Mon 180910 ワイングラスの持ち方/ワイン保管のこと(イタリアしみじみ8) 3715回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 180910 ワイングラスの持ち方/ワイン保管のこと(イタリアしみじみ8) 3715回

「ワイングラスって、どう持つのがいいの?」。若き今井君にとって、「スパゲッティをフォークにクルクル巻きつけるのか、ズルズル音を立てて吸い上げるのか?」に、勝るとも劣らない大問題がこれであった。

 

 何しろ当時の今井君に飲酒経験はほとんどない。あると言っても、自宅で父親の熱燗に相伴した程度だ。その「ご相伴」が、大学2年の春に「2人で一升瓶を空っぽにした」というレベルのものであっても、結局それは安い地元の日本酒であって、話が「ワイン」などということになると、おっかないことこの上ない。

 

 しかし諸君、これから相手にしなきゃいけないのは、東京モンの友人たちである。中にはすげーお金持ちもいて、クルマなんかも真っ赤なマスタングを乗り回していたりする。

 

「趣味は?」「ヨット」「4WD車の改造」。そういう答えが返ってくる世界で、鉄道職員のムスコ、「趣味は?」「読書」、そういう地味な男子が生きていくのに、スパゲッティの食べ方とワイングラスの持ち方というのは、いやはやマコトに重大な問題だったのである。

    (シルミオーネでのアマローネ、2本目)

 

 そこで諸君、若き今井君はスーパー名作ドラマ「刑事コロンボ」を参考にしようと考えた。1970年代から80年代にかけて、日本での刑事コロンボ人気は絶頂に達し、ロサンゼルス市警に勤務するイタリア系のオヤジ・コロンボの活躍は、アメリカでよりもむしろ日本で沸騰したのである。

 

 シリーズ第19話の邦題が「別れのワイン」。1973年にアメリカで放送された時の原題は「Any Old Port in a Storm」。いつものことながら、映画やドラマの邦題というものは、ずいぶん思い切った変更を施すものである。

 

 第19話の犯人は、ワイナリーの経営者。何しろナパバレーのあるカリフォルニアだ。ワイナリー経営者といえば、その知的水準もマコトに高い。「時の人」として雑誌に特集されるほど、彼のワイナリーは世界の信頼を得ている。

 

 しかし諸君、「では利潤は上がっているのか?」ということになると、話は全く別なのである。伝統あるワイナリーであっても、売り上げはイマイチ。やがて殺人犯となるエイドリアン・カッシーニは、この点を巡って弟と対立している。

 

 ルックスがイマイチの兄エイドリアンと比較すれば、弟はマコトに恵まれている。高級スポーツカーを乗り回し、いろんなスポーツもこなす長身のイケメンだ。

 

 一方のエイドリアンは、20世紀最終盤「SEX IN THE CITY」の名脇役♡スタンフォードとほとんどウリ2つ。ワイン以外の趣味なんか、全く考えられない。「ワイン、ワイン、ひたすらワイン」であって、大衆ワインに迎合して利益を優先しようという弟の考えなんか、常に一蹴してしまう。

    (シルミオーネでのアマローネ、3本目)

 

 こういう状況だから、幼い今井君は、このエイドリアンこそ「ワイングラスの持ち方の師匠と仰ぐべきオジサマだ」と判断したのである。諸君、いまや無料動画も見放題の世の中だ。いろいろ工夫して、「刑事コロンボ・別れのワイン」を探してみたまえ。第19話でござるよ。

 

 今や特殊に思えるその持ち方は、1973年のドラマでは伝統あるワインセラーの経営者の持ち方なのである。ワインを愛するあまり、弟を殺してしまうほどワインを愛する者の持ち方なのだ。

 

 これがどうして廃れてしまったのだろう。どうしてみんな、あんな細い首のところを窮屈そうに指でつまんで持つようになってしまったのだろう。今井君はあんまり詳しくないから、その辺の事情を詳らかにしない。

(滞在3日目、再び「Modi」のアーリオオーリオを満喫する)

 

 エイドリアンは、中指をワイングラスの一番底の部分に当てて持つ。例の丸いお皿の部分である。人指し指と親指は、丸いお皿の上面に回し、ワイングラスの首の部分を丸く包んで、最後に2つの指先の腹を合わせる。

 

 これでワイングラスは完全に安定して、長時間持ったままでいてもお手手はちっとも疲れない。指3本でグラスの底を包み込むようにするのである。おお、すげー安定する。ホントに全く疲労しない。2時間でも3時間でも、ずっとワイングラスを持ったままでいられる。

 

 いま世界中で一般的ないし常識的なのは、細い首のところに数本の指を回して持つスタイル。しかし諸君、その持ち方だと、お手手はどんどん疲労してくる。

 

 今井君なんかはワイングラスを掲げている時間が長いから、30分も経つと右手がつりそうになる。というか、何度も何度もつってしまって激痛が走り、表情を歪めながら慌てて左手に持ちかえる。そういう場面が少なくないのである。

