Mon 180507 冥福を/豪雨のジェノヴァ/宿題がわかんない(イタリアすみずみ6)M28
ワタクシのカラオケに付き合ったことのある人は、まずは爆笑し、次に喝采し、まもなく驚嘆し&驚愕し、やがて語り部となって、今井の激烈な熱唱を語り継ぐ。語り部とならずにいられないほど、その熱唱のエネルギーは凄まじい。
「いったいどんな楽曲を熱唱するのか」であるが、昭和の思い出のたっぷり詰まった曲が第1、豊かな声量を必要とすることが第2の条件であって、最も頻繁に歌い上げるのが、慶應義塾大学応援歌「若き血」と、早稲田大学応援歌「紺碧の空」である。
別にカラオケでなくても、アカペラでもちっともかまわない。ホントは校歌がいいのだろうが、慶応も早稲田も校歌となると盛り上がりに欠ける。明治大学応援歌「紫紺の歌」もいい。サビの「おお、明治」までくると、ワタクシは明治とはあんまり関係がないが、思わず熱く涙がこみ上げる。
上條恒彦と六文銭「旅立ちの歌」、尾崎紀世彦「また逢う日まで」、世良公則とツイスト「あんたのバラード」、アリス「遠くで汽笛を聞きながら」も、全て今井の定番。こういうのを聞かされるほうもたいへんだが、熱唱した後の大きな体重減を見るに、歌っている今井君もまた少なからず苦労しているのである。
(ジェノヴァ風景。雨空に雨傘のディスプレイがよく似合う 1)
急逝した故・西城秀樹氏の数々の名曲の中にも、今井が愛してやまないものが少なくない。今井に付き合わされた多くの語り部たちが、「あまりにスゲかった」とうなずきあうのも、やっぱり西城秀樹氏の曲である。
ちょっと想像してくれたまえ。こんなに物静かで内気な今井が、やおらリモコンを手にするや「傷だらけのローラ」「情熱の嵐」「ギャランドゥ」「ちぎれた愛」「至上の愛」「ジャガー」、いきなり5曲も6曲も続けざまに入れてしまう。
あとは諸君、絶唱するのみである。告白調のセリフの入った曲があれば、もちろん火のつきそうな熱さで、一分のスキもない告白を演じる。同じ部屋の中にいて恥ずかしいとか恥ずかしくないとか、そんなことを論じているヒマは与えない。とにかくひたすら激しいのである。
(美術館の屋上から、伝説のジェノヴァ港を望む)
だから5月16日、西城氏の突然の死についてミラノのホテルで知った時には、あまりの悲しさにそれこそ絶叫する思いであった。残念でならない。高校時代の同級生・黒崎君が「カラオケレコード」というものを買って踊りながら熱唱しているのを見て以来、ヒデキとは長い長い付き合いだった。今は心から感謝し、冥福を祈りたい。
虫の知らせというのか、急逝の知らせの3日前、ワタクシはイタリア・ジェノヴァの雑貨店の地下で「YMCA」を耳にしたのである。イタリアの若い女子シンガーが可愛く&優しく歌うオシャレなリバイバル・バージョンであるが、懐かしいYMCAであることは間違いなかった。
(ジェノバには、昔ながらの国際急行ECで行く)
ジェノヴァには、ミラノから国際急行「EC」で行く。本来はニース行きの国際列車だが、この日もまだフランス国鉄のストライキが行われていて、フランス国境から先の運転は休止。列車はイタリア最西端「ヴェンティミリア行き」に変更されていた。
それでも列車内はフランス語が優勢だ。向かい合わせの座席に、フランス人の老夫婦が座り、おそらくフランス語が母語のアフリカ系の若者が窓際を占めた。たいへん礼儀正しい男子であって、挨拶もキチンとするし、駅で買ったらしい菓子パンを分け合おうと差し出す笑顔も素晴らしかった。
地図の上では、ミラノ−ジェノヴァは至近距離に見えるが、急行で2時間もかかる。深い山を一つ越えていかなければならない。フレッチャロッサやイタロなど、新幹線網の整備が急激に進んだこの10年のイタリアで、ジェノヴァはちょっと取り残されてしまったようである。
(ジェノヴァ風景。雨空に雨傘のディスプレイがよく似合う 2)
中世からルネサンスにかけては「4大海洋都市」の一角を占め、ヴェネツィア・アマルフィ・ピサとともに、対イスラム海戦でも常に先頭に立った勇ましい街である。名海将アンドレア・ドーリアの活躍も名高い。
しかし21世紀の現代世界では、いったん鉄道網の整備で遅れをとると、または整備の網の目から外されると、一気に街は衰退する。15年ぶりに訪問するジェノヴァの駅に降りてみると、そのレトロな風景は、何だかミラノとはずいぶん大きな差がついてしまったようである。
(ジェノヴァ風景。雨空に雨傘のディスプレイがよく似合う 3)
山を越えて地中海岸に出た途端、グッと雲行きが怪しくなった。北の山に分厚い黒雲がかかって、山の上ではどうやら雹でも降っている様子に見えた。
「急に冷たい風が吹き出したら、頑丈な建物の中に避難しましょう」とは、日本の天気予報でよく聞くセリフであるが、まさにこの日の午後のジェノヴァは、「嵐が来る」と言ふ気配が濃厚であった。
それでも今井君はマジメだから、ジェノヴァの街を丹念に見て回ったのである。ジェノヴァ・プリンチペの駅前には、コロンブスの銅像が立ち、そのすぐそばに15年前に2泊したサヴォイアホテルが、今も健在だ。
あの時、「ヨーロッパ40日の旅」は26日目。ベルリン・ミュンヘン・ウィーンからイタリア各地を回って、残るはマルセイユ5日とパリの10日、2週間を残すだけになっていた。夜9時過ぎにメシを食べに出かけ、予想外の歓待を受けた小さなレストランが懐かしい。
