Sun 180527 クリムトとゲーテが描いた町/2つの見残し(イタリアすみずみ16)M8 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 180527 クリムトとゲーテが描いた町/2つの見残し(イタリアすみずみ16)M8

 クリムト「接吻」「ユディト」のファンはマコトに多い。テレビのアート番組を見ていると、わざわざウィーンのベルベデーレ宮殿まで「クリムトに逢いにやってきました」みたいな奇特な人も少なくないようだ。

 

 かく言うワタクシも、ベルベデーレ宮殿は大好き。2005年2月、2009年12月、わずか5年のうちに2回、2回とも大雪のウィーンでトラムを乗り継ぎ、ベルベデーレでクリムトどんの超傑作に挨拶してきたのである。

 

 しかし同じウィーンでも、どちらかと言うとアルベルティーナ宮殿が好き。デューラーの描いたウサギさんのほうが可愛いじゃないか。デューラーどんとはその後も、ニュルンベルグで「デューラーの家」を覗いたり、その他いろんな場所で顔を合わせることになった。

20428 ガルダ湖1

(マルチェージネ、スカリジェロ城からの絶景)

 

 しかしいま、船がガルダ湖の北岸・マルチェージネの町に到着してみると、「やっぱりクリムトも悪くないな」と実感するのである。諸君、クリムトの描いたマルチェージネの町の風景を、「クリムト マルチェージネ」で画像検索して見てくれたまえ(スミマセン、昨日の続きです)。

 

 絵を眺めてみるに、クリムトはどうやら湖上に漕ぎ出した船の上にいる。町に上陸してしまったのでは、密集した建物が邪魔になって、スカリジェロ城(Castello Scaligero)も山(Monte Baldo)も視界に入らない。

 

 もちろんクリムトほどの天才だ。一度に視界に入った町や城や山を、素直にスケッチしたのではないかもしれない。異なる視点から記憶に残った町と城と山を、1つの画面にまとめて構成することは許される。素直な写実でなくてももちろんOK、そんなのは美術の常識だ。

 

 しかし諸君、やっぱりクリムトどんが小舟に乗って湖の上に漕ぎ出し、舟の上でフムフム感激しながらこの絵を描いている情景の方が、ぐぐっとロマンチックじゃないか。

20429 ガルダ湖2

(スカリジェロ城から対岸のリモーネを望む)

 

 グスタフ・クリムトは、1862年生まれ、1918年、第1次世界大戦が終結した年に亡くなった。ずっとウィーンの人。金箔を多用し、ファム・ファタル=「運命の女」を描き続けた。

 

「Malcesine on Lake Garda」は1913年の作品。50歳ちょい → まさに円熟期である。まだ「ジーチャン」「シニア」のカテゴリーには入っていないが、亡くなったのはちょうど今から100年前だ。100年前の50歳、オヒゲにたくさん白髪が混じったクリムトどんが、舟の上で夢中で絵筆をふるっている姿を想像してみたまえ。

20430 お城

(スカリジェロ城の勇姿。1786年、ゲーテはイタリアの旅の最初期にこの城をスケッチしている) 

 

 本来なら対岸のリモーネの町に向かうはずのワタクシも、町の美しさに感激してマルチェージネで船を降りた。「1時間でもいい、散策してみたい」というわけであるが、迷路から迷路へほっつき歩いて、気がつくととっくに2時間が経過していた。

 

 「リモーネは?」であるが、ガルダ湖がこんなに美しいと分かれば、どうやら今後何度も繰り返し訪れることになりそうだ。リモーネは「見残し」ということにして、次のガルダ湖訪問の目玉にすればいいじゃないか。

 

 すぐ目の前に迫っていたリモーネであるが、2年後3年後、いや10年後、完全なシニア♡サトイモになってからでも構わない。レモンの花が咲く時期か、レモンの実が熟する頃に、ピンポイントで狙いを定め、タワワに実ったレモンの風景を満喫しにやってこようと思う。

20431 港

(マルチェージネ港。後方は標高2218メートルのバルド山)

 

 マルチェージネ旧市街の坂道を少し上がった所に、「スカリジェロ城」がある。元を築いたのは、5世紀の古代ローマ帝国に侵入したゲルマン民族。ロンゴバルド族の王国はその後300年も続いて、やがてこの一帯はその名をとってロンバルディアと呼ばれることになる。

 

 1000年もの長い年月を経て、15世紀、お城は名門スカラ家のものになる。ヴェローナの領主スカラ家は、シルミーオネのお城も建てた。確かにシルミオーネとマルチェージネ、城の外観はそっくりだ。

 

 やがてここに、ドイツからゲーテどんがやってきた。1786年9月のことである。9月6日にはまだミュンヘンにいたゲーテは、インスブルック経由でアルプスを越え、9月14日、激しい向かい風の中をマルチェージネの港に到着する。

 

 詳細は、相良守峯訳の岩波文庫「イタリア紀行」を参照のこと。上巻300ページ、中巻300ページ、下巻300ページ。合計1000ページ近い大著であるが、今井ブログで文庫100冊分を読破してきた諸君の読書力をもってすれば、たかが3冊ぐらい朝飯前だろう。

20432 イタリア紀行

(ゲーテ「イタリア紀行」岩波文庫版。3巻合計およそ1000ページの大著である)

 

 ついでに言わせてもらえば、人類史上で最大最高の作家カタログに間違いなく上位で入ってくるゲーテどんの文章を読みながら、この今井君の文章力がどれだけ優れているか、ぜひ実感していただきたい♡。