(滞在3日目、雨が止むのを待ちながら、「Modi」でフィレステーキを貪る。グリーンペッパーソースがマコトに強烈だ)

 

 そこで若き今井君は、エイドリアンふうの持ち方を懸命に練習したのである。グラスの一番底の丸いお皿を3本の指で包み込むように。ホントは写真を掲載すれば早いのだが、あいにく今これを書いているお部屋にワイングラスがない。よくわからない人は、無料動画でエイドリアンを目撃してくれたまえ。

 

 すっかり大人になってからも、ワタクシはエイドリアン流を貫いている。他の人がどんな持ち方をしても、4WDの改造やヨットが趣味の男子や、赤いマスタングの男がどんなふうにグラスを持とうと、今井君は負けない。というか、1人でワインを飲む場合でも、常にエイドリアン流なのである。

 

 だから諸君、シルミオーネでも話は全く同じである。「その持ち方、珍しいですね」「変わった持ち方ですね」と、関西でも博多でも札幌でもびっくりされるのであるが、構うことはない。ディジョンでもシルミオーネでもボルドーでも、この持ち方を譲る気はないのである。

    (雨が止んで、スカリジェロ城を訪れる)

 

 ところで諸君、エイドリアンは大衆ワイン優先&利潤優先の弟を、怒りにまかせて殴打、瀕死の重傷を負わせてしまう。露見を恐れた彼は、弟をワインセラーに担ぎ込み、エアコンのスイッチを切ってしまう。そのまま数日の旅に出て、弟を窒息死させてしまおうというアイディアである。

 

 そこから先は、まあドラマを実際に見てもらうしかない。窒息死を確認したエイドリアンは、スポーツ中の事故死に仕立て上げようとするのだが、コロンボは「路上に放置されたはずのクルマが汚れていない」という一点から、事故死ではないと判断、エイドリアンを追い詰めていく。

 

 コロンボとの会話の最中も、例の持ち方を全く崩さないエイドリアン。イタリア系のはずなのに、英語は完璧なイギリス英語。そりゃ俳優がイギリス系なんだから仕方ないが、昔の映画やドラマでは、知的レベルの高さを暗示するために、あえてイギリス英語を話させることがあった。

(スカリジェロ城からのシルミオーネ風景。後方の森が岬の先端、森の向こうに古代ローマが広がっている)

 

「ワインの勉強をしたいんです」とコロンボはエイドリアンに持ちかけ、次第に接近していく。捜査が最終段階に達したある晩、「勉強の成果を示したい」「ご迷惑をかけた償いに」と、コロンボはエイドリアンを有名レストランに招待する。

 

「最後のワインとして」と、コロンボが店の人に注文したのは、超専門家エイドリアンもビックリするほどの見事なセレクション。しかし諸君、それを一口口に含んだエイドリアンは、いきなりスーパー激怒。「オカネなんか払わなくていい!!」と絶叫し、店を飛び出してしまう。

 

 実はこのワイン、エアコンを切ったエイドリアンのワインセラーに数日間放置されていたものだったのだ。あえてコロンボは、エアコンが切られていたことを、エイドリアン自身の舌をつかって証明してみせたのであった。

(外出するたびごとに鍵をフロントに預けるスタイル。鍵もこんなに重厚だ)

 

 うひょ、なんて見事な推理、なんて見事なストーリー展開。こうして「別れのワイン」のラストシーンに至るのであるが、諸君、ワインって、ホントに難しいものなのである。

 

 それをひさびさに実感したのが、今回のシルミオーネ滞在であった。最終的にワタクシは、シルミオーネの10日間で12本、その後のミラノ5日間でもさらに4本、別格のアマローネを空っぽにしたのであったが、やっぱり「保管状況が悪いな」と思った店のアマローネはダメだった。

    (シルミオーネでのアマローネ、4本目)

 

 中でも、「ソフトクリーム屋の奥がステーキ屋」「そのステーキ屋の壁の棚にタナザラシ」という状態だったアマローネは、「ホントにこれがアマローネ?」という味気なさだった。

 

 上澄みのように淡麗辛口のブルゴーニュは、ワタクシにはどうもイマイチなのであるが、濃厚濃密&芳醇系のボルドーとアマローネは、まさに垂涎の対象なのだ。

 

 それなのに、長時間のタナザラシに耐えた我がアマローネちゃんは、濃厚さも芳醇さもすっかり褪せてしまっていて、思わずエイドリアンに劣るとも勝らぬ深い悲しみが込み上げてくるのであった。

 

1E(Cd) Amalia RodriguesSUPERNOW

2E(Cd) Haydon Trio EisenstadtJOSEPH HAYDNSCOTTISH SONGS 1/18

3E(Cd) Haydon Trio EisenstadtJOSEPH HAYDNSCOTTISH SONGS 2/18

4E(Cd) Haydon Trio EisenstadtJOSEPH HAYDNSCOTTISH SONGS 3/18

5E(Cd) Haydon Trio EisenstadtJOSEPH HAYDNSCOTTISH SONGS 4/18

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