Mon 180917 こだわりの店/狂喜乱舞/こだわり旦那(イタリアしみじみ14) 3721回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 180917 こだわりの店/狂喜乱舞/こだわり旦那(イタリアしみじみ14) 3721回

 シルミオーネみたいな小さな町に、もう滞在6日目にもなれば、馴染みの店の数軒ぐらいは出来て当たり前だ。特に今回は、馴染みのお店が急速に増えた。

 

① 船着場前のカフェレストラン「Modi

② その隣の「イタリアン・カフェ」

③ 初日、1本目のアマローネを満喫した「La Roccia

④ 大っきなハチがブンブン飛び回っていた「アルチンボルド」

⑤ アイスクリーム屋の奥、ステーキ屋の前のワインショップ

⑥ コワいバーサマがレジに座っている雑貨屋

6日のうちに、以上5軒と馴染みになった。

(9月4日、こだわりのトラットリアで、こだわりのアマローネを満喫する)

 

 同時に「まだ行ってないけど、一度は入ってみたい店」なんてのも出来る。すこぶる気になっているんだけれども、どうもタイミングが合わない。思い切ってアプローチすると、運悪くちょうど満員だったり、お休みだったり、朝早すぎて開店前だったりする。

 

 9月4日午後8時、そういう1軒の店に思い切って突き進んだ。シルミオーネの町でおそらく最も目立たない店である。他はみんな気負って「リストランテ」の看板をあげているのに、その店だけは「トラットリア」を名乗り、ごく控えめに営業しているのだった。

 

 ディナーの時間の真っただ中なのに、他のお客は1組もいない。店内には4人掛けのテーブルが5つ。アウトサイドにもテーブルが4つ。午後8時にお客が1人もいないんじゃ、これから将来がはなはだ心もとない。

(壁面の装飾も、まさにこだわりのトラットリアである)

 

 手渡されたメニューをめくってみると、なるほどこれじゃお客が寄り付かないのも無理はない。あまり考え込まずに気楽に注文できるアンパイが1つも見つからないのだ。

 

 例えば「スパゲティ・ボンゴレ」「アーリオ・オーリオ・ぺぺロニチーノ」「スパゲティ・ポモドーロ」。ボロネーゼでもトマトサラダでもフィレステーキでもイカリングでもいいし、ファルファッレやフジッリやラビオリや、観光客が喜んで噛みしめたくなる定番のパスタ料理でもいい。

 

 ところがこのトラットリア、そういうのが一切ナシなのだ。おそらく夫婦と思われる2人で経営。息子なのか弟なのか甥っ子なのか、ちょっと困った17歳ぐらいの若者が、奥のテーブルで何だかムクれて座っている。

(ガルダ湖の東岸、Leziseの町にて。「ここってホントにイタリア?」と首をかしげるほど、ドイツ語の表記が目立つ)

 

 ひねりすぎ、あるいはコダワリすぎ。日本のファミレスでニコニコ笑いながら「手ごねハンバーグ定食」「ジューシー・ロースカツ御膳」みたいにカンタンに決まってしまう類いの料理が、とにかく全く見当たらない。

 

 かくいう今井君も、すっかり途方に暮れてしまった。こんなに難しいメニューじゃ、何を食べればいいんだかサッパリ分からない。サッパリ分からないから、ちっとも決められない。

 

 焦りが焦りを呼んで、目の前は朦朧、

「やっぱりこんな店、ヤメとけばよかった」

Modiのアーリオ・オーリオが恋しい」

「アルチンボルドでハチと戦いたい」

La Rocciaでアマローネを味わいたい」

その他、後悔の念ばかりが湧き上がるのである。

 

 しかし、後悔の中でめくってみた最後のページに、「Amarone Reserva 2008年」の文字を発見。一気に心は決まった。2008年とは、ちょうど10年前。このブログを開始した懐かしい年だ。イタリアワインの出来もすこぶる良かったらしい。100ユーロちょい、思い切って出してみようじゃないか。

(シルミオーネの馴染みの店で、1リットルの大盃ビールとともに自分撮り。見事な楕円形を2つ組み合わせてみる)

 

 ワイン優先ということなら、メシのほうは別にこだわりはない。チーズ盛り合わせでいいじゃないか。クライネ(小)とグロース(大)があったから、「ええい、この際『大』で行っちゃおう」と決めた。

 

 そもそもイタリアなのに、何でドイツ語のクライネとグロースが登場するんだ?諸君、ガルダ湖は、イタリア語&ドイツ語が半々の世界。マッジョーレ湖やコモ湖が徹底的にイタリア色優先だったのに対し、ここはドイツ語圏の影響がマコトに色濃いのである。

 

 店の奥方に、メニューの「Amarone Reserva 2008」を指差して見せると、奥方は狂喜乱舞の風情。もちろん実際には狂喜も乱舞もしないし、万が一こんなところで奥方が「乱舞」なんてことを始めたら、臆病なサトイモ君は飛んでホテルに逃げ帰る。

 