もっとも、店がどこにあったか、何という名だったか、記憶も記録もメモもない。捏造するわけにはいかないし、改竄はもってのほかだ。記憶にないものはどうしようもない。
(ジェノヴァ地下鉄、100分有効券。「チケットがない人は地下鉄構内に入れません」。厳しい掲示がある)
怪しい雲行きの中、メインストリート「バルビ通り」を下っていった。このあたりには「裏道に入るととても危険です」という情報があって、とにかくバルビ通りから外れてはいけないらしい。
何となく味わい深そうな脇道も多いのだが、とにかく「君子あやうきに近寄らず」。ワタクシはクンシでもキミコでもないが、とにかく危ういことは敬して遠ざけることにした。
「大学宮殿」「赤の宮殿」「白の宮殿」「トゥルシ宮」と、宮殿づくしの午後を過ごす。宮殿といっても、後者3つは要するに美術館である。案内役のオジサマ&オバサマの目が光っていて、なかなか美術館から抜け出せない。3時間近く、ずっと宗教画と宗教彫刻を見て過ごす羽目になった。
しかも諸君、最後の「トゥルシ宮」に存在するはずの「パガニーニ愛用のヴァイオリン」が、どこかの美術館に出張中でお留守なのだった。「パガニーニだ♡」「パガニーニだ♡」と、それだけを楽しみに我慢してきたが、最後の最後になって「出張中でございます」。膝の力がスカッと抜けてしまった。
(雨あがり、ジェノヴァ・プリンチペ駅前のレストランにて)
そして諸君、3つの美術館を出たところで、とうとう激しい雨が降り出した。「雨が降りだしたから美術館に避難」というのはよくやるけれども、「3つの美術館に耐えた直後に雨」とは、あまりにも間が悪い。
しばらく雨宿りした後で、一気にジェノヴァの中心街フェラーリ広場まで歩いた。この広場の雨傘のディスプレイは有名。色とりどりの雨傘が広場の空を覆い尽くし、折からの強風に揺れている。
しかし諸君、間もなく本格的に降り出した豪雨は、こんなカワイイ系の雨傘で凌げるような甘い代物ではない。広場のカフェに入って、ビール1本で1時間ほど粘ったけれども、店のオネーサマがたのご機嫌が、どんどんナナメになっていく。
気温もぐんぐん下がって、ワイシャツにベストの薄着ではとても耐えられなくなってきた。ぶるぶる震えるほどに寒い。窮余の一策として飛び込んだのが、どうやら「完全閉店セール」真っただ中の雑貨屋である。
ナイフ&フォークセット、ベッドカバー、フライパン、トマトや茹でタマゴのカッター、みんな7割引か8割引になっている。今井君の悪い癖で、こういうのはみんな欲しくなるのだが、何しろここはジェノヴァである。ジェノヴァでフライパン買ってどうするんだ?
(切手のパスタ。正式名称「ラビオリ・ボロネーゼ」。イマイチだった)
女子シンガーが優しく歌う「YMCA」が聞こえてきたのは、まさにその時なのであった。「おお懐かしいね、これってYMCAじゃないか」。昭和の日本で聞いた力強いヤツとはすっかり毛色の違う、カワイイ系YMCAに思わず聞きほれた。
メインストリートに白いしぶきが上がり、鋭い稲妻に耳をつんざくような雷鳴が続いたのはそれから1時間ほど。仕方なくその雑貨屋で間に合わせの雨傘を買った。その名も「THE SQUARE」。何もかも真四角で、傘の部分も四角いという驚きのデザインなのであった。
地下鉄でプリンチペ駅前に戻って来ると、やっと雨も止んだところ。帰りの電車まで時間があったから、駅前のホンノリした家族経営の店で晩メシを食べて、それからミラノに帰ることにした。
(チーズの盛り合わせ。どでかいカタマリが3つも来ちゃった)
家族経営の店の夕暮れ、大家族がみんな集まっている。小学生の男子が「宿題が分かんない」と、2人の叔母さんにノートを見せて甘えている。
叔母さん2名、おそらくかつて「勉強のできる女子」という評判をとったであろうタイプ。「叔母ちゃんたちに任せなさい♡」と、問題を解き始めたはいいが、どうやらどうしても解けないらしい。スマホを出してグーグル先生にも相談したようだが、それでもやっぱりラチがあかない。
今井君はたっぷりのチーズとラビオリをつまみながら赤ワイン1本を空っぽにしてしまったが、叔母ちゃん2人の顔は蒼ざめるばかり。半分青いどころか、2人とも全部が青い。甘えん坊の甥っ子はすっかりむくれて、「何だ、叔母ちゃんたち、全然ダメじゃないか」と、とうとう泣き出してしまった。
マコトに悲しい夕暮れのイタリア大家族の光景であった。だってイタリアの日曜日の夕暮れには、全てをゴマかしてしまえる「笑点」も「ちびまる子ちゃん」も「サザエさん」もないのだ。
甥っ子の非難の視線は、2人の叔母さんに容赦なく激しく突き刺さる。それを今井君は高みの見物。最終的に宿題がどうなったか、それは見届けることなくミラノに帰ってきた。
1E(Cd) Radka Toneff/Steve Dobrogosz:FAIRYTALES
2E(Cd) Billy Wooten:THE WOODEN GLASS Recorded live
3E(Cd) Kenny Wheeler:GNU HIGH
4E(Cd) Jan Garbarek:IN PRAISE OF DREAMS
5E(Cd) Bill Evans & Jim Hall:INTERMODULATION
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