Tue 180508 朝はイヤだ/ヴェローナが大好き/ロバと馬(イタリアすみずみ7)M27 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 180508 朝はイヤだ/ヴェローナが大好き/ロバと馬(イタリアすみずみ7)M27

 最近、夜が明けるのが早すぎる。朝3時半で、もう何となく朝の気配。天窓も障子も青白くなって、せっかちな小鳥がさえずり始める。それでもまだ怠惰に毛布をかぶるのだが、4時を過ぎ、4時半が迫ると、もうゴマかしようがない。朝は意地でもやってくる。

 

 ワタクシの誕生日は6月26日であって、ホントなら初夏は得意なはずである。夏至オッケー、朝が来るのは早ければ早いほどいいし、昼の時間が長いのは、働き者にとっては素晴らしいことのはずである。

 

 しかし諸君、誕生日と人間の性質には、何のカンケーもない。コドモの頃から今井君は、冬が好き、冬至が大好き、夜が好きであって、朝がくるのは遅ければ遅いほど嬉しい。

 

 というか、朝なんか来てほしくない。小鳥のさえずりもラジオ体操も大キライであって、天窓もカーテンも障子も、いつまでも漆黒の闇であってほしい。もし闇でいてくれないなら、毛布をかぶりオフトンをかぶって、ニセの闇を演出するだけである。

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(急流アディジェ川とスカリジェロ橋 1)

 

 さて、こんな感慨にひたっているのは何故かといえば、これからロミオとジュリエットの町の旅行記を書くからである。今から半月前の5月14日、「イタリアすみずみ」の旅の4日目は、10年ぶりにヴェローナを訪れることにした。

 

 ロミオとジュリエットは、ひたすら闇の中で生きることを選択した コドモ2名の物語である。朝が来ないように祈り、朝を嫌悪し、それでも運命的な朝がくるなら、固く閉ざされた霊廟の中に逃走しようとする。そのためなら毒もコワくないし、死でも短剣でも受け入れる。

 

 ワタクシは何しろ臆病だから、毒もナイフも痛いのも苦しいのも全部イヤであるが、ロミ&ジュリは何しろ若々しさの真っただ中で走り回っているから、いったん「闇が好き」となれば、ひたすら闇を求めて突き進むのである。

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(ヴェローナ、ローマ時代の円形闘技場。頻繁にオペラが開催される)

 

 うぉ、これ書いている段階で午前3時50分。鳥がチュンチュン言い出した。ホントにつまらんヤツらであって、決定的な一夜を過ごしたロミ&ジュリが一番恐れたのも、変に早起きなコイツらのせっかちなサエズリだったのである。

 

 特にジュリちゃんは、異様に若い。設定は13歳だったか14歳だったか、21世紀の日本なら、中1でござる。うへ、若い、若すぎる。こんなに若いのに「朝が来るのがイヤ」だなんてのは、そりゃいけませんな。朝を大事に。朝ごはん、しっかり食べなきゃいけません。

 

 そこでヴェローナであるが、10年前とは丸っきり様子が違っている。あんなに閑散としていた町なのに、2018年5月、たくさんの観光客でごった返している。「第2のヴェネツィア」といった風情である。

 

 新幹線網の急激な発達で、ミラノから1時間。ヴェネツィアからも1時間。ミラノを東京、ヴェネツィアを金沢に見たてれば、ヴェローナはちょうど長野という位置関係である。「金沢観光のついでに、ちょっと長野や富山に降りてみますかね」。そのぐらいの気楽さなのだ。

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(ランベルティの塔からヴェローナの旧市街を望む。手前はエルベ広場)

 

 イタリアの背骨は、南北に走るアペニン山脈であって、山脈にほぼ平行して新幹線が走る。ミラノ → ボローニャ → フィレンツェ → ローマ → ナポリ → サレルノ → レッチェ。日本になぞらえれば、これが東海道・山陽・九州新幹線であって、押しも押されもせぬイタリアの脊髄だ。

 

 ミラノからローマまで3時間、ナポリまで4時間。時間の感覚もまさに東京・大阪・広島・博多であって、イタリアの距離感覚はホントに日本とよく似ている。

 

 一方のヴェローナやヴェネツィアは、北陸新幹線の感覚とピッタリ。背骨とか脊髄ではないが、「新幹線を作ってもらってよかったね」「これからどんどん発展していきまっしょい」、ヒトビトはみんな笑顔で、頻繁に走るフレッチャロッサやイタロを大歓迎している。

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(ヴェローナ、ランベルティの塔。空に雲が多くなってきた)

 

 1時間に1本、いや、多い時には1時間に2本が、ミラノとヴェネツィア間を疾走するのである。観光客だってぐいぐい増加する。ヴェネツィアについては、とっくに町の許容限度を超えて、人が町に入りきれない。あまりの混雑に、本来の住民が悲鳴をあげて逃げ出し始めている。

 

 中間駅のヴェローナも、10年前を思えば驚異的な混雑になっている。現代的な新駅もつくってもらって、新大阪とか鹿児島中央、新青森とか函館北斗の勢いである。これで不満なんかあるはずがない。新駅前には真新しいバスがたくさん止まって、信じがたい数の中高生や大学生がタムロしている。

 