 

「もしかして今井君って、ゲーテどんと比肩するほどの文章の名手なんじゃないのか」。その辺のことは、是非ともマジメに真顔で語り合ってほしい今日この頃なのでござるよ♡♠♢♣ 20歳以上の諸君なら、居酒屋での話題としてサイコーなんじゃないか♡

 

 ゲーテはその後、マルチェージネからイタリアをズンズン南下する。ヴェローナ → ヴィチェンツァ → パドヴァ → ヴェネツィア → フェラーラ → ボローニャ → ローマ → ナポリ → カプリ島まで南下する。

 

 カプリから海路シチリアに至り、カターニャ → パレルモとシチリアを時計回りに進み、再び海路でナポリに戻る。ローマ → シエナ → パルマ → ボローニャ → ミラノと北上、最後はコモ湖からドイツに帰還している。旅に要した歳月は、約20ヶ月。2年近くかけて、イタリアを満喫なさったわけである。

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(マルチェージネ旧港前。むかしながらのレストランが3〜4軒、それなりに繁盛していた)

 

 別にゲーテどんのマネをしようと思っているのではないが、21世紀の我がサトイモ法師も、いよいよ10年に及ぶブログ「風吹かば倒るの記」を完成しようとしている。イタリアで踏破した街の名を列挙すれば、ゲーテどんに決してヒケをとらない。

 

 ゲーテはまさにこのマルチェージネからイタリアの旅を始め、コモ湖で締めくくった。楕円形サトイモ法師の10年は、コモ湖で始まり、コモ湖で締めくくりたいと考えていた。

 

 だから「イタリアすみずみ」の旅は、5月20日マルチェージネ。5月21日コモ湖、22日もコモ湖。10年にわたってブログの表紙を飾ってきたヴィッラ・デステの庭園風景に、いよいよ明日10年ぶりで帰ろうと考えている。

 

 人もあろうにゲーテ大先生にチャレンジするとは、サトイモ法師もずいぶん思い切ったものであるが、ここまで徹底して非常識なら、10000%の冗談として通用するから、まあいいんじゃないか。

 

 ワタクシの定番サイン「宇宙征服」と同じことで、「日本一とか世界一なんかじゃつまらない、『宇宙一』を目指しています」みたいな発言なら、バカバカしすぎて怒る人もいないはずだ。

20434 シルミオーネ

(日曜日の夕暮れ、大混雑のシルミオーネ港。ゲーテも目撃した光景の、約250年後の姿である)

 

 ところで18世紀末、ゲーテどんはマルチェージネのお城の麓で、地元の人々と悶着を起こしている。彼がスカリジェロ城のスケッチをしていると、「敵国のスパイなんじゃないか」と疑われ、当局のお役人もやってきた。

 

「廃墟のスケッチをしているだけだ」

「イタリアの他の有名な町だって、結局は廃墟だらけと聞いた」

「城砦のスケッチならスパイ容疑もわかるが、廃墟のスケッチなら悪くないはずだ」

ゲーテは、お役人にそう答えたと書いている。

 

 岩波文庫版「イタリア紀行」、上巻の58ページから数ページ続くエピソードであるが、旅の序盤で危うくお役人に引っ捕らえられそうになったシーンの現場が、まさにこのマルチェージネの城砦なのであった。

 

 ゲーテが「廃墟だ」と主張したむかしむかしのお城の塔は、それからさらに200年以上ガルダ湖の湖畔に屹立して、ワタクシの訪問を待ち受けていてくれた。この上の光栄は考えられないぐらいである。

20435 遺跡

(シルミオーネ、古代ローマの遺跡。船からの眺望)

 

 町の背後には、標高2218メートルのバルド山が聳えている。ロープウェイに乗り込めば、たった15分で山頂にたどりつく。運賃は2500円ほど。晴れた日なら360度のパノラマが満喫できる。ガルダ湖にきたら、この眺めは決して見逃すべきではない。

 

 しかし諸君、2018年5月の北イタリアは、ずっと重たい曇天が続いた。つい2日前、マッジョーレ湖畔のモッタローネ山頂で、ワタクシは激しい雹と雷雨に襲われたばかりである。いま空を見上げれば、バルド山頂にも不気味な黒雲が迫っている。マコトに残念だが、やっぱりここは自重したほうがいい。

 

 どうせリモーネの町も「見残し」にするのだ。バルド山頂も同様に見残しにすれば、近い将来ガルダ湖再訪への意欲もググっと高まってくるはず。リモーネ単独で再訪は難しくても、これにバルド山頂を加えれば、サトイモの熱意はもう抑えようもない。

20436 パスタ

(ガルダ湖畔のレストランで、シーフードのパスタを貪る)

 

 そのぶん、旨いランチを貪って行こうじゃないか。坂道を旧港のほうにどこまでも下っていき、クリムトが描いたマルチェージネの絵にもハッキリ見分けられる旧港前のレストランで、シーフードのスパゲッティを注文した。

 

 もちろん諸君、その注文には錯誤が絡んでいる。ここはあくまで深い山の中の湖だ。「シーフード」からは限りなく遠い。ムールもスカンピも、ボンゴレもポルポもカラマーリも、はるかなアドリア海から運ばれてくるのである。

 

 しかしそんな難しい理屈を並べて、話をつまらなくする必要はない。海と湖の風景を取り違え、深い山の中で「新鮮な」シーフードを「新鮮だ」「新鮮だ」と思い込んで貪るのもまた、外国の旅の妙味の1つなのである。

 

1E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.1

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