Fri 181019 長い坂道を汗まみれで進む/14日目の月(イタリアしみじみ21) 3740回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 181019 長い坂道を汗まみれで進む/14日目の月(イタリアしみじみ21) 3740回

 

 むかしから徳川家康の遺訓と言われているのが、①人生は重き荷を負うて、遠き道を行くがごとし」である。かぶせるように「急ぐべからず」と続く。「実は徳川光圀が書いたんだ」みたいに、いろんな説が存在する。

 

 これに続けて家康ないし光圀どんは、

② 不自由を常と思えば、不足なし。心に望みおこらば、困窮したる時を思い出すべし。

③ 堪忍は無事長久の基、怒りは敵と思え。

④ 勝つことばかり知りて、負くること知らざれば、害その身にいたる

⑤ オノレを責めて、人を責むるな

⑥ 及ばざるは、過ぎたるより勝れり

と、ビシバシど真ん中に剛速球を投げ込んでくる。

 

 まさにこりゃ「名言の宝箱」の世界。受験生諸君、シューカツ生諸君、是非①から⑤までよく噛みしめつつ、秋の日々&秋の夜長を淡々と歩み続けたまえ。

(晩夏のミラノ市電。気温30℃、重い乗客を満載して、長い坂道を喘ぎながら進む)

 

 中でも9月8日の今井君がギュッと奥歯で噛みしめたのは、①の一言である。ガルダ湖の船着場から、イタリア国鉄デセンツァーノの駅まで、長い長い坂道を15分強ないし20分弱、重き荷を背負いはしないが、重きスーツケースをガラゴロ&ガラゴロ引きずりながら地道に歩んで行かなければならない。

 

 しかも諸君、30℃超の炎天下である。オーストリア国境に近い北イタリアとはいえ、やっぱり9月上旬のイタリア、しかも正午過ぎの太陽だ。引きずっているのは23kgだか24kgだかの巨大スーツケース。家康や光圀みたいな偉いヒトビトには、とても理解できない難行苦行に耐えるサトイモなのである。

 

 むかしむかしの今井君なら、迷わずタクシーを利用するところ。シルミオーネのタクシー乗り場からマホーのジュータンに乗り込めば、高く見積もっても40ユーロ程度で、涼しい顔をしてデセンツァーノの駅にたどり着けるはずだ。

 

 しかし諸君、それじゃ風情も何にもないじゃないか。9月8日、ヨーロッパの人々の長かったバカンスもそろそろ終わり。周囲の人々もみんな「終わっちゃった」「来年は、どんなバカンスにすっぺかな?」という甘い哀愁を満喫している。

(ミラノの5泊は、ウェスティン・パレス。前回の2週間同様、部屋専用のミストサウナがついていた)

 

 そういう甘い哀愁の仲間入りができるなら、スーツケースを引きずってガラゴロ坂道を登る艱難辛苦ぐらい、大したことはないじゃないか。「重き荷を負うて遠き道を行くがごとし」であり「急ぐべからず」であって、いそいそタクシーなんかに乗り込むのは、人生が分かっていない証拠なのである。

 

 それにしても諸君、もう10年も昔のことになるが、関西の超有名国立大の自由英作文の問題で「重き荷を負うて遠き道を行くがごとし」が出題されたことがある。「これは徳川家康の言葉と言われている。どんな意味なのか、100語程度の英語で説明しなさい」というのである。

 

 おお、すげー4技能だ。どうだい受験生諸君、いや全国の予備校講師の皆さん、この種の名言を毎週1つ取り上げて、「英語で説明せよ合戦」を繰り広げてみては。スピーキングにしてもよし、ライティングにしてもよし。4技能がどんどん身についていくんじゃないか。

(ミラノのウェスティンホテルで、こんなシャンペンをサービスしてもらえた)

 

 思えばすでに20年も前のこと、若き今井君は佐々木ゼミナール(仮名)の4天王の1人として、1月の直前講習4講座を全国同時生中継で担当。その中に「英作文完璧6時間」というタイトルの講座があって、そのテキストのあまりの薄さで話題を呼んだ。

 

 当時の予備校講師は、テキストの分厚さで勝負していた時代である。90分 × 4コマか5コマの冬期直前講習で、テキストが500ページも600ページもあり、講座の目玉は授業そのものより分厚いテキストの付録だった。

 

「全てを網羅」という言葉も流行した。1年かかっても網羅できなかった科目の内容を、90分 × 5コマでいったいどうやって網羅するのか、当時の今井君にはサッパリ理解できなかったが、パンフの文言に「全てを網羅」と書かないと、受講生がなかなか集まってくれなかった。

(ガルダ湖畔リモーネの町で購入したレモンジャム。ミラノの朝食に、このジャムでジャムパンを作ろうと思う)

 

 しかしマコトに巧妙な今井君は「ならば逆にテキストの薄さで勝負すんべ」という作戦に出た。他の人気講師が500ページ超なら、ワタクシはたった20ページ。25人分のテキストを重ねても、他のセンセの1人分にしかならない。付録も一切ナシである。

 

 だって何しろ全てが英作文だ。「オノレを責めて、人を責むるな」「不自由を常と思えば、不足なし」「心に望みおこらば、困窮したる時を思い出すべし」「怒りは敵と思え」みたいな日本文を掲載して、「このセンテンスの意味を英語で説明せよ」と問題文を添えれば、テキストは簡単にできあがる。

 

 しかもそれが、20年後を予測&予言した最高の4技能テキストになっていたわけである。その薄さは、まさに別世界。教室が暖房で暑くなってくれば、ぱたぱたウチワの代わりにも使用できる。印刷代も紙代もほとんどかからない。

 

 全校舎すぐに満員締切になったが、テキストを受講人数分ドンと積み上げても、何しろ300人分 × 20ページ = 6000ページに過ぎないから、他のセンセが受講生10人ちょっとでも、テキストの合計ページ数はほぼ同じという計算になる。いやはや、マコトに賢い目立ち方であった。

(いろんなチョコもホテルからプレゼント。ミラノのウェスティン、サイコーでござるね) 

 

 家康だか光圀だかのありがたいお言葉の中で、全く別の意味で我々の役に立ってくれるのが、⑥の「及ばざるは、過ぎたるより勝れり」である。

 

 ごく平凡に言えば、受験勉強のプランを作る時に「盛りすぎかな?」という計画を作るより、「ちょっと少ないかな」ぐらいの方が、確実に実行できる。そういう意味でまず役に立つ。

 

 しかしそれ以上に、選択肢の選び方とか、問題作成者側から言えば選択肢の作り方の部分で、「及ばざるは、過ぎたるより勝れり」を常に忘れずにいなければならない。

 

 つまり諸君、多く書きすぎた選択肢は間違い。「ちょっと書き足りないかな?」と心細くなる選択肢の方を選ぶべきなのだ。書き過ぎれば、おそらく本文の内容からハミ出た要素が加わってしまう。それは明らかに間違い。書き足りなければ、本文からハミ出る要素はナシ。だから「間違いとは判断できない」ということになる。

 

 その辺のことは、ワタクシは「14日目の月」と呼んでいる。まんまる満月からちょっとでもハミ出すと、そりゃ明らかに間違い。しかし満月直前の14日目の月なら、まんまる満月には足りないけれども、しかし美しい月であることにおいては満月と比較して遜色がない。

 

 だから選択肢を選ぶ受験生の立場としては、14日目の月を探すべし。選択肢を作成する出題者サイドとしては、14日目の月みたいな選択肢を作り、満月+αのハミ出し選択肢で勇み足の受験生を諌めるべし。もちろん講師としても、「14日目の月を選ばなきゃ」という解説を心がけるべきである。

(モミジのチョコ。イタリアの人々も、すいぶん日本の影響を受けているようだ)

 

 というところまで来ると、実はもっともっと深い人生訓につながるのである。今井君は今ここでその人生訓を自ら解説しようとは思わない。以上に述べたようなエピソードをギュッと握って塩むすびにすれば、分厚い名言集を1冊読み上げるよりも滋養豊かな人生訓につながると信じる。

 

 ともあれ今井君は、デセンツァーノの長い坂道を20分弱、首筋を流れる汗を何度もぬぐいながら登りきって、午後1時の新幹線に間に合った。デセンツァーノから新幹線Italoに乗れば、ミラノまで停車駅はブレーシャのみ。2時ちょいにはもうミラノ中央駅にたどり着いていた。

 

 ミラノで5泊するのは、5月の「イタリアすみずみ」の時と同じウェスティン・パレス。前回は5階の部屋だったが、今回は眺望抜群の10階、またまた部屋専用のミストサウナが付いている。おやおやこりゃまたタップリお風呂に入んなきゃ。熱いサウナで人生訓、さらにネリネリ練り上げましょうかね。

 

1E(Cd) T.BeechamBERLIOZLES TROYENS 2/3

2E(Cd) T.BeechamBERLIOZLES TROYENS 3/3

3E(Cd) Zagrosek & BerinSCHREKERDIE GEZEICHNETEN 1/3

6D(DMv) HEAT

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