 こんなに好景気で、国民に不安や不満が鬱積するはずはないが、2018年5月、イタリアは政情不安の真っただ中にいる。政治の混乱はユーロ圏やEU圏全体を巻き込み、4〜5年前のギリシャ危機の再来かとさえ言われている。ユーロなんか、半年前から対Yenで10円近くも下落した。

20268 対岸

(アディジェ川の急流。向こうはローマ劇場)

 

 愚かなワタクシに簡単に理解できる話ではないが、うーん、やっぱり原因は「不公平感」なんじゃないか。この10年のヨーロッパでは、好景気の地域と旧態依然の地域との格差がどんどん拡大している。

 

 先月のフランスでもそうだった。新幹線網の急激な発達で、レンヌやボルドーは信じがたいほどの好景気。部外者の今井君までが「いったいどうして?」と絶叫するほど、公共事業の花盛りである。

 

 一方、新幹線網から外れてしまった町は、今もなお中世のカホリの中に取り残されている。10年に1度だけ訪れ「中世のたたずまい」にウットリしている観光客ならいいが、そこに住む人々の不公平感はどうにもならない。昨日書いたジェノヴァが、まさにその一例である。

20269 橋2

(急流アディジェ川とスカリジェロ橋 1)

 

 好景気のヴェローナには、ヴェネツィアからあぶれた観光客が押し寄せる。10年前には閑散としていたアリーナの前であるが、今やランチタイムにはどの店も満員の様子。2万人近く収容するアリーナでは、頻繁にオペラが開催されている。

 

 あまりの大混雑に、サトイモ君は「ジュリエットの家」「ロミオの家」ともに訪問を回避。13歳女子の銅像なんかにウットリしているヒマはないので、その代わりにとっとと有名レストランで昼食を貪ることにした。

 

 訪れたのは、Osteria al Duca(オステリア・アル・ドゥーカ)。どのぐらい有名な店かというに、やっとランチタイムが終わりかけた13時半、すでにウェイトレス諸君は疲れ果てていて、愛想笑いを浮かべる余裕もない。

 

 有名なのはロバの肉と馬肉であって、何も頑張って注文を聞いて回らなくても、どうせみんなロバと馬を食べにきているのである。

20270 パスタ

(ロバの肉のパスタ。焼うどんの食感が楽しい)

 

 日本のテレビは懸命に「クセがない」「クサミもない」「やわらかーい」と力説しているが、諸君、ロバや馬やクマ・イノシシ・シカの類いを貪る時には、クセとクサミとカタさをこそ堪能すべきなのであって、クセとクサミがイヤだったら、平凡にウシとブタとトリで満足していればいいのである。

 

 今井君も早速、ロバのパスタと馬肉のステーキを注文。忙しそうだったのでワインは遠慮したが、うーん、馬肉はともかく、ロバのほうは全く何のクセもクサミも感じないのである。思わず「これって牛肉と鶏肉の合挽きなんじゃあーりませんか?」の一言が出そうになった。

 

 ま、あまり勘ぐるのもよくないじゃあーりませんか。午後遅くなってから、次第に雲が厚くなって「いつ雨が降り出してもおかしくない」という雰囲気。ロバ肉と馬肉に満腹した今井君は、10年前には工事中で断念した「ランベルティの塔」にのぼって、美しいヴェローナの街を堪能したのである。

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(馬肉のステーキ。おいしゅーございました)

 

 あとは、アディジェ川の急流に沿って歩くだけでいい。ヴェネツィアのカナル・グランデとそっくりのS字に蛇行する急流であるが、運河と違って生活排水が澱むことはないから、ヴェネツィア特有の悪臭は一切ナシなのがいい。

 

 清流に沿って点在する数々の教会に立ち寄りながら、どんどんヴェローナに馴染んでいく。ドゥオモも美しく、名もない教会もまた美しい。近いうちにヴェローナに10日ぐらい逗留して、オペラや近隣の町を堪能するのもいいだろう。

 

 今回のヴェローナ訪問で、何と言っても楽しみにしていたのが、アディジェ川にかかるスカリジェロ橋である。今も日本のガイドブックは「ほぼ無視」の状態であるが、カステロ・ヴェッキオと一体になったレンガの橋はマコトに美しい。ヴェローナを訪れるヨーロッパの観光客は、この橋をヴェローナの目玉と考えているようである。

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(スカリジェロ橋。カステロ・ヴェッキオと一体になっている)

 

 午後4時すぎ、とうとう雨粒が落ちてきた。サトイモ君はアリーナ前のカフェに避難。自分の顔ほどもある大ジョッキを掲げ、冷たいビールを痛飲したのである。

 

 アリーナ前には大きなカフェが数軒スラリを並んでいるが、ワタクシが見る限り、この店がサイコーである。「このウェイトレスさんがサイコー」と断言できる素晴らしい笑顔だった。そんなことを平気で書けるほど、今井君はヴェローナが大好きなのである。

 

1E(Cd) John Dankworth:MOVIES ’N’ ME

2E(Cd) Duke Ellington:THE ELLINGTON SUITES

3E(Cd) Bill Evans Trio:WALTZ FOR DEBBY

4E(Cd) Anastasia:SOUVENIR DE MOSCOW

5E(Cd) Nanae Mimura:UNIVERSE

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