 しかし奥方の顔の表情はまさに「狂喜」であり、その小柄なお身体の弾むような様子は、激しい乱舞の衝動を懸命に抑制していらっしゃる感じ。ちょうど今井君の後ろの棚にあった2008年のアマローネを、マコトに嬉しそうに開けてくれたのである。

(この翌日は、ちょっとお値段控えめのアマローネを選択することになった)

 

 実はこれより3日前に、同ブランドのアマローネの2011年物を1本、ホテルの部屋で飲み干したのである。その濃厚&濃密さたるや、「甘露も及ばず」の表現がぴったりであった。

 

 ブルゴーニュワインの、上澄みのように澄み切った淡麗辛口がお好きな日本人なら、きっとこぞってソッポを向く。アンチ・アマローネな人々が大量発生しそうだ。そのぐらい思い切り濃厚&濃密なトーロトロの味わいに、ワタクシはそれこそはガチでホンマモノの狂喜乱舞をしたのである。

 

 今夜は、お部屋で飲むのではない。他の客が全くいないとはいえ、「トラットリア」という公共の場でいただくのである。あまりの旨さに感激して絶叫するとか、訳のわからない言辞を弄するとか、変な手まねをして踊りだすとか、公共の秩序を乱すその種の行動は、自ら厳しく禁じなければならない。

 

 しかし諸君、注文された側の店の奥方が、嬉しくて思わず小躍りするほどのワインだ。実際にこれをいただく今井君の感激と興奮は計り知れない。感激の激烈さはオトナの公共心を崩壊させ、興奮の大きさは我が頭蓋骨を粉砕するほどの威力があった。

 

 ついでだからチーズのグロース(大)についても、まあ下の写真を眺めてみてくれたまえ。「他には料理はいりません」「アマローネと、チーズのグロースだけでOKです」。そう言って注文したら、グロースは超グロースになって、滅多なことでは食べきれないほどの、マコトにグロースな一皿が運ばれてきた。

(チーズ盛り合わせ(大)。7時の方角のヤツから、時計回りに食べるように指示された)

 

 奥方が狂喜乱舞寸前の有様だったから、その旦那の機嫌もいい。機嫌が悪いのは、店の奥に陣取った例の若者1人である。しばらくの間、狂喜乱舞組と不機嫌1名の奇妙なアンバランスが店を支配した。だって諸君、他にお客はなかなか来ない。メニューのこだわりすぎで、客が近づきがたいのだ。

 

 アマローネが半分なくなり、「時計回りに食べてください」と言われたチーズのグロースが7時の方向から2時の方角あたりまで胃袋に収まった頃、ようやく店の均衡を崩してくれる1組のお客がやってきた。50歳代と思われるカップルである。アメリカ英語を話す、いかにもアメリカンな2人だった。

 

 こだわりの旦那も、こだわりの奥方も、見る見るもっともっと機嫌がよくなっていく。ご機嫌メーターの針が振り切れたかと心配になるぐらいである。奥方と旦那が、今にも手を取り合ってフォークダンスでも踊り出しそうな熱さなのである。

 

 ところが、すでに店のお馴染みさんであるらしいカップルは、「今夜もまたドリンクだけでいいか?」と満面の笑みでおっしゃった。メンドーなメシは一切不要、チーズのグロースももちろん不要、フィンガーフードのつまみと、リキュール系のドリンクだけでいい、そうおっしゃるのである。

 

「今夜もまた」と、アメリカンカップルの発言に「again」がくっついたということは、すでに昨夜か一昨夜、この2人はこの店で「ドリンクのみ」をやったのだ。

 

 店のこだわり旦那にとっては、若干の屈辱感もあったのだろう、すっと店の奥に引っ込んでしまった。その後はしばらく、奥方だけがアメリカンカップルのオシャベリに対応することになった。

(湖岸の散策路。暗がりのベンチには、まだおしゃべりを続けている人々がいる)

 

 もちろん時計はすでに22時に近い。わしわしメシを貪る時刻はすぎている。「ドリンクのみ」も受け入れなきゃいけない時間帯だ。かくいう今井君だって、ワインとチーズだけなのだ。他人の行動にあれこれ批判がましいことを考えるわけにもいかない。

 

 そしてこのアメリカンカップルをきっかけに、店にはどんどんお客が増えていった。めでたし&めでたし。70歳代後半と思われる老夫婦が入ってきて、サラダとパスタを注文。アウトサイドのテーブルにも、2組か3組のカップルがやってきた。今井君の存在なんか、キレイさっぱり忘れてもらえる情勢である。

 

 最後に残ったチーズの激しいニオイに小さな叫びをあげつつ、アマローネの最後の1滴を飲み干したのは、2230分ごろ。おお、素晴らしい店であり、素晴らしい夜だった。幼稚園以来、マコトに久方ぶりの「スキップ」でもするような勢いで、シルミオーネの町をホテルまで突き進んだのである。

 

1E(Cd) SECRET OF ISTANBUL

2E(Cd) 1453

3E(Cd) Jarvi GoteborgGRIEGPEER GYNT 1/2

4E(Cd) Jarvi GoteborgGRIEGPEER GYNT 2/2

5E(Cd) Lanchbery & The PhilharmoniaMUSIC OF KETELBEY

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