTCOMPLETE PIANO CONCERTOS vol.4

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