Fri 180907 クルクル/ズルズル/スプーン添え(イタリアしみじみ6) 3713回 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 180907 クルクル/ズルズル/スプーン添え(イタリアしみじみ6) 3713回

 スパゲッティというかパスタというか、日本人の中ではその食べ方に何度も何度も変遷があって、ちょうどフリコの振動のように、あっちの極端からこっちの極端へ、10年ぐらいの周期でブーラブラ、行ったり来たりを繰り返している。

 

 ワタクシは、フォークにクルクル巻きつけ派。昨日書いたような事情で、上京した直後の若き今井君は、まさに昭和上京世代のコンプレックスのカタマリだった。

 

 ペペロンチーノだのペロロンチーノだの(昨日の記事を参照)、そういうものが食事の席に出てくると、「みんなはどうするのかな?」と、とりあえず東京モンの友人たちの仕草を見定めることにした。

 

 そして彼らのクルクル巻きつけ動作、マコトに堂に入っているのである。ミートソースとかナポリタンとか、何しろまだ学部1年なんだから、そういうスタンダードなものしか注文できないし、そもそも高田馬場あたりの喫茶店にそれ以上のものはないのだが、それでも驚くほど綺麗に巻きつける。

  (シルミオーネ、古代ローマの遺跡。詳細は明日 1)

 

 衝撃を受けた今井君は、徹底した単独練習を決意。金足農の9番バッター、準々決勝で逆転サヨナラ2ランスクイズを決めた斎藤君は、「打撃練習をバッティング4割、バント6割にしてました」と語ったが、学部1年の今井君もまた、学業4割、スパゲッティのクルクル6割、そのぐらいの勢いでクルクル練習に励んだ。

 

 何しろ千葉県北松戸での自炊生活であるから、まずスーパーで当時一番安かった「マ・マー」のスパゲッティを買ってくる。缶詰のミートソースをぶっかけるか、バターと塩とコショーを絡めるか、とにかく最もシンプルなスパゲッティを自作して、クルクル練習に励んだ。

 

 築25年だったか35年だったか、アパートはすでに朽ちかけて窓枠はヒシ形に歪み、窓はしっかりと閉まらない。申し訳程度の台所に裸電球が1個ブラ下がり、その真横に「汲み取り君」という恐るべき時代物のトイレがあった。そういう2階のお部屋でスパゲティをクルクルやり続けた。

  (シルミオーネ、古代ローマの遺跡。詳細は明日 2)

 

 東京モンの衝撃は、その後も続くのである。「ライスの食べ方」なんてのあった。そもそも単なる学生食堂のコメのメシを「ライス」と呼ぶこと自体に違和感があったが、な、なんと&なんと、今井君の友人たちの中には、ナイフとフォークでライスを上品に運ぶ御仁が多数存在したのである。

 

 使うのは、フォークの裏側。マコトにお上手にナイフを使い、フォークの裏側にコテコテ綺麗にライスを盛り上げる。最後に「ニュチャッ」と音がするほど強くナイフでライスを押し付け、急いでそれを口に運ぶ。マコトにご苦労なことである。

 

 あえてお店の人に割り箸をお願いして、平たいお皿から割り箸で「ライス」という代物を口に運んでいた今井君は、その美しい妙技にうっとりと魅せられてしまった。

 

 その日からは諸君、今井君のクルクル練習にニュチャッ練習が加わった。裸電球の下、おかずがスパゲッティ、主食が「ライス」、それと「あさげ」だったか「ゆうげ」だったか、永谷園の味噌スープを組み合わせて、クルクル5割、ニュチャッが5割、そういう厳しい試練が続いたのである。

(シルミオーネ、ローマ遺跡の下のビーチ。凝灰岩の薄い層が沖まで広がっている。詳細は明日)

 

 その結果といえば、いやはや地道な練習ってのは、決して我々を裏切ることがない。今井君のクルクル技術は、この調子ならバントで打率10割、3ランスクイズさえ決められそうな勢いになった。

 

 ニュチャッのテクニックの方も万全。よほどパサパサしたライスでない限り、すでにその妙技は東京モンの及ぶところではなくなった。諸君、どんなことでも練習&練習だ。金足農の校歌にあるように「農はこれ たゆみなき愛 日輪のたゆみなき愛」なのである。

 

 ところが諸君、そういうたゆみなき努力を、世の中が裏切るのである。一時は誰一人として、スパゲッティのクルクルをやらなくなってしまった。バブルの頃だったか、バブルが崩壊した頃だったか、伊丹十三監督の映画「タンポポ」がキッカケだったと思う。

 

 映画のワンシーンで、日本人グループがイタリア料理のマナー講習を受けている。インストラクターが「フォークにクルクル巻きつけて」「ズルズル啜ったりしないで」と懸命にジーチャン&バーチャンを指導していると、同じレストランの中のイタリア人諸君が、実はみんな激しくズルズル啜っている。

 

 1985年の大ヒット映画である。そこから10年ほどは、むしろ蕎麦やうどんみたいに、ズルズル&ジュルワーッと大きな音をたてて啜るのがトレンドになった。「くだらんマナーなんか知ったことか」という湯気の上がるような男気を、そのズルズル音に込めるわけだ。

 

 1990年代は、予備校の講師室なんかも、激しいズルズル音で満たされた。何しろ講師は忙しい。ランチはうどんか蕎麦か丼物か、とにかく「忙しい」という状況を前面に押し出してズルズル、「それが人気講師のアカシである」という勢いで、わざと激しくズルズルやる人が増えた。

(滞在2日目の夕食は、大人しくお部屋でワインを楽しむことにする。詳細は明日)

 

 ところが諸君、バブルがはじけた後は、状況は再びお上品な方に大きく振れた。今度は「フォークでクルクルやるだけじゃダメ」で、「フォークの先っちょにスプーンを添えてクルクル」「その方がパスタにソースが馴染みますのよ」ということになった。

 

 左手にスプーン、右手にフォーク。麺類1皿を食するのに、いやはやマコトにご苦労なことであるが、まずスプーンにソースをすくい取り、その中で麺を丁寧にクルクル、ソースがうまく馴染んだところで、その巻き巻きを素早く口に運ぶ。

 

 こうなると、ズルズル派の立場はたいへん惨めになる。ズルズル派の人々は、むしろ意地になって自らの男らしいズルズル音のボリュームを上げ、テーブルの向こうの彼女なり奥方なりに厳しくたしなめられても、意地でもボリュームを下げようとしない。

 

 しかし諸君、耐えに耐える我慢の日々の向こうには、必ず再び太陽が輝き、星も輝くものである。これまた金足農の校歌の一節をあげよう。「霜白く 土こそ凍れ ああ草の芽に 日の恵み」だ。なお、「土こそ凍れ」は係り結び。係り助詞「こそ」の影響で「凍る」が已然形「凍れ」に変化する。

 

 一世を風靡した「スプーン添えクルクル派」も、2018年現在、今井君が周囲を見渡す限りでは「どうやら『我が世の春』は終わりましたかね」「風前のトモシビ?」「絶滅危惧種?」の状況になってきた。

 

 つまり今こそ、まさに今井君みたいなシンプル♡クルクルの出番なのだ。フリコは近いうちにズルズル派に大きく振れ、またシンプル♡クルクルに戻り、やがてスプーン添えの天下に戻るだろう。おお、こうなると諸君、今井君はすでに「古老の知恵」の域に達している。

(お部屋は2階リビングスペースつき。ソファでゆっくりワインを味わえる)

 

 さて、シルミオーネ滞在2日目のワタクシは、そういう古老の知恵をさらにさらに深く深く育てハグクミつつ、わずか1皿のペペロンチーノをゆったりと賞味し、1リットルの大盃ビールを飲み干した。翌日にはシルミオーネ半島の先端、古代ローマの遺跡を散策するのであるが、それはまた明日の記事で。

 

 さらに諸君、2日目の夕食は、ホテルのお部屋でつつましく濃厚ワインを味わうことにしたのであるけれども、そのワインの選択についても、やっぱり明日の記事で。古老の知恵も、その知恵があんまり深すぎると、たった1日のブログ記事には、なかなか入りきらないものである。

 

1E(Cd) Sugar BabeSONGS

2E(Cd) George BensonTWICE THE LOVE

3E(Cd) George BensonTHAT’S RIGHT

4E(Cd) George BensonLIVIN’ INSIDE YOUR LOVE

5E(Cd) George BensonLOVE REMEMBERS

total m30 y1532  dd24002