Mon 181119 「師」とは何か/大ボケから小ボケへ/カツオとウツボ 3756回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 181119 「師」とは何か/大ボケから小ボケへ/カツオとウツボ 3756回

 昭和の時代の先生たちは、おっしゃることがやっぱり昭和くさかった。幼い今井君が最もキツい昭和臭を感じたのは、「政治家」と「政治屋」の区別である。

 

 英語の先生なんかも、statesmanを政治家と訳した上で、「日本の政治家の多く実際には『政治屋』にすぎない。英語の単語では「politician」と言い、ホンモノのstatesmanと区別するんだ」とか、そういう大見得を切るのだった。

 

 その種の昭和臭タップリの授業は、つい最近まで続いていたらしい。どうすんだい?や佐々木ゼミ(仮名)でも、「今井先生はさっきpoliticianを政治家と訳しましたが、正確には『政治屋』と訳すべきなんじゃないでしょうか?」と真顔で質問にくる生徒が存在した。

      (土讃線、小歩危駅付近の絶景 1)

 

 時は移って21世紀、英語の先生方の昭和臭は薄れてきたが、言わば「英語家から英語屋へ」、かつては政治家と政治屋を区別して悦に入っていた彼らこそが、英語屋への転落の危機にあるのではないか。

 

 予備校の講師だって、かつてはカントを語り、ヘーゲルを説いたのである。シェイクスピアとディケンズを語り、ヘミングウェイやポール・オースターを論じたのである。

 

 しかし諸君、入試制度改革が迫り、新テストのリーディング試行問題を拝見する限り、その種の英語家気取りはどうやらもうこの世界では許されそうにない。英語屋に堕するのはマコトに残念であるが、それが世の中の要請であるならば、快く応じるしかない。マコトにしがない身の上なのだ。

      (土讃線、小歩危駅付近の絶景 2)

 

 落語家は「家」であり、漫才師は「師」。「落語屋」とも「漫才屋」とも言わないのである。医師に看護師、薬剤師に教師。ちょっと考えると「師」は世間の尊敬を一身に集める憧れの職業のように見える。ついでに「士」の方も、弁護士に会計士に税理士、文系で尊敬を集めるには「士」でなきゃダメなようである。

 

「落語師」と言わずに「落語家」であること、「漫才家」と言わずに「漫才師」である理由を、諸君、ちょっと調べてみてくれないか。大学学部のレポートに、大学院での発表に、なかなかいいテーマだとは思わないかね?

 

「建築家」「小説家」「画家」「音楽家」であって、家というのはまずその人の選んだ職業を示す。しかし「愛妻家」「恐妻家」「倹約家」「浪費家」「吝嗇家」「健啖家」もあって、職業以上にその人の生き方なりポリシーなり人生の方針を表すこともある。

 

「健啖家」に対して「大食漢」なんてのもある。「痴漢」「無頼漢」「酔漢」「暴漢」「悪漢」「門外漢」であって、「漢」には悪い男・イケナイ男のイメージがつきまとうが、逆に「好漢」「熱血漢」もあって、プラスイメージでも遣われる。

 

 では「とんちんかん」とは? 漢字では「頓珍漢」と書くが、頓珍とはいったいどういう意味? 同じ響きの「あんぽんたん」は?どんどんググッてみたまえ。ぼんやり生きていると、チコちゃんに叱られる。

      (土讃線、小歩危駅付近の絶景 3)

 

 では「師」はどうなのか。確かに諸君、医師・看護師・薬剤師・教師あたりまでは素晴らしくプラスイメージなんだろうけれども、漫才師や手品師あたりから様子が変わりかけて、ついには詐欺師・ペテン師・山師・香具師にまで至る。

 

 詐欺師のことを英語で「clip artist」「con artist」と呼ぶことがあって、どうやら「師」とアーティストには密接な関連があるようだ。漫才も手品も間違いなくアートであって、医も調薬も教えることも、それに携わるには「自分はアーティストなのだ」という自覚がなければいけないのかもしれない。

 

 今井君のオジーチャン → 今井小作は「1853年生まれ」という驚くべき人であって、山形県のとある山村で村長を経験したという人物であるが、彼のもともとの職業が「山師」だった。

 

 ただし諸君、間違ってもらっては困る。山師といっても、21世紀の日本で言う山師とは違うのだ。鉱脈の発見や鉱石の採掘事業を行い、山林の売買や伐採を請け負う職業である。不動産業の原型と言ってもいい。

 (小歩危駅の手前に、キレイなモミジのお蕎麦屋を発見)

 

 さて、以上のような考察が「大歩危&小歩危の旅」とどう関わってくるのか、自分でも失念してしまった。ただ、思考のきっかけが昭和の漫才師「月見おぼん & 月見こぼん」だったことは間違いない。

 

 おぼん&こぼんは1965年結成の漫才師コンビ。野球の超名門である現・履正社高校の同級生で、「大きいぼんぼん」「小さいぼんぼん」を短縮して「おぼんこぼん」を名乗った。どうして「月見」なのかは不明だが、1980年代初頭にブレイクしてManzaiブームのさきがけになった。

