Mon 180827 「クローズアップ現代」の論調について/この軽佻な出題でいいのか 3707回
たった1つの放送局のスクープ番組を材料にあまり多くのことを論じるのは、軽率のそしりを免れないだろう。しかし8月27日、NHK「クローズアップ現代」を眺めつつ、キャスター武田真治氏の強烈な迫力に気おされながら、「すげー番組じゃないか」と呟かざるを得なかった。
一昨日の記事に書いたとおり、大学入試問題作成者の皆様が余りに浮き足立っていることが心配でならないのである。あれほど重厚だった京都大学まで、採点基準の不明確な自由英作文の問題を出題して、受験生や指導者は混乱の真っただ中にある。
2020年に、英語の入試に革命が起きるらしい。それはマコトに素晴らしいことであって、マスメディアによれば「重箱のスミをつつくような出題」は一気に影をひそめるんだという。いいじゃねーか、すげーじゃねーか。それは文句なく素晴らしいことである。
しかし諸君、出題する側&採点する側の浮き足立った状況は、あまりのことに正視に耐えない。おとといの記事に書いた早稲田(法)の小説文のナカミとその選択肢、読んでくれただろう。
何なんだ、このラノベ。何なんだ、このツマラン選択肢の数々。今井は「過去問解説授業」の中でさえ、「何だこりゃ?」「この問題にどんな意味があるんでしょうかね?」という疑問の発言を繰り返した。
過去問解説の授業の中でそんな発言をするのは、ホントなら避けたほうが得策なのだ。だって諸君、授業を受けるのは、その大学&その学部を愛してやまないからこそ、これから懸命に勉強して入学しようとしている受験生だ。何にせよ、批判がましいことは言わんほうがいいだろう。
しかしやっぱり言わずにはいられない。ラノベなんか出題して、こんなクダラン設問をゴテゴテ並べるぐらいなら、たとえマスメディアに「難問奇問」と批判されようとも、5年前や10年前の重厚な長文読解問題を出題し続けたほうがよかった。
(銀座「デリー」の濃厚カシミールカレー。カレーの濃厚に導かれ、今井君はとめどなく濃厚&激辛になっていく)
そもそもメディアの「難問奇問批判」だって、マコトに怪しいものである。批判記事を書いている記者が、いったいどのぐらい真剣に早稲田や名古屋大や京大の問題に取り組んでみたのか。ホントに制限時間内で実際に解いてみてから、「難問だ」「奇問だ」「重箱のスミだ」、そういう批判を展開したのか?
今井には、どうしてもそうは思えないのである。今まで入試を批判してきたどんなニュースキャスターが、2018年のセンター試験英語を実際に解いてご覧になったのか。「早稲田の入試が変わります」と騒いでいる週刊誌記者は、2018年の早稲田政経の問題をホントにご存じなのか。
実際の問題を解いてみてもいない。ペラペラめくってみたことさえない。その程度の取材で、平気で批判記事を書く。そういう記事が圧倒的に多くなれば、当然の結果として大学側の出題者も採点者も、困ったプレッシャーを受けざるを得ない。
2018年、ワタクシが解説した入試問題の多くには、その種の「困ったプレッシャー」を如実に感じる問題が多かった。すでに早稲田(法)については一昨日書いたから、今日は早稲田(国際)についても書いておこう。
(イクラとブロッコリーの激辛カレーいため。強烈なカレー味なら、今井も野菜を貪るのだ)
長文読解問題は2題。1番はいかにも「国際教養」という学部名に相応しい重厚なエッセイである。古代ローマのキケロ「義務について」を論じ、パピルスや中世の修道院における写本を論じ、宗教改革とグーテンベルグの印刷術、啓蒙主義とヴォルテールを論じ、最終的にe-booksの今と未来まで展望する。
「おお、こりゃいいじゃないか」。大ベテラン予備校講師として、思わず唸りたくなる良問である。早稲田でも、政経・国際・法・文学部、このぐらいしっかりした重厚な出題が、過去20年ずっと継続してきたのである。
そこでいったん感動しちゃったものだから、そのぶん第2問の小説文への落胆が大きくなる。「Lew Archerという名の私立探偵が登場する小説の冒頭部である」という断り書きがあって、小説のテーマはロサンゼルス沖の原油流出事故。シリアスな設定で物語は始まる。
でもせっかくシリアスなら、実際の原油流出事故を扱った雑誌記事なり新聞の社説なりを抜粋したほうがよくなかったか。環境問題を出題しようと考えたなら、オゾン層の破滅的な破壊でも、劇的な温暖化の深刻化でも、海水温の強烈な上昇の予測でも、ネット上にナンボでも記事が溢れている。
それなのに、「意識高い系」の受験生をワンサと集めた早稲田・国際教養で、活躍するのは私立探偵小説のヒーローなのである。半バイリン男子、半バイリン女子、水戸のご老公もタジタジの梅林な諸君が受験会場を埋め尽くしているのに、設問もマコトにくだらない。
(高いワインではないが、激辛カレーには ベリンジャーの赤ワインがぴったりだ)
だって諸君、約40分の時間設定に180行もの長文読解。ペーパーバックス8ページ分の英文を、かっけー半バイリンの若者たちに読ませておいて、設問は以下のようなレベルなのである。
「本文の内容と異なるものを選べ」
1 筆者はロスの北のほうに住んでいる
2 筆者とビーチで言葉を交わす女子は、白いスカートとブラウスを身につけている
3 事故原因となった会社のバイスプレジデント Jack Lennox は、醜い顔をしている
4 筆者が乗ったヒコーキは、USAに所属する。
ところが諸君、180行にもなる超長文の中に、以下のような文が散りばめられていて、だから上の選択肢は「do not agree」としなければならない。
1 Driving home to West Los Angeles,…(32行目)
2 A woman in a white shirt and slacks(58行目)
3 Jack Lennox was a good-looking man(24行目)
4 As we approached LA, the Mexicana plane…(4行目)
うーん、こんな問題で、ホントにいいの? 「早稲田で難問奇問が続出」という昭和なハナシではなくて、日本中の大学センセが、入試改革に慌てふためいてこんな問題しか出せなくなっていることをワタクシは憂慮するのだ。
(カレー屋「デリー」のあるあたりは、銀座6丁目の高級店街。諸君、今井は近い将来、この近くで新しいドクターズ・バッグを購入しようと思う)
ひどくなると、以下のようなのもある。「本文の内容と合うように、下線部に1語選択せよ」という主旨であるが、当該箇所は、
He … me with his belly.(彼はオナカでワタクシを…した)
というセンテンスである。
諸君、選択肢を見てくれたまえ。
① pinned 「つきさした」
② pulled 「ひっぱった」
③ pushed 「押した」
④ slapped 「パシパシたたいた」
⑤ stroked「なでた」
うーん、オフザケが過ぎませんか。「腹でひっぱった」「腹でパシパシたたいた」「腹で撫でた」。あまりの下らなさに、今井君はもう解説しながらムカついて、マジメに解説する根気を失ってしまったのだった。
じゃあ諸君、どうしてこの小説から出題したのか。これが最新の小説で、文章の中に最新の内容や用語法が詰まっているからなのか。ところが出典を見るに「Ross MacDonald:SLEEPING BEAUTY:1973」となっている。
うぉ、45年前の小説だ。金農の吉田君なんか、まだ影も形もない。というか、34年前、桑田&清原のPL学園を準決勝の8回まで追い込んだ前回の金農フィーバーより、さらに11年も前の小説だ。
さすがにそりゃ古すぎるだろう。いくら何でもヒドすぎるだろう。出題者のセンセが受験生のころ、通っていたどこかの塾で教材として与えられた小説文からの出題なんじゃないの?
(ニャゴは今日もダンボールに収まって四角くなっている)
ではこういう現象は、早稲田にかぎったことなのか。長年にわたって週刊誌やなんかに「早稲田の凋落」とセセラ笑われてきた結果が、こういう所に出ちゃったんだろうか。いや諸君、そんな判断は丸っきり違っている。
いまや名門私立大から難関国公立大まで、状況はほぼ一致している。みんながみんな浮き足立って、名門に似つかわしくない珍問を恥ずかしげもなく並べているのだ。
ワタクシは、こういうのは絶対にイヤなのだ。民間試験導入をめぐる◯◯疑惑とか、「文科省とのコネをバネに学校英語教育に参入」とか、「塾業界の英語教育特需」とか、その他NHK「クローズアップ現代」で報道された類いのウワサを聞かされるのは、ゴメンなのだ。
大学教員の皆様、こういう軽薄な出題はもうヤメにしませんか。浮き足立って、大学教育にふさわしくない軽佻浮薄な出題を続けたんじゃ、出題者自身にとっても、受験生やその指導者にとっても、決してプラスには働かない。今まで通りの重厚な出題を、落ち着いて続けるべきなのだ。
そのへんは、いわゆる「会話体」の出題を見ればもっとハッキリするのだが、諸君、今日もまた長く書きすぎた、詳細はまた明日の記事に書こうと思う。
1E(Cd) Kirk Whalum:HYMNS IN THE GARDEN
2E(Cd) Kirk Whalum:UNCONDITIONAL
3E(Cd) Sheila E.:SEX CYMBAL
4E(Cd) Sheila E.:SHEILA E.
5E(Cd) Incognito:BENEATH THE SURFACE
total m126 y1497 dd23967