Sat 180922 カバンの歓送迎会/同志との熱い20年/パリで後輩カバンと邂逅 3724回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 180922 カバンの歓送迎会/同志との熱い20年/パリで後輩カバンと邂逅 3724回

  ともに働くカバン君にも、きちんと歓送迎会をやってあげたい。20年も一緒に生活してきたカバン君が引退するのだ。20年の奮闘を終え、いよいよ勇退の日がきたなら、まずはブログでその勇姿を再確認したいのだ。購入したのは、1999年の秋である。渋谷の百貨店に入っていたZegnaのショップで、まさに偶然の邂逅であった。

 

 今井君が「どうすんだい?」から佐々木ゼミ(ともに(仮名)といたします)に移籍したのが1997年の春。それ以来スーツは、1着の例外を除いて全てZegnaなのであるが、スーツを新調しに行った日曜の午後、店の人に「Zegnaがダレスバッグを作るのは珍しいんですが」と苦笑されつつ、どうしてもこのカバンと一緒に仕事がしたくなった。

 

 今だから値段もハッキリ明かすことにするが、何と当時のオカネで16万円もしたのである。カバンの世界には「1万円につき1年」という言い伝えがあって、5万円なら5年、10万円なら10年、黙ってひたすらマジメに人間の仕事に付き添ってくれるらしい。

 

 だから16万円なら16年。1999年に購入したなら、きっと2014年か15年まではともに仕事に励めるはずだ。「自分自身その頃にはもうすっかり講師の仕事に疲れてしまっているだろうから、これが仕事で使う最後のカバンになるかな」と呟いたものだった。

 (ついに卒業、20年目で勇退することに決まったカバン君)

 

「どうすんだい?」で授業に励んでいた頃は、服にもカバンにも靴にもなんのこだわりも持たなかった。オカネだってそんなにたくさんは稼いでいなかったから、スーツはすべて郊外の量販店、「スーツ」どころか、上下別々に「ジャケット」と「スラックス」を買って済ましていた。

 

 だからもちろん靴も量販店。カバンはデパートの平場で買って、1万円のカバンで1年、2万円のカバンで2年、マコトに地味に生活していた。今はどうか分からないが、当時「どうすんだい?」の講師たちは、オシャレみたいなものにあまり関心がなくて、ポロシャツにジーンズにリュック、そういうスタイルが一般的だったのである

 

 佐々木ゼミに移籍してみると、ありゃりゃ、全く世界が違う。みんな超オシャレであって、講師室内でも授業に向かうエレベーターの中でも、服自慢に靴自慢、時計自慢にネクタイ自慢が渦を巻いていた。

 

「この靴、世界に2足しかねえんだぜ」「また時計の衝動買いしちゃった」。毎年4月の新学期には、高価なブランド物のバッグを自慢げに持ち込んで、「今年は、コイツにした」と明るく笑いながら講師室内を見渡すような、そんな有名講師もいた。

 

 ある日エレベーターの中で、「今井さんは、どこのスーツなの?」と尋ねられた。何しろそういう方面には甚だ疎いサトイモであるし、ヨソから移籍してきていきなり「四天王」の一角になり、周囲に常に敵意なり殺気なりを感じている身だ。思わずマゴマゴして、「コナカで買ってます」と自ら真実を告白してしまった。

 

 その瞬間、空気が凍りついたのである。「論外!!」と、土俵の外にポイ。それからは、他の講師たちにあんまり相手にしてもらえなくなった。話しかけてくれる講師も、某古文のスーパースペシャル先生ぐらいしかいなくなっちゃった。

 

 講師室担当の女子職員が、今井君にだけ昼食の注文を取りに来てくれない事件さえ発生。あいかわらず「四天王」ではあっても、量販店の服に靴、平場のマコトに平凡なカバン、そういう選択が許されない世界に飛び込んでしまったのである。

(震災1年後の熊本にて。熊本市電「上通り」停留所での勇姿)

 

「なんとかしなきゃな」という決意の表れが、まずはZegnaのスーツだった。それでも「百貨店内のショップ」というところが今井君のアカ抜けないところであるが、まあそれでも一大決心で2着を購入。1997年秋のことである。

 

 あれから20年が経過、2着のスーツは今もなお現役なのである。いやはや、今井君の物持ちの良さは、さすがに昭和の男の典型なのであるが、1997年から1998年にかけての2年、新スーツ2着はずっとタンスの中。もったいなくて、取り出して着てみることさえほとんどなかった。

 

 当時の今井君は、スカパーの佐ゼミチャンネル(仮名)に、滅多やたらに出演中。英文法の授業96回だの、長文読解の授業18回だの、CSとは言え、テレビ出演時間のあんなに長い講師は、あの頃はまだ珍しかったんじゃなかいな。

 

 まだ「スカイパーフェクTV」という正式名称が残っていたし、「ディレクTV」なんてのもあった。束進(仮名)と佐ゼミが、競ってCSでの授業に取り組んでいた。「テレビに出るんだから」という理由でZegnaを買い、それにも関わらず量販店のジャケットとズンボで出演を続けた。

 

「着るために買ったんだから」と、まさにキヨミズの舞台から飛び降りるつもりで連日Zegnaのスーツを着はじめたのが、1999年春のこと。オシャレに全く縁のなかったワタクシが、高級スーツを身につけて教壇に立っている姿を、モニターで眺めて1人で赤面しまくった。

(後ろが20年選手の「予想の3倍重いカバン」。先輩に見守られて、ダンヒルの新人君が張り切っている)

 

 20年もともに働いてくれたカバン君は、そういう時代に購入したのである。一期一会と思い、日々大切にして手入れを怠らず、「一緒に16年」と決意して、全国どこに出かけるにもお供を申しつけた。

 

 2015年からは、このカバン君は世界の旅にも同行するようになった。機内持ち込み荷物として、それまでのリュックに代わってこのカバン君が奮闘を開始したのである。

 

 ブログでも「予想の3倍重いカバン」として何度も紹介した。宿泊するホテルの人に「予想の3倍重いですよ」と言ってから手渡すと、どこのホテルのボーイさんも「確かに♡」「なるほど♡」と感心してくれた。そのぐらいたくさんのものを詰め込める、マコトに優秀なカバン君なのである。

 

 だからカバン君は、世界中を巡り歩いたのだ。公開授業は年間100回、ここまで束進で13年だから、約1300回の出張に同行してくれた。世界の旅も、ノルウェー・メキシコ・キューバ・モロッコ・オーストラリア・ベトナム・アメリカ・イタリア・フランス・ドイツなど、すでに数えきれないのである。

 

 つまりカバン君、ボルドーでもパレルモでもサンフランシスコでも、シルミオーネでもマルセイユでもサンマロでも、シドニーでもミラノでもハバナでもベルリンでも、長いブログ記事を書きまくるワタクシを、部屋の暗い片隅で見つめ続けていたのである。

(ダンヒル君の購入を祝し、銀座のうなぎ屋「宮川本纏」にて蒲焼きの大串をいただく)

 

 思い起こせば2000年6月、使い始めて間もないある夜、東京・四谷の餃子屋で店のクロークに預かってもらった時に、掛け金のすぐ脇に大きなクボミが出来てしまった。引っ掻き傷ではなくて、あくまでクボミだったのが幸いだった。

 

 持ち物だって人間とおんなじだ。カンペキであるより、1つや2つの欠点があるぐらいがいい。最初はカンペキすぎて持ち歩くのが恥ずかしかったカバン君だが、この深いクボミのおかげで親しみがグッと増した。あれからは遠慮なしに世界中を連れ歩いて、16年どころかついに20年の付き合いになった。

 

 これほどまでに尽くしてくれたカバン君であるが、今回ついに

「長い間おつかれ様でした」

「引退して、タンスの中でゆっくり休んでください」

という結論に至った。掛け金が磨りへって、かからなくなってしまったのである。

 

 レコードは傷だらけになるほど聴きまくる。カバンは、掛け金が磨りへってかからなくなるまで使う。それがワタクシの生き方だ。冬のコートはついに購入30年になる。あと2ヶ月、季節が秋から冬に変わる頃、31年目の出番がやってくる。

 

 だからカバン君だって、「掛け金を修理して使い続ける」という選択肢もあった。しかし海外を旅していて、再び片手のカバンの掛け金が外れ、パックリ口を開けたカバン君を持って歩いていたんじゃ、そりゃあまりに危険すぎるじゃないか。

 

 しかもその「修理」、ほとんどカバン全体を縫い直す必要があるのだ。20年も頑張ってくれた我が同志に、そんな痛い思いをさせるのは忍びない。買い物が苦手な今井君も、「では、いよいよ心を決めますかね」という気持ちになった。

(ダンヒルの新人君。どうやらワタクシの仕事人生ラストのダレスバッグになりそうだ)

 

 実は2018年4月、パリのヴァンドーム広場を歩いていた時に、ダンヒルのショップですっかり魅せられてしまったダレスバッグがあったのだ。問題の掛け金の部分もマコトにしっかりしていて、予想の3倍重いカバン君の後継ぎとして指名するには十分であるように思われた。

 

 持ち手の部分も、しっとりと我が右手に馴染んでくれる。これなら文句なしに先輩から後輩に引き継げる。後輩君の購入は、先週9月16日。ミラノから東京に帰国した直後であったが、福岡への出張の帰りに銀座に直行、20年ぶりに新品のカバンを手にしたのである。

 

 こういうわけで諸君、ブログ上でカバンの歓送迎会を開催することにした。勇退する先輩の勇姿、颯爽と登場する後輩君の姿を掲載して、今日の記事とさせていただく。しかも諸君、宮城県仙台市のホテルで今晩の「ブラタモリ 宇都宮編」を見た影響で、今日の長い歓送迎会は、また明日も続くことになっちゃったのである。

 

1E(Cd) John ColtraneJUPITER VARIATION

2E(Cd) John ColtraneAFRICABRASS

3E(Cd) Bill EvansGETTING SENTIMENTAL

4E(Cd) George DukeCOOL

5E(Cd) Joe SampleRAINBOW SEEKER

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