(祖谷そばで温まる。列車の時刻が迫っていたので、残念ながらお酒は省略せざるを得なかった)

 

 NHKの大河ドラマにも出演した。1973年「国盗り物語」であるが、YouTubeで今もみられる総集編(前編)の中に、月見おぼんと月見こぼんの名前を確認できる。

 

 平幹二朗・露口茂・山谷初男・三田佳子・金田龍之介・伊丹十三・近藤正臣、錚々たる名優の名に混じって、「おぼんこぼん」の名前がゆらゆら流れていくのは、まさに胸のすく思い出ある。

 

 今回「そうだ、おおぼけ&こぼけに行こう」と決めた時から、サトイモ入道の脳裏にあったのは、「おおぼけ&こぼけに行ったついでに、おぼん&こぼんのこともブログに書いちゃおう」という思いであった。「バカバカしい」「読んで損した」と切って捨ててくれても構わない。

 (四国交通「小歩危駅前」停留所。バスは1日4本だけだ)

 

 大歩危から小歩危まで、1時間の道のり。断崖絶壁の紅葉黄葉を満喫し、断崖の春香眼科に見え隠れする(スミマセン、前回の続きです)澄み切った渓流の暗緑色を堪能して、大きなボケ小さなボケならぬ大きなボンボン&小さなボンボンの記憶に酔った。

 

 思えば諸君、大歩危の駅を出てからほぼ2時間歩き通したのである。川下りの舟に乗っていた30分を除けば、約8kmの道のりを踏破。我ながら、なかなかの健脚ぶりである。

 

 街道の小歩危寄りに、綺麗なお蕎麦屋さんが1軒存在する。お蕎麦屋さんの周囲だけ、モミジが真っ赤に紅葉していて、こりゃどうしても名物「祖谷そば」をすすって行かなければならない。

 

 11月の深い山道を歩いて、すっかり肉体も冷え切った。お蕎麦をすすり、熱いお出汁をフーフーやれば、再びサトイモの肉体にエネルギーがモワモワ怪しくみなぎるのである。

 (小歩危駅。崖に引っかかった掘っ建て小屋の風情がいい)

 

 土讃線の古い鉄橋の眺めに感激し、1日に数本しか通らないバス停の閑散ぶりに、昭和な世界への懐かしさのあまり涙を浮かべつつ、14時5分前に小歩危駅到着。列車の発車時刻まで残り15分、ギリギリの到着であった。

 

 大歩危の舟下りの乗り場から小歩危まで、お蕎麦屋さんを除けば人っ子ひとり見かけなかった。大袈裟に言っているのではない。8kmの道のり、誰一人すれ違わなかったし、誰一人追い抜かなかった。

 

 大歩危小歩危の名勝は、ツアーのバスで来て、ツアーのバスで去るのである。個人で列車でやってきて、渓流沿いの長い散策を満喫し、人っ子ひとりいない駅から寂しく再び列車で帰る、そういうヒマジンは、21世紀の日本にはどうやらほとんどいないらしい。

   (小歩危駅。他には人っ子ひとり存在しない)

 

 各駅停車の列車から、大歩危でディーゼル特急「南風」に乗り換え、16時には「ごめん」に帰ってきた。後免からタクシーで空港へ。高知市内に全く立ち寄らなかったのは、高知まで行ってしまうとタクシー代が3000円も余計にかかりそうだったからである。

 

 高知空港に有名な土佐料理店の支店があって、ヒコーキを待つ1時間半ほどの間に、カツオにウツボに貝づくし、黒潮のカホリに満ちた海の幸を堪能して、この日帰り旅の締めくくりとした。

   (高知空港の和食店でカツオとウツボを賞味する)

 

 高知ではどこかの会社の大きな研修会でもあったらしくて、空港には「いかにも中間管理職」のカホリのオジサマ集団がワンサ、しかもその一部分が今井君の選んだ土佐料理のお店に押しかけた。

 

 研修帰りのダンナたちが、ビールにチューハイにハイボール、上司や部下や取引先についての愚痴や悪口で、あっという間に真っ赤に盛り上がる。

     (貝づくし。温かい日本酒にぴったりだ)

 

 ワタクシのお隣のテーブルには、それとは別のオジーサマ4人組。オジーサマ仲間で四国の旅を満喫していらっしゃったらしい。今井君がうまそうに日本酒の熱燗を楽しんでいるのを見て、オジーサマたちも全員一致で日本酒を選択した。

 

 こういう時、最近の今井君は隣のテーブルのお客ともニコヤカに言葉を交わすことができるようになった。ニラミあいとかケンカ腰なんか、とっくの昔に卒業した。互いに笑顔で日本酒の盃を上げれば、同じ日本人、同じ地球人、同じ宇宙人、土佐の高知であっという間に仲良しになれるのである。

 

1E(Cd) HolligerBACH/3OBOENKONZERTE

2E(Cd) RichterBACHWELL-TEMPERED CLAVIER 1/4

3E(Cd) RichterBACHWELL-TEMPERED CLAVIER 2/4

6D(DMv) 東京暮